11 / 23
伍場 四
しおりを挟む
「あぁ。寝ちまったのか」
屋敷に戻った吉右衛門は寝ている靜華を見つけ安堵した。それから、掛布団を奥から持ってきてかけてあげていたのだ。見慣れた寝顔だが目の前の靜華は涙の痕が頬にあった。
「そんなに、いやか……」
涙の訳はおそらく屋敷を出ていく前の事だろうと考えて指で頬をなでていた。
「あんた。誰がさわってええ言うた?」
スッと通る声を発し遅れて目を開いた靜華が、大きな瞳を鋭く光らせ吉右衛門を見ている。しかし、語気に鋭さは感じられない。これは、靜華が良くやる嬉しい時の反応だ。
「なんだ、起きてたのか」
「そやな。掛布団をかけてウチの事をいやらしく見てはったあたりからや」
「そいえば、竜が来なかった?」
吉右衛門は屋敷に急ぎ戻った一番の懸案を訪ねた。
「藪から棒やなぁ~。来はったで。おおきになぁ、言わはりよった」
「お前の言い方聞いてると、今一つ切迫した感じが伝わらねぇな。京ことばのせいなのか?」
「はんなりやろ。ウチは西の方から転々としてきたからな。言葉は京ことばだけじゃなくていろいろ混じってん」
「そうなんだ。で、竜はそれだけか?」
「……そうやな。それだけやった」
靜華の顔が一瞬だけ曇った様に感じたが、それも気のせいと思えるくらいあふれる笑顔を返してきた。
「さっきの事、かんにんな。よく考えたら、あれウチに良い暮らしさせたかったからやろ。そこを汲めんと怒ってしもたな。でもな、危ないん仕事はあんたにさせとうないんや。それはわかりはるよな?」
「ああ、十分伝わっているよ」
起き上がった靜華が手を取って珍しく吉右衛門に不安げな表情を見せていた。靜華は暮らしぶりについては満足していた。どちらかと言えば自分を理由に吉右衛門が無理をしそうで怖いのだ。どうも、その辺りが伝わり切れていないと思う靜華である。
屋敷に戻った吉右衛門は寝ている靜華を見つけ安堵した。それから、掛布団を奥から持ってきてかけてあげていたのだ。見慣れた寝顔だが目の前の靜華は涙の痕が頬にあった。
「そんなに、いやか……」
涙の訳はおそらく屋敷を出ていく前の事だろうと考えて指で頬をなでていた。
「あんた。誰がさわってええ言うた?」
スッと通る声を発し遅れて目を開いた靜華が、大きな瞳を鋭く光らせ吉右衛門を見ている。しかし、語気に鋭さは感じられない。これは、靜華が良くやる嬉しい時の反応だ。
「なんだ、起きてたのか」
「そやな。掛布団をかけてウチの事をいやらしく見てはったあたりからや」
「そいえば、竜が来なかった?」
吉右衛門は屋敷に急ぎ戻った一番の懸案を訪ねた。
「藪から棒やなぁ~。来はったで。おおきになぁ、言わはりよった」
「お前の言い方聞いてると、今一つ切迫した感じが伝わらねぇな。京ことばのせいなのか?」
「はんなりやろ。ウチは西の方から転々としてきたからな。言葉は京ことばだけじゃなくていろいろ混じってん」
「そうなんだ。で、竜はそれだけか?」
「……そうやな。それだけやった」
靜華の顔が一瞬だけ曇った様に感じたが、それも気のせいと思えるくらいあふれる笑顔を返してきた。
「さっきの事、かんにんな。よく考えたら、あれウチに良い暮らしさせたかったからやろ。そこを汲めんと怒ってしもたな。でもな、危ないん仕事はあんたにさせとうないんや。それはわかりはるよな?」
「ああ、十分伝わっているよ」
起き上がった靜華が手を取って珍しく吉右衛門に不安げな表情を見せていた。靜華は暮らしぶりについては満足していた。どちらかと言えば自分を理由に吉右衛門が無理をしそうで怖いのだ。どうも、その辺りが伝わり切れていないと思う靜華である。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。


側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる