佚語を生きる! -いつがたりをいきる-  竜の一族 中巻 偽りの残滓編 

Shigeru_Kimoto

文字の大きさ
上 下
27 / 56

肆場 四

しおりを挟む
「いくぞ弁慶」

吉右衛門が頃合いとばかりに声を掛けてきた。

「ちょっと待って吉右衛門」

霞が弁慶と入れ替わるように義経の前に歩み寄ると、義経を注視し……

「九郎……あなた、そんな人ではないでしょう? もっと他人の事を思える優しい人だったじゃない。なぜ、そんな風になってしまったの? よく思い出して、自分自信がどうなりたかったか?」

義経は、霞が薄暗い部屋の中で義経が忘れていた、忘れたかった昔の事を言い当てて来たことに驚いた。と、同時に今の自分と違うなりたかった自分の相違に胸を締め付けられていた。

『なりたかった自分……少なくとも今のこれだったのか? これでは……ない……』

霞は既に部屋を出て吉右衛門のもとで義経の姿を憐れむ様に見つめていた。

三人が庭に下りて歩き出すと

「待て! 待ってくれ! 俺を連れてってくれ! 頼む!」

部屋の入口から半身出して三人の背中に懇願していた。

「あ~? 何言ってんだ、お前。俺はこの通り、一騎当千の強者にしか興味がねぇんだよ。強くなってから出直してこい、青瓢箪あおびょうたん……さあ! 引き上げ---」

鈍い金属音がこだました。

吉右衛門が、視界に入った何かを太刀で掃った音だ。
黒い霧が生じた矢が地面に突き刺さっている。

「霞、後ろに下がれ。弁慶俺の右斜め後ろだ。弁慶、今の矢は見えたか?」

低く呟くように話す吉右衛門の様子を見て二人はこれが尋常な物ではない事を感じ取った。

「ああ、見えたぞ。昔から目は良いのだ」

「そうか。霞、あいつらを捉えているか?」

「わからないわ。なんで?」

「あいつらは人間と違う。少し反応が違うんだ。出てきたらそいつの反応をよく見て置け、それから、そいつと同じような感じの奴を探せば捉えられる」

吉右衛門は靜華が言っていたことをそのまま霞に伝える。何とも曖昧な表現がてんこ盛りだがそれで伝わるか靜華を信じて伝えた。

「弁慶、これから、来る奴は少ばかり反応が早いのと心を読んで先回りしてくる。いちいち驚くな。霞、全員の速度を上げろ。限界までだ。」

「わかったわ」

霞の奏でる篠笛の音が屋敷を包み込む。

四人の身体が黄金色に一瞬だけ光った。

『ほ~う。面白い』

吉右衛門は霞のかけた速度向上の術が義経にも効果が出たのを見逃さなかった。霞の掛けた技は誰にでも効果があるものではない。静華が以前、言っていた。”適合者”なる者のみが受けられる神の力添えなのだと。

「おい! 青瓢箪! お前の入門試験だ。ここで一人でも倒せたら俺が面倒見てやる。やってみるか?」

屋敷の廊下に佇んでいた義経に吉右衛門が声を掛ける。義経は自分の身体が光ったのを見て驚いていたところだが、向き直り、

「やる。やってやる。俺は強くなりたいんだ、誰よりも。頼む、俺を強くしてくれ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...