溢花

椎木龍

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学舎

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 うすら灯くボワンと霧を浮かべたような、清々しい朝。私はなんだか気後れしたように、ゆっくりとぼとぼ歩をすすめていた。
 学舎は退屈である、というのは今や学制公布以来着々と進められてきた教育環境整備の結実ともいえる安定した学びの供給が約束されるこの国においては、通説と言っても良いだろう。なんでも社会の先生が言うには学びたくても学べない惨めな子どもたちで溢れかえっているのが今の世界らしいが、あったらあったで疎ましいことを知らないだけだろう。というか、知ったこっちゃないのだ。
 学舎が退屈なのは興味のない授業や、あるいは人間との関わりか、思いもつかない何某か、理由を挙げればキリがない。
 ともすれば私は、どの退にあたるのだろうか。
 自嘲気味に口角が上がっている気がする。

 どうせ、人は独りで死ぬのだ。

 浮世も自分も嘲って、笑いながら死ぬのが吉だろう。

 気づくと校門に差しかかっていた。それと同時に周りからの視線にも気づいた。私に浴びせられる視線は様々だ。チラリとそれを隠すような視線。爽やかな風に紛れ込ませた視線。そして全く下賤さを隠すことのない、ある種最も清々しい視線。
 
 私の鼻は美しい。それはまるで蓮の肢体。

 ゆっくりと視線をくぐり抜け、惜しげもなく靴を脱ぐ。

 私の唇は美しい。それはまるで耽美なる薔薇。

 下駄箱に靴を入れる、顔を上げながらこれでもかと空気に色香を漂わせて。
 
 私の虹彩は美しい。それはまるで金剛の雫。
 私の腕は、脚は百合の花弁で、その五体の均衡はミケランジェロが溜息を漏らす。

 極め付けに、髪を払った。星が息を引き取るときの火花のようだ。周囲の紅潮は許されざる美に震えるような、静かで、しかし静電気が充満したような、一人一人がそれを共有する一つの衝撃が生まれている。

 今日も私が、この世界に生まれた。
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