46 / 56
藤次郎-7
しおりを挟む
「藤次郎! 今夕、城下町の旅籠まで神官殿をお連れしてくれ、神官殿は当家で仕事を終えられ街見物したいそうだ。お前は旅籠までお連れしたら戻って良い。そのまま、夜の巡回に入ってくれ」
藤次郎が警護預かりになって半月ほどになろうかという頃、都から呼び寄せたという神官一行の警備兼道案内を仰せつかった。警備とは名ばかりで旅籠までの道案内だ。
「参りましょう。」
藤次郎が神官に促して街へと歩き出した。旅籠までは1km程、それほどこの街を知らないもので見聞きしたことのある大きな旅籠である。
神官は供の者合わせて三名。痩せていて神経質そうな神官と、その逆ででっぷりと肥えているお供に、背の低い眉間にしわを寄せてこれまた神経質そうなお供だ。
「旅籠についてら早速、ですな」
「お前も好きものだなぁ」
供の者二人がいやらしく笑っている。
「して、ご家来殿!」
おそらく自分の事を言われたのだろうと振り返ると、
「その旅籠には美しどころはおられるのか?」
あ~そういう事かと、藤次郎が詰め所で聞いていた情報を神官たちに伝えると、まんざらでもなさそうにいやらしく笑ってご機嫌になっていた。
「神官。それにしても、あの娘は真の降天の巫女なのでしょうな」
肥えたお供が神官に話しかけると背の低い方がしゃべるなといった合図を送っているとおもわれる。藤次郎の背後で行われている事でも何となく察することは出来るもので、会話のリズムが変調したり着物のこすれる音が不自然だったりすることで十分なのである。
藤次郎は自ら話しかける事は無く城下町の旅籠“千束屋”まで一行を送り届けた。街道沿いに有りひときわ大きな玄関で旅人がひっきりなしに出入りしている。
「館中から参った。離れを押さえてあると思うのだが、この方たちをよろしくお願いしたい」
「はい、連絡は来ています。さぁどうぞ」
そう女中に言われると三人は藤次郎に挨拶する事も無く旅籠の中に消えていった。聞いた話では仕事が終わったので全て館持ちの会計らしい。さらに、どうしても街に泊まりたいと言って押し通したらしい事迄は聞いていた。
藤次郎は、どうしてもの意味が理解できた。
『神官だって人間なんだな』
旅籠を出ると日は既に西の山に隠れ、吹いてくる風は秋の気配が濃くなっていることを強く感じていた。
藤次郎が警護預かりになって半月ほどになろうかという頃、都から呼び寄せたという神官一行の警備兼道案内を仰せつかった。警備とは名ばかりで旅籠までの道案内だ。
「参りましょう。」
藤次郎が神官に促して街へと歩き出した。旅籠までは1km程、それほどこの街を知らないもので見聞きしたことのある大きな旅籠である。
神官は供の者合わせて三名。痩せていて神経質そうな神官と、その逆ででっぷりと肥えているお供に、背の低い眉間にしわを寄せてこれまた神経質そうなお供だ。
「旅籠についてら早速、ですな」
「お前も好きものだなぁ」
供の者二人がいやらしく笑っている。
「して、ご家来殿!」
おそらく自分の事を言われたのだろうと振り返ると、
「その旅籠には美しどころはおられるのか?」
あ~そういう事かと、藤次郎が詰め所で聞いていた情報を神官たちに伝えると、まんざらでもなさそうにいやらしく笑ってご機嫌になっていた。
「神官。それにしても、あの娘は真の降天の巫女なのでしょうな」
肥えたお供が神官に話しかけると背の低い方がしゃべるなといった合図を送っているとおもわれる。藤次郎の背後で行われている事でも何となく察することは出来るもので、会話のリズムが変調したり着物のこすれる音が不自然だったりすることで十分なのである。
藤次郎は自ら話しかける事は無く城下町の旅籠“千束屋”まで一行を送り届けた。街道沿いに有りひときわ大きな玄関で旅人がひっきりなしに出入りしている。
「館中から参った。離れを押さえてあると思うのだが、この方たちをよろしくお願いしたい」
「はい、連絡は来ています。さぁどうぞ」
そう女中に言われると三人は藤次郎に挨拶する事も無く旅籠の中に消えていった。聞いた話では仕事が終わったので全て館持ちの会計らしい。さらに、どうしても街に泊まりたいと言って押し通したらしい事迄は聞いていた。
藤次郎は、どうしてもの意味が理解できた。
『神官だって人間なんだな』
旅籠を出ると日は既に西の山に隠れ、吹いてくる風は秋の気配が濃くなっていることを強く感じていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。


10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定


婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる