94 / 133
本編
93 ゲームチェンジャーとの邂逅2
しおりを挟む
アリサ様は生来の魔力量の多さが原因で臓器を蝕む病を患い、20歳まで生きられないと言われていたそうだ。そこで自分の魔力とは質が違う異世界からの魔力を取り込むことで、改善をはかったとのこと。
病を治すことはできなかったけれど、今は体内の時間を魔力で停止させて症状の進行を抑えているらしい。
「それが功を奏して、今やこんな大きな孫がいる身になるとは思わなんだ。」
イヴァンに顔を向けて楽しそうに笑う姿はとても美しく、どうしても30代前半くらいにしか見えない。すこしはしゃいだ様子なので、よけいに若々しい。女のわたしでも見惚れてしまう。
美女という言葉は、この人のためにあると言っても過言ではないだろう。艶のある真っ黒な髪は腰あたりまで伸ばされ、陶器のようなきめ細かい肌と相まって、偏執な錬金術師が作り上げたホムンクルスと言われても信じてしまいそうだ。エメラルドの瞳は吸い込まれそうな輝きを放っている。
造作だけならアナスタシアも同じくらい整っているんだけど、どこか艶めかしさがあって肉感的なアナスタシアと違い、アリサ様は「神の御使い」という形容がしっくりくる。気安い言葉で話していても、どこか俗世から離れたような、ふわふわした、この世ならざる者のような神秘的な雰囲気がある。
・・・そんなことをぼんやりと考えていたので、アリサ様がわたしのことを推し量るように見つめていたことには気づかなかった。
来客は久しぶりだと言いながら、わたしのことや元の世界のことなど、いろいろなことを尋ねられた。たどたどしく答えを返すと、宝石のような瞳を瞬かせながら身を乗り出すように耳を傾ける。
ルーから「他人の魔力を吸収している」と言われたことを話すと、アリサ様は会話をしながらわたしの手をぎゅっと握った。そうすると温かい何かがわたしの中に流れてくる。ああ、これはアリサ様の魔力だ。ラジウスにも感じた、懐かしいような不思議な感覚。
わたしが魔力を感じ取ったのがわかったのか、アリサ様はにんまりと笑みを浮かべた。
「確かに我の魔力もそなたに流れておる。その能力をうまく使いこなせば際限なく魔力を行使できるぞ。国を興すも滅ぼすも思いのままだ。」
物騒なことを言わないでほしい。わたしが望むのは、魔石を大量生産したいなあとか、そんなささいなことだ。もし言葉のとおり際限なく魔力を行使できるのであれば、少しは何かの役に立てるんじゃないかなあとかすかに期待する。
とはいえ、今のわたしにできるのは、ラジウスに教えてもらった「漏れ出る魔力を止めること」だけだ。理想までの道のりは遠い。
あれこれと話をしているうちに、喉がかわいて我に返る。そこまで来てようやく、けっこうな時間が経過していることに気付いた。
(しまった、イヴァンを放置してた)
「ごめんなさい、わたしばかり夢中で話をしてしまって。」
「問題ない。せっかくの機会だ、それに聞いていて俺も興味深い。」
しょんぼりと謝ると、イヴァンは問題ないと言って近くに置いてあったデカンタからグラスに水を注いて渡してくれた。冷たい水が喉にしみわたる。本来ならばわたしがすべきなのに申し訳ない。
話がひと区切りした後、アリサ様は疲れた様子もなく、イヴァンにも、かつて神殿で生活していたというラジウスのことや彼の兄との些細な会話まで、城の様子や家族の近況などを事細かに尋ねていた。
俗世を捨てて「巫女姫」として神殿に入った時点で、王家との表向きの縁は切れていると聞いている。孫と呼ぶイヴァンも、実際は血の繋がりはない。それでもイヴァンの訪ねを喜んでいることは伝わったし、いくら話しても話したりないようだった。
今日は少し話をして退出する予定だったはずだが、「大したもてなしもできないが、せっかくなので食事でもしていけ」という誘いを受けた。せっかくだからと、予定外だが神殿内で昼食をいただく。アリサ様は基本的にこの部屋から移動しなくてよいように配慮されているらしく、食事も部屋に配膳された。
目の前に並んだのは、精進料理のように肉類を用いない料理だった。メインとして供されたのはトマトシチューのような料理で、肉の代わりに入っているのは、水切りした豆腐のような、カッテージチーズのような食感のものだ。少し酸味があるそれは、フォルという植物の樹液から作られていると説明された。
アリサ様はものすごく博識で、食材のことから始まりこの国の歴史、風習などいろいろなことを教えてくれた。彼女の様子だと外出もままならないだろうに、まるで見てきたかのように話すのが不思議でならない。時折イヴァンが会話に加わるが、私はもっぱら聞き役に回っていた。
「そなたから聞きたいことはないかえ?」
口直しのシャーベットを食べた後、甘酸っぱいコンポートを満喫していたところで突然話を振られた。口の中に入っていたフルーツをごくんと飲み込む。
聞きたいことは、ある。もちろん。
でもこの部屋にはわたしたちのほか、数人の侍女が壁際に控えている。ちらりとそちらに視線をやると、目ざとく気づいたアリサ様が手を軽く振る。すぐに全ての侍女が部屋を出た。
配慮をありがたいと思いつつ、気になっていたことを恐る恐る尋ねた。
病を治すことはできなかったけれど、今は体内の時間を魔力で停止させて症状の進行を抑えているらしい。
「それが功を奏して、今やこんな大きな孫がいる身になるとは思わなんだ。」
イヴァンに顔を向けて楽しそうに笑う姿はとても美しく、どうしても30代前半くらいにしか見えない。すこしはしゃいだ様子なので、よけいに若々しい。女のわたしでも見惚れてしまう。
美女という言葉は、この人のためにあると言っても過言ではないだろう。艶のある真っ黒な髪は腰あたりまで伸ばされ、陶器のようなきめ細かい肌と相まって、偏執な錬金術師が作り上げたホムンクルスと言われても信じてしまいそうだ。エメラルドの瞳は吸い込まれそうな輝きを放っている。
造作だけならアナスタシアも同じくらい整っているんだけど、どこか艶めかしさがあって肉感的なアナスタシアと違い、アリサ様は「神の御使い」という形容がしっくりくる。気安い言葉で話していても、どこか俗世から離れたような、ふわふわした、この世ならざる者のような神秘的な雰囲気がある。
・・・そんなことをぼんやりと考えていたので、アリサ様がわたしのことを推し量るように見つめていたことには気づかなかった。
来客は久しぶりだと言いながら、わたしのことや元の世界のことなど、いろいろなことを尋ねられた。たどたどしく答えを返すと、宝石のような瞳を瞬かせながら身を乗り出すように耳を傾ける。
ルーから「他人の魔力を吸収している」と言われたことを話すと、アリサ様は会話をしながらわたしの手をぎゅっと握った。そうすると温かい何かがわたしの中に流れてくる。ああ、これはアリサ様の魔力だ。ラジウスにも感じた、懐かしいような不思議な感覚。
わたしが魔力を感じ取ったのがわかったのか、アリサ様はにんまりと笑みを浮かべた。
「確かに我の魔力もそなたに流れておる。その能力をうまく使いこなせば際限なく魔力を行使できるぞ。国を興すも滅ぼすも思いのままだ。」
物騒なことを言わないでほしい。わたしが望むのは、魔石を大量生産したいなあとか、そんなささいなことだ。もし言葉のとおり際限なく魔力を行使できるのであれば、少しは何かの役に立てるんじゃないかなあとかすかに期待する。
とはいえ、今のわたしにできるのは、ラジウスに教えてもらった「漏れ出る魔力を止めること」だけだ。理想までの道のりは遠い。
あれこれと話をしているうちに、喉がかわいて我に返る。そこまで来てようやく、けっこうな時間が経過していることに気付いた。
(しまった、イヴァンを放置してた)
「ごめんなさい、わたしばかり夢中で話をしてしまって。」
「問題ない。せっかくの機会だ、それに聞いていて俺も興味深い。」
しょんぼりと謝ると、イヴァンは問題ないと言って近くに置いてあったデカンタからグラスに水を注いて渡してくれた。冷たい水が喉にしみわたる。本来ならばわたしがすべきなのに申し訳ない。
話がひと区切りした後、アリサ様は疲れた様子もなく、イヴァンにも、かつて神殿で生活していたというラジウスのことや彼の兄との些細な会話まで、城の様子や家族の近況などを事細かに尋ねていた。
俗世を捨てて「巫女姫」として神殿に入った時点で、王家との表向きの縁は切れていると聞いている。孫と呼ぶイヴァンも、実際は血の繋がりはない。それでもイヴァンの訪ねを喜んでいることは伝わったし、いくら話しても話したりないようだった。
今日は少し話をして退出する予定だったはずだが、「大したもてなしもできないが、せっかくなので食事でもしていけ」という誘いを受けた。せっかくだからと、予定外だが神殿内で昼食をいただく。アリサ様は基本的にこの部屋から移動しなくてよいように配慮されているらしく、食事も部屋に配膳された。
目の前に並んだのは、精進料理のように肉類を用いない料理だった。メインとして供されたのはトマトシチューのような料理で、肉の代わりに入っているのは、水切りした豆腐のような、カッテージチーズのような食感のものだ。少し酸味があるそれは、フォルという植物の樹液から作られていると説明された。
アリサ様はものすごく博識で、食材のことから始まりこの国の歴史、風習などいろいろなことを教えてくれた。彼女の様子だと外出もままならないだろうに、まるで見てきたかのように話すのが不思議でならない。時折イヴァンが会話に加わるが、私はもっぱら聞き役に回っていた。
「そなたから聞きたいことはないかえ?」
口直しのシャーベットを食べた後、甘酸っぱいコンポートを満喫していたところで突然話を振られた。口の中に入っていたフルーツをごくんと飲み込む。
聞きたいことは、ある。もちろん。
でもこの部屋にはわたしたちのほか、数人の侍女が壁際に控えている。ちらりとそちらに視線をやると、目ざとく気づいたアリサ様が手を軽く振る。すぐに全ての侍女が部屋を出た。
配慮をありがたいと思いつつ、気になっていたことを恐る恐る尋ねた。
0
お気に入りに追加
290
あなたにおすすめの小説
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
異世界の学園で愛され姫として王子たちから(性的に)溺愛されました
空廻ロジカ
恋愛
「あぁ、イケメンたちに愛されて、蕩けるようなエッチがしたいよぉ……っ!」
――櫟《いちい》亜莉紗《ありさ》・18歳。TL《ティーンズラブ》コミックを愛好する彼女が好むのは、逆ハーレムと言われるジャンル。
今夜もTLコミックを読んではひとりエッチに励んでいた亜莉紗がイッた、その瞬間。窓の外で流星群が降り注ぎ、視界が真っ白に染まって……
気が付いたらイケメン王子と裸で同衾してるって、どういうこと? さらに三人のタイプの違うイケメンが現れて、亜莉紗を「姫」と呼び、愛を捧げてきて……!?
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
転生お姫様の困ったお家事情
meimei
恋愛
前世は地球の日本国、念願の大学に入れてとても充実した日を送っていたのに、目が覚めたら
異世界のお姫様に転生していたみたい…。
しかも……この世界、 近親婚当たり前。
え!成人は15歳なの!?私あと数日で成人じゃない?!姫に生まれたら兄弟に嫁ぐ事が慣習ってなに?!
主人公の姫 ララマリーアが兄弟達に囲い込まれているのに奮闘する話です。
男女比率がおかしい世界
男100人生まれたら女が1人生まれるくらいの
比率です。
作者の妄想による、想像の産物です。
登場する人物、物、食べ物、全ての物が
フィクションであり、作者のご都合主義なので
宜しくお願い致します。
Hなシーンなどには*Rをつけます。
苦手な方は回避してくださいm(_ _)m
エールありがとうございます!!
励みになります(*^^*)
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる