74 / 103
【陸王遼平の焦燥】
葉月が、消えた。
しおりを挟む
葉月が、消えた。
――――――――――――――――――
「坂下調査事務所に依頼しました」
「ありがとう。後から俺も話に行く。これで五社か……」
二本松から資料を受け取る。
俺のオフィスのテーブルには、五社分の調査会社の資料と、無邪気に笑う葉月の写真が散らばっていた。
二本松と静に事情を説明し手分けをして、水無瀬葉月の行方を探すよう片っ端から調査会社に依頼を掛けたのだ。
葉月は父親の職業を弁護士だと言っていた。
弁護士は登録が義務付けられている。調査会社になど頼らなくとも見つけるのはたやすいはずだった。
だが、全都道府県を調べても水無瀬という姓の登録は一人もなかった。
葉月の父親は弁護士ではなかった。
葉月自身が父親の職業を間違えていた。父親が嘘をついていたのか、それとも登録を抹消されたのか。
ホコホコ弁当に提出されていた履歴書も、葉月の父親が持っていったのだという。
葉月にたどり着くための手掛かりが何一つ無い。
俺の手元に残ったのは何枚かの画像だけだ。
「二本松、休みをくれ。短くても一週間だ。俺も葉月を探す」
「送り出して差し上げたいところですが……」
二本松が言葉を渋る。続けたのは静だった。
「やめとけ。お前のその精神状態で車走らせたって、前方不注意で事故るかスピード違反でネズミ捕りに引っかかるかってだけだ。下手したら人を轢きかねねえ」
「私もこの害悪と同じ意見です。そもそも、葉月君がこの街にいるかさえ曖昧です。走り回るだけ無駄でしょう。プロの捜索を待ちましょう」
二本松が調査会社の資料を指先で叩いた。
「だが……、あいつは大声を聞くだけで体を震わせるんだ。一刻でも早く見つけ出してやんねーと……」
「落ち着け遼平。葉月君はなんだかんだいっても、その家で十八年間成長してきたんだ。すぐにどうこうなるってことは無いはずだ。とにかく今は待とう。成功報酬だってがっつり積んでんだ。調査会社も他社より早く、と血眼になってくれるさ」
「あぁ……」
クソ!
どうして俺は無理やりにでも葉月から聞き出しておかなかったんだ……!
好きだ好きだってそればかりにうつつを抜かして、あいつの親の危険性を見失ってたなんて……!
考えりゃすぐわかるじゃねーか!!
葉月は文句ひとつ言わずに家事をこなす。あれは、実家でそれだけやらされてきたからだ。
葉月のことだ。自分一人にすべてを押し付けられても不満に思うこともなかったに違いない。そんな、便利な子供をクソ親が手放すもんか!!!
汚いとレッテルを貼り虐げ続けた葉月を追い出したはいいが、今まで自動的に綺麗になっていた家が片付かない。食事も出てこない、ハウスキーパーを手配すれば金が掛かる。
そんな現実を目の当たりにし、プリン一つ要求せず金もかからないのに、家事能力も料理のスキルもある便利な子どもを呼び戻す。
予測は出来たはずだ。
どうして防げなかった。
どうして葉月を守れなかった!!
手にしていた紙を握りつぶしそうになった。
葉月が最後に残した手紙だ。
よく目を凝らさないと見えないが、紙の端がたわんでいた。
泣いたんだ。
あいつは、泣きながらこの手紙を書いたんだ。
帰りたくなかったに決まってる。
どこにいるんだ葉月。
お前は俺の携帯番号を知ってるはずだ。お願いだから連絡をくれ。どこにいてもすぐに迎えに行くから。
頼むから、
葉月…………!!
――――――――――――――――――
「坂下調査事務所に依頼しました」
「ありがとう。後から俺も話に行く。これで五社か……」
二本松から資料を受け取る。
俺のオフィスのテーブルには、五社分の調査会社の資料と、無邪気に笑う葉月の写真が散らばっていた。
二本松と静に事情を説明し手分けをして、水無瀬葉月の行方を探すよう片っ端から調査会社に依頼を掛けたのだ。
葉月は父親の職業を弁護士だと言っていた。
弁護士は登録が義務付けられている。調査会社になど頼らなくとも見つけるのはたやすいはずだった。
だが、全都道府県を調べても水無瀬という姓の登録は一人もなかった。
葉月の父親は弁護士ではなかった。
葉月自身が父親の職業を間違えていた。父親が嘘をついていたのか、それとも登録を抹消されたのか。
ホコホコ弁当に提出されていた履歴書も、葉月の父親が持っていったのだという。
葉月にたどり着くための手掛かりが何一つ無い。
俺の手元に残ったのは何枚かの画像だけだ。
「二本松、休みをくれ。短くても一週間だ。俺も葉月を探す」
「送り出して差し上げたいところですが……」
二本松が言葉を渋る。続けたのは静だった。
「やめとけ。お前のその精神状態で車走らせたって、前方不注意で事故るかスピード違反でネズミ捕りに引っかかるかってだけだ。下手したら人を轢きかねねえ」
「私もこの害悪と同じ意見です。そもそも、葉月君がこの街にいるかさえ曖昧です。走り回るだけ無駄でしょう。プロの捜索を待ちましょう」
二本松が調査会社の資料を指先で叩いた。
「だが……、あいつは大声を聞くだけで体を震わせるんだ。一刻でも早く見つけ出してやんねーと……」
「落ち着け遼平。葉月君はなんだかんだいっても、その家で十八年間成長してきたんだ。すぐにどうこうなるってことは無いはずだ。とにかく今は待とう。成功報酬だってがっつり積んでんだ。調査会社も他社より早く、と血眼になってくれるさ」
「あぁ……」
クソ!
どうして俺は無理やりにでも葉月から聞き出しておかなかったんだ……!
好きだ好きだってそればかりにうつつを抜かして、あいつの親の危険性を見失ってたなんて……!
考えりゃすぐわかるじゃねーか!!
葉月は文句ひとつ言わずに家事をこなす。あれは、実家でそれだけやらされてきたからだ。
葉月のことだ。自分一人にすべてを押し付けられても不満に思うこともなかったに違いない。そんな、便利な子供をクソ親が手放すもんか!!!
汚いとレッテルを貼り虐げ続けた葉月を追い出したはいいが、今まで自動的に綺麗になっていた家が片付かない。食事も出てこない、ハウスキーパーを手配すれば金が掛かる。
そんな現実を目の当たりにし、プリン一つ要求せず金もかからないのに、家事能力も料理のスキルもある便利な子どもを呼び戻す。
予測は出来たはずだ。
どうして防げなかった。
どうして葉月を守れなかった!!
手にしていた紙を握りつぶしそうになった。
葉月が最後に残した手紙だ。
よく目を凝らさないと見えないが、紙の端がたわんでいた。
泣いたんだ。
あいつは、泣きながらこの手紙を書いたんだ。
帰りたくなかったに決まってる。
どこにいるんだ葉月。
お前は俺の携帯番号を知ってるはずだ。お願いだから連絡をくれ。どこにいてもすぐに迎えに行くから。
頼むから、
葉月…………!!
26
お気に入りに追加
3,127
あなたにおすすめの小説
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる