不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

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本編

42 墜落3 【side アレクセイ】

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午前中にたまっていた仕事を片付けてから(ちゃんと仕事はしている、王様だからね)、午後は、王都に滞在してすっかり羽を伸ばしているゴドノフ卿の元へ足を運ぶことにする。

彼は私が妃を娶ると勘違いしてわざわざ祝いにやってきたわけだが、奇しくも事実になってしまったわけだ。

先んじて用件は手紙で送ってあるので、今回の訪問はご機嫌伺いを兼ねた駄目押しといったところか。急な思い付きだったが、彼が遠方の領地に戻る前に手が打てて幸運だった。

イヴァンから巻き上げたキリル名産のワインを手みやげに持つ。その土地でしかとれない貴腐ブドウを使ったもので、濃厚な甘みと馥郁とした香りが酒好きだけでなく女性にも人気がある品だ。生産量が少なく国外の市場にはなかなか出回らないので喜ぶだろう。

今日はセイを連れているので転移ではなく、キャリッジと呼ばれる2頭立ての馬車を手配させた。黒地に金で王家の紋章があしらわれているほかは余計な装飾がなく、比較的地味なものだ。待機していた御者に行先を告げて乗り込んだ。

馬車内は、きわめて静かだった。

常であればその日の予定や確認事項などについて言葉を交わすの、だが、


(・・・・・・目線が合わない)


向かいに座る相手を見ると、ふいと窓の外に視線を向けられた。さりげなさを装ったつもりだろうが、わざとらしいこと、この上ない。

そもそも今朝からセイの様子は普通じゃなかった。朝から必要最小限のことは口にするものの、それ以外はほとんど喋らない。馬車内に2人ということはよくあるが、ここまで気まずい空気になるのはそうそうない。冷静さを装ってはいるが、昨夜のことを気にしているのは明白だった。

この男がここまで私情を表に出すのは珍しいと思いつつ、どう対処すればいいのかわからない。

カタカタという車輪の音だけが響く。
息苦しさのあまり、つい余計なことを口にしてしまった。

「えーっと、昨晩は非常に満足したよ。アナスタシア嬢は初めてとは思えないくらい感じやすくてかわいくて。あと、彼女から求めてくれて。」

セイは、瞬間私のことを見たあと、ぱっと目を逸らして下を向いた。

私は一瞬でもセイの気がこちらを向いたのに気を良くして、一方的に会話を続ける。

「彼女も嫌がってなかったし、気持ちよさそうだった。セイが慣らしてくれていたおかげかな。」

「・・・・・・。」

「あと明るいのを恥ずかしがるのも、イくのを我慢するのも初々しくて、それがまた堪らなくて。」

「・・・・・っ。」

向かいで息を飲んだのがわかった。下を向いたまま手を固く握りしめる姿が目に入る。


あれ、、、おかしい。なんだか言っているうちにざくざく墓穴を掘っている気が。

しまったと思ったときには遅かった。向かいに座るセイは、俯いていた顔を上げて、死にそうなくらい情けない顔でこちらを見た。

「・・・陛下は、私を殺したいのですか?」

「そうじゃなくて、、、ええと、ごめん。」

なんだ、そんな顔もできるんじゃないか、と内心思ったが、口には出さなかった。





到着したのは王都の一等地にありながらも落ち着いた雰囲気の屋敷で、背後には広大な森が広がっていた。玄関前で御者が扉を開けると同時にするりと馬車を降りる。

出迎えてくれたのは、屋敷の主と同じかそれ以上の年齢を重ねた白髪の家令のみだった。地味な馬車で少人数という状況から非公式の訪問だと理解してくれたようだ。

丁重に応接室に案内されると、既に屋敷の主が待っていた。先日の謁見では正装だったのに対し、今日はゆったりとした長衣を着てくつろいだ様子が見てとれた。杖をつきながら立ち上がろうとするのを手で制す。

「今日は個人的な用で来たから、楽にしていて。」

「もったいないお言葉でございます。それにしてもお若いころの先王陛下にますます似てこられましたなあ。」

目を細めてゴドノフが感慨深げにつぶやくのが耳に入った。その先王を弑したのが私だと知っていてその言葉を口にする、彼の意図は掴めない。でも私にとっては憎い相手でも、ゴドノフにとっては懐かしい君主であるのだろう、それ以上は何も言わなかった。

私が奥のソファに座るのを待ってから、セイが隣に座った。恭しく家令が紅茶をサーブし、主人用には怪しい濃緑の液体をカップに注ぐ。

あまりの毒々しさに思わずカップを凝視すると、家令は「最近主が健康のために欠かさず飲んでいる薬草茶なのでご心配なく。」と笑い、指南本の見本のような素晴らしい一礼をして退出した。

胸の前で手を組む異国風の礼を取ったゴドノフは、孫の顔でも見るように、うれしそうな顔で私を見た。今ではすっかり好々爺の風情だが、つい数年前までは国境沿いを護り、老齢ながら素晴らしい働きをした武人だ。彼が酒に目がないのは有名な話で、ワイン(賄賂ともいう)もたいそう喜んでくれた。

しばらくたわいもない世間話をした後、お茶を一口啜り、頃合いを見計らったようにゴドノフから話を切り出した。
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