僕は美女だったらしい

寺蔵

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前倒しで、クリスマスの話

「なんで……こんだけしか残ってねーんだよ」

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 冷蔵庫からケーキを取り出す。
 細くなりすぎてヘニャリとお皿に倒れこんでる、元、剣山ケーキを。

「これ」

「………………」

 八鬼はお皿を凝視して固まった。どうしたんだろう。

「なんで………こんだけしか残ってねーんだよ」

「皆が食べたからだけど?」



 ビシッ!



「びゃ!?」

 今度は頭に思いっきりチョップをされた。
 痛い……! 日本史の年表の暗記が二三十個飛んだよ絶対……。

「いたいよー」
「作ったんなら真っ先に俺に食わせろよ! 何で他人に先に食わせてんだよ! しかもこんだけしか残ってねーし……」

 大きな体がその場にしゃがみ込んだ。ヤンキー座りした膝の上に腕を投げ出してうな垂れる。

 珍しい。八鬼が落ち込んでるぞ。

 そんなにケーキ食べたかったのかな。いつもは甘い物に興味ないくせに。

「見た目が剣山みたいになっちゃったから、つい。でも、味は美味しいって評判よかったんだ。八鬼にも食べて欲しいよ」

 フォークで八鬼にケーキを差し出す。

 う。

 ただでさえ恐い八鬼の顔が更に怖くなって無言で睨みつけてくる。

「えと……、その、初めて作ったから、ほんとに上手には出来てないけど……」

 そういえば、僕はこれ、食べて無かった!

 クリームとソースの味見をしただけで焼いた後は一口も食べて無い。
 慌てて欠片を口に入れる。



「……!!?」



 途端に、口の中にねっとりとした気持ちの悪い食感が広がった。
 ラードをそのまま口に入れたみたいだ……!

 ぐ、っと、口を押さえる。

「夏樹?」

 必死に飲みこんで首を振る。

「……ごめん、これ、美味しくなかった」

 皆が美味しいって言ってくれたの、やっぱりお世辞だったんだ。
 こんなに不味かったなんて。
 こんなの、食べ物の味じゃない!

 あ。

 フォークを持った僕の手を掌で握り八鬼がケーキを刺した。

 毟り取るみたいに半分も取って――――。


 ガリッ!!

 フォークごと噛み切る勢いでケーキに歯を立てられてビクッとしてしまった。


「八鬼! 美味しくないって言っただろ!」


 どろどろしてアブラの固まりみたいだったのに!

 飛びついて、吐かせるために口をこじひらこうとするんだけど、大きな掌が僕の顔面を押さえ引き離した。

「八鬼!」

 僕と八鬼の身長差はおよそ30センチ。
 腕の長さも違いすぎて全然届かない!

 僕の顔を押さえつけてた掌が、そのまま頭を撫でる。

「美味ぇよ」

「え?」

「ほら、もう一度、食ってみろ」

 今度は八鬼が僕にケーキを差し出してくる。
 おそるおそる、口にいれた。

 あれ?

「美味しい……? さっきはラードみたいな味しかしなかったのに……」

「自分の手で食ったからだろうが」

 あ、そっか。
 僕が自分で食べたから食べ物の味じゃ無くなったんだ。
 八鬼に食べさせてもらわなかったから、ラードみたいな味しかしなかったんだ。

「結局、今年は治らなかったな」
「う……」

 今年の春、僕は、八鬼に食べさせてもらわないと食べ物の味がしなくなる変な病気にかかってしまった。

 すぐに治るだろうって考えてたのに、クリスマスになっても全然改善しいない。

 答える言葉が無かった。
 ほんとなら、ちゃんと病院に行くべきだ。

 精神科か心療内科かわからないけど、とにかくお医者さんに診てもらって自分で自分を治さないと駄目なんだ。

 でも、僕はこの半年、ずっとそれから逃げていた。

「ごめん、八鬼……」

「謝るな。謝るならこれを謝れ」

 八鬼は残りのケーキを全部一気に食べてくれた。空っぽになったケーキのお皿を指差す。
 ……?
 何を謝ればいいんだろ?

「おいしくなくてごめん?」
「美味いっつったろうが。そうじゃねーよ。ちゃんと残しておかなかったのを謝れ」

「? 八鬼は甘い物好きじゃなかったよね? それぐらいで丁度いいんじゃないの?」

 がし、と、大きな掌が僕の頭を鷲掴みにしてギリギリ締め上げた。

「いだだだだだ!?」

「そうじゃねぇ。……もういい」
「わぁ!?」

 ひょいっと軽く抱え上げられベッドに放り投げられた。
 スプリングのバウンドが収まる前に僕の体に乗りあげ、吸血鬼がするみたいに首元にきつく歯を立てられる。

 痛い。
 痛いのに、ゾクゾクする。

 でも、今日は駄目だ。

「八鬼、ごちそう食べようよ、せっかくのクリスマスなのに」
 クラッカーも鳴らしてない、クリスマスツリーだってあるのに。

「んぅ」
 文句を言ってる最中なのに無理やりキスをされた。
「やぃ……」
 口の中に舌が入って来てぬるりと絡み八鬼と呼ぶことさえ出来ない。
 このキス苦手だ。ただ口の中を嘗められてるだけなのにトロトロになる。
 頭も、体も気持ち良くて駄目になる。

 八鬼が珍しく自分から電気を暗くしてくれた。
「せめてクリスマスっぽくしてやるよ」

 不遜に笑う顔が点滅する色とりどりのツリーのライトに照らされた。

「やだ……、ツリーのライトに変な思い出が出来、」

 八鬼の手が裾から入って抵抗もむなしく短パンごと下着がひっぱりおろされた。
 胸の部分を鷲掴みにされ紙みたいに簡単にサンタ服が破られた。

「な、ぁ」

 ただ破られただけじゃない。胸の部分を二か所。まるで、乳首だけを露出するみたいに破られてしまった……!!!
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