発情薬

寺蔵

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<叶さんとの八年>

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「わぁ、ちゃんとしたご飯だ……」

 テーブルに並ぶのは豆腐とわかめの味噌汁をはじめ、焼鮭、お新香、ベーコンエッグと美味しそうな朝食だ。

「自己紹介してなかったな。俺の名前は叶 直樹(かのう なおき)だ。お前の名前は?」

「す……すずもり、りんです」

「凛君か。両親に連絡をしなくてよかったのか? 心配してるんじゃないか?」

 オレの前に茶碗が置かれた。つやつやと輝く炊き立てのご飯に喉が鳴った。

「……両親は……、ほ、放任主義なので、心配してないです……」

 バカな嘘をついてしまった。
 オレに心配してくれる親なんていないのに。

 『子どもを心配しない親なんていない』そう、説教されるかもしれない。
 オレは、それを覚悟していた。
 笑って『オレは親不孝者ですから』と答える覚悟をしていた。

 でも、目の前の男の人は違った。
「そうか」
 短く答え、お椀に注いだ味噌汁をくれた。

「…………」
 味噌汁の匂い、いい匂い。人に作ってもらった味噌汁なんて何年振りだろ。

 そっと両手で抱えあげ口をつける。
「っ、あっつ、っ、」
「猫舌なのか。冷ましてから飲め」

 叶さんが笑った。
 笑うと整いすぎて怖いぐらいの貌が優しくなって、オレもつられて笑ってしまった。

 一気に緊張がほぐれ出されたご飯を全部平らげた。

「美味しかったああ! こんなちゃんとしたご飯食べたの久しぶりです! ありがとうございます」

「この程度の料理で喜ぶってことは料理ができないのか?」
「で、できますよ。全然美味しくないですけど」
「得意料理は何だ?」

 と、得意料理!? そ、そんなのあったかな??
 必死に考え絞り出したのは。

「えと、辛くない麻婆豆腐です。片栗粉を使わないからとろみも無し。しゃばしゃばまーぼーすーぷ」
「面白そうじゃないか。昼に作ってくれよ」
「ええええ!」

「何をそんなに驚いてるんだ? 今日は土曜だし、朝帰りが昼帰りになっても変わらないだろ? 女ならともかく男なんだから」

「いえ、その」

 食べたいといわれるのが、意外で、

「ラーメンを奢ってやったんだから昼飯ぐらい恩返ししろ。買い物に行くぞ」

「え」

「麻婆豆腐なら豆板醤と甜面醤とひき肉と豆腐と……、他に何が必要だったかな」
「て、甜面醤はいりません、味噌で代用できます。でも超不味いですよ。ほんとにいいんですか?」
「男子中学生が作る飯に期待するほど無謀じゃないよ」
「オレ、男子高校生です!!」
「……! そうだったのか。小さいな」

 く、屈辱……!!!

「小さくないです。普通です」

「へぇ」

 ものすごく流された……!!
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