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<叶さんとの八年>
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次は借り物のカードだ。
カードを拾おうと前かがみになった瞬間に、隣の奴がこっちのラインまではみ出してきて体がぶつかった。
「うわ!?」
弾き飛ばされ肩から地面に倒れ込んでしまった。
「ったぁ……!」
しまった、観客に気を取られ過ぎた。
「いたたたあ……」
体を起こしつつ、腕に付いた砂埃を払う。
「あ、ごめーん」
ニヤニヤと笑って見下ろしてくる。くっそ、わざとやったな。
怒ってる暇はないか。嫌がらせされたからには絶対に勝ってやる!
借り物の紙を裏返すと、そこに書かれていたのは――――。
「か、叶さん! お願いします!」
保護者席で見ていた叶さんに手を振った。
叶さんはすぐに駆けつけてくれた。
「大丈夫か? 足をひねっただろ」
「はい、だいじょ――ったぁ……!」
一歩を踏み出すと足首が軋んだ。うわ、完全に捻挫しちゃってる……。
「こい」
「わあ!!?」
ひょい、と、びっくりするぐらいに簡単に抱っこされた。
「ちょ……!? かのうさ……」
そのままゴールに走り出す。オレを抱えてるとは思えない速さだ。
うわ、叶さんこんなに力あったんだ!
周りから大注目され「キャー!!!」と甲高い悲鳴があちこちから上がった。
恥ずかしくて思わず肩に顔を伏せる。
まだ借り物さえ借りられていないほかの連中を悠々と抜き去り、叶さんはあっという間にトラックを走り切った。
「おめでとうございます! 紙を見せてくださぁい」
ぎょっとするぐらい甲高い作り声で体育祭役員の女子がオレに手を伸ばした。
「は、はい、これです」
オレが捲った借り物のカードは。
『豆柴ワンコ君の借り物は、尊敬する人ー! 合格です、一位おめでとうございますー!』
だからなんで豆柴!?
「足を捻挫しているからこのまま救護テントに連れていってもいいかな?」
宣言が終わるのを待ってから、叶さんが女子に訊いた。
「は、はい、どうぞ!」
「か。叶さん、自分で歩けます、だいじょぶですから……!」
なんて抵抗もむなしく、叶さんはそのままオレを保健の先生が待機するテントまで運んでくれました……。
この時のダッコ画像がアプリで拡散され、恥ずかしくて恥ずかしくて、危うく登校拒否しそうになったりとか、叶さんを紹介してと上級生にまでしつこくされてやっぱり登校拒否しそうになったりと色々あったのは、叶さんには内緒です。
ちゃんと聞きはしたよ。「女子高生の彼女、欲しいですか?」って。
叶さんは迷いもせずに「子どもにしか見えないから恋愛対象じゃない」と答えたので、紹介してほしいという声は封殺させていただいたのです。
子供かぁ……。オレのことも子供にしか見えてないんだろうなぁ。実際に何度も子供と言われてたけど、改めてショック……。
ってなんでショックを受けてるんだよ! 男なんだから最初から恋愛対象外なのに!
そんなこんなで、二年の夏休みまでは叶さんと頻繁に会ってたんだけど、二学期に突入してからは会う回数を極端に減らした。
そう、受験のためである。
父さんと母さんからの仕送りがあるのは高校在学中まで。
当然ながら、高校卒業したらすぐ働くつもりでいたんだ。
でも叶さんと一緒の大学に行って同じ職場で働きたくなってしまった。
だけど目指す大学に進むためには学力が全然足りてなかったんだ。
オレはそれこそ「趣味は?」と聞かれたら「勉強です!」と笑顔で答えられるぐらいに毎日勉強を続けた。
そのかいあって。
「あ――あったあああ……」
見事に希望の大学に合格することが出来ました。
発表の当日、叶さんは中国のグループ企業に出張中だった。
でもでも自分の口から一番に伝えたくて電話を掛けてしまった。
多分まだ仕事中だったはずなのに、叶さんはすぐに電話に出てくれた。
「かのーさん! W大、合格しました!!!」
『そうか……! よかったな、おめでとう!! こっちまで肩の荷が一つ降りた気分だよ。お祝いをしなきゃな。帰ったら美味い物を食わせてやるから何がいいか考えておけ。遠慮はするなよ』
「はい! ありがとうございます……!!」
嬉しいな、叶さんもこんなに喜んでくれるなんて……!
あ。
ひょっとしたら、あの人たちも喜んでくれるかもしれない。
オレは、この時、つまらない期待をしてしまった。
両親はオレの今を全然知らない。
三者面談にも、進路の懇談会にも来てくれなかった。保護者に変わり参加してくれたのは叶さんだった。
W大に入学したと知れば、喜んでくれるんじゃないかな?
お祝いしてくれるんじゃないかな……?
期待してしまった。
震える指で入力するのは、母さんの電話番号。
母さんは、すぐに、出てくれた。
『はい、どちら様でしょうか?』
「り――凛、です」
3年ぶりの会話にオレの声が上ずった。
『――。あぁ、どうしたの? 生活費のことなら――』
「違うよ! お金の話じゃない。オレ、W大に入学したんだ。ちゃんと、奨学金も貰うように手配してるしこれ以上負担は掛けない。ただ……、そ、その」
ぎゅううっと心臓が痛くなった。
思わず胸のあたりの服を掴んで、声を絞り出す。
「か、家族で、お祝いしたくて……、とうさんと、かあさんと、三人で。食事にいかない? ちゃんとオレがお金を払うから。予約も、取るし、暇な時間さえ教えてもらえれば」
『――――――――』
心臓が痛い。
返事がなかなかなくて、オレはバクバクする心臓を押えっぱなしでいなくちゃならなかった。
『――わかったわ。今週の金曜日、18時以降だったら暇だから連絡をちょうだい』
「うん…………!!」
やった……!! やった、やったあああ!
母さんとご飯食べるのは何年振りだろ!
すぐに父さんにも連絡を取った。
「お父さん? 凛だけど――」
『凛か』
相手が俺だとわかった途端舌打ちをされてしまった。
『もうお前に払う金は一銭もない。金の無心をしたければ母親に』
「違うよ!」
母さんにした説明と同じのを繰り返す。父さんも金曜日なら大丈夫だからって言ってくれた。
凄い。一家団欒だ。ほんと、何年振りだろ! すっげー嬉しい! 大学に入学できてよかった!
金曜日は2月24日。次の日がオレの誕生日だ! 入学のお祝いと、誕生日のお祝いが一緒にできてしまう――――でも、ケーキを自分で用意するのは恥ずかしくてありえないから、誕生日のお祝いは自分の心の中だけにしておこう。
子どもの頃に家族で行ったことのあるフレンチレストランに予約を取る。
時間と場所を二人に知らせ、金曜日、オレは先にレストランに入った。
「予約していた鈴森です。後から二人来ますのでよろしくお願いします」
でも、10分が過ぎても、二人は現れなかった。
「食事のご用意をしてもよろしいでしょうか」
「――は、い」
開いた席に前菜が運ばれてくる。
スマホを取り出し、まず母さんに連絡を入れた。
電話はすぐに繋がった。
「かあさ――」
『ごめんなさい、行けなくなったわ。勉強頑張ってね』
「え」
それだけで、携帯は切れた。
慌てて父さんに連絡を入れる。
10回、20回、コール音が鳴っても出てくれなくて、30回目に差し掛かってようやく電話が繋がった。
『うるさい! 何回ならすつもりだ! 非常識だというのがわからんのか!』
「――、、で、も、きょうは、やくそくの」
『電話に出ない時点で行けないことぐらい察しろ! 二度と連絡してくるな!』
ぷつん。 と、電話が切れた。
「………………」
ウェイターさんがスープを運んでくる。
「ごめんなさい、料理はキャンセルします。お金は払いますんで、ごめんなさい」
伝票を手に立ち上がる。
何も手をつけないままに会計だけ済ませて店を出た。
ぼんやりと、アパートまで歩いた。
あのレストランからアパートまで一時間以上の距離があるはずなのに、全然覚えてなかった。
スマホを取り出す。
二人からの連絡はない。
コートも脱がず、明かりもつけずに呆然と床に座り込んでしまった。
スマホが小さく着信音を鳴らした。
叶さんからのメールだった。
『食いたいものは決まったか?』
「――――――――――」
ぼーっとしたまま、叶さんに電話をかける。
「かのー、さん」
『どうした? お前のことだから、やっぱり肉か?』
「にく……、好きです」
今日のコース料理もメインは肉にした。食べないで帰ってきちゃった。
『何かあったのか?』
叶さんの声色が変わる。
オレを心配してくれる声に変わる。
その声が優しすぎて、一気に涙が溢れた。
「かのーさん……!! あいたい、あいたいです……! かのう、さ、かのうさん、かのうさん…………!!」
『凛……?』
「お祝いしてくれるっていったのに、とうさんも、かあさんも、こなかったんです、まってたのに、たのしみに、してたのに……!!」
ぎゃーぎゃー泣いて、泣きすぎて咳込んで、ハッと我に返った。
叶さんはまだ中国にいる。
会いたいだなんて、何をばかなことを言ってるんだ。
袖でガシガシ涙を拭い、震えながら声を絞り出す。
「ご、ごめんなさい……! 忘れてください、お休みなさい!」
すぐにスマホを切った。
どうしてオレ、期待しちゃったんだろ。お祝いしてもらえるなんて思っちゃったんだろ。
母さんにも父さんにも別の家庭があるのに。
今更お祝いしてもらえるはずもないのに。
着替えるのも面倒くさいなぁ。
立ち上がるのも面倒。
どうして、オレ、がんばって勉強したんだっけ?
そだ、叶さんと一緒の大学に入学して叶さんと一緒の会社に就職したかったからだ。
……何のために?
何もわかんない。めんどい。
スマホが光った。アプリが立ち上がりメッセージをいくつも受信する。
時間は夜の12時だった。
こんな時間になんでこんな沢山のメッセージが来るの?
あ、そっか。今日、オレの誕生日だからか。
どうでもいい。
何もする気が起きない。
人生で一番最悪の誕生日だ。
カードを拾おうと前かがみになった瞬間に、隣の奴がこっちのラインまではみ出してきて体がぶつかった。
「うわ!?」
弾き飛ばされ肩から地面に倒れ込んでしまった。
「ったぁ……!」
しまった、観客に気を取られ過ぎた。
「いたたたあ……」
体を起こしつつ、腕に付いた砂埃を払う。
「あ、ごめーん」
ニヤニヤと笑って見下ろしてくる。くっそ、わざとやったな。
怒ってる暇はないか。嫌がらせされたからには絶対に勝ってやる!
借り物の紙を裏返すと、そこに書かれていたのは――――。
「か、叶さん! お願いします!」
保護者席で見ていた叶さんに手を振った。
叶さんはすぐに駆けつけてくれた。
「大丈夫か? 足をひねっただろ」
「はい、だいじょ――ったぁ……!」
一歩を踏み出すと足首が軋んだ。うわ、完全に捻挫しちゃってる……。
「こい」
「わあ!!?」
ひょい、と、びっくりするぐらいに簡単に抱っこされた。
「ちょ……!? かのうさ……」
そのままゴールに走り出す。オレを抱えてるとは思えない速さだ。
うわ、叶さんこんなに力あったんだ!
周りから大注目され「キャー!!!」と甲高い悲鳴があちこちから上がった。
恥ずかしくて思わず肩に顔を伏せる。
まだ借り物さえ借りられていないほかの連中を悠々と抜き去り、叶さんはあっという間にトラックを走り切った。
「おめでとうございます! 紙を見せてくださぁい」
ぎょっとするぐらい甲高い作り声で体育祭役員の女子がオレに手を伸ばした。
「は、はい、これです」
オレが捲った借り物のカードは。
『豆柴ワンコ君の借り物は、尊敬する人ー! 合格です、一位おめでとうございますー!』
だからなんで豆柴!?
「足を捻挫しているからこのまま救護テントに連れていってもいいかな?」
宣言が終わるのを待ってから、叶さんが女子に訊いた。
「は、はい、どうぞ!」
「か。叶さん、自分で歩けます、だいじょぶですから……!」
なんて抵抗もむなしく、叶さんはそのままオレを保健の先生が待機するテントまで運んでくれました……。
この時のダッコ画像がアプリで拡散され、恥ずかしくて恥ずかしくて、危うく登校拒否しそうになったりとか、叶さんを紹介してと上級生にまでしつこくされてやっぱり登校拒否しそうになったりと色々あったのは、叶さんには内緒です。
ちゃんと聞きはしたよ。「女子高生の彼女、欲しいですか?」って。
叶さんは迷いもせずに「子どもにしか見えないから恋愛対象じゃない」と答えたので、紹介してほしいという声は封殺させていただいたのです。
子供かぁ……。オレのことも子供にしか見えてないんだろうなぁ。実際に何度も子供と言われてたけど、改めてショック……。
ってなんでショックを受けてるんだよ! 男なんだから最初から恋愛対象外なのに!
そんなこんなで、二年の夏休みまでは叶さんと頻繁に会ってたんだけど、二学期に突入してからは会う回数を極端に減らした。
そう、受験のためである。
父さんと母さんからの仕送りがあるのは高校在学中まで。
当然ながら、高校卒業したらすぐ働くつもりでいたんだ。
でも叶さんと一緒の大学に行って同じ職場で働きたくなってしまった。
だけど目指す大学に進むためには学力が全然足りてなかったんだ。
オレはそれこそ「趣味は?」と聞かれたら「勉強です!」と笑顔で答えられるぐらいに毎日勉強を続けた。
そのかいあって。
「あ――あったあああ……」
見事に希望の大学に合格することが出来ました。
発表の当日、叶さんは中国のグループ企業に出張中だった。
でもでも自分の口から一番に伝えたくて電話を掛けてしまった。
多分まだ仕事中だったはずなのに、叶さんはすぐに電話に出てくれた。
「かのーさん! W大、合格しました!!!」
『そうか……! よかったな、おめでとう!! こっちまで肩の荷が一つ降りた気分だよ。お祝いをしなきゃな。帰ったら美味い物を食わせてやるから何がいいか考えておけ。遠慮はするなよ』
「はい! ありがとうございます……!!」
嬉しいな、叶さんもこんなに喜んでくれるなんて……!
あ。
ひょっとしたら、あの人たちも喜んでくれるかもしれない。
オレは、この時、つまらない期待をしてしまった。
両親はオレの今を全然知らない。
三者面談にも、進路の懇談会にも来てくれなかった。保護者に変わり参加してくれたのは叶さんだった。
W大に入学したと知れば、喜んでくれるんじゃないかな?
お祝いしてくれるんじゃないかな……?
期待してしまった。
震える指で入力するのは、母さんの電話番号。
母さんは、すぐに、出てくれた。
『はい、どちら様でしょうか?』
「り――凛、です」
3年ぶりの会話にオレの声が上ずった。
『――。あぁ、どうしたの? 生活費のことなら――』
「違うよ! お金の話じゃない。オレ、W大に入学したんだ。ちゃんと、奨学金も貰うように手配してるしこれ以上負担は掛けない。ただ……、そ、その」
ぎゅううっと心臓が痛くなった。
思わず胸のあたりの服を掴んで、声を絞り出す。
「か、家族で、お祝いしたくて……、とうさんと、かあさんと、三人で。食事にいかない? ちゃんとオレがお金を払うから。予約も、取るし、暇な時間さえ教えてもらえれば」
『――――――――』
心臓が痛い。
返事がなかなかなくて、オレはバクバクする心臓を押えっぱなしでいなくちゃならなかった。
『――わかったわ。今週の金曜日、18時以降だったら暇だから連絡をちょうだい』
「うん…………!!」
やった……!! やった、やったあああ!
母さんとご飯食べるのは何年振りだろ!
すぐに父さんにも連絡を取った。
「お父さん? 凛だけど――」
『凛か』
相手が俺だとわかった途端舌打ちをされてしまった。
『もうお前に払う金は一銭もない。金の無心をしたければ母親に』
「違うよ!」
母さんにした説明と同じのを繰り返す。父さんも金曜日なら大丈夫だからって言ってくれた。
凄い。一家団欒だ。ほんと、何年振りだろ! すっげー嬉しい! 大学に入学できてよかった!
金曜日は2月24日。次の日がオレの誕生日だ! 入学のお祝いと、誕生日のお祝いが一緒にできてしまう――――でも、ケーキを自分で用意するのは恥ずかしくてありえないから、誕生日のお祝いは自分の心の中だけにしておこう。
子どもの頃に家族で行ったことのあるフレンチレストランに予約を取る。
時間と場所を二人に知らせ、金曜日、オレは先にレストランに入った。
「予約していた鈴森です。後から二人来ますのでよろしくお願いします」
でも、10分が過ぎても、二人は現れなかった。
「食事のご用意をしてもよろしいでしょうか」
「――は、い」
開いた席に前菜が運ばれてくる。
スマホを取り出し、まず母さんに連絡を入れた。
電話はすぐに繋がった。
「かあさ――」
『ごめんなさい、行けなくなったわ。勉強頑張ってね』
「え」
それだけで、携帯は切れた。
慌てて父さんに連絡を入れる。
10回、20回、コール音が鳴っても出てくれなくて、30回目に差し掛かってようやく電話が繋がった。
『うるさい! 何回ならすつもりだ! 非常識だというのがわからんのか!』
「――、、で、も、きょうは、やくそくの」
『電話に出ない時点で行けないことぐらい察しろ! 二度と連絡してくるな!』
ぷつん。 と、電話が切れた。
「………………」
ウェイターさんがスープを運んでくる。
「ごめんなさい、料理はキャンセルします。お金は払いますんで、ごめんなさい」
伝票を手に立ち上がる。
何も手をつけないままに会計だけ済ませて店を出た。
ぼんやりと、アパートまで歩いた。
あのレストランからアパートまで一時間以上の距離があるはずなのに、全然覚えてなかった。
スマホを取り出す。
二人からの連絡はない。
コートも脱がず、明かりもつけずに呆然と床に座り込んでしまった。
スマホが小さく着信音を鳴らした。
叶さんからのメールだった。
『食いたいものは決まったか?』
「――――――――――」
ぼーっとしたまま、叶さんに電話をかける。
「かのー、さん」
『どうした? お前のことだから、やっぱり肉か?』
「にく……、好きです」
今日のコース料理もメインは肉にした。食べないで帰ってきちゃった。
『何かあったのか?』
叶さんの声色が変わる。
オレを心配してくれる声に変わる。
その声が優しすぎて、一気に涙が溢れた。
「かのーさん……!! あいたい、あいたいです……! かのう、さ、かのうさん、かのうさん…………!!」
『凛……?』
「お祝いしてくれるっていったのに、とうさんも、かあさんも、こなかったんです、まってたのに、たのしみに、してたのに……!!」
ぎゃーぎゃー泣いて、泣きすぎて咳込んで、ハッと我に返った。
叶さんはまだ中国にいる。
会いたいだなんて、何をばかなことを言ってるんだ。
袖でガシガシ涙を拭い、震えながら声を絞り出す。
「ご、ごめんなさい……! 忘れてください、お休みなさい!」
すぐにスマホを切った。
どうしてオレ、期待しちゃったんだろ。お祝いしてもらえるなんて思っちゃったんだろ。
母さんにも父さんにも別の家庭があるのに。
今更お祝いしてもらえるはずもないのに。
着替えるのも面倒くさいなぁ。
立ち上がるのも面倒。
どうして、オレ、がんばって勉強したんだっけ?
そだ、叶さんと一緒の大学に入学して叶さんと一緒の会社に就職したかったからだ。
……何のために?
何もわかんない。めんどい。
スマホが光った。アプリが立ち上がりメッセージをいくつも受信する。
時間は夜の12時だった。
こんな時間になんでこんな沢山のメッセージが来るの?
あ、そっか。今日、オレの誕生日だからか。
どうでもいい。
何もする気が起きない。
人生で一番最悪の誕生日だ。
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