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本編
30 醒めない夢か、現実か、それとも見せかけか
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「快楽に弱いって、なに?」
セイに抱きしめられた状態のまま、疑問をぶつける。今は抱え込むような体勢なので、彼の顔は見えない。変なかんじ。そう思っていたら、彼は眼鏡をはずして傍に置くと、くるりと私の向きを変えて目線を合わせてくれた。囲い込んだ腕は緩めないままだ。
「快楽に弱いというのは、あなたの体質のことです。魅了の魔力を行使すると、代償として快楽を求めます。こんなふうに。」
そう言うと、彼は唐突に私の首元に顔を埋め、ふっと息を吹きかけた。急に与えられた快感にぞくぞくして「ふあぁんっ」と変な声が出る。
「おそらく魔力の制御がうまくいっていないのでしょう。無意識に魔力を使っているのかもしれません。それに日常的に与えられる快楽に慣れた体は、わずかな快感も拾ってしまいますから。」
彼の手が私の身体の線をなぞるように撫で上げる。ゆっくり、ガラス細工を扱うように、丁寧に。そしてわたし自身も知らない気持ちいい場所を、ひとつひとつ教え込むように。
わたしが着ているのは、寝ていた間に誰かが着替えさせてくれたであろう、肌触りが良い素材の夜着だ。薄手の生地のため、服の上から触られても素肌に触られているのと同じくらい気持ちよくなってしまう。むしろ布が肌にこすれる感じが刺激になって、よけい敏感に感じる。
胸を執拗に触られ、揉まれる。その途端、恥ずかしいくらいに下半身が濡れたのがわかった。快感を拾うってこういうことかな。ちょっとしたことで、からだの芯からぐずぐずになる。
ルーといい、アレクセイ陛下といい、ちょっと変た、、、いや風変わりかつ強引なので、わたしの反応を窺うように触る愛撫は新鮮で、蕩けそうだ。
ベッドの上で恋人でもない男性からからだを弄られるという異常事態にもかかわらず、拒否感や抵抗感はまったくなかった。むしろ「もっと触ってほしい」という欲が頭をもたげる。無意識に彼の手をねだるように身をすり寄せた。
「あなたは・・・ナーシャの、アナスタシア嬢のことを、ルー・レイスティアから、どこまで聞いてますか?」
よこしまに蠢く手は止めないままで、セイが私に尋ねた。
「ええと、いいところのお嬢さんで王様と結婚する予定だったっていうことと、手違いで私が彼女のからだに入ってしまって、彼女の魂は行方不明って聞いた。」
子猫を可愛がるように、あちこち撫でられる。いたずらに攻める手に抗う術はない。気持ちよさに身悶えながらも覚えている限りのことを伝えた。
ご褒美なのか、額にやさしくキスされる。
「そうですね。おおむねその通りですが、ふたつ、違います。ひとつめは、結婚するはずだったのはアレクセイ陛下ではなく、隣国キリル公国のイヴァン殿下です。そして、ふたつめ。彼女の魂は、行方不明ではなく、ちゃんとあなたの中に、います。」
そう言うと、彼はとん、とわたしの胸に右手を置いた。再び、じいっと私のことを見つめる。
あ、まただ。
わたしの中の彼女を探そうとする、瞳。
わずかな欠片も見逃さないという気持ちの表れか、まばたきすらしない。眼鏡をはずしてよく見えるようになった彼の青い瞳は、希少な宝石のように神秘的な光を宿していた。
「・・・わたしのなかに、ちゃんとアナスタシアがいるってこと?」
「はい、貴方の魂と彼女の魂は混ざったと聞いています。それと、召喚されたのは貴方のなかの魂の一部なので、貴方の本体は、元の世界で普通に暮らしているとも。」
(え。そうなの??)
今の一言が、いちばん驚いた。異世界に召喚されて、元の世界では行方不明扱いかな、とか思っていたのに。なんだ、元の世界は何も変わりなく動いているんだ。
問題なくてよかった、というほっとした気持ちと、じゃあ今いるわたしって、いったいなんだろうという気持ちが、ないまぜになる。
今のわたしは、どちらの世界でも中途半端じゃないか。既に元の世界に戻る場所はない。この世界では、誤って他人の意識を呑み込んでしまったイレギュラーな存在だ。
現代日本人の感覚で「魂が混じる」なんてありえないと思うのに、それが当然だとされる価値観。魔力があり、王様がいる、物語のような世界。
このまま元の世界にも戻れず、この、夢のような非現実的な世界で、死ぬまでアナスタシアとして生きていけというのだろうか。
(これは、やっぱり夢じゃないの・・・?)
自分の頬をつねろうかと思った。
夢だったらいいと思う。目覚めるまで、という終わりがあるから。でも、彼の言葉が本当であれば、このさき何度眠り、目覚めても、この世界からは逃れられないのだ。
がんっと、思いきり頭を殴られた気がした。
唐突に与えられた情報は、わたしには処理しきれないものだった。かなしいとか、帰りたいとか、そういう感情すら浮かばない。終わりがない、という現実を目の当たりにして、ただ呆然と、呟く。
「じゃあ、これから何をすればいいの?」
(現実感がまったくない。わたしが存在する意義はなんだろう)
「・・・なにも。貴方はアナスタシアとして生きていくしかないんです。」
残酷な、答えだった。
彼には、私の気持ちはわからないだろう。それなのに、なぜか返す答えは的確で。
「ねえ、ナーシャ。聞こえていますか。」と小さな声がした。
わたしではない、彼女への囁きだった。
そのまま柔らかに唇を舐められる。はふ、と息をすると、待ちかねていたように舌が侵入した。舌が咥内をかき回すのと同時に、細く、長い指がわたしのからだを弾く。
「ふああっ」
「私の望みは、ナーシャを幸せにすること。そのためにも貴方にはナーシャと一緒に生きてもらう必要があります。」
だから、彼女のことをもっと知ってください。私が知っていることは全て教えますので、とセイは呟いた。そして、わたしごと彼女を味わうかのように、ゆっくりと愛撫を続けた。
――何度も、何度も、キスされた。
諦めてこの世界の現実を受け入れろと言われているみたいだった。
セイに抱きしめられた状態のまま、疑問をぶつける。今は抱え込むような体勢なので、彼の顔は見えない。変なかんじ。そう思っていたら、彼は眼鏡をはずして傍に置くと、くるりと私の向きを変えて目線を合わせてくれた。囲い込んだ腕は緩めないままだ。
「快楽に弱いというのは、あなたの体質のことです。魅了の魔力を行使すると、代償として快楽を求めます。こんなふうに。」
そう言うと、彼は唐突に私の首元に顔を埋め、ふっと息を吹きかけた。急に与えられた快感にぞくぞくして「ふあぁんっ」と変な声が出る。
「おそらく魔力の制御がうまくいっていないのでしょう。無意識に魔力を使っているのかもしれません。それに日常的に与えられる快楽に慣れた体は、わずかな快感も拾ってしまいますから。」
彼の手が私の身体の線をなぞるように撫で上げる。ゆっくり、ガラス細工を扱うように、丁寧に。そしてわたし自身も知らない気持ちいい場所を、ひとつひとつ教え込むように。
わたしが着ているのは、寝ていた間に誰かが着替えさせてくれたであろう、肌触りが良い素材の夜着だ。薄手の生地のため、服の上から触られても素肌に触られているのと同じくらい気持ちよくなってしまう。むしろ布が肌にこすれる感じが刺激になって、よけい敏感に感じる。
胸を執拗に触られ、揉まれる。その途端、恥ずかしいくらいに下半身が濡れたのがわかった。快感を拾うってこういうことかな。ちょっとしたことで、からだの芯からぐずぐずになる。
ルーといい、アレクセイ陛下といい、ちょっと変た、、、いや風変わりかつ強引なので、わたしの反応を窺うように触る愛撫は新鮮で、蕩けそうだ。
ベッドの上で恋人でもない男性からからだを弄られるという異常事態にもかかわらず、拒否感や抵抗感はまったくなかった。むしろ「もっと触ってほしい」という欲が頭をもたげる。無意識に彼の手をねだるように身をすり寄せた。
「あなたは・・・ナーシャの、アナスタシア嬢のことを、ルー・レイスティアから、どこまで聞いてますか?」
よこしまに蠢く手は止めないままで、セイが私に尋ねた。
「ええと、いいところのお嬢さんで王様と結婚する予定だったっていうことと、手違いで私が彼女のからだに入ってしまって、彼女の魂は行方不明って聞いた。」
子猫を可愛がるように、あちこち撫でられる。いたずらに攻める手に抗う術はない。気持ちよさに身悶えながらも覚えている限りのことを伝えた。
ご褒美なのか、額にやさしくキスされる。
「そうですね。おおむねその通りですが、ふたつ、違います。ひとつめは、結婚するはずだったのはアレクセイ陛下ではなく、隣国キリル公国のイヴァン殿下です。そして、ふたつめ。彼女の魂は、行方不明ではなく、ちゃんとあなたの中に、います。」
そう言うと、彼はとん、とわたしの胸に右手を置いた。再び、じいっと私のことを見つめる。
あ、まただ。
わたしの中の彼女を探そうとする、瞳。
わずかな欠片も見逃さないという気持ちの表れか、まばたきすらしない。眼鏡をはずしてよく見えるようになった彼の青い瞳は、希少な宝石のように神秘的な光を宿していた。
「・・・わたしのなかに、ちゃんとアナスタシアがいるってこと?」
「はい、貴方の魂と彼女の魂は混ざったと聞いています。それと、召喚されたのは貴方のなかの魂の一部なので、貴方の本体は、元の世界で普通に暮らしているとも。」
(え。そうなの??)
今の一言が、いちばん驚いた。異世界に召喚されて、元の世界では行方不明扱いかな、とか思っていたのに。なんだ、元の世界は何も変わりなく動いているんだ。
問題なくてよかった、というほっとした気持ちと、じゃあ今いるわたしって、いったいなんだろうという気持ちが、ないまぜになる。
今のわたしは、どちらの世界でも中途半端じゃないか。既に元の世界に戻る場所はない。この世界では、誤って他人の意識を呑み込んでしまったイレギュラーな存在だ。
現代日本人の感覚で「魂が混じる」なんてありえないと思うのに、それが当然だとされる価値観。魔力があり、王様がいる、物語のような世界。
このまま元の世界にも戻れず、この、夢のような非現実的な世界で、死ぬまでアナスタシアとして生きていけというのだろうか。
(これは、やっぱり夢じゃないの・・・?)
自分の頬をつねろうかと思った。
夢だったらいいと思う。目覚めるまで、という終わりがあるから。でも、彼の言葉が本当であれば、このさき何度眠り、目覚めても、この世界からは逃れられないのだ。
がんっと、思いきり頭を殴られた気がした。
唐突に与えられた情報は、わたしには処理しきれないものだった。かなしいとか、帰りたいとか、そういう感情すら浮かばない。終わりがない、という現実を目の当たりにして、ただ呆然と、呟く。
「じゃあ、これから何をすればいいの?」
(現実感がまったくない。わたしが存在する意義はなんだろう)
「・・・なにも。貴方はアナスタシアとして生きていくしかないんです。」
残酷な、答えだった。
彼には、私の気持ちはわからないだろう。それなのに、なぜか返す答えは的確で。
「ねえ、ナーシャ。聞こえていますか。」と小さな声がした。
わたしではない、彼女への囁きだった。
そのまま柔らかに唇を舐められる。はふ、と息をすると、待ちかねていたように舌が侵入した。舌が咥内をかき回すのと同時に、細く、長い指がわたしのからだを弾く。
「ふああっ」
「私の望みは、ナーシャを幸せにすること。そのためにも貴方にはナーシャと一緒に生きてもらう必要があります。」
だから、彼女のことをもっと知ってください。私が知っていることは全て教えますので、とセイは呟いた。そして、わたしごと彼女を味わうかのように、ゆっくりと愛撫を続けた。
――何度も、何度も、キスされた。
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