佚語を生きる! -いつがたりをいきる-  竜の一族 中巻 偽りの残滓編 

Shigeru_Kimoto

文字の大きさ
上 下
21 / 56

参場 三

しおりを挟む
「こんばんわ。頼嗣よりつぐ殿。お尋ねしたい事が二、三有って参上致しました。最初に説明しておきますが我らに嘘は付き通せません。本当の事さえお話しいただければ、我々は早々に立ち去ります。よろしいですね」

三人の黒ずくめを前に頼嗣は恐怖で固まっている。恐らく、音も無く突然目の前に現れたように感じる者への恐怖なのだろう。

「降天の巫女の力を何に使うつもりですか?」

「わからない。俺は何も知らない」

「こいつじゃない」

霞が言う。

「頼嗣はこいつじゃない。私の知ってる頼嗣は目のところに傷があった。でも、反応は頼嗣なの……なんで?」

「どういう事だ?」

吉右衛門が腰に手を当てて目の前の頼嗣を凝視している。
突然、背後の障子戸が開け放たれた。

『馬鹿な。動きを止めたはずなのだが他にもいたのか……霞が失敗したか』

あけ放たれた障子戸の先には男が六人。既に太刀を抜いて構えている。その中央の男が

「ここまで突き止めるとは、思いのほか優秀なのだな? 大滝吉右衛門様」

そう言って、すり足で一歩、一歩間合いを計り部屋の中へと踏み込んできた。

「ふっははっはぁ~……あ~あ」

吉右衛門が腹の底から笑い声を上げていたが、やがて自分への嘲笑に意味が変わっていた。

「何処まで芝居がかった事が好きなんだ。鎌田政光、いや、馬場頼嗣」

「ご名答」

にやりと笑い吉右衛門を見ている鎌田は、付き従う者共々攻撃の準備を整え、いつでも斬りかかれる状態にある。一方、目の前の黒づくめ三人は偽頼嗣の傍で固まっていて、どう見てもこのまま頼嗣に斬りかかられては反撃すらままならないように見て取れる。頼嗣はそれを見て勝利を確信し一笑いしたのだ。

「何を言っている? お前何がしたいんだ? お前の目的は何なんだ?」

「解説しろとでも? どこにそんな親切な悪役がいるかね。そうか、そういう意味では俺の目的は現世の巫女を返してくれればいい。ああ。そう! それでいこう。返してくれるかね?」

「何故、お前達には巫女の技が通用しないのだ?」

「巫女を返せ」

「お前の目的は何だ