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革命
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「奇跡は敗北者しか起こし得ない」
勝利者は常勝であり、奇跡を願うまでもなく常日頃から蓄えた財と権力、あらゆる力を持ってして下々を叩きのめす。
だから、奇跡を願うのは敗北者のみである。だからこそ、奇跡を起こしうるのもまた、敗北者のみなのだ。
そんな奇跡の形は場面によって形を変える。
スポーツにおいては「大金星」
物語においては「どんでん返し」
それから、「大番狂わせ」「パラダイムシフト」………そして、戦における奇跡を、人々は「革命」と呼んだ。
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計器から蒸気が発せられる。現在は真夜中の午前3時である。
だが、発令所に夜は無い。
「0350南東にてカント。総員戦闘配置につけ。繰り返す……」
執行官カジカ・如月は、自分の口から発せられる声がハウリングした様にフワフワと耳に届く感覚に襲われていた。
「奴」が来るという予測が来たのは1週間前。だから対策が立てられるというものだが、如月の立場からしてみれば寝不足という悩みの種でもある。
そしてそこからというもの、計画の発案から今現在の指揮に至るまで、本調子とはとても言い難い状態で如月はこなしてきた。
「壱號は調整段階にある、弐号を戦闘配置に回せ。……ならば拘束しろ。決して外部に晒すな。」
如月の頭痛の種がまた、暴れ出したようだ。
「頼みの綱は従順な弐号だけね。」
「弐号にエンゲィルセルを注入、起動段階に移行。」
私がいくら疲れていても、頭痛がしていても、カントはその足を緩めていてはくれない。如月はそんなことを思いながらも悲観的になっては行けないと手のひらの真ん中に力を込める。
「2号、出撃!」
彼女がいうが早いか、タンッと軽快な踏み込みと共に人型の飛翔体は天高く飛び上がった。
_「弐号」私の呼称。
無骨な装飾具は戦闘服と定義づけられているが、それは確実に敵愾生命体の機能停止を円滑に行えるよう作り出された代物であり、「服」というにはあまりにも無骨すぎた。
手足の先にはブルーにカラーリングされた重機が付いており、背中には天使の羽とは似ても似つかないエンゲィルホロウ放出機構が備わっている。
「弐号」こと白髪の少女「カノン」は今日も同じように繰り返す。
『私は私の存在理由をわかっている。』
『だから逃げない。殺戮兵器たる私は逃げない。』
弐号は任務を遂行することに特化した機体であり、従順にその責務を全うするための「セイギ」を備えている。カノンは、自らの目的意識を一際強く感じていた。
「弐号、出撃!」
ザザザとノイズ混じりに、殺戮の合図が始まる。キサラギは私に合図をくれる。それは冷たく鋭いが、殺戮ありきの生命でしか無い私に理由をくれる合図である。
「ハィ」
手短に返答し、エンゲィルホロゥを靡かせた。
「カントは以前南東から北上を続けています!やはり「座」に惹きつけられているようです!」
管制官が声を張り上げる。
今回海に降臨したカントは、下半身がタコのような巨人の形をしていた。すでに触手で多くの生命に犠牲が生じているようだ。
執行室の全員が身を引き締めている。それに呼応するように如月も毅然と前方のスクリーンを睨み、叫んだ。
「弐号の「剣」使用許可!南東三々方面にてカントを粉砕せよ!」
「ハィ、サー」
凍えるような目線にはハイライトが無い。
まさに飢えて殺戮のみを見据えた獅子のようだ。
弐号の行動は常に迅速である。如月がいうが早いか、手首から執行の具現たる「セイギ」の剣を実体化させ、切り掛かった。カノンはカントの周りをハリケーン状に飛び回り、旋回し、まるでミキサーのように剣を振り回す。
エンゲィルホロウは意志を力に変換する物質。弐号、ひいては人類のカントを殺戮するという意志が、カントの体を切り刻む。カントの黒くなめされたような肌は金剛の硬さであり、細長い四肢は頼りない印象を思わせるが実態は真逆である。水より流動的で、溶岩より熱く、力強さは白亜紀が蟻同然のスケールである。しかし切れる。カノンは人類の希望たる奇跡の機体であった。
だが、敵もまた宇宙の遣い。強大な力を持つものたちである。今日という日に人類はその慢心を思い知らされることとなる。
切り刻まれたカントが海に沈んでいき、執行室が息をつく。カノンは依然油断なく敵愾生命体の死を見届けていた、はずだった。
暗影が海にボウと浮かび上がるやいなや、鯨のような生命体がカノンを丸ごと飲み込んだ。途端に、執行室の機体制御版が異常値を示す。
「機体損壊部不明!数値から推察するに溶解している模様です!10、12、15%秒刻みで上がっていきます!このままでは危険です!」
執行室の注目が一斉に如月に集中する。ここでの判断が言葉通りに人類の命運を分けるのだ。無理もない。『自爆』の言葉が頭をよぎる。だが、ダーティプレイよりも潔く戦って死ぬことが、彼女の信条であった。
「これは世界の危機と認定します。零号の鍵を解錠。」
執行室がざわつく。
「本気ですか!?」と異議を唱えるものをいる。だが、如月の腹心たる巣鴨はブレない。
「了解しました。もし死んだら末代まで呪います。」
「誰も生き残らないわよ。」
執行室の地下深く。もう1人の眠れる獅子が目覚める。繋ぎ止めていた鍵は解錠され、すでにカントを殺戮せんと狙いを定めている。
彼のエンゲィルホロウはまるで流星のように、直線経路を無理やり繋いだ。
瞬時に鯨のカントににたどり着いた零号は首をコキリと片側に曲げて鳴らした。鯨は身体から自らの小さなコピー体を生み出し、海そのものを侵食せんとしている。眼科の煌めくコピー体達を眺めて零号はつぶやいた。
「勝てないよぅ…」
革命が、始まる。
勝利者は常勝であり、奇跡を願うまでもなく常日頃から蓄えた財と権力、あらゆる力を持ってして下々を叩きのめす。
だから、奇跡を願うのは敗北者のみである。だからこそ、奇跡を起こしうるのもまた、敗北者のみなのだ。
そんな奇跡の形は場面によって形を変える。
スポーツにおいては「大金星」
物語においては「どんでん返し」
それから、「大番狂わせ」「パラダイムシフト」………そして、戦における奇跡を、人々は「革命」と呼んだ。
1
計器から蒸気が発せられる。現在は真夜中の午前3時である。
だが、発令所に夜は無い。
「0350南東にてカント。総員戦闘配置につけ。繰り返す……」
執行官カジカ・如月は、自分の口から発せられる声がハウリングした様にフワフワと耳に届く感覚に襲われていた。
「奴」が来るという予測が来たのは1週間前。だから対策が立てられるというものだが、如月の立場からしてみれば寝不足という悩みの種でもある。
そしてそこからというもの、計画の発案から今現在の指揮に至るまで、本調子とはとても言い難い状態で如月はこなしてきた。
「壱號は調整段階にある、弐号を戦闘配置に回せ。……ならば拘束しろ。決して外部に晒すな。」
如月の頭痛の種がまた、暴れ出したようだ。
「頼みの綱は従順な弐号だけね。」
「弐号にエンゲィルセルを注入、起動段階に移行。」
私がいくら疲れていても、頭痛がしていても、カントはその足を緩めていてはくれない。如月はそんなことを思いながらも悲観的になっては行けないと手のひらの真ん中に力を込める。
「2号、出撃!」
彼女がいうが早いか、タンッと軽快な踏み込みと共に人型の飛翔体は天高く飛び上がった。
_「弐号」私の呼称。
無骨な装飾具は戦闘服と定義づけられているが、それは確実に敵愾生命体の機能停止を円滑に行えるよう作り出された代物であり、「服」というにはあまりにも無骨すぎた。
手足の先にはブルーにカラーリングされた重機が付いており、背中には天使の羽とは似ても似つかないエンゲィルホロウ放出機構が備わっている。
「弐号」こと白髪の少女「カノン」は今日も同じように繰り返す。
『私は私の存在理由をわかっている。』
『だから逃げない。殺戮兵器たる私は逃げない。』
弐号は任務を遂行することに特化した機体であり、従順にその責務を全うするための「セイギ」を備えている。カノンは、自らの目的意識を一際強く感じていた。
「弐号、出撃!」
ザザザとノイズ混じりに、殺戮の合図が始まる。キサラギは私に合図をくれる。それは冷たく鋭いが、殺戮ありきの生命でしか無い私に理由をくれる合図である。
「ハィ」
手短に返答し、エンゲィルホロゥを靡かせた。
「カントは以前南東から北上を続けています!やはり「座」に惹きつけられているようです!」
管制官が声を張り上げる。
今回海に降臨したカントは、下半身がタコのような巨人の形をしていた。すでに触手で多くの生命に犠牲が生じているようだ。
執行室の全員が身を引き締めている。それに呼応するように如月も毅然と前方のスクリーンを睨み、叫んだ。
「弐号の「剣」使用許可!南東三々方面にてカントを粉砕せよ!」
「ハィ、サー」
凍えるような目線にはハイライトが無い。
まさに飢えて殺戮のみを見据えた獅子のようだ。
弐号の行動は常に迅速である。如月がいうが早いか、手首から執行の具現たる「セイギ」の剣を実体化させ、切り掛かった。カノンはカントの周りをハリケーン状に飛び回り、旋回し、まるでミキサーのように剣を振り回す。
エンゲィルホロウは意志を力に変換する物質。弐号、ひいては人類のカントを殺戮するという意志が、カントの体を切り刻む。カントの黒くなめされたような肌は金剛の硬さであり、細長い四肢は頼りない印象を思わせるが実態は真逆である。水より流動的で、溶岩より熱く、力強さは白亜紀が蟻同然のスケールである。しかし切れる。カノンは人類の希望たる奇跡の機体であった。
だが、敵もまた宇宙の遣い。強大な力を持つものたちである。今日という日に人類はその慢心を思い知らされることとなる。
切り刻まれたカントが海に沈んでいき、執行室が息をつく。カノンは依然油断なく敵愾生命体の死を見届けていた、はずだった。
暗影が海にボウと浮かび上がるやいなや、鯨のような生命体がカノンを丸ごと飲み込んだ。途端に、執行室の機体制御版が異常値を示す。
「機体損壊部不明!数値から推察するに溶解している模様です!10、12、15%秒刻みで上がっていきます!このままでは危険です!」
執行室の注目が一斉に如月に集中する。ここでの判断が言葉通りに人類の命運を分けるのだ。無理もない。『自爆』の言葉が頭をよぎる。だが、ダーティプレイよりも潔く戦って死ぬことが、彼女の信条であった。
「これは世界の危機と認定します。零号の鍵を解錠。」
執行室がざわつく。
「本気ですか!?」と異議を唱えるものをいる。だが、如月の腹心たる巣鴨はブレない。
「了解しました。もし死んだら末代まで呪います。」
「誰も生き残らないわよ。」
執行室の地下深く。もう1人の眠れる獅子が目覚める。繋ぎ止めていた鍵は解錠され、すでにカントを殺戮せんと狙いを定めている。
彼のエンゲィルホロウはまるで流星のように、直線経路を無理やり繋いだ。
瞬時に鯨のカントににたどり着いた零号は首をコキリと片側に曲げて鳴らした。鯨は身体から自らの小さなコピー体を生み出し、海そのものを侵食せんとしている。眼科の煌めくコピー体達を眺めて零号はつぶやいた。
「勝てないよぅ…」
革命が、始まる。
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