38 / 103
<水無瀬葉月>
駄目です駄目です
しおりを挟む
☆☆☆
ご飯を終え寝支度まで整えてから、僕と遼平さんはちゃぶ台で向かいあった。
「さぁ。話してもらうぞ、葉月」
凄い迫力で切り出されてしまった。
まるで刑事に尋問される犯罪者にでもなった気分だ。
膝に抱えていたリックから紙袋を取り出す。
「これ、どうぞ」
「ん?」
「初めてお給料を貰ったから遼平さんにプレゼントがしたくて、二本松さんと静さんに相談に乗ってもらったんだ。あ、何を買うか決めたのも、それを選んだのも僕だから」
「おれに、プレゼント? 初めての給料で?」
「うん!」
遼平さんが袋を持ったまま固まってしまった。
「えと……、開けて、ほしいな」
「開けたら消えて無くなりそうで恐い。葉月からプレゼントを貰えるなんて」
「な、無くならないよ」
奮発して買ったのに無くなったら僕が絶望するよ。
遼平さんは意を決した表情で紙袋から黒いボックスを取り出した。
リボンのかかったそれを掌に乗せ、また、一拍置く。
遼平さんの手に乗せると随分小さく感じるな。
リボンを解き、蓋を開き、再度一拍置いて、中からネクタイを取り出す。
僕は、なんだか遼平さんを観察する勇気も無くてズボンを握って顔を伏せていた。
生まれて十八年間、友達が一人も居なかったとは言え、人の喜怒哀楽の見分けぐらい付く。
両親にも兄弟にも疎まれ続けてきたから負の感情には人より敏感かもしれない。
遼平さんががっかりしていたら、多分、気が付いてしまう。どんなにごまかして嬉しい振りをしようとも。
何よりも、疲れて帰ってきた人に、嬉しくも無いのに喜んだ振りをさせたく無い。
遼平さんがずり、と僕の横に来て――――――
「ぅ!?」
締め上げるように抱き締められ、喉の奥から変な音が漏れた。
頭頂に額をゴリゴリと擦りつけられる。
痛い痛い。
「すっげー嬉しい、死ぬほど嬉しい……! 夜中じゃなかったら叫び出したいぐらいだ」
頭は痛いしきつく抱き締められて苦しくもあるけど、遼平さんの表情は心からの喜びだけで僕まで楽しくなってしまう。
「よかった……! 喜んでもらえて僕も嬉しいよ」
「喜ぶに決まってるだろ! すげーいいネクタイだな。ありがとう。命より大事にする」
「ええ!? い、命を大事にしてくださいお願いだから!」
顎を掴まれ遼平さんの親指が僕の唇を辿った。
「キスしたい」
「えええ!? 駄目です駄目です恥ずかしくて死ぬです」
「それでもしたい」
「したら二度とプレゼントしないよ!」
「しなくていいよ。このネクタイを一生大事にする」
えええええ!!?
誰か助けて……! まさか一日に二回も人に助けを求める事態に陥ろうとは!!!
本当に唇にキスされそうになって心臓が荒れ狂う。
明るい場所じゃ出来ないって言ったのに!
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
ほんっきで抵抗して遼平さんの顔を手で押さえ、逞しい胸に顔を伏せた。
視界の端にウサギの長い耳が映る。ぴょん太! ぴょん太! 僕を助けてください!
ぴょん太はヌイグルミなので動けない。わかってるのに本気で助けを求めた。
諦めたか、遼平さんの体から力が抜けた。
良かった……!!
しかしまだ油断は禁物だ。
遼平さんが離れてしまうまでは。顔は絶対に上げないぞ。
わなわなしながらも、必死に抵抗を続けた。
押し返していた手を掴まれる。
する、と、手首にくすぐったい感触が走った。
その場所がスゥっと冷え、遼平さんの吐息が手首に触れる。
ま、まさか、今の感触は舌!?
同じ感触が二度三度と触れた。なななな舐められてる……!!!
「や……、っ」
反射的に言葉が出たけど嫌じゃない。
ただただ恥ずかしくて恐い。
濡れた場所を強く吸われ――――。
「今日はこれで我慢する」
ようやく檻みたいな遼平さんの腕から解放された。
う。
手首にくっきりと鬱血痕が出来ている。
これ、キキ、キ、キスマークだよね!? うわああああ……!?
「明日、お店で誰かに見られたらどうしよう……!!」
長袖で隠れる位置ではあるけど、けど!
「許してくれ。どうしてもキスしたかったんだ。すげー嬉しいよ。このネクタイ、明日早速つけさせて貰う。葉月はセンスあるな。こんな良いのを見つけてくるとはな!」
この部屋には壁の上部に薄い板が貼り付けてあり、ハンガーが引っ掻けられるようになっている。
僕一人の時は使わなかったデッドスペースだ。
でも、遼平さんが泊まるようになってからはスーツの定位置だった。
遼平さんは丁寧な手付きで空いたハンガーにネクタイを掛けて、寝るまでの僅かな時間に何度も何度も視線を向けていた。
こんなに喜んでくれるとは予想外だよ。プレゼントして良かったなぁ。
……恩を仇で返されたけど。
くっきりと付いてしまったキースマークを服の上から押さえる。
『ホコホコ弁当』のオーナーや奥さんに見付からないよう用心しなきゃ。絶対怒られるよ。
「葉月どうした? おいで」
遼平さんが掛け布団をめくって僕を呼ぶ。
横に入り込んで遼平さんの腕に頭を乗せた。
「!」
腕枕した手に肩を抱かれ遼平さんの体に益々密着する。
僕の癖なんだけど、横を向いて寝るとついつい顔の横に手をやってしまう。
いつもは僕と遼平さんの隙間に有るその手が、遼平さんの体に乗った。
腕枕してくれているのは左手。開いた右手が僕の手を握る。
「……」
目の前に、遼平さんの腕がある。
ふと、仕返しをしたいっていう衝動が沸きあがってきた。
僕は毎回、緊張で死ぬって言ってるのに、遼平さんは構わずイタズラしてくる。
思い返してみると公園でご飯を食べた日からだ。
あの日、僕は生まれて初めて人に触られた。
他人の体温に固まる僕に遼平さんは容赦がなかった。髪どころか顔まで触られてしまった。
一回目のキスをされたのは初めて家に誘った日だ。
首に二回、頬に一回、手首に一回、く、唇にも一回。遼平さんからは五回もキスされてる。
一方的にイタズラをされっ放しなのは、いくら僕でも悔しい。
い、い、い、一回ぐらい、仕返しをしてもいいのではないだろうか。
布団を頭の上まで引っ張り上げる。
遼平さんと繋いだ手をぎゅっと握り締め、どきどきしつつ手首に唇をくっつけた。
ぢゅう。
遼平さんがしたみたいにきつく吸い付く。
一秒、二秒、三秒、四秒、五秒。
よし! ついたかな!?
布団から出て、台所側の小さな窓から入ってくる仄かな光で確認する。
あれ? ついてない……。
もう一度だ。
再び布団を頭まで被って吸い付く。なんだか吸血鬼にでもなった気分だ。
肺活量の限り吸い付いたのに、結局キスマークは付かなかった。
残念。
「もう終わりなのか? キスマーク付いてないぞ?」
僕の頭を撫でながら遼平さんがからかってくる。
「諦めました」
「男が簡単に諦めていいのか?」
確かにそのとおりだ。
息を吐いて肺の中を空っぽにしてから三度目の挑戦を始めた。
力の限り吸い付き――――これでどうだ!
おおおお!
今度こそ、手首に痕が出来ていた!
「やった、ついたよ!」
僕の手首にある赤い痕と違ってうっすらピンクだけど、これもキスマークだよね。
遼平さんがくくって声を潜めて笑った。
「嬉しいのは判ったからガッツポーズするな。もっと色気のある喜び方しろよ。これ、お前がつけた生まれて初めてのキスマークなんだろ?」
色気!? そんな無茶な。
「わ!?」
布団の中で掴まり、遼平さんの体の上にうつ伏せに転がされた。
呼吸に上下するお腹や胸の鼓動が直に伝わってくる!
(ひ、ぁ)
お腹に、こ、股間を擦り付ける体勢だ。しかも、息をするたびに動くから、し、し、刺激が、
鼻先が遼平さんの首元に埋まってしまうのもドキドキするよ
離してください……!
「葉月といると楽しいな。全然退屈しない。お前と会ってからというもの、俺、毎日幸せだよ」
「ひぇ!?」
今なんて言った!?
し、幸せとか聞こえたような、幻聴!?
「ひえって何だよ」
「幻聴が聞こえたからびっくりして」
「幻聴?」
「『毎日幸せだよ』って幻聴が」
はは、って、遼平さんが笑う。
「幻聴じゃないよ。毎日夢みたいに幸せで恐いぐらいだ」
「ひぇ!?」
「ひぇって何だよ。幻聴じゃ無かっただろ?」
同じ言葉を繰り返しているだけなのに、低い声が甘く響いて、ジンって体の奥が痺れた。
「ひぇんなこというかりゃ」
ちゃんと返事をしたかったのに、舌が空回りしてしまう。
「カミカミになってるぞー。……今度の日曜こそ、海に行こうな」
「う、う、うん!」
「うん? ううん?」
「うん、です」
「良かった。大事な話があるんだ」
「だ、大事な、話……?」
「あぁ。俺の人生で一番大事な話だ…………なぁ、葉月」
「な、ななな何?」
「ほんっと、幸せだよ。ありがとう」
「――!?」
心の底からこみ上げているような深い響きに、なんだか涙が出てきた。
僕ばっかり幸せなんだと思ってた。
遼平さんも幸せって思ってくれてたんだ。こっちこそ夢みたいだ。
逞しい鎖骨に頬擦りする。遼平さんの体温で熱くなる頬が気持ちよかった。
ご飯を終え寝支度まで整えてから、僕と遼平さんはちゃぶ台で向かいあった。
「さぁ。話してもらうぞ、葉月」
凄い迫力で切り出されてしまった。
まるで刑事に尋問される犯罪者にでもなった気分だ。
膝に抱えていたリックから紙袋を取り出す。
「これ、どうぞ」
「ん?」
「初めてお給料を貰ったから遼平さんにプレゼントがしたくて、二本松さんと静さんに相談に乗ってもらったんだ。あ、何を買うか決めたのも、それを選んだのも僕だから」
「おれに、プレゼント? 初めての給料で?」
「うん!」
遼平さんが袋を持ったまま固まってしまった。
「えと……、開けて、ほしいな」
「開けたら消えて無くなりそうで恐い。葉月からプレゼントを貰えるなんて」
「な、無くならないよ」
奮発して買ったのに無くなったら僕が絶望するよ。
遼平さんは意を決した表情で紙袋から黒いボックスを取り出した。
リボンのかかったそれを掌に乗せ、また、一拍置く。
遼平さんの手に乗せると随分小さく感じるな。
リボンを解き、蓋を開き、再度一拍置いて、中からネクタイを取り出す。
僕は、なんだか遼平さんを観察する勇気も無くてズボンを握って顔を伏せていた。
生まれて十八年間、友達が一人も居なかったとは言え、人の喜怒哀楽の見分けぐらい付く。
両親にも兄弟にも疎まれ続けてきたから負の感情には人より敏感かもしれない。
遼平さんががっかりしていたら、多分、気が付いてしまう。どんなにごまかして嬉しい振りをしようとも。
何よりも、疲れて帰ってきた人に、嬉しくも無いのに喜んだ振りをさせたく無い。
遼平さんがずり、と僕の横に来て――――――
「ぅ!?」
締め上げるように抱き締められ、喉の奥から変な音が漏れた。
頭頂に額をゴリゴリと擦りつけられる。
痛い痛い。
「すっげー嬉しい、死ぬほど嬉しい……! 夜中じゃなかったら叫び出したいぐらいだ」
頭は痛いしきつく抱き締められて苦しくもあるけど、遼平さんの表情は心からの喜びだけで僕まで楽しくなってしまう。
「よかった……! 喜んでもらえて僕も嬉しいよ」
「喜ぶに決まってるだろ! すげーいいネクタイだな。ありがとう。命より大事にする」
「ええ!? い、命を大事にしてくださいお願いだから!」
顎を掴まれ遼平さんの親指が僕の唇を辿った。
「キスしたい」
「えええ!? 駄目です駄目です恥ずかしくて死ぬです」
「それでもしたい」
「したら二度とプレゼントしないよ!」
「しなくていいよ。このネクタイを一生大事にする」
えええええ!!?
誰か助けて……! まさか一日に二回も人に助けを求める事態に陥ろうとは!!!
本当に唇にキスされそうになって心臓が荒れ狂う。
明るい場所じゃ出来ないって言ったのに!
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
ほんっきで抵抗して遼平さんの顔を手で押さえ、逞しい胸に顔を伏せた。
視界の端にウサギの長い耳が映る。ぴょん太! ぴょん太! 僕を助けてください!
ぴょん太はヌイグルミなので動けない。わかってるのに本気で助けを求めた。
諦めたか、遼平さんの体から力が抜けた。
良かった……!!
しかしまだ油断は禁物だ。
遼平さんが離れてしまうまでは。顔は絶対に上げないぞ。
わなわなしながらも、必死に抵抗を続けた。
押し返していた手を掴まれる。
する、と、手首にくすぐったい感触が走った。
その場所がスゥっと冷え、遼平さんの吐息が手首に触れる。
ま、まさか、今の感触は舌!?
同じ感触が二度三度と触れた。なななな舐められてる……!!!
「や……、っ」
反射的に言葉が出たけど嫌じゃない。
ただただ恥ずかしくて恐い。
濡れた場所を強く吸われ――――。
「今日はこれで我慢する」
ようやく檻みたいな遼平さんの腕から解放された。
う。
手首にくっきりと鬱血痕が出来ている。
これ、キキ、キ、キスマークだよね!? うわああああ……!?
「明日、お店で誰かに見られたらどうしよう……!!」
長袖で隠れる位置ではあるけど、けど!
「許してくれ。どうしてもキスしたかったんだ。すげー嬉しいよ。このネクタイ、明日早速つけさせて貰う。葉月はセンスあるな。こんな良いのを見つけてくるとはな!」
この部屋には壁の上部に薄い板が貼り付けてあり、ハンガーが引っ掻けられるようになっている。
僕一人の時は使わなかったデッドスペースだ。
でも、遼平さんが泊まるようになってからはスーツの定位置だった。
遼平さんは丁寧な手付きで空いたハンガーにネクタイを掛けて、寝るまでの僅かな時間に何度も何度も視線を向けていた。
こんなに喜んでくれるとは予想外だよ。プレゼントして良かったなぁ。
……恩を仇で返されたけど。
くっきりと付いてしまったキースマークを服の上から押さえる。
『ホコホコ弁当』のオーナーや奥さんに見付からないよう用心しなきゃ。絶対怒られるよ。
「葉月どうした? おいで」
遼平さんが掛け布団をめくって僕を呼ぶ。
横に入り込んで遼平さんの腕に頭を乗せた。
「!」
腕枕した手に肩を抱かれ遼平さんの体に益々密着する。
僕の癖なんだけど、横を向いて寝るとついつい顔の横に手をやってしまう。
いつもは僕と遼平さんの隙間に有るその手が、遼平さんの体に乗った。
腕枕してくれているのは左手。開いた右手が僕の手を握る。
「……」
目の前に、遼平さんの腕がある。
ふと、仕返しをしたいっていう衝動が沸きあがってきた。
僕は毎回、緊張で死ぬって言ってるのに、遼平さんは構わずイタズラしてくる。
思い返してみると公園でご飯を食べた日からだ。
あの日、僕は生まれて初めて人に触られた。
他人の体温に固まる僕に遼平さんは容赦がなかった。髪どころか顔まで触られてしまった。
一回目のキスをされたのは初めて家に誘った日だ。
首に二回、頬に一回、手首に一回、く、唇にも一回。遼平さんからは五回もキスされてる。
一方的にイタズラをされっ放しなのは、いくら僕でも悔しい。
い、い、い、一回ぐらい、仕返しをしてもいいのではないだろうか。
布団を頭の上まで引っ張り上げる。
遼平さんと繋いだ手をぎゅっと握り締め、どきどきしつつ手首に唇をくっつけた。
ぢゅう。
遼平さんがしたみたいにきつく吸い付く。
一秒、二秒、三秒、四秒、五秒。
よし! ついたかな!?
布団から出て、台所側の小さな窓から入ってくる仄かな光で確認する。
あれ? ついてない……。
もう一度だ。
再び布団を頭まで被って吸い付く。なんだか吸血鬼にでもなった気分だ。
肺活量の限り吸い付いたのに、結局キスマークは付かなかった。
残念。
「もう終わりなのか? キスマーク付いてないぞ?」
僕の頭を撫でながら遼平さんがからかってくる。
「諦めました」
「男が簡単に諦めていいのか?」
確かにそのとおりだ。
息を吐いて肺の中を空っぽにしてから三度目の挑戦を始めた。
力の限り吸い付き――――これでどうだ!
おおおお!
今度こそ、手首に痕が出来ていた!
「やった、ついたよ!」
僕の手首にある赤い痕と違ってうっすらピンクだけど、これもキスマークだよね。
遼平さんがくくって声を潜めて笑った。
「嬉しいのは判ったからガッツポーズするな。もっと色気のある喜び方しろよ。これ、お前がつけた生まれて初めてのキスマークなんだろ?」
色気!? そんな無茶な。
「わ!?」
布団の中で掴まり、遼平さんの体の上にうつ伏せに転がされた。
呼吸に上下するお腹や胸の鼓動が直に伝わってくる!
(ひ、ぁ)
お腹に、こ、股間を擦り付ける体勢だ。しかも、息をするたびに動くから、し、し、刺激が、
鼻先が遼平さんの首元に埋まってしまうのもドキドキするよ
離してください……!
「葉月といると楽しいな。全然退屈しない。お前と会ってからというもの、俺、毎日幸せだよ」
「ひぇ!?」
今なんて言った!?
し、幸せとか聞こえたような、幻聴!?
「ひえって何だよ」
「幻聴が聞こえたからびっくりして」
「幻聴?」
「『毎日幸せだよ』って幻聴が」
はは、って、遼平さんが笑う。
「幻聴じゃないよ。毎日夢みたいに幸せで恐いぐらいだ」
「ひぇ!?」
「ひぇって何だよ。幻聴じゃ無かっただろ?」
同じ言葉を繰り返しているだけなのに、低い声が甘く響いて、ジンって体の奥が痺れた。
「ひぇんなこというかりゃ」
ちゃんと返事をしたかったのに、舌が空回りしてしまう。
「カミカミになってるぞー。……今度の日曜こそ、海に行こうな」
「う、う、うん!」
「うん? ううん?」
「うん、です」
「良かった。大事な話があるんだ」
「だ、大事な、話……?」
「あぁ。俺の人生で一番大事な話だ…………なぁ、葉月」
「な、ななな何?」
「ほんっと、幸せだよ。ありがとう」
「――!?」
心の底からこみ上げているような深い響きに、なんだか涙が出てきた。
僕ばっかり幸せなんだと思ってた。
遼平さんも幸せって思ってくれてたんだ。こっちこそ夢みたいだ。
逞しい鎖骨に頬擦りする。遼平さんの体温で熱くなる頬が気持ちよかった。
38
お気に入りに追加
3,127
あなたにおすすめの小説
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる