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<抑制剤がきかない>
2☆(微)
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ポケットから錠剤のシートを取り出して突きつける。
「えー、つまんねーなぁ」
三田先輩が本当に退屈そうに言った。
「結婚してる人に惹かれちゃうなんてオレにとっては一大時(いちだいじ)だったんですよ。申し訳無くて死んでお詫びしたいぐらいなんです。お願いですから余り広めないでください。北村先輩も、皆の前で言うなんてひどいです」
「いいじゃねーかよこんぐらい。好きな子を知られるのが恥ずかしい年頃でも無いんだしさ。赤い糸プロジェクトの内容は今一番旬な話題なんだ。治験したなら話題を提供しろ新人君。うちは社内恋愛にも寛容なんだからなー」
「この歳でも好きな人を知られるの超恥ずかしいですもん」
「小学生かよ」
笑いが起こる。オレは拗ねたまま――拗ねた振りをしたまま――金庫から資料室の鍵を取り出した。
総務部を出て、エレベーターで資料室の階へと移動する。
資料室があるフロアは無人だった。
エレベーターが閉まると同時に、堰を切ったように涙が溢れた。
怒りなのか悲しみなのかさえ良く判らないまま感情が爆発する。壁に横向きにもたれ掛かり、腕ごと叩き付けるみたいに壁を殴り付ける。
山城さんや北村先輩に対する怒りももちろんあるけど、それ以上に、叶さんに惹かれた自分への怒りが大きい。
叶さんを裏切った悲しみもあって何が何だかわからない。
違うんです。オレは人の幸せを邪魔したりしません。好きになったりしません。
薬のせいなんです。効き目が切れれば終わるから、時間をください。
運が悪ければ一ヶ月以上もかかるけど、薬の効き目はいつか必ず切れます。
ここに居ない叶さんに懺悔を繰り返す。
(だけど)
一度、既婚者に惹かれてしまったオレを叶さんが傍に置いてくれるだろうか?
ざっと体中から血の気が引いた。足元にいきなり穴が開いて吸い込まれたかのようだった。
叶さんは愛華さんを大事にしている。
愛華さんが不安になるようなことは絶対にしない。
出張の時も毎晩電話してるし朝帰りだって絶対にしないと、愛華さんが自慢してた。この前の飲み会の時も、叶さんは途中で席を立った。愛華さんに連絡を入れにいったんだろう。
そんな人が、オレを傍に置いてくれるかな?
(――――無理、だ)
叶さんみたいに妻を大事にしている人が、不倫したがるような人間を傍に置いてくれるはずない。
しかもオレは男だ。気持ち悪がられるに決まってる。
このままじゃ叶さんに避けられる。
話も出来なくなる――――。
こんなのない。
治験なんて受けなければよかった。
こんな薬さえ無かったら、何も気が付かずに済んだのに……!
「遅かったじゃねぇか」
誰も居ないと思っていたのに、後ろから声をかけられた。
泣き顔を上げたくなかったから俯いたままゆっくりと振り返る。
振り返らなくても声で誰だかは判っていた。赤坂先輩だった。
「せんぱい、何か用ですか?」
ハンカチを出す手間も煩わしくてスーツの袖で涙を拭う。
「ベソベソ泣きやがって。そんなにショックだったのかぁ? 既婚者に惚れてるって知られたのが」
「……あなたには、関係無いです」
馬鹿にする笑いを含んだ言い方に、愛想良く振舞うことが出来なかった。声は情けなく震えてしまったけど吐き捨てて資料室へと足先を向けた。
赤坂先輩は大きなゴミ袋を手にしていた。
「どうせ、こいつなんだろ?」
袋から取り出した何かを、バサッと、オレの頭に被せてくる。
「ひっ――――!!?」
甘い香りが脳を焼いて一気に体から力が抜けた。
横によろけて壁にぶつかる。
これ、叶さんのジャケット!?
どうして!? 赤坂さんが叶さんのジャケットを!?
「ひゃぅ……、ひぃ、ひっ!」
一気に体に火が付く。性器に血が集まり奥が濡れて息が上がる。全身の性感帯が悲鳴を上げる。
振り払おうとジタバタと暴れた。
「おっと」
「やぁ……!?」
ジャケットを頭からかけたまま、拘束するようにきつく抱き締めてくる。
放せ、放せええ!
叫ぼうと口を開いた。
でも、叫ぶためには一旦、息を吸わなくちゃ駄目で。
叶さんの香りが鼻からも口からも入って来て肺が一杯になる。
香りが体内に取り込まれ、どくんっと心臓が跳ね上がった。
「あぁあ……いや、あ、あぅ……!」
オレを拘束しているのはオレが嫌いな赤坂先輩だ。
判ってるはずなのに、拘束されて密着した体が熱くなる。体中を撫で回して欲しくなる。
「へぇ? 山城の言う通り、マジで発情すんだな。ガキみたいな面してるくせ色っぽい声出しやがって」
赤坂先輩がオレのポケットから資料室の鍵を取る。
半ば抱えられるように引っ張られ、資料室のドアを開くと当時に突き飛ばされてそのまま床に倒れ込んだ。
あちこち打ち付けて痛いのに、痛みが全部快感に変換されて身悶えてしまった。
オレの体、もう滅茶苦茶だ。
体に力が入らない。足が立たない。
叶さんのジャケットが顔に被さったままだ。
ジャケット、振り払わないと、このままじゃおかしくなる。
腕が、動かない。
はぁ、はぁ、はぁ。
興奮し過ぎて息が苦しい。
吸いたくないのに上がった呼吸でどんどん叶さんの香りを取り込んでしまう。
顔が真っ赤になり目には涙が浮いた。口の端に唾液が溜まりゆっくりと流れ落ちていく。
胸が、性器が、後ろが、足が、腕が、どこもかしこもが痺れて動けない。ジャケットを振り払うだけの行動も取れない。
どうして? よくせいざい、飲んだのに……!
膝に赤坂先輩の掌が触れ、内股をゆっくりと登って来る。
「ひいぃ……」
強烈な刺激に性器が張り詰めた。
「やらぁ……! んあ、あ、やあ」
舌が回らない、言葉が上手く出せない。全部喘ぎ声になる。
「俺が突っ込んでやろうか? あ?」
「――――!!!!」
赤坂先輩のことは嫌いだ。
でも、思ってしまった。
あぁもう、それもいいかもしれないって。
叶さんに避けられるよりはって。
赤坂先輩とそういう関係になってしまえば、万が一叶さんに、『オレが惹かれているのは叶さんだ』とばれても、付き合ってる人がいるんですと言える。
付き合ってる人が別にいれば、きっと、叶さんは許してくれる。
『付き合ってる奴がいるのに既婚者に惹かれるなんて面倒な薬なんだな』って判ってくれる。
それに、何より、
(赤坂先輩は、独身だ)
「叶とやってるとでも思っとけよ」
手がオレのスーツにかかる。
スーツのボタンはあっという間に外されて、今度はシャツのボタン。
一つ、二つ、外されていく。
オレ、こんな暗くて埃っぽい資料室なんかでしちゃうんだ。
こんな場所で、好きでも無い人と。
これがオレのはじめてになっちゃうんだ。
体が動かない、あつい。
先輩の手がベルトにかかる。
ベルトが外され、ボタンが外されていく。
「えー、つまんねーなぁ」
三田先輩が本当に退屈そうに言った。
「結婚してる人に惹かれちゃうなんてオレにとっては一大時(いちだいじ)だったんですよ。申し訳無くて死んでお詫びしたいぐらいなんです。お願いですから余り広めないでください。北村先輩も、皆の前で言うなんてひどいです」
「いいじゃねーかよこんぐらい。好きな子を知られるのが恥ずかしい年頃でも無いんだしさ。赤い糸プロジェクトの内容は今一番旬な話題なんだ。治験したなら話題を提供しろ新人君。うちは社内恋愛にも寛容なんだからなー」
「この歳でも好きな人を知られるの超恥ずかしいですもん」
「小学生かよ」
笑いが起こる。オレは拗ねたまま――拗ねた振りをしたまま――金庫から資料室の鍵を取り出した。
総務部を出て、エレベーターで資料室の階へと移動する。
資料室があるフロアは無人だった。
エレベーターが閉まると同時に、堰を切ったように涙が溢れた。
怒りなのか悲しみなのかさえ良く判らないまま感情が爆発する。壁に横向きにもたれ掛かり、腕ごと叩き付けるみたいに壁を殴り付ける。
山城さんや北村先輩に対する怒りももちろんあるけど、それ以上に、叶さんに惹かれた自分への怒りが大きい。
叶さんを裏切った悲しみもあって何が何だかわからない。
違うんです。オレは人の幸せを邪魔したりしません。好きになったりしません。
薬のせいなんです。効き目が切れれば終わるから、時間をください。
運が悪ければ一ヶ月以上もかかるけど、薬の効き目はいつか必ず切れます。
ここに居ない叶さんに懺悔を繰り返す。
(だけど)
一度、既婚者に惹かれてしまったオレを叶さんが傍に置いてくれるだろうか?
ざっと体中から血の気が引いた。足元にいきなり穴が開いて吸い込まれたかのようだった。
叶さんは愛華さんを大事にしている。
愛華さんが不安になるようなことは絶対にしない。
出張の時も毎晩電話してるし朝帰りだって絶対にしないと、愛華さんが自慢してた。この前の飲み会の時も、叶さんは途中で席を立った。愛華さんに連絡を入れにいったんだろう。
そんな人が、オレを傍に置いてくれるかな?
(――――無理、だ)
叶さんみたいに妻を大事にしている人が、不倫したがるような人間を傍に置いてくれるはずない。
しかもオレは男だ。気持ち悪がられるに決まってる。
このままじゃ叶さんに避けられる。
話も出来なくなる――――。
こんなのない。
治験なんて受けなければよかった。
こんな薬さえ無かったら、何も気が付かずに済んだのに……!
「遅かったじゃねぇか」
誰も居ないと思っていたのに、後ろから声をかけられた。
泣き顔を上げたくなかったから俯いたままゆっくりと振り返る。
振り返らなくても声で誰だかは判っていた。赤坂先輩だった。
「せんぱい、何か用ですか?」
ハンカチを出す手間も煩わしくてスーツの袖で涙を拭う。
「ベソベソ泣きやがって。そんなにショックだったのかぁ? 既婚者に惚れてるって知られたのが」
「……あなたには、関係無いです」
馬鹿にする笑いを含んだ言い方に、愛想良く振舞うことが出来なかった。声は情けなく震えてしまったけど吐き捨てて資料室へと足先を向けた。
赤坂先輩は大きなゴミ袋を手にしていた。
「どうせ、こいつなんだろ?」
袋から取り出した何かを、バサッと、オレの頭に被せてくる。
「ひっ――――!!?」
甘い香りが脳を焼いて一気に体から力が抜けた。
横によろけて壁にぶつかる。
これ、叶さんのジャケット!?
どうして!? 赤坂さんが叶さんのジャケットを!?
「ひゃぅ……、ひぃ、ひっ!」
一気に体に火が付く。性器に血が集まり奥が濡れて息が上がる。全身の性感帯が悲鳴を上げる。
振り払おうとジタバタと暴れた。
「おっと」
「やぁ……!?」
ジャケットを頭からかけたまま、拘束するようにきつく抱き締めてくる。
放せ、放せええ!
叫ぼうと口を開いた。
でも、叫ぶためには一旦、息を吸わなくちゃ駄目で。
叶さんの香りが鼻からも口からも入って来て肺が一杯になる。
香りが体内に取り込まれ、どくんっと心臓が跳ね上がった。
「あぁあ……いや、あ、あぅ……!」
オレを拘束しているのはオレが嫌いな赤坂先輩だ。
判ってるはずなのに、拘束されて密着した体が熱くなる。体中を撫で回して欲しくなる。
「へぇ? 山城の言う通り、マジで発情すんだな。ガキみたいな面してるくせ色っぽい声出しやがって」
赤坂先輩がオレのポケットから資料室の鍵を取る。
半ば抱えられるように引っ張られ、資料室のドアを開くと当時に突き飛ばされてそのまま床に倒れ込んだ。
あちこち打ち付けて痛いのに、痛みが全部快感に変換されて身悶えてしまった。
オレの体、もう滅茶苦茶だ。
体に力が入らない。足が立たない。
叶さんのジャケットが顔に被さったままだ。
ジャケット、振り払わないと、このままじゃおかしくなる。
腕が、動かない。
はぁ、はぁ、はぁ。
興奮し過ぎて息が苦しい。
吸いたくないのに上がった呼吸でどんどん叶さんの香りを取り込んでしまう。
顔が真っ赤になり目には涙が浮いた。口の端に唾液が溜まりゆっくりと流れ落ちていく。
胸が、性器が、後ろが、足が、腕が、どこもかしこもが痺れて動けない。ジャケットを振り払うだけの行動も取れない。
どうして? よくせいざい、飲んだのに……!
膝に赤坂先輩の掌が触れ、内股をゆっくりと登って来る。
「ひいぃ……」
強烈な刺激に性器が張り詰めた。
「やらぁ……! んあ、あ、やあ」
舌が回らない、言葉が上手く出せない。全部喘ぎ声になる。
「俺が突っ込んでやろうか? あ?」
「――――!!!!」
赤坂先輩のことは嫌いだ。
でも、思ってしまった。
あぁもう、それもいいかもしれないって。
叶さんに避けられるよりはって。
赤坂先輩とそういう関係になってしまえば、万が一叶さんに、『オレが惹かれているのは叶さんだ』とばれても、付き合ってる人がいるんですと言える。
付き合ってる人が別にいれば、きっと、叶さんは許してくれる。
『付き合ってる奴がいるのに既婚者に惹かれるなんて面倒な薬なんだな』って判ってくれる。
それに、何より、
(赤坂先輩は、独身だ)
「叶とやってるとでも思っとけよ」
手がオレのスーツにかかる。
スーツのボタンはあっという間に外されて、今度はシャツのボタン。
一つ、二つ、外されていく。
オレ、こんな暗くて埃っぽい資料室なんかでしちゃうんだ。
こんな場所で、好きでも無い人と。
これがオレのはじめてになっちゃうんだ。
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