発情薬

<総務部での朝>

４

　でも、オレ、浮気されるのはほんと駄目な狭量な男だったから、同棲を解消してすぐさま入居できる安アパートに逃げ込んでしまいました。　話し合いさえできませんでした。

　今考えると、オレにもダメなところは一杯あったのに、話し合いさえしなかったのは不誠実にもほどがあった。
　けど、でもでも、今、彼女――――美咲ちゃんから連絡があっても、会話をすることはできないと確信ができた。

　オレの貯金を使い果たされても許してた。
　オレの大好きな漫画本を売り飛ばされても許してた。でも、浮気だけは許せなかったんだ。

　大好きな彼女が出来て、大好きな彼女に浮気をされたのが、忘れもしない２０歳のころ。

　生まれて出来た彼女。しかも同棲までした彼女が浮気をする人だったってことがトラウマになって、大学を卒業し社会人となった今でもなお新しい彼女が作れないままでいます。

　あああああ。

　我ながら自分で自分が情けない……。

　ミスクトールを呑めば……オレと同じ価値観を持つ人が見つかるのかもしれない……。

　浮気をしない女性が……。
　家族が欲しいなぁ……。

『赤い糸チェッカー、ミスクトール』

　市販されたら買おうかなぁ。

　なんて思いつつ、パソコンの電源を入れて起動を待つ。

「あ」

　メールが着てる。まさか昨日来たのを見逃していた！？
　青ざめて慌ててボックスを開く。そのメールは通常業務のメールじゃなかった。

　『赤い糸プロジェクトへの参加のお願い』という、お願いと銘打ちながらもれっきとした業務命令だ。

「やったぁ……！！　治験に選ばれてました……！」

　思わず声を上げてしまった。