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【陸王遼平】
振られたらどうしよう
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「いい心意気です。正直、あなたが本当に手を出してないことには驚きました」
「あ、テメェ!」
ぬっと現れた二本松がタコさんウインナーを持って行きやがった。
「そのまま、葉月君には優しく接してあげてください。でなければ、お前の汚い息子を錆びたノコギリで縦に二つに切ってやる」
「想像だけで痛ェっつってんだろうが!」
「まっちゃん、マジどS!」
「その呼び名は辞めろと何回言ってるといい加減にしろこの世の邪悪め」
懲りもせずにまっちゃんと呼んだ静が、また二本松にぼこられる。
横取りされないようさっさと食い尽くし蓋を閉じた。
「お付き合いを始めるにはまず告白からだな……。どんなシチュエーションがいいと思う?」
「そんな寒い議題で語りたくねえよ……。この歳で告白のシチュエーションってお前」
「一周回って気持ち悪いですね」
「ほんとお前ら役に立たねーな。俺は葉月を人生で最後の恋人にするつもりなんだよ。告白するのもこれが人生で最後になるんだからこだわるのが当然だろ。日曜に海に行くから浜辺のホテルで告白ってのもいいかもなぁ……」
すっげー夢が広がるな。
葉月の思い出にも残れるような告白にしたい。
「なんか振られる可能性のこと考えてなくねえ? 飯が美味くて気立てがいい、しかもあれだけの美人さんなんだから女だって選び放題だろ。駄目だった場合の覚悟もしといたがいいぜ。お前、中身は普通だけど顔はロシアンマフィアとタメ張れるほど人相悪ィし」
「そもそも男同士ですからね……。葉月君が貴方を恋愛対象にしているかどうかもわかりません。余りこだわりすぎると上手く行かなかった時のショックも大きくなりますよ」
手にしていた箸箱が弁当箱の上に落ちて、ガシャン……と音を立てた。開いた足の上に膝をつき、うな垂れる。
軽口を叩いていた二本松と静も闇が落ちたかのように沈黙した。
「………………………………」
「おい遼平。ガチ凹みするな。オレらが気まずいでしょ。振られたら酒を奢ってやるから元気出して玉砕してこい」
「すいません、無神経でしたね。振られたら河豚会席を奢りますから許してください」
「なんで慰めるの前提なんだよ……ッ!!」
ダン、とテーブルを殴りつけたものの、体から力が抜けてまたうな垂れてしまった。
「もし……月曜に俺が死人のような顔をしていたら……葉月の話題には触れないでくれ。少なくとも三ヶ月はそっとしておいてくれ……」
「お、おう……」
「せ、成功をお祈りします」
振られたりしないよな? ちゃんと恋人になれるよな?
葉月は遊園地で楽しそうにしてくれた。手を繋いで夜道も歩いたし、キスもした。泣かれはしたが嫌じゃないと言ってくれ……すでに、両想いな気分でいたぞ。
正式に恋人になる前のお互い好きだってわかってる状態のつもりでいた。
俺が首を舐めても緊張はしていたが嫌悪してはいなかった。
ちゃんと興奮してた。いや、でも、体を触られたら嫌な場合でも興奮するって可能性があるじゃねえか。葉月の年齢だとまだやりたい盛りだ。
やべえ。自信が無くなってきた。忘れそうになるけどそもそも男同士なんだよな。
俺がもし静や二本松に告られたらどう思う? どうもこうもないよな。まずぶん殴ります。続いて人一人埋められる程度の穴を掘ります。だ。
葉月も同じ行動に出るかもしれない。
あの細腕で殴られても痛くも痒くもないだろうけど……。
「ぐおおお……」
「おい、グリズリーが熊っぽい唸り声を上げてるぞ」
「グリズリーは熊であり熊は遼平さんですから問題はありませんよ」
「なに今の禅問答みたいなの」
後日聞いた話だが、二本松と静の野郎は『俺が本当に葉月に告白するかどうか』でまた賭けをしようとしたらしい。
そして、二人ともが『告白できない』に賭けようとして賭けが成立しなかったそうだ。
この日の仕事は深夜十二時までかかった。
疲れた体を引き摺りつつ、半ば無意識で葉月のアパートに向かってしまった。
いくらなんでももう寝てるだろうな。
ドアをノックして反応が無かったら帰ろう。
俺より早起きして朝飯と弁当を作ってくれる葉月を起こしたくはない。
階段にさしかかった瞬間に。
「いらっしゃい、遼平さん」
葉月が迎えてくれた……!
なんかもう感動しつつ、でも、口を開いていた。
「……いらっしゃいじゃなくて、お帰りって言ってもらえると嬉しい」
葉月はきょとんとし、すぐに輝かんばかりの笑顔になった。
「お帰りなさい。遼平さん……」
瀕死状態まで減っていた俺のHPゲージが一気に回復する。
例え二十四時間労働をしようとも葉月が居てくれるってだけで、俺は世界で一番幸せな男だ!
「ご飯あるよー。食べる?」
「まじでか。お願いですから食わせてください」
「はい」
葉月の頭を撫でながら、明るい光が漏れる部屋に入ったのだった。
もういくつ寝ると葉月と海。そして告白……!!
葉月が俺の告白を受けてくれる可能性は100%では無い。
それは判ってはいたが日曜日を心待ちにしていた。
「土日に仕事が入りました」
ホテルに予約を取ろうとしていたまさにその寸前に――俺の補佐である二本松に無情に通達された。
「嘘だろ」
「本当です」
「マジで?」
「マジです」
「そこをなんとか」
「なんともなりません。大変お気の毒ですが、葉月君との約束はキャンセルですね」
なんてことだ。
葉月の予言が当たってしまった。『火、水、木、金、金、金、金、金』だ……!!!
休日出勤なんて滅多にないが、以前だったら出勤になろうと全然平気だったのに……。
楽しみにしていた葉月とのお出かけが潰れたショックに机に倒れ伏してしまったのだった。
「ごめんな葉月。埋め合わせは絶対にするから……!」
アパートに帰るやいなや、葉月に頭を下げる。
「そんなのどうでもいいよ。海なんか、いけなくても」
あれ? 海に行けないのを喜んでないか? なんか妙に安心してるみたいな……。
まさかな。
海に行きたいって行ったのは葉月だ。
安心するわけ無い。気を使ってるだけだろうな。
「それより遼平さんの体が心配だよ。せっかくの休みなのに出勤になっちゃうなんて……」
「葉月……」
約束を俺の都合で一方的にキャンセルしたのに体を気遣ってくれるとは……。
ほんと良い子だなぁ。
ビー。
古めかしいインターフォンが鳴った。
「こんな時間に誰だ? 誰かと約束でもしてたのか?」
ただいまの時刻は二十二時。
来客にしては遅すぎる。
「あ、テメェ!」
ぬっと現れた二本松がタコさんウインナーを持って行きやがった。
「そのまま、葉月君には優しく接してあげてください。でなければ、お前の汚い息子を錆びたノコギリで縦に二つに切ってやる」
「想像だけで痛ェっつってんだろうが!」
「まっちゃん、マジどS!」
「その呼び名は辞めろと何回言ってるといい加減にしろこの世の邪悪め」
懲りもせずにまっちゃんと呼んだ静が、また二本松にぼこられる。
横取りされないようさっさと食い尽くし蓋を閉じた。
「お付き合いを始めるにはまず告白からだな……。どんなシチュエーションがいいと思う?」
「そんな寒い議題で語りたくねえよ……。この歳で告白のシチュエーションってお前」
「一周回って気持ち悪いですね」
「ほんとお前ら役に立たねーな。俺は葉月を人生で最後の恋人にするつもりなんだよ。告白するのもこれが人生で最後になるんだからこだわるのが当然だろ。日曜に海に行くから浜辺のホテルで告白ってのもいいかもなぁ……」
すっげー夢が広がるな。
葉月の思い出にも残れるような告白にしたい。
「なんか振られる可能性のこと考えてなくねえ? 飯が美味くて気立てがいい、しかもあれだけの美人さんなんだから女だって選び放題だろ。駄目だった場合の覚悟もしといたがいいぜ。お前、中身は普通だけど顔はロシアンマフィアとタメ張れるほど人相悪ィし」
「そもそも男同士ですからね……。葉月君が貴方を恋愛対象にしているかどうかもわかりません。余りこだわりすぎると上手く行かなかった時のショックも大きくなりますよ」
手にしていた箸箱が弁当箱の上に落ちて、ガシャン……と音を立てた。開いた足の上に膝をつき、うな垂れる。
軽口を叩いていた二本松と静も闇が落ちたかのように沈黙した。
「………………………………」
「おい遼平。ガチ凹みするな。オレらが気まずいでしょ。振られたら酒を奢ってやるから元気出して玉砕してこい」
「すいません、無神経でしたね。振られたら河豚会席を奢りますから許してください」
「なんで慰めるの前提なんだよ……ッ!!」
ダン、とテーブルを殴りつけたものの、体から力が抜けてまたうな垂れてしまった。
「もし……月曜に俺が死人のような顔をしていたら……葉月の話題には触れないでくれ。少なくとも三ヶ月はそっとしておいてくれ……」
「お、おう……」
「せ、成功をお祈りします」
振られたりしないよな? ちゃんと恋人になれるよな?
葉月は遊園地で楽しそうにしてくれた。手を繋いで夜道も歩いたし、キスもした。泣かれはしたが嫌じゃないと言ってくれ……すでに、両想いな気分でいたぞ。
正式に恋人になる前のお互い好きだってわかってる状態のつもりでいた。
俺が首を舐めても緊張はしていたが嫌悪してはいなかった。
ちゃんと興奮してた。いや、でも、体を触られたら嫌な場合でも興奮するって可能性があるじゃねえか。葉月の年齢だとまだやりたい盛りだ。
やべえ。自信が無くなってきた。忘れそうになるけどそもそも男同士なんだよな。
俺がもし静や二本松に告られたらどう思う? どうもこうもないよな。まずぶん殴ります。続いて人一人埋められる程度の穴を掘ります。だ。
葉月も同じ行動に出るかもしれない。
あの細腕で殴られても痛くも痒くもないだろうけど……。
「ぐおおお……」
「おい、グリズリーが熊っぽい唸り声を上げてるぞ」
「グリズリーは熊であり熊は遼平さんですから問題はありませんよ」
「なに今の禅問答みたいなの」
後日聞いた話だが、二本松と静の野郎は『俺が本当に葉月に告白するかどうか』でまた賭けをしようとしたらしい。
そして、二人ともが『告白できない』に賭けようとして賭けが成立しなかったそうだ。
この日の仕事は深夜十二時までかかった。
疲れた体を引き摺りつつ、半ば無意識で葉月のアパートに向かってしまった。
いくらなんでももう寝てるだろうな。
ドアをノックして反応が無かったら帰ろう。
俺より早起きして朝飯と弁当を作ってくれる葉月を起こしたくはない。
階段にさしかかった瞬間に。
「いらっしゃい、遼平さん」
葉月が迎えてくれた……!
なんかもう感動しつつ、でも、口を開いていた。
「……いらっしゃいじゃなくて、お帰りって言ってもらえると嬉しい」
葉月はきょとんとし、すぐに輝かんばかりの笑顔になった。
「お帰りなさい。遼平さん……」
瀕死状態まで減っていた俺のHPゲージが一気に回復する。
例え二十四時間労働をしようとも葉月が居てくれるってだけで、俺は世界で一番幸せな男だ!
「ご飯あるよー。食べる?」
「まじでか。お願いですから食わせてください」
「はい」
葉月の頭を撫でながら、明るい光が漏れる部屋に入ったのだった。
もういくつ寝ると葉月と海。そして告白……!!
葉月が俺の告白を受けてくれる可能性は100%では無い。
それは判ってはいたが日曜日を心待ちにしていた。
「土日に仕事が入りました」
ホテルに予約を取ろうとしていたまさにその寸前に――俺の補佐である二本松に無情に通達された。
「嘘だろ」
「本当です」
「マジで?」
「マジです」
「そこをなんとか」
「なんともなりません。大変お気の毒ですが、葉月君との約束はキャンセルですね」
なんてことだ。
葉月の予言が当たってしまった。『火、水、木、金、金、金、金、金』だ……!!!
休日出勤なんて滅多にないが、以前だったら出勤になろうと全然平気だったのに……。
楽しみにしていた葉月とのお出かけが潰れたショックに机に倒れ伏してしまったのだった。
「ごめんな葉月。埋め合わせは絶対にするから……!」
アパートに帰るやいなや、葉月に頭を下げる。
「そんなのどうでもいいよ。海なんか、いけなくても」
あれ? 海に行けないのを喜んでないか? なんか妙に安心してるみたいな……。
まさかな。
海に行きたいって行ったのは葉月だ。
安心するわけ無い。気を使ってるだけだろうな。
「それより遼平さんの体が心配だよ。せっかくの休みなのに出勤になっちゃうなんて……」
「葉月……」
約束を俺の都合で一方的にキャンセルしたのに体を気遣ってくれるとは……。
ほんと良い子だなぁ。
ビー。
古めかしいインターフォンが鳴った。
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来客にしては遅すぎる。
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