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時間を戻して、夏の話
「やべぇ、すげー感動した」
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八鬼が着ているのは黒に近いシンプルな浴衣だ。
最初は嫌がってたものの八鬼が着ないなら僕も着ないと言い張ったらしぶしぶながら着てくれた。
同じく暗い色の浴衣を着たヒロト君も、明るい色の甚平を着た真十郎君も、ついつい目が行ってしまうぐらいに似合っている。
華やかな浴衣を着た女の子達が、こちらを見て顔を赤らめた。
「何ニヤニヤしてるのよ」
薫君に頬を突かれた。
着ている浴衣は宣言どおり、女性物だ。
なのに全然違和感が無い。迫力があってモデルみたいだ。
「カッコいい人たちと一緒に歩けるの嬉しい。僕まで偉くなった気がするよ」
「……」
言うと、皆に見下ろされた。
ヒロト君、薫君は身長百八十台、八鬼は百九十、真十郎君も百七十は越えているから一斉に見下ろされると萎縮してしまう。
「何言ってんですか。一番目立つのはそりゃ八鬼さんですけど、次に女から見られてるのは夏樹さんですよ」
「えぇ? それはないよ。僕には女の子達に好かれる要素が無い」
僕には男としていろんなものが足りてない。
貫禄とか迫力とか筋肉とか――身長とか。
せめて百六十五はないと見向きもされないだろう。
自分で言ってて悲しくなってきた。
「わかって無いんですね。綺麗な人に目が行くのは男だけじゃねーんですよ。女だって、綺麗な生き物が好きなんですから」
「うん?」
立ち止まっていたせいで、こちらを見ていた女の子達が向かってこようとした。
話しかけられるのを避ける為に歩き出す。
前をヒロト君と薫君が歩いて、後に真十郎君、八鬼、僕が続いて。
あ、りんご飴だ!
「八鬼……」
黒の浴衣の袖を引く。
「あ?」
「りんご飴、食べたいです……」
八鬼がお金を出すから、と、今日は財布を持たせてくれなかったのだ。
「――――――!!!」
八鬼と、その隣の真十郎君が立ち止まり、前を歩いていた二人までバッと振り返った。
「やべぇ、すげー感動した」
八鬼が僕から視線を逸らし口元を手の甲で押さえて呟く。
「私もよ……。まさか夏樹ちゃんが、夏樹ちゃんが、自分から「食べたい」って言うなんて……!!!!」
「幻聴じゃないよな!? 食べたいって言ったよねりんご飴!!!」
前の二人が身を乗り出してくる。
「大げさだよ……」
「大げさにもなりますよ! 夏樹さん全然食わないですもん!」
「りんご飴を常備しときゃ自分で食うようになるか?」
「お、お祭りでしか食べられないから食べたいだけで……、いつも部屋にあったら食べなくなると思う……」
「……」
ごめん。
皆の顔が一斉にイラっとした顔になったのが怖くて俯いてしまった。
「いらっしゃい! どれでも好きなの選んでちょーだいね」
ずらりと吊るされたりんご飴の奥で、威勢のいいおじさんが手を打った。
僕が選んだのは小さなりんご飴だ。
薫君があんず飴、真十郎君がみかん飴、ヒロト君がいちご飴を買う。
「あ、真十郎君、舌がオレンジになってる」
「そっすか?」
「僕も色変わってるかな?」
スパーン。
「いだ! な、なにするんだよ?!」
舌を出した途端、薫君に頭を叩かれた。
ちょっと舌噛んだ。涙目で薫君を怒鳴るんだけど、
「上目遣いで舌を出すんじゃ無いわよ!」
倍以上の迫力で怒鳴り返されてしまった。
なぜそれが駄目なのですか!?
というか、まず、口で言ってください!
涙目になりつつ、歩くのが速い八鬼の袖を掴む。
そんな僕たちの前に大人の人たちが立ち塞がった。
「おいおーい、聞いてたよりも上物じゃねぇかよ。ここまでだったなんて想像してなかったぜ。AV一本で数千万ぐらい稼げんじゃねーのぉ?」
「ぜってー億行くだろ。すげえなぁ。『納品』すりゃあしばらくは遊んで暮らせるな」
「その前に俺らでしっかり遊ばせて貰おうぜ」
な、なに!?
人数は6人! 年齢はどう控えめに見積っても20台後半の人ばかりだ。
目が合った男が僕を見ながら舌なめずりをして、ぞっと背中が冷えた。
言ってることも意味不明でよくわからない。けど、僕を見る目が怖くて足が震えた。
真っ先に目を引くのは一歩後ろにいるマッチョな大男だ。
大男といっても八鬼より身長は低い。それでも180センチはある。
だけど、体重は八鬼の1.5倍もありそうだった。
腕なんか僕の三倍以上の太さがある。
この人がボスだなんだ。
ほかの人たちとは僕を見る目が違う。
ほかの人たちは……行ってしまえば僕をいやらしい目で見てるのに、この人だけは僕を商品として見るかのような冷たい目をしていた。
「あんた八鬼白夜君だろ? ウチの斉藤の女を寝取ったんだってなぁ」
「普通の女ならほっとくけど、それだけ可愛いんじゃあ黙ってらんねえよ。その女、返してくんねえかな?」
「つーか、女の子に男の浴衣を着せるなんて変わった趣味してんねぇ」
斉藤……?
――――――僕を体育倉庫で襲った連中のボスの名前だ!!
どうして今更あいつが……!? 寝取ったって何だ!?
僕はあの男に襲われただけで、恋人でも何でもないのに!
言い返したいのに、震えて言葉も出ない。
「おい、世界の漬物って屋台あるぞ。お前、ああいうの好きなんじゃねーの?」
え!?
