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<叶さんとの八年>
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浅いうたた寝の間に、夢を見た。
昔の夢だ。
十五歳のオレが泣いている。
オレの両親はそれぞれ身寄りがない孤児だった。
おじいちゃんもおばあちゃんも親戚もいなかったけど、寂しいなんて一回も思ったことはなかった。
とても優しい母さんと、優しい父さんだったから。
身寄りがないせいだろうか。
父さんも母さんも、体が心配になるぐらいに、毎日、仕事に打ち込んでいた。
それこそ、早朝五時に出て深夜十二時帰宅なんてざらだった。
当然、オレは、赤ん坊の頃から託児所暮らしをしていた。
家に帰るのは両親が揃う週に一回だけ。
それでも両親は、オレを色んな所に連れて行ってくれた。
『可愛いわ、凛』
『周りの子より一番かわいいな』
オレの足元で揺れるフリルの残像が見える。
遊園地、動物園、水族館、年に三回は旅行にも行った。
夫婦喧嘩なんて一回もしたことがないぐらいに仲が良くて、オレはそんな二人の間で幸せに育っていた。
歪んだのはいつだったか。
今思い返すと、多分、二人が成功した頃、だった。
お母さんの経営していた自然食のフランチャイズ店が軌道に乗り出し、お父さんもアンティーク家具の輸入業者を立ち上げた。そんなころ。
両親の間に会話が無くなり、家族で出かけることが無くなった。
どうにか会話をさせようと、学校であった笑い話をしてみたり、馬鹿な事を言って気を引いたけど、二人共、オレの話さえわずらわしげにするようになって、それぞれの個室に篭るようになった。
フリルの残像はいつしか無くなっていた。
『離婚することになった』
何ヶ月ぶりかに帰ってきた父さんに、そう告げられたのが十五歳の頃。
母さんとは、半年以上会ってなかった。
オレは、どっちに付いて行けばいいの?
その一言は、口に出せなかった。
『お前は一人暮らしをしろ。高校を卒業するまでは父さんも母さんも金を出すから金の心配はしなくていい』
やっぱり。
言葉を飲み込んで、頷く。
『だが無駄遣いはするな。追加の金は絶対に出さんからな。足りなくなったら高校を辞めて働け』
そう言って、父さんは家を出て行った。
あの日――。
父さんから離婚したと聞かされて、多分、一ヶ月ぐらい過ぎた頃だったと思う。
無性に母さんと話がしたくなった。
なぜ、そう思い立ったのかは今考えてもわからない。
昔の夢だ。
十五歳のオレが泣いている。
オレの両親はそれぞれ身寄りがない孤児だった。
おじいちゃんもおばあちゃんも親戚もいなかったけど、寂しいなんて一回も思ったことはなかった。
とても優しい母さんと、優しい父さんだったから。
身寄りがないせいだろうか。
父さんも母さんも、体が心配になるぐらいに、毎日、仕事に打ち込んでいた。
それこそ、早朝五時に出て深夜十二時帰宅なんてざらだった。
当然、オレは、赤ん坊の頃から託児所暮らしをしていた。
家に帰るのは両親が揃う週に一回だけ。
それでも両親は、オレを色んな所に連れて行ってくれた。
『可愛いわ、凛』
『周りの子より一番かわいいな』
オレの足元で揺れるフリルの残像が見える。
遊園地、動物園、水族館、年に三回は旅行にも行った。
夫婦喧嘩なんて一回もしたことがないぐらいに仲が良くて、オレはそんな二人の間で幸せに育っていた。
歪んだのはいつだったか。
今思い返すと、多分、二人が成功した頃、だった。
お母さんの経営していた自然食のフランチャイズ店が軌道に乗り出し、お父さんもアンティーク家具の輸入業者を立ち上げた。そんなころ。
両親の間に会話が無くなり、家族で出かけることが無くなった。
どうにか会話をさせようと、学校であった笑い話をしてみたり、馬鹿な事を言って気を引いたけど、二人共、オレの話さえわずらわしげにするようになって、それぞれの個室に篭るようになった。
フリルの残像はいつしか無くなっていた。
『離婚することになった』
何ヶ月ぶりかに帰ってきた父さんに、そう告げられたのが十五歳の頃。
母さんとは、半年以上会ってなかった。
オレは、どっちに付いて行けばいいの?
その一言は、口に出せなかった。
『お前は一人暮らしをしろ。高校を卒業するまでは父さんも母さんも金を出すから金の心配はしなくていい』
やっぱり。
言葉を飲み込んで、頷く。
『だが無駄遣いはするな。追加の金は絶対に出さんからな。足りなくなったら高校を辞めて働け』
そう言って、父さんは家を出て行った。
あの日――。
父さんから離婚したと聞かされて、多分、一ヶ月ぐらい過ぎた頃だったと思う。
無性に母さんと話がしたくなった。
なぜ、そう思い立ったのかは今考えてもわからない。
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