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【陸王遼平の焦燥】

 葉月が、消えた。

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 葉月が、消えた。

――――――――――――――――――

「坂下調査事務所に依頼しました」
「ありがとう。後から俺も話に行く。これで五社か……」

 二本松から資料を受け取る。

 俺のオフィスのテーブルには、五社分の調査会社の資料と、無邪気に笑う葉月の写真が散らばっていた。


 二本松と静に事情を説明し手分けをして、水無瀬葉月の行方を探すよう片っ端から調査会社に依頼を掛けたのだ。

 葉月は父親の職業を弁護士だと言っていた。
 弁護士は登録が義務付けられている。調査会社になど頼らなくとも見つけるのはたやすいはずだった。

 だが、全都道府県を調べても水無瀬という姓の登録は一人もなかった。
 葉月の父親は弁護士ではなかった。

 葉月自身が父親の職業を間違えていた。父親が嘘をついていたのか、それとも登録を抹消されたのか。

 ホコホコ弁当に提出されていた履歴書も、葉月の父親が持っていったのだという。

 葉月にたどり着くための手掛かりが何一つ無い。

 俺の手元に残ったのは何枚かの画像だけだ。

「二本松、休みをくれ。短くても一週間だ。俺も葉月を探す」
「送り出して差し上げたいところですが……」

 二本松が言葉を渋る。続けたのは静だった。

「やめとけ。お前のその精神状態で車走らせたって、前方不注意で事故るかスピード違反でネズミ捕りに引っかかるかってだけだ。下手したら人を轢きかねねえ」
「私もこの害悪と同じ意見です。そもそも、葉月君がこの街にいるかさえ曖昧です。走り回るだけ無駄でしょう。プロの捜索を待ちましょう」
 二本松が調査会社の資料を指先で叩いた。

「だが……、あいつは大声を聞くだけで体を震わせるんだ。一刻でも早く見つけ出してやんねーと……」

「落ち着け遼平。葉月君はなんだかんだいっても、その家で十八年間成長してきたんだ。すぐにどうこうなるってことは無いはずだ。とにかく今は待とう。成功報酬だってがっつり積んでんだ。調査会社も他社より早く、と血眼になってくれるさ」

「あぁ……」

 クソ!
 どうして俺は無理やりにでも葉月から聞き出しておかなかったんだ……!

 好きだ好きだってそればかりにうつつを抜かして、あいつの親の危険性を見失ってたなんて……!

 考えりゃすぐわかるじゃねーか!!

 葉月は文句ひとつ言わずに家事をこなす。あれは、実家でそれだけやらされてきたからだ。
 葉月のことだ。自分一人にすべてを押し付けられても不満に思うこともなかったに違いない。そんな、便利な子供をクソ親が手放すもんか!!!

 汚いとレッテルを貼り虐げ続けた葉月を追い出したはいいが、今まで自動的に綺麗になっていた家が片付かない。食事も出てこない、ハウスキーパーを手配すれば金が掛かる。

 そんな現実を目の当たりにし、プリン一つ要求せず金もかからないのに、家事能力も料理のスキルもある便利な子どもを呼び戻す。

 予測は出来たはずだ。

 どうして防げなかった。
 どうして葉月を守れなかった!!

 手にしていた紙を握りつぶしそうになった。

 葉月が最後に残した手紙だ。

 よく目を凝らさないと見えないが、紙の端がたわんでいた。

 泣いたんだ。
 あいつは、泣きながらこの手紙を書いたんだ。

 帰りたくなかったに決まってる。



 どこにいるんだ葉月。

 お前は俺の携帯番号を知ってるはずだ。お願いだから連絡をくれ。どこにいてもすぐに迎えに行くから。



 頼むから、




 葉月…………!!

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