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<四人で、食事を>
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「部門長、杏仁豆腐も注文してもいいですか!?」
部門長が百瀬さんを手に入れられたのは、オレのお陰だといっても過言ではないはずだ。
調子に乗ってデザートまでお願いしていまう。
「どうぞ。了承を取らずに好きに頼んでいいんですよ」
「やった、ありがとうございます!」
肉も、デザートもたっぷり食べ、酔いにふわふわする幸せな足取りで店を出たのだった。
――――会計は恐ろしい金額でした。
「ごちそう様でした部門長! すっごく美味しかったです」
会計を済ませた部門長にアホのような顔でお礼をいってしまった。
しまった。オレ、部門長に怒ってたのに。慌ててギッ!と怒った顔を作る。が、部門長は肩を揺らして笑ってオレの頭に掌を乗せた。
「凜君も百瀬と同じで食べさせがいがありますね。また連れてきてあげますよ」
「え!? ほんとですか!? すごい……オレめちゃくちゃ高いのばっかり食べたのに」
研究所の人って給料どれぐらいでてるんだろう。少なくともオレだったら、オレみたいな注文する後輩なんて二度と食事に連れていけないよ。破産するから。
「もうこんな時間……。八雲さん、今日はホテルに泊まりましょう。凜君と叶さんも良かったら一緒に」
「そうだな……」
叶さんが頷いた。オレも大賛成だ。百瀬さんともう少し一緒に居たかったからホテルに泊まれるのは嬉しい。
酔いに少しだけ頬を赤らめさせている百瀬さんにくっついていく。
いつかみたいに先輩達に会うこともなくホテルへたどり着いた。
「部門長、あの部屋がいいです」
「わかりました」
フロントで手続きをしたのは百瀬さんと部門長だ。
あの部屋ってなんだろ?
特に希望は聞かれなかったし、慣れた二人にお任せってことでオレと叶さんは待っていた。
案内された部屋は、ホテルなのにゲストルーム付きという贅沢千番なスイートルームだった。
たっぷりと広いリビングがあって、右にあるのが主寝室、左側がゲストルームだ。
オレは無駄にはしゃぎ回ってしまった。
「うわー広いっすよー! お風呂でっかいー! え!? こっちもお風呂? すっげーバスルーム二つもある!」
これなら下っ端のオレが先に入っても失礼じゃないよね?
「叶さん、部門長、先にお風呂に入っちゃってもいいですか?」
「あぁ」
「構いませんよ。ごゆっくりどうぞ」
やった!
「百瀬さん、一緒に入りましょ」
「あ……――うん」
ジャケットとネクタイだけ先に取って、百瀬さんの手を引いてバスルームに入る。
お互い洗いっこしたり湯船の中でぎゅぎゅうにくっついたりして、旅行中の、ただただ純粋に幸せだった思い出が蘇ってきた。
「ごめんね、凜君、この傷……」
百瀬さんがオレのわき腹の傷をそっと撫でた。
「あの時は本当にどうかしてたよ。傷を抉るような真似して……」
血を舐めた時の話だろう。
「構いません。逆だったら、オレだって百瀬さんの血が欲しくなっただろうし」
体が温まってきたからかな? 酔いが益々回ってきた気がする。
広い湯船の中に並んで座る。
指先同士がお湯の中で触れ合った。
そっと絡ませて、お祈りするみたいな形で手を繋ぐ。
叶さんを思う、心の底から湧きあがるような飢えに似た愛情とは違う――けど、百瀬さんのこと、好きだ。
本当に、好きだ。
あぁ、気持ちいいなぁ。
手触りのいい肩に頬ずりする。
百瀬さんも、オレの頭に頭をくっ付けてきた。
殆ど同時にお風呂から上がってバスローブに着替える。
「これ、あげるよ」
百瀬さんが鞄から取り出したのは、キティちゃんのボクサーパンツだった。
……なんでキティちゃん?
「好きなんですか? キティちゃん」
「部の女性からプレゼントされたんだ。これも」
続いて出てきたのはディズニーキャラのボクサーパンツだ。
「どうして……ぱんつなんか」
「出張が控えてたからかなぁ……。履いてるところを見せて欲しいって言われて、逃げるのが大変だったんだよ。部門長が助けてくれて事なきを得たんだけど」
「よ、よかったですね」
げに恐ろしきは女性社員。
「叶さんー」
身支度を整えて髪まで乾かしてから、ソファに座ってた叶さんに後ろから抱きついて行く。
「凄くいい匂いでしょう?」
「あぁ」
備え付けのシャンプーが物凄いいい匂いだったんだよなー。
「そだ、オレ、可愛くなりました?」
三田先輩にやったみたいに、体をくねらせて口元に拳を当てる。
「お前は元々可愛いが……何かあったのか?」
「三田先輩に言われたんです。可愛くなったって」
「そうか。三田さんか」
「三田さんに?」
「総務の三田さんにですか……」
なぜか叶さんだけじゃなく、百瀬さんと部門長まで鸚鵡返しにしてきた。
「可愛いって言われただけか? 何もされてないだろうな?」
「『今日は部屋にこい。可愛がってやるぜ!』って言われました。冗談ですけど」
三田先輩の行動を思い出して、腰に手を回す仕草をしつつ笑った。
「そうか……」
叶さんが顔を伏せ、
「ふーん」
と百瀬さんが何かを考えながら笑う。
「三田さんは面白い方ですね……」
部門長まで唇の端を吊り上げた。その笑顔は百瀬さんを道ずれに死のうとした時、オレに向けてきた快楽殺人者のような感情のない笑顔で背筋が寒くなってしまった。
だけど、すぐにその表情は消えて。
「喉が乾いたでしょう。二人とも、こちらに」
「わ! ありがとうございます!」
部門長がグラスにビールを注いでくれた。いそいそと叶さんの隣に座って、グラスを手に取る。
わぁ。グラスまでキンキンに冷えてる。
部門長が百瀬さんを手に入れられたのは、オレのお陰だといっても過言ではないはずだ。
調子に乗ってデザートまでお願いしていまう。
「どうぞ。了承を取らずに好きに頼んでいいんですよ」
「やった、ありがとうございます!」
肉も、デザートもたっぷり食べ、酔いにふわふわする幸せな足取りで店を出たのだった。
――――会計は恐ろしい金額でした。
「ごちそう様でした部門長! すっごく美味しかったです」
会計を済ませた部門長にアホのような顔でお礼をいってしまった。
しまった。オレ、部門長に怒ってたのに。慌ててギッ!と怒った顔を作る。が、部門長は肩を揺らして笑ってオレの頭に掌を乗せた。
「凜君も百瀬と同じで食べさせがいがありますね。また連れてきてあげますよ」
「え!? ほんとですか!? すごい……オレめちゃくちゃ高いのばっかり食べたのに」
研究所の人って給料どれぐらいでてるんだろう。少なくともオレだったら、オレみたいな注文する後輩なんて二度と食事に連れていけないよ。破産するから。
「もうこんな時間……。八雲さん、今日はホテルに泊まりましょう。凜君と叶さんも良かったら一緒に」
「そうだな……」
叶さんが頷いた。オレも大賛成だ。百瀬さんともう少し一緒に居たかったからホテルに泊まれるのは嬉しい。
酔いに少しだけ頬を赤らめさせている百瀬さんにくっついていく。
いつかみたいに先輩達に会うこともなくホテルへたどり着いた。
「部門長、あの部屋がいいです」
「わかりました」
フロントで手続きをしたのは百瀬さんと部門長だ。
あの部屋ってなんだろ?
特に希望は聞かれなかったし、慣れた二人にお任せってことでオレと叶さんは待っていた。
案内された部屋は、ホテルなのにゲストルーム付きという贅沢千番なスイートルームだった。
たっぷりと広いリビングがあって、右にあるのが主寝室、左側がゲストルームだ。
オレは無駄にはしゃぎ回ってしまった。
「うわー広いっすよー! お風呂でっかいー! え!? こっちもお風呂? すっげーバスルーム二つもある!」
これなら下っ端のオレが先に入っても失礼じゃないよね?
「叶さん、部門長、先にお風呂に入っちゃってもいいですか?」
「あぁ」
「構いませんよ。ごゆっくりどうぞ」
やった!
「百瀬さん、一緒に入りましょ」
「あ……――うん」
ジャケットとネクタイだけ先に取って、百瀬さんの手を引いてバスルームに入る。
お互い洗いっこしたり湯船の中でぎゅぎゅうにくっついたりして、旅行中の、ただただ純粋に幸せだった思い出が蘇ってきた。
「ごめんね、凜君、この傷……」
百瀬さんがオレのわき腹の傷をそっと撫でた。
「あの時は本当にどうかしてたよ。傷を抉るような真似して……」
血を舐めた時の話だろう。
「構いません。逆だったら、オレだって百瀬さんの血が欲しくなっただろうし」
体が温まってきたからかな? 酔いが益々回ってきた気がする。
広い湯船の中に並んで座る。
指先同士がお湯の中で触れ合った。
そっと絡ませて、お祈りするみたいな形で手を繋ぐ。
叶さんを思う、心の底から湧きあがるような飢えに似た愛情とは違う――けど、百瀬さんのこと、好きだ。
本当に、好きだ。
あぁ、気持ちいいなぁ。
手触りのいい肩に頬ずりする。
百瀬さんも、オレの頭に頭をくっ付けてきた。
殆ど同時にお風呂から上がってバスローブに着替える。
「これ、あげるよ」
百瀬さんが鞄から取り出したのは、キティちゃんのボクサーパンツだった。
……なんでキティちゃん?
「好きなんですか? キティちゃん」
「部の女性からプレゼントされたんだ。これも」
続いて出てきたのはディズニーキャラのボクサーパンツだ。
「どうして……ぱんつなんか」
「出張が控えてたからかなぁ……。履いてるところを見せて欲しいって言われて、逃げるのが大変だったんだよ。部門長が助けてくれて事なきを得たんだけど」
「よ、よかったですね」
げに恐ろしきは女性社員。
「叶さんー」
身支度を整えて髪まで乾かしてから、ソファに座ってた叶さんに後ろから抱きついて行く。
「凄くいい匂いでしょう?」
「あぁ」
備え付けのシャンプーが物凄いいい匂いだったんだよなー。
「そだ、オレ、可愛くなりました?」
三田先輩にやったみたいに、体をくねらせて口元に拳を当てる。
「お前は元々可愛いが……何かあったのか?」
「三田先輩に言われたんです。可愛くなったって」
「そうか。三田さんか」
「三田さんに?」
「総務の三田さんにですか……」
なぜか叶さんだけじゃなく、百瀬さんと部門長まで鸚鵡返しにしてきた。
「可愛いって言われただけか? 何もされてないだろうな?」
「『今日は部屋にこい。可愛がってやるぜ!』って言われました。冗談ですけど」
三田先輩の行動を思い出して、腰に手を回す仕草をしつつ笑った。
「そうか……」
叶さんが顔を伏せ、
「ふーん」
と百瀬さんが何かを考えながら笑う。
「三田さんは面白い方ですね……」
部門長まで唇の端を吊り上げた。その笑顔は百瀬さんを道ずれに死のうとした時、オレに向けてきた快楽殺人者のような感情のない笑顔で背筋が寒くなってしまった。
だけど、すぐにその表情は消えて。
「喉が乾いたでしょう。二人とも、こちらに」
「わ! ありがとうございます!」
部門長がグラスにビールを注いでくれた。いそいそと叶さんの隣に座って、グラスを手に取る。
わぁ。グラスまでキンキンに冷えてる。
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