八鬼はまるで男たちが見えてないかのように、僕の手を引いて普通に歩き出した。
最初は嫌がってたものの八鬼が着ないなら僕も着ないと言い張ったらしぶしぶながら着てくれた。
同じく暗い色の浴衣を着たヒロト君も、明るい色の甚平を着た真十郎君も、ついつい目が行ってしまうぐらいに似合っている。
華やかな浴衣を着た女の子達が、こちらを見て顔を赤らめた。
「何ニヤニヤしてるのよ」
薫君に頬を突かれた。
着ている浴衣は宣言どおり、女性物だ。
なのに全然違和感が無い。迫力があってモデルみたいだ。
「カッコいい人たちと一緒に歩けるの嬉しい。僕まで偉くなった気がするよ」
「……」
言うと、皆に見下ろされた。
ヒロト君、薫君は身長百八十台、八鬼は百九十、真十郎君も百七十は越えているから一斉に見下ろされると萎縮してしまう。
「何言ってんですか。一番目立つのはそりゃ八鬼さんですけど、次に女から見られてるのは夏樹さんですよ」
「えぇ? それはないよ。僕には女の子達に好かれる要素が無い」
僕には男としていろんなものが足りてない。
貫禄とか迫力とか筋肉とか――身長とか。
せめて百六十五はないと見向きもされないだろう。
自分で言ってて悲しくなってきた。
「わかって無いんですね。綺麗な人に目が行くのは男だけじゃねーんですよ。女だって、綺麗な生き物が好きなんですから」
「うん?」
立ち止まっていたせいで、こちらを見ていた女の子達が向かってこようとした。
話しかけられるのを避ける為に歩き出す。
前をヒロト君と薫君が歩いて、後に真十郎君、八鬼、僕が続いて。
あ、りんご飴だ!
「八鬼……」
黒の浴衣の袖を引く。
「あ?」
「りんご飴、食べたいです……」
八鬼がお金を出すから、と、今日は財布を持たせてくれなかったのだ。
「――――――!!!」
八鬼と、その隣の真十郎君が立ち止まり、前を歩いていた二人までバッと振り返った。
「やべぇ、すげー感動した」
八鬼が僕から視線を逸らし口元を手の甲で押さえて呟く。
「私もよ……。まさか夏樹ちゃんが、夏樹ちゃんが、自分から「食べたい」って言うなんて……!!!!」
「幻聴じゃないよな!? 食べたいって言ったよねりんご飴!!!」
前の二人が身を乗り出してくる。
「大げさだよ……」
「大げさにもなりますよ! 夏樹さん全然食わないですもん!」
「りんご飴を常備しときゃ自分で食うようになるか?」
「お、お祭りでしか食べられないから食べたいだけで……、いつも部屋にあったら食べなくなると思う……」
「……」
ごめん。
皆の顔が一斉にイラっとした顔になったのが怖くて俯いてしまった。
「いらっしゃい! どれでも好きなの選んでちょーだいね」
ずらりと吊るされたりんご飴の奥で、威勢のいいおじさんが手を打った。
僕が選んだのは小さなりんご飴だ。
薫君があんず飴、真十郎君がみかん飴、ヒロト君がいちご飴を買う。
「あ、真十郎君、舌がオレンジになってる」
「そっすか?」
「僕も色変わってるかな?」
スパーン。
「いだ! な、なにするんだよ?!」
舌を出した途端、薫君に頭を叩かれた。
ちょっと舌噛んだ。涙目で薫君を怒鳴るんだけど、
「上目遣いで舌を出すんじゃ無いわよ!」
倍以上の迫力で怒鳴り返されてしまった。
なぜそれが駄目なのですか!?
というか、まず、口で言ってください!
涙目になりつつ、歩くのが速い八鬼の袖を掴む。
そんな僕たちの前に大人の人たちが立ち塞がった。
「おいおーい、聞いてたよりも上物じゃねぇかよ。ここまでだったなんて想像してなかったぜ。AV一本で数千万ぐらい稼げんじゃねーのぉ?」
「ぜってー億行くだろ。すげえなぁ。『納品』すりゃあしばらくは遊んで暮らせるな」
「その前に俺らでしっかり遊ばせて貰おうぜ」
な、なに!?
人数は6人! 年齢はどう控えめに見積っても20台後半の人ばかりだ。
目が合った男が僕を見ながら舌なめずりをして、ぞっと背中が冷えた。
言ってることも意味不明でよくわからない。けど、僕を見る目が怖くて足が震えた。
真っ先に目を引くのは一歩後ろにいるマッチョな大男だ。
大男といっても八鬼より身長は低い。それでも180センチはある。
だけど、体重は八鬼の1.5倍もありそうだった。
腕なんか僕の三倍以上の太さがある。
この人がボスだなんだ。
ほかの人たちとは僕を見る目が違う。
ほかの人たちは……行ってしまえば僕をいやらしい目で見てるのに、この人だけは僕を商品として見るかのような冷たい目をしていた。
「あんた八鬼白夜君だろ? ウチの斉藤の女を寝取ったんだってなぁ」
「普通の女ならほっとくけど、それだけ可愛いんじゃあ黙ってらんねえよ。その女、返してくんねえかな?」
「つーか、女の子に男の浴衣を着せるなんて変わった趣味してんねぇ」
斉藤……?
――――――僕を体育倉庫で襲った連中のボスの名前だ!!
どうして今更あいつが……!? 寝取ったって何だ!?
僕はあの男に襲われただけで、恋人でも何でもないのに!
言い返したいのに、震えて言葉も出ない。
「おい、世界の漬物って屋台あるぞ。お前、ああいうの好きなんじゃねーの?」
え!?
八鬼はまるで男たちが見えてないかのように、僕の手を引いて普通に歩き出した。
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