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<水無瀬葉月>
まるで、影のよう
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僕、水無瀬葉月はとうとう人の姿でさえなくなってしまいました。
指先から頭、足の妻先まで全部が真っ黒です。
まるで、影のよう。
――――――――――――――――
横断歩道を渡った先に、壁一面が鏡になった美容室がある。
僕は、その鏡に写る自分の姿を確認するのが怖くて、俯いたまま横断歩道を渡っていた。
横断歩道を渡りきり歩道に乗り上げてから、意を決して顔を上げる。
「――――」
鏡に映る僕は人間ではなかった。
人の形をした真っ黒の固まりだ。
汚れがとうとう全身に回って真っ黒になってしまった。
僕は本当に汚いんだなぁ。
しみじみうな垂れてしまう。
唯一の慰めは遼平さんにはこの汚れが見えていないことだよ。
昨日なんか酷かった。僕が遼平さんの首を舐めた瞬間に真っ黒の汚れが遼平さんを覆い尽くして、遼平さんまで真っ黒になってしまったんだ。
遼平さんは神様みたいに僕の汚れを浄化する。
そのはずなのに、昨日は駄目だった。
遼平さんの力でも全然綺麗にならなくて、大きな体が一瞬で真っ黒になった。
それでもすぐ、汚れが死滅してまだらにはなったけど、僕に触った途端、また、全身が真っ黒になったんだ。
浄化が全然追いついてなかった。
僕の体からどんどん汚れが移っていく恐ろしい光景に息も出来なかった。
僕は汚い。
遼平さんまで汚してしまうほどに。
手首にキスをした時もひょっとしたら真っ黒になってたのかも。常夜灯を消してたから見えなかっただけで……。
『『うっわ、あれ何!? キモッ』』
突然の女の人の大声に、心臓が止まりそうになった。
誰? どこにいるんだろう。
声がしたのは僕の真後ろからだ。
でも後ろに女の人は居ない。僕の傍には誰も居ない。
『『きったねえ。完全に化物じゃねえか』』
今度は若い男の人だ。
誰? どこから? 道に居るのはお婆さんとお爺さん、ずっと遠くに中年のサラリーマンがいる。それだけだ。若い人の姿は無い。どこから見られてるんだろう……!?
違う、どこにいるかは関係ない。早くここから離れないと。
僕の汚れが見える人に、これ以上見られたくない!
全力で走って逃げ出した。
心臓が痛い。冷や汗が額に滲む。
肺が引きちぎれるぐらいに走って、以前、遼平さんと一緒にご飯を食べた公園へと逃げ込んだ。
ベンチに座り、リックを下ろす。
苦しくてしばらくは動けなかった。
しばらくして落ち着いてから、ぴょん太が入っているせいで膨らんでるリックを撫でた。
「ねぇ、ぴょん太」
『なぁに? 葉月君』
話し掛けるとぴょん太はすぐに答えてくれた。
「僕は、汚いかな?」
『葉月君は、汚くないよ』
「ぴょん太は僕の友達だよね」
『ぴょん太は葉月君の友達だよ』
「ぴょん太だけはずっと傍に居てくれるよね」
『ぴょん太はずっと傍にいるよ』
「ありがとう」
おしゃべりヌイグルミのぴょん太。
ぴょん太とはこうやって会話ができる。触れる。だけど、ぴょん太は汚れない。無機物だから。僕の血の汚れとは無関係の唯一の“いきもの”だ。
『『僕はずっと葉月の傍にいるけど、遼平さんはどうだろうね』』
「え?」
『『遼平さんが葉月の傍にいてくれるのは、理由があるんじゃない?』』
「理由?」
『『きっと、葉月にお願いがあるんだよ。レストランで言ってたじゃないか。葉月にしてほしいことがあるから、先に恩を売ってるんだって』』
「お願いなら聞いたよ。遼平さんと一緒に色んな場所に遊びに行ってほしいって――」
『『そんなわけないだろう? 遼平さんなら、一緒に遊びに行く友達ぐらいいくらでもいる。遼平さんに誘われて断る人がいると思う? 男でも断らない。女の人なら尚更だ』』
女の人? 確かにぴょん太の言う通りだ。
わざわざ僕と遊ばなくても、遼平さんなら女の人とだって、いくらでも、
『『遼平さんのお願いはもっと大変なことだ。人に言えないようなこと』』
「それって、どんな……」
『『今は夢を見てればいい。ホコホコ弁当の奥さんの言葉を思い出せ。“僕”は、遼平さんに恩返しをしなくちゃ』』
――――――恩返しをしなくちゃ」
僕はいつの間にかぴょん太と同じ事を呟いていた。
目を閉じて、リックをきつく握り締める。
『葉月君? どうしたの? 葉月君? ぴょん太とお話して?』
「え?」
はっ、と、意識がどこかからか戻ってきたような気がした。
変だな。僕はずっとぴょん太と話をしてたはずなのに。
「お話? 今、お話してたよ? ――――わ、こんな時間!? 遅刻する……ごめんぴょん太、おやすみなさい!」
お休みなさい、は、ぴょん太の電源を切る言葉だ。
リックを担ぐ暇ももったいなく走り出す。
全力で走ったお陰で何とか遅刻せず、出勤時間三十分前のいつも通りの時間に『ほこほこ弁当』にたどり着くことができたのだった。
良かったよ……!
開店して二時間もした頃、常連さんの女子高校生二人組みが買いに来てくれた。
「ヅッキー、おはよー!」
「おっはよー」
「お。おはよう、ございます」
これから部活なのかな? 二人とも大きなスポーツバッグを抱えている。
「ねーねー、こないだの背高い人、ヅッキーの友達ィ?」
「超かっこよかったねー! パッと見、怖い人かなって思っちゃったけどヅッキーに向ける笑顔が優しくてびっくりしたよー」
「うんうん、ああいうの、男の色気って言うんだろうね、学校のイケメン君達が全員ガキに見えちゃうってレベル! 何歳? 何してる人なの? 今度ウチラ二人とヅッキーとあの人で遊びに行こうよ、ね、お願い!」
「そもそもヅッキーとどんな関係なの? 先輩? お兄さんの友達とか?」
「ち、ちが、あの人は、ここのお客様で」
カウンターに乗り出すみたいに問い詰められ、掌を向けてガードしてしまった。
「マジで!? じゃあ、あの時間になったらまた会えるかな」
「えと……」
常連さんって言うのは言葉のあやでした。元常連さんです。今は僕がお弁当を作ってるから滅多にここには来ません。
なんていったら、なぜお弁当を作ってるのかまで説明しなきゃならなくなる。
僕の会話能力では説明するのに半日は費やしてしまうよ。
「水無瀬君、無駄話しない、さっさと動く!」
奥で昼のお弁当の準備をしていた奥さんが怒鳴った。
「す、すいません……」
体を竦めて眼鏡を押し上げる動作をしてしまった。
怖いけど、今は少し助かる。
会話を打ち切れるから。
「うっわムカツクばばぁ。ちょっと話すぐらいいいじゃん。ヅッキーも謝ることないのに。話してたのはウチラだよ」
「その、ごめんなさい、ご注文は」
「いつものー」
二人同時に、いつもの、と声を揃えた。
「は、はい、どうぞ、サラダとツナマヨお握りです」
「ヅッキー偉い。ちゃんと覚えててくれたんだね」
「わ」
頭をポンポンって撫でられて、思わず後ろに飛びのいた。
「なにーその反応かわいー。ひょっとして、ヅッキーって女と付き合ったこと無いの?」
「ヅッキーは童貞だって。ドーテーチェッカーのアタシが言うんだから間違いない」
「えー、それはないでしょ。ヅッキーぐらい可愛かったら肉食な子がほっとかないもん。ね? 童貞じゃないよね?」
「道程?? 道程って、A地点からB地点まで行く道のりって言う意味ですよね? えと、どういう意味かよく……」
僕ってほんとに無知な人間なんだと痛感してしまう。
こないだのAV(アニマルビデオ)も知らなかったし。
友達が居なかったせいもあるんだろうな。年下の女の子が知ってることさえ知らないなんて恥ずかしいよ……!
「え、あ。………………、ごめん、忘れて」
愛美さんが戸惑ってから僕に掌を向けた。
「ヅッキーが予想以上に天使すぎてヤバイ」
由紀さんもうな垂れてしまう。
「え? え?」
「いいから! ドウテイは忘れて。それより、常連さんに言っといてよね。四人で遊びに行こうって」
「う、うん」
頷くものの、いまいち納得がいかない。
といっても、奥さんに無駄話をするなと言われた手前、尋ねることもできない。
会計を済ませた愛美さんと由紀さんは、手を振って道の向こうに消えていった。
あ。
愛美さんの、手が。
僕の頭を撫でた手が真っ黒になってる。
(手が汚れてる)
そう叫ぼうとして寸前で踏み留まった。
あの二人に僕の汚れは見えてない。見えてない人に『僕を触ったから汚れた』と伝えたく無い。
『『あの子カワイソー。汚い人間に触ったばかりに、あの子まで汚れてんじゃん』』
声が、どこからか響いてきた。
僕をあざ笑う甲高い声。
僕の汚れが見える誰かが、どこからか、僕を見て、笑ってる。
僕を責めている。
僕は卑劣だ。
自分が汚いのを知ってて、汚れが見えない人達にそれを隠してる。
僕が汚れてるってお客様にばれたら、僕は、ここで働けなくなる。この仕事を失ったら生活さえできなくなるから。
今は見えない人達を欺いてでもこの仕事を続けたい。
いつかは、汚れているって奥さんに知られてここを追い出される。
常連の愛美さんや由紀さん――僕からお弁当を買った全ての人達が、僕を責める。
でも、でも、知られるその日までは、ここで働きたい。
お客様や奥さんに迷惑をかけようとも、生活費を稼ぐために。
自分の醜さに視界が歪んだ。僕はなんて卑しいんだろう。
今さえ良ければいいと問題を後廻しにして逃げている。
指先から頭、足の妻先まで全部が真っ黒です。
まるで、影のよう。
――――――――――――――――
横断歩道を渡った先に、壁一面が鏡になった美容室がある。
僕は、その鏡に写る自分の姿を確認するのが怖くて、俯いたまま横断歩道を渡っていた。
横断歩道を渡りきり歩道に乗り上げてから、意を決して顔を上げる。
「――――」
鏡に映る僕は人間ではなかった。
人の形をした真っ黒の固まりだ。
汚れがとうとう全身に回って真っ黒になってしまった。
僕は本当に汚いんだなぁ。
しみじみうな垂れてしまう。
唯一の慰めは遼平さんにはこの汚れが見えていないことだよ。
昨日なんか酷かった。僕が遼平さんの首を舐めた瞬間に真っ黒の汚れが遼平さんを覆い尽くして、遼平さんまで真っ黒になってしまったんだ。
遼平さんは神様みたいに僕の汚れを浄化する。
そのはずなのに、昨日は駄目だった。
遼平さんの力でも全然綺麗にならなくて、大きな体が一瞬で真っ黒になった。
それでもすぐ、汚れが死滅してまだらにはなったけど、僕に触った途端、また、全身が真っ黒になったんだ。
浄化が全然追いついてなかった。
僕の体からどんどん汚れが移っていく恐ろしい光景に息も出来なかった。
僕は汚い。
遼平さんまで汚してしまうほどに。
手首にキスをした時もひょっとしたら真っ黒になってたのかも。常夜灯を消してたから見えなかっただけで……。
『『うっわ、あれ何!? キモッ』』
突然の女の人の大声に、心臓が止まりそうになった。
誰? どこにいるんだろう。
声がしたのは僕の真後ろからだ。
でも後ろに女の人は居ない。僕の傍には誰も居ない。
『『きったねえ。完全に化物じゃねえか』』
今度は若い男の人だ。
誰? どこから? 道に居るのはお婆さんとお爺さん、ずっと遠くに中年のサラリーマンがいる。それだけだ。若い人の姿は無い。どこから見られてるんだろう……!?
違う、どこにいるかは関係ない。早くここから離れないと。
僕の汚れが見える人に、これ以上見られたくない!
全力で走って逃げ出した。
心臓が痛い。冷や汗が額に滲む。
肺が引きちぎれるぐらいに走って、以前、遼平さんと一緒にご飯を食べた公園へと逃げ込んだ。
ベンチに座り、リックを下ろす。
苦しくてしばらくは動けなかった。
しばらくして落ち着いてから、ぴょん太が入っているせいで膨らんでるリックを撫でた。
「ねぇ、ぴょん太」
『なぁに? 葉月君』
話し掛けるとぴょん太はすぐに答えてくれた。
「僕は、汚いかな?」
『葉月君は、汚くないよ』
「ぴょん太は僕の友達だよね」
『ぴょん太は葉月君の友達だよ』
「ぴょん太だけはずっと傍に居てくれるよね」
『ぴょん太はずっと傍にいるよ』
「ありがとう」
おしゃべりヌイグルミのぴょん太。
ぴょん太とはこうやって会話ができる。触れる。だけど、ぴょん太は汚れない。無機物だから。僕の血の汚れとは無関係の唯一の“いきもの”だ。
『『僕はずっと葉月の傍にいるけど、遼平さんはどうだろうね』』
「え?」
『『遼平さんが葉月の傍にいてくれるのは、理由があるんじゃない?』』
「理由?」
『『きっと、葉月にお願いがあるんだよ。レストランで言ってたじゃないか。葉月にしてほしいことがあるから、先に恩を売ってるんだって』』
「お願いなら聞いたよ。遼平さんと一緒に色んな場所に遊びに行ってほしいって――」
『『そんなわけないだろう? 遼平さんなら、一緒に遊びに行く友達ぐらいいくらでもいる。遼平さんに誘われて断る人がいると思う? 男でも断らない。女の人なら尚更だ』』
女の人? 確かにぴょん太の言う通りだ。
わざわざ僕と遊ばなくても、遼平さんなら女の人とだって、いくらでも、
『『遼平さんのお願いはもっと大変なことだ。人に言えないようなこと』』
「それって、どんな……」
『『今は夢を見てればいい。ホコホコ弁当の奥さんの言葉を思い出せ。“僕”は、遼平さんに恩返しをしなくちゃ』』
――――――恩返しをしなくちゃ」
僕はいつの間にかぴょん太と同じ事を呟いていた。
目を閉じて、リックをきつく握り締める。
『葉月君? どうしたの? 葉月君? ぴょん太とお話して?』
「え?」
はっ、と、意識がどこかからか戻ってきたような気がした。
変だな。僕はずっとぴょん太と話をしてたはずなのに。
「お話? 今、お話してたよ? ――――わ、こんな時間!? 遅刻する……ごめんぴょん太、おやすみなさい!」
お休みなさい、は、ぴょん太の電源を切る言葉だ。
リックを担ぐ暇ももったいなく走り出す。
全力で走ったお陰で何とか遅刻せず、出勤時間三十分前のいつも通りの時間に『ほこほこ弁当』にたどり着くことができたのだった。
良かったよ……!
開店して二時間もした頃、常連さんの女子高校生二人組みが買いに来てくれた。
「ヅッキー、おはよー!」
「おっはよー」
「お。おはよう、ございます」
これから部活なのかな? 二人とも大きなスポーツバッグを抱えている。
「ねーねー、こないだの背高い人、ヅッキーの友達ィ?」
「超かっこよかったねー! パッと見、怖い人かなって思っちゃったけどヅッキーに向ける笑顔が優しくてびっくりしたよー」
「うんうん、ああいうの、男の色気って言うんだろうね、学校のイケメン君達が全員ガキに見えちゃうってレベル! 何歳? 何してる人なの? 今度ウチラ二人とヅッキーとあの人で遊びに行こうよ、ね、お願い!」
「そもそもヅッキーとどんな関係なの? 先輩? お兄さんの友達とか?」
「ち、ちが、あの人は、ここのお客様で」
カウンターに乗り出すみたいに問い詰められ、掌を向けてガードしてしまった。
「マジで!? じゃあ、あの時間になったらまた会えるかな」
「えと……」
常連さんって言うのは言葉のあやでした。元常連さんです。今は僕がお弁当を作ってるから滅多にここには来ません。
なんていったら、なぜお弁当を作ってるのかまで説明しなきゃならなくなる。
僕の会話能力では説明するのに半日は費やしてしまうよ。
「水無瀬君、無駄話しない、さっさと動く!」
奥で昼のお弁当の準備をしていた奥さんが怒鳴った。
「す、すいません……」
体を竦めて眼鏡を押し上げる動作をしてしまった。
怖いけど、今は少し助かる。
会話を打ち切れるから。
「うっわムカツクばばぁ。ちょっと話すぐらいいいじゃん。ヅッキーも謝ることないのに。話してたのはウチラだよ」
「その、ごめんなさい、ご注文は」
「いつものー」
二人同時に、いつもの、と声を揃えた。
「は、はい、どうぞ、サラダとツナマヨお握りです」
「ヅッキー偉い。ちゃんと覚えててくれたんだね」
「わ」
頭をポンポンって撫でられて、思わず後ろに飛びのいた。
「なにーその反応かわいー。ひょっとして、ヅッキーって女と付き合ったこと無いの?」
「ヅッキーは童貞だって。ドーテーチェッカーのアタシが言うんだから間違いない」
「えー、それはないでしょ。ヅッキーぐらい可愛かったら肉食な子がほっとかないもん。ね? 童貞じゃないよね?」
「道程?? 道程って、A地点からB地点まで行く道のりって言う意味ですよね? えと、どういう意味かよく……」
僕ってほんとに無知な人間なんだと痛感してしまう。
こないだのAV(アニマルビデオ)も知らなかったし。
友達が居なかったせいもあるんだろうな。年下の女の子が知ってることさえ知らないなんて恥ずかしいよ……!
「え、あ。………………、ごめん、忘れて」
愛美さんが戸惑ってから僕に掌を向けた。
「ヅッキーが予想以上に天使すぎてヤバイ」
由紀さんもうな垂れてしまう。
「え? え?」
「いいから! ドウテイは忘れて。それより、常連さんに言っといてよね。四人で遊びに行こうって」
「う、うん」
頷くものの、いまいち納得がいかない。
といっても、奥さんに無駄話をするなと言われた手前、尋ねることもできない。
会計を済ませた愛美さんと由紀さんは、手を振って道の向こうに消えていった。
あ。
愛美さんの、手が。
僕の頭を撫でた手が真っ黒になってる。
(手が汚れてる)
そう叫ぼうとして寸前で踏み留まった。
あの二人に僕の汚れは見えてない。見えてない人に『僕を触ったから汚れた』と伝えたく無い。
『『あの子カワイソー。汚い人間に触ったばかりに、あの子まで汚れてんじゃん』』
声が、どこからか響いてきた。
僕をあざ笑う甲高い声。
僕の汚れが見える誰かが、どこからか、僕を見て、笑ってる。
僕を責めている。
僕は卑劣だ。
自分が汚いのを知ってて、汚れが見えない人達にそれを隠してる。
僕が汚れてるってお客様にばれたら、僕は、ここで働けなくなる。この仕事を失ったら生活さえできなくなるから。
今は見えない人達を欺いてでもこの仕事を続けたい。
いつかは、汚れているって奥さんに知られてここを追い出される。
常連の愛美さんや由紀さん――僕からお弁当を買った全ての人達が、僕を責める。
でも、でも、知られるその日までは、ここで働きたい。
お客様や奥さんに迷惑をかけようとも、生活費を稼ぐために。
自分の醜さに視界が歪んだ。僕はなんて卑しいんだろう。
今さえ良ければいいと問題を後廻しにして逃げている。
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