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本編

76 それはヒミツの味1 【side ラジウス】

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(なんか昔のことを思い出してしまった)

がらにもなく感傷に浸ってしまったのは自分と同じ異世界から来た姫に出逢ったからだろうか。もう10年も前のことなのに、今でも僕の中では生々しい記憶として残っている。

屋敷内の貴賓室で、すよすよと気持ちよさそうに眠る姫に視線を移した。まるで名工が造り出した精緻な人形のような美しさに改めて目を瞠る。

あるじってば、なんだかんだ言って面食いだったんだね)

僕の記憶にある限り、殿下は女性に言い寄られることはあっても自分から女性に好意を寄せたことはない。ひょっとしてこれが初恋なのかもしれない。

この部屋だって、普段はよほどの賓客でもない限りは使われない特別室だ。自ら抱きかかえて運んだばかりか迷いもせずにこの部屋を使わせるなんて、特別だと知らしめているようなものだ。屋敷の人間もよほど大切な相手だと理解したことだろう。

「ん・・・るー、ちゅーして。」

小さな声で寝言が聞こえた。一瞬起きたのかと身構えたが、まだ起きてはなさそうだ。

陶磁器のような滑らかな肌に、長い睫毛に、誘うように濡れた唇に、目が釘付けになる。

幼い時のトラウマで女性にいい感情を持っていない僕から見ても申し分ない美しさだ。少女とも女性ともつかぬ危うい色香で、しかも体は極上の娼婦よりもさらに艶めかしい。聖ルーシの国王が見せるあの執着めいた寵愛ぶりも頷ける。

(ふふふー。もうちょっと味見させてね)

姫が眠っているのをいいことに、顔を近づけて赤く艶めいた唇を舐めた。異物に反応してわずかに開いた隙間を逃さず舌をねじ込む。

「ううんっ・・んっ・・」

少し苦しそうな声で喘ぎながら、姫は両腕を伸ばして僕をベッドに引き込み抱き込んだ。よろめきそうになるのを何とか堪えて、体重をかけないように両腕で支えて挟み込む。姫はそんな僕にはお構いなしに首に腕を絡めてきた。

「あれ? 起きたかな?」と思ったけれど、まだ起きたものの寝ぼけているっぽい。

いたずら心を起こした僕は、ゆっくり、ゆーっくりやさしく舌を動かして、咥内を舐めまわしたり相手の舌をつついたりした。

れろれろと刺激するたびに力が抜けて、すがるように僕にしがみついてくる。豊かな胸を押し付けてくるのがたまらない。

「ふっ・・・ふぁあ・・」

姫は必死に僕の舌を受け入れながら、自分から舌を絡めてきた。ちょっと驚いたけど、誰かと勘違いしているみたいだった。

きゅうっと舌を強く吸うと、気持ちよさそうにびくびくと腰が動く。

「っは、ナニこれ。ちょー気持ちいい。」

異世界の魔力同士で質が似ているためか、姫から滲む魔力はおそろしく気持ちがいい。そのせいもあって絡める舌も、瑞々しい唇も、媚薬のように甘い。

ちょっとした出来心だったはずなのに、夢中になって唇を貪った。

(これはもう、絶対に姫は返せないなあ)

殿下の伴侶として身分、魔力、外見、どれをとってもこれほど条件に適う相手は他にいない。できれば僕にも時折姫を堪能させてもらえればありがたいけれど、この際文句は言うまい。

衝動的とはいえ、このタイミングで姫を連れ帰れたのはラッキーだった。きっと昨夜を逃したらこんな簡単にことは進まなかっただろう。

残念ながら僕の魔力は精神には作用しないので、やさしくして懐柔して殿下のことを好きになってもらわなくては。このまま屋敷に監禁すれば手っ取り早いけれど、それは殿下が許さないだろうから別の方法を・・・うーん、場合によっては一時的に薬で篭絡してもいいかもしれないな。

脳内で今後の計画を考えながら、このまま脱がしても許されるかなあとか考える。姫も気持ちよさそうだし、、、流れでなんとなく。とか。

くせになりそうなくらい甘い唇を何度も舐めているうちに、ようやく頭がはっきりしたのか姫が驚いたように目を見開いてこちらを見た。

(しまった、これじゃあ僕が襲っているみたいじゃないか)

熱に浮かされたような気持が急に冷めた。代わりに「しまった」という気持ちが上書きする。

こんな体勢でエロいキスをして、完全に言い逃れできない。それでもなんとか言いくるめようと頭を働かせていたら、姫が「うひゃああっ、失礼しましたっ!!」と素っ頓狂な声を上げて手を離した。そのまま土下座せんばかりの勢いで平謝りする。

「ご・・・ごめんなさいっ。夢で人とキスしていると思ってっ。」

見ると顔も真っ赤だ。あんなに情熱的なキスをしてきたくせに、ここまで男慣れしていない反応をするなんて思わなかった。あまりの意外性に内心驚きつつ、なぜか笑いが込み上げてきた。

「くはっ、大丈夫ですよ。姫。僕は女性には興奮しないですから。」

気持ちよくなるのは非常に好きですけどね、という心の声は隠しておく。

「うう、本当にごめんなさい。いたいけな少年に性的いたずらをして気持ちよくなってしまうなんて、、、。」

(いま気持ちよくなったって言ったよね? じゃあもっとキスしてもいいよね)

発言を聞いて口元が自然と綻ぶ。もう帰りたくなくなるくらいに甘やかすという手もアリだな、と思いながら言葉を続けた。

「ふつうは自分がどこに連れてこられたか確認するのが最初でしょうに。」

「へ? え、ここってどこ? 確かに見たことないお部屋だけど、、、ひょっとして王宮じゃないとかでしょうか?」

「はい、諸事情ありましてイヴァン殿下の私邸にお連れしました。用事が済みましたらアレクセイ陛下の元にお返しすると先方へはお伝えしていますのでご安心ください。」

「そうだったんですね。すみません、しばらくお世話になります。」

「ねえ姫、失礼でなければもう一度キスしてもいいですか?」

無邪気さを装って不埒なお願いをする。

姫は、はて? と首をかしげた後、言葉の意味が分かって顔を真っ赤にさせた。
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