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<水無瀬葉月>
遼平さんが助けに来てくれた、真相。
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『ありがとう、遼平さん』
さっそく、一ページ目に感謝の言葉を書く。
「どういたしまして。山本さんからお前に会いたいって連絡があったぞ。今、近くに居るそうだ。会っても大丈夫か?」
山本さん!?
会いたいです!
お父さんとお母さんに責められてないかとても気になるから!
こくこくこくこくと連続で頷く。
電話を使ってもいいエリアに入って遼平さんが連絡するのを横で待つ。
僕の声が出ないのは、風邪のせいだと嘘を付いてもらった。
病室に戻ってすぐ、貰ったスケッチブックにペンを走らせた。
『どうして遼平さんが山本さんの連絡先を知ってるの?』
「葉月の居場所を教えてくれたのが山本さん達だったんだよ。俺の携帯に電話があったんだ」
遼平さんの携帯に電話?
電話番号の入力はしたけど、お父さんに話しかけられたから、僕、すぐに表示を消したのにな。
第一、入力したのは途中までで、最後まで押してさえなかったのにどうして遼平さんの電話番号がわかったんだろう??
コンコン、と、ノックの音がした。
「どうぞ」
遼平さんが答えてくれる。
ドアが開いて、おじいちゃんとおばあちゃんが入ってきた!
慌ててスケッチブックに『こんにちは』と書く。
二人の目が一瞬悲しそうに歪んだけど、どうかしたのかな?
「…………。想像していたより元気そうでよかったよ」
心配させないように笑い顔を作って頷く。
『お父さんとお母さんに文句を言われたんじゃありませんか? ごめんなさい』
「葉月君が謝る必要はないわよ」
「君が……、ご両親に連れ戻された時は、本当に驚いたよ」
おじいちゃんが眉を下げる。
「やっとあの家を出て、幸せになれるだろうって安心してたのに、たった一か月で連れ戻されて」
「えぇ、えぇ。俯いた顔で車から降りるあなたを見たときは心臓が止まるかと思ったわよ……」
え!? 帰ってきてすぐから僕の事を気にしてくれてたんだ……。
そ、そうだ。一番聞きたい事を聞かなきゃ!
なるべく大きい字でスケッチブックに書く。
『どうして遼平さんの番号がわかったんですか? 僕、入力した番号を消したはずなのに』
おじいちゃんとおばあちゃんは笑って教えてくれた。
「わしらは学も知識も無いが、数字を覚えるのだけは得意なんだよ。なにせ、15のころから65まで駅の売店をやってたからねえ。暗算もお手のものさ」
「今も、ボケ防止にって円周率を覚える遊びをしてるのよ。ついこないだ一万桁まで覚え終わったところなの。10ケタや9ケタぐらい一目見ただけで覚えられるわ」
えっ。
「葉月君は9桁まで入力して10桁目の番号の上に指を置いていた。そこまでわかれば、後は、最後の一桁だけだ。0~9まで片っ端から電話を掛ければ必ず繋がる」
「おじいさんは0から、私は9から掛けはじめたの。でもね、それがね、私、ついつい焦っちゃって、5から掛けはじめちゃったのよ。なのに、それで陸王さんに繋がったのよ。電話が鳴った瞬間、『葉月か――!?』って声がしてね。10分の1の確率だから偶然と言ってしまえばそれまでなのだけど……。神様っているのかもしれないわねえ……」
おばあちゃんが目を細くして遼平さんを見上げた。
理由は簡単なものだった。それにしても一万桁ってすごいぞ! 僕は学校で覚えさせられた50桁でも必死だったのに。
「貴方はずっと辛い目に合ってたのに、何年も見て見ぬ振りをして本当にごめんなさいね」
謝るおばあちゃんを掌で止めつつ、ブンブンと首を振る。
『おじいちゃんとおばあちゃんは助けてくれようとしたじゃありませんか。嬉しかったです。ありがとうございました』
僕がほんの子供の頃、山本さん夫婦が隣の家に引っ越してきてすぐに、お母さんとお父さんに抗議をしてくれたんだ。
僕の扱いがあんまりだって。
当然お父さんとお母さんは烈火のごとく怒り、近所づきあいさえ一切しなくなってしまった。
お父さんもお母さんも街の人たちには愛想がよかったから、山本さんの家が町内から仲間外れにされてしまった。きっと、住みにくかったはずだ。
丘の上に建ってた家は水無瀬の家一軒だけしかなかったから、初めてお隣さんが出来て嬉しかったんだけど、その日から、おじいちゃんとおばあちゃんとは口を利くなって言われ続けてた。
「陸王君、出来ることがあればなんでも協力するから、遠慮なく連絡をしてくれ」
「はい。お言葉に甘えさせていただきます」
「葉月君も……、しっかり休んでね」
こくこくと頷く。
「おばあちゃんとおじいちゃん、あの家を売ってケアハウスに入ることにしたの。あぁ、勘違いしないでね。あなたのご両親と揉めたからじゃないわ。去年から申し込みをしてただけ」
ケアハウスに?
どこのケアハウスだろう。ひょっとしてもう会えないのかな?
しょんぼりしてしまう。
おじいちゃんの手が上がり、ゆっくりと、僕の頭に乗った。
あ。
懐かしい。
昔、一回だけこうやって撫でて貰った。
おじいちゃんとおばあちゃんには子供が出来なかったそうだ。だから、僕が孫みたいだって言って。
「逃げなくなったのねえ」
おばあちゃんが感情の読めない深い声で言った。
「住所を後で連絡するから、よかったら二人で遊びに来てくれないか? 葉月君のことは今でも孫のように思ってるよ。いつでも歓迎するから」
いいんですか!?
嬉しい。絶対に行きます!
おばあちゃんとおじいちゃんが遼平さんに頭を下げる。
「陸王さん、葉月君をよろしくお願いします。葉月君があなたと出会えて本当に本当に良かったわ……」
これ以上いたら僕を疲れさせるから、と、二人は早々に病室を出て行った。
おじいちゃんとおばあちゃんは僕の恩人だな。
二人が居なかったら、僕は今頃どうなってただろう。声が出ないどころじゃなかっただろうなぁ……。
さっそく、一ページ目に感謝の言葉を書く。
「どういたしまして。山本さんからお前に会いたいって連絡があったぞ。今、近くに居るそうだ。会っても大丈夫か?」
山本さん!?
会いたいです!
お父さんとお母さんに責められてないかとても気になるから!
こくこくこくこくと連続で頷く。
電話を使ってもいいエリアに入って遼平さんが連絡するのを横で待つ。
僕の声が出ないのは、風邪のせいだと嘘を付いてもらった。
病室に戻ってすぐ、貰ったスケッチブックにペンを走らせた。
『どうして遼平さんが山本さんの連絡先を知ってるの?』
「葉月の居場所を教えてくれたのが山本さん達だったんだよ。俺の携帯に電話があったんだ」
遼平さんの携帯に電話?
電話番号の入力はしたけど、お父さんに話しかけられたから、僕、すぐに表示を消したのにな。
第一、入力したのは途中までで、最後まで押してさえなかったのにどうして遼平さんの電話番号がわかったんだろう??
コンコン、と、ノックの音がした。
「どうぞ」
遼平さんが答えてくれる。
ドアが開いて、おじいちゃんとおばあちゃんが入ってきた!
慌ててスケッチブックに『こんにちは』と書く。
二人の目が一瞬悲しそうに歪んだけど、どうかしたのかな?
「…………。想像していたより元気そうでよかったよ」
心配させないように笑い顔を作って頷く。
『お父さんとお母さんに文句を言われたんじゃありませんか? ごめんなさい』
「葉月君が謝る必要はないわよ」
「君が……、ご両親に連れ戻された時は、本当に驚いたよ」
おじいちゃんが眉を下げる。
「やっとあの家を出て、幸せになれるだろうって安心してたのに、たった一か月で連れ戻されて」
「えぇ、えぇ。俯いた顔で車から降りるあなたを見たときは心臓が止まるかと思ったわよ……」
え!? 帰ってきてすぐから僕の事を気にしてくれてたんだ……。
そ、そうだ。一番聞きたい事を聞かなきゃ!
なるべく大きい字でスケッチブックに書く。
『どうして遼平さんの番号がわかったんですか? 僕、入力した番号を消したはずなのに』
おじいちゃんとおばあちゃんは笑って教えてくれた。
「わしらは学も知識も無いが、数字を覚えるのだけは得意なんだよ。なにせ、15のころから65まで駅の売店をやってたからねえ。暗算もお手のものさ」
「今も、ボケ防止にって円周率を覚える遊びをしてるのよ。ついこないだ一万桁まで覚え終わったところなの。10ケタや9ケタぐらい一目見ただけで覚えられるわ」
えっ。
「葉月君は9桁まで入力して10桁目の番号の上に指を置いていた。そこまでわかれば、後は、最後の一桁だけだ。0~9まで片っ端から電話を掛ければ必ず繋がる」
「おじいさんは0から、私は9から掛けはじめたの。でもね、それがね、私、ついつい焦っちゃって、5から掛けはじめちゃったのよ。なのに、それで陸王さんに繋がったのよ。電話が鳴った瞬間、『葉月か――!?』って声がしてね。10分の1の確率だから偶然と言ってしまえばそれまでなのだけど……。神様っているのかもしれないわねえ……」
おばあちゃんが目を細くして遼平さんを見上げた。
理由は簡単なものだった。それにしても一万桁ってすごいぞ! 僕は学校で覚えさせられた50桁でも必死だったのに。
「貴方はずっと辛い目に合ってたのに、何年も見て見ぬ振りをして本当にごめんなさいね」
謝るおばあちゃんを掌で止めつつ、ブンブンと首を振る。
『おじいちゃんとおばあちゃんは助けてくれようとしたじゃありませんか。嬉しかったです。ありがとうございました』
僕がほんの子供の頃、山本さん夫婦が隣の家に引っ越してきてすぐに、お母さんとお父さんに抗議をしてくれたんだ。
僕の扱いがあんまりだって。
当然お父さんとお母さんは烈火のごとく怒り、近所づきあいさえ一切しなくなってしまった。
お父さんもお母さんも街の人たちには愛想がよかったから、山本さんの家が町内から仲間外れにされてしまった。きっと、住みにくかったはずだ。
丘の上に建ってた家は水無瀬の家一軒だけしかなかったから、初めてお隣さんが出来て嬉しかったんだけど、その日から、おじいちゃんとおばあちゃんとは口を利くなって言われ続けてた。
「陸王君、出来ることがあればなんでも協力するから、遠慮なく連絡をしてくれ」
「はい。お言葉に甘えさせていただきます」
「葉月君も……、しっかり休んでね」
こくこくと頷く。
「おばあちゃんとおじいちゃん、あの家を売ってケアハウスに入ることにしたの。あぁ、勘違いしないでね。あなたのご両親と揉めたからじゃないわ。去年から申し込みをしてただけ」
ケアハウスに?
どこのケアハウスだろう。ひょっとしてもう会えないのかな?
しょんぼりしてしまう。
おじいちゃんの手が上がり、ゆっくりと、僕の頭に乗った。
あ。
懐かしい。
昔、一回だけこうやって撫でて貰った。
おじいちゃんとおばあちゃんには子供が出来なかったそうだ。だから、僕が孫みたいだって言って。
「逃げなくなったのねえ」
おばあちゃんが感情の読めない深い声で言った。
「住所を後で連絡するから、よかったら二人で遊びに来てくれないか? 葉月君のことは今でも孫のように思ってるよ。いつでも歓迎するから」
いいんですか!?
嬉しい。絶対に行きます!
おばあちゃんとおじいちゃんが遼平さんに頭を下げる。
「陸王さん、葉月君をよろしくお願いします。葉月君があなたと出会えて本当に本当に良かったわ……」
これ以上いたら僕を疲れさせるから、と、二人は早々に病室を出て行った。
おじいちゃんとおばあちゃんは僕の恩人だな。
二人が居なかったら、僕は今頃どうなってただろう。声が出ないどころじゃなかっただろうなぁ……。
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