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本編
22 月に叢雲、花に風4 【side アレクセイ】
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(なんか泥沼にハマった気分だ・・・)
まるで、そう。積んだゲームをひっくり返そうとしている気分。こちらを活かせばあちらが立たず、八方塞がり、四面楚歌。
女王の駒を、どこに配置すれば正解なのか、本気でわからない。
あれこれ考えていたら既に夕方になっていた。念のため言っておくけど、一応仕事はきちんとしてるよ。ただ、仕事をしていても、誰かと話していても、彼女のことが頭から離れないだけで。
我ながら、まるで、恋でもしているみたいだと思う。
とりあえずアナスタシア嬢は王宮内に滞在するよう手配した。ルーのあの執着っぷりでは、レイスティア邸に連れていかれたら二度と出てこれない気がしたからだ。
では、どうすれば丸く収まるのか。負けない戦いを心掛ける私にとって、ここが最大のポイントだ。
ルーに託さないとすれば、セイに引き渡すか。おそらくルー同様、彼女を監禁して一歩も外に出さないだろう。セイには何も知らせず当初予定どおりにイヴァンへ嫁がせるのが一番無難な気もするが、恋する相手が隣国でいとこの妻になっていると知ったら、ショックで立ち直れないかもしれない。
そもそも全ての問題の原因であるイヴァンはこのことを知っているんだろうか。魔術に長けたあの国であれば、解決の糸口がつかめる可能性がある。確か最高位の巫女はイヴァンの祖母なはずだ。何か知っているかもしれない。
(あとは、私が彼女を預かって管理するとか・・・、うーん)
ぐるぐると考えが頭をめぐるが、全く解決の糸口は見つからない。
ひとつ思いついた計画は、無謀かもしれないし、うまくいくかもしれないという危ういものだった。きっと真面目なセイなら反対しそうな、そんなやつ。でも選択肢としては最善。
頭を整理しなくちゃ。ぐしゃぐしゃと乱暴に頭をかきむしると、薄手のコートを着てイヴァンがいる隣国の宮殿まで一気に転移した。魔力量が落ちる時期なので遠距離の移動は魔力消費が激しいが、そんなことを言っている場合ではなかった。
「うーー、イヴァンのばかー。考えなしーー。」
「うわっ。事前に連絡はよこせと何度言えばわかるんだ。」
ちょうど仕事が終わったところだったのか、イヴァンは自室で着替えている途中で上半身裸だった。広い部屋のあちこちに公国の特産品である魔力入りの琥珀があしらわれている。いつも佩いている長剣は壁に立てかけられ、脱いだばかりと思われる上着とシャツはソファーの上だ。
侍女や侍従の手を借りずに自分でやっているのはさすが。ついでに鍛えているであろう腹筋が目に映る。男の私が見ても惚れ惚れする肉体だ。女性はこういうのが好きなんだろうなあと、ぼんやり考える。いやいや、のんきに現実逃避している場合じゃなかった。しっかししろ、私。
無茶な転移で、へろへろになりながらイヴァンの足に縋りつくように抱きついた。つられてイヴァンも床に座り込むと思ったら、鍛えているだけあってびくともしなかった。
この男はかけらも堪えないだろうとは思いながら、それでも精一杯恨みがましい目をして「なんで異世界から魔力召喚とかしちゃうわけ?おかげで大変なことになってるんだけど。」と責めると、イヴァンは「召喚??」と驚いたように青い瞳を瞬かせた。
この様子だと、イヴァンも知らなかったようだ。
「まさかアナスタシア嬢のことか?俺は召喚なんて命じてないぞ。先日急に『婚姻の打診はなかったことにしたい』とか言われて落ち込んでるのに。まさか、そんな。」
「じゃあ大神官の独断でやったんじゃないの? あれは確かに公国の術式のはずだし、製造責任で何とかしてほしいんだけど。」
「ううむ。宮廷内の誰かが忖度して手を出したのかもしれないな。確かにちょうど10年に1度の召喚時期にあたるが、他国の人間を巻き込むなんてことしていいと思っているのか。あれは確か魂が融合してしまうから分離はできないはずだよ・・・な。」
事態の深刻さに気付いたのかイヴァンの声が徐々に小さくなる。
イヴァンの反応を見て、もう元には戻らないと認識しているのだとわかってしまった。それは、つまり、セイが恋したアナスタシアは2度と戻らないということで。
事実を知ってセイが落胆する様は容易に想像できた。偽善だと言われようと、あの不器用な男が憔悴するさまは、これ以上見たくない。
(そのためには彼女は私の手の中にある必要があるんだ)
決心を口には出さずに無言で彼を見上げると、イヴァンは私をソファに座らせ、自分もひじ掛けの部分に腰かけると、気を取り直したように言った。
「心配するな。魂が混じってしまっても俺は全く構わないぞ。アナスタシア嬢さえ頷いてくれれば、妃としていつでも迎え入れる準備はある。」
「いや・・・それが事情が変わってしまったんだ。私が彼女を側妃にする。」
私の言葉を聞いて、きょとんと目を瞬かせた。そして、絶叫した。
「なにーーー??? どうしてそんなことになったんだ。もう議会の承認も下りているんだぞ!」
鬼のような形相で詰め寄らないでほしい。だいたい私のほうが言いたい。どうしてこんなことになったんだ!
まるで、そう。積んだゲームをひっくり返そうとしている気分。こちらを活かせばあちらが立たず、八方塞がり、四面楚歌。
女王の駒を、どこに配置すれば正解なのか、本気でわからない。
あれこれ考えていたら既に夕方になっていた。念のため言っておくけど、一応仕事はきちんとしてるよ。ただ、仕事をしていても、誰かと話していても、彼女のことが頭から離れないだけで。
我ながら、まるで、恋でもしているみたいだと思う。
とりあえずアナスタシア嬢は王宮内に滞在するよう手配した。ルーのあの執着っぷりでは、レイスティア邸に連れていかれたら二度と出てこれない気がしたからだ。
では、どうすれば丸く収まるのか。負けない戦いを心掛ける私にとって、ここが最大のポイントだ。
ルーに託さないとすれば、セイに引き渡すか。おそらくルー同様、彼女を監禁して一歩も外に出さないだろう。セイには何も知らせず当初予定どおりにイヴァンへ嫁がせるのが一番無難な気もするが、恋する相手が隣国でいとこの妻になっていると知ったら、ショックで立ち直れないかもしれない。
そもそも全ての問題の原因であるイヴァンはこのことを知っているんだろうか。魔術に長けたあの国であれば、解決の糸口がつかめる可能性がある。確か最高位の巫女はイヴァンの祖母なはずだ。何か知っているかもしれない。
(あとは、私が彼女を預かって管理するとか・・・、うーん)
ぐるぐると考えが頭をめぐるが、全く解決の糸口は見つからない。
ひとつ思いついた計画は、無謀かもしれないし、うまくいくかもしれないという危ういものだった。きっと真面目なセイなら反対しそうな、そんなやつ。でも選択肢としては最善。
頭を整理しなくちゃ。ぐしゃぐしゃと乱暴に頭をかきむしると、薄手のコートを着てイヴァンがいる隣国の宮殿まで一気に転移した。魔力量が落ちる時期なので遠距離の移動は魔力消費が激しいが、そんなことを言っている場合ではなかった。
「うーー、イヴァンのばかー。考えなしーー。」
「うわっ。事前に連絡はよこせと何度言えばわかるんだ。」
ちょうど仕事が終わったところだったのか、イヴァンは自室で着替えている途中で上半身裸だった。広い部屋のあちこちに公国の特産品である魔力入りの琥珀があしらわれている。いつも佩いている長剣は壁に立てかけられ、脱いだばかりと思われる上着とシャツはソファーの上だ。
侍女や侍従の手を借りずに自分でやっているのはさすが。ついでに鍛えているであろう腹筋が目に映る。男の私が見ても惚れ惚れする肉体だ。女性はこういうのが好きなんだろうなあと、ぼんやり考える。いやいや、のんきに現実逃避している場合じゃなかった。しっかししろ、私。
無茶な転移で、へろへろになりながらイヴァンの足に縋りつくように抱きついた。つられてイヴァンも床に座り込むと思ったら、鍛えているだけあってびくともしなかった。
この男はかけらも堪えないだろうとは思いながら、それでも精一杯恨みがましい目をして「なんで異世界から魔力召喚とかしちゃうわけ?おかげで大変なことになってるんだけど。」と責めると、イヴァンは「召喚??」と驚いたように青い瞳を瞬かせた。
この様子だと、イヴァンも知らなかったようだ。
「まさかアナスタシア嬢のことか?俺は召喚なんて命じてないぞ。先日急に『婚姻の打診はなかったことにしたい』とか言われて落ち込んでるのに。まさか、そんな。」
「じゃあ大神官の独断でやったんじゃないの? あれは確かに公国の術式のはずだし、製造責任で何とかしてほしいんだけど。」
「ううむ。宮廷内の誰かが忖度して手を出したのかもしれないな。確かにちょうど10年に1度の召喚時期にあたるが、他国の人間を巻き込むなんてことしていいと思っているのか。あれは確か魂が融合してしまうから分離はできないはずだよ・・・な。」
事態の深刻さに気付いたのかイヴァンの声が徐々に小さくなる。
イヴァンの反応を見て、もう元には戻らないと認識しているのだとわかってしまった。それは、つまり、セイが恋したアナスタシアは2度と戻らないということで。
事実を知ってセイが落胆する様は容易に想像できた。偽善だと言われようと、あの不器用な男が憔悴するさまは、これ以上見たくない。
(そのためには彼女は私の手の中にある必要があるんだ)
決心を口には出さずに無言で彼を見上げると、イヴァンは私をソファに座らせ、自分もひじ掛けの部分に腰かけると、気を取り直したように言った。
「心配するな。魂が混じってしまっても俺は全く構わないぞ。アナスタシア嬢さえ頷いてくれれば、妃としていつでも迎え入れる準備はある。」
「いや・・・それが事情が変わってしまったんだ。私が彼女を側妃にする。」
私の言葉を聞いて、きょとんと目を瞬かせた。そして、絶叫した。
「なにーーー??? どうしてそんなことになったんだ。もう議会の承認も下りているんだぞ!」
鬼のような形相で詰め寄らないでほしい。だいたい私のほうが言いたい。どうしてこんなことになったんだ!
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