発情薬

寺蔵

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<総務部での朝>

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<総務部での朝>

 自宅の安アパートの中。

 1900円で買った安物の鏡で自分の格好を確認する。

 よし! ネクタイ曲がって無い。
 クリーニングから戻ってきたばかりのスーツも余計な皺一つ無い。昨日頑張ってアイロンかけたシャツも綺麗だ。
 けど……。
 何度見ても、百六十八センチの身長が物足りない。どうして後二センチのびてくれなかったんだ。
 いや、まだ二十三歳だから希望はある! 

 ……あると思いたいよ。はぁ。

 鏡の中のオレが眉根を下げる。社会人にしては少々明るいブラウンの髪をムースで軽く纏めた、鈴森 凜(すずもり りん)二十三歳。


 普段は適当なシャツとスーツで出勤してる。
 今日、こんなに念入りにチェックしているのには理由があった。

 憧れの先輩、叶 直樹(かのう なおき)さんが出張から帰ってくるのだ。

 叶さんが関西の支社に出張して、早一ヶ月。

 長かった……!
 ようやく会える!

 朝っぱらからオレのテンションは最高値まで振り切っていた。

 でも気になる事が一つ。

 髪色……やっぱり明るすぎるかなぁ。
 でもこれ、地毛なんだよな……。
 下手に染めたら逆プリンになるから面倒なんだよな。オレ、髪染めるの嫌いだし。

 今まで誰にも何も言われて無いし、先輩達も叶さんも地毛だって判ってくれてるけど気になっちゃうな。

「やべ、もうこんな時間」

 慌てて鞄を抱えて部屋を飛び出す。遅刻したら元も子もない!

 満員電車に揺られること一時間。
 駅からは徒歩三分。
 見慣れた会社のビルへと向かう。

 普通のオフィスビルより堅苦しく、一般客を拒絶している堅牢な佇まいのオレの会社。
 スカイバイオテクノロジー社。

 入り口の静脈認証をクリアしてエントランスを通る。
 受付で社員用のセキュリティカードを受け取って、ほとんどかけ足でオフィスへ走った。

「おはようございまーす!」

 朝は元気な挨拶から! というのがオレのモットーだ。

 重たい扉を開くと同時に、広いオフィス全体に行き渡る挨拶をする。
 
「お早う!」
「相変わらず朝っぱらから元気だなぁ」

 ちらほらと出勤していた先輩達から挨拶の返事と呆れた声が飛んできた。

 大学を卒業してこの会社に就職してから一年半。そして、ここ、本社の総務部に配属されてから約三ヶ月。
 時に叱られ、たまに褒めてくれる、大事な先輩達だ。
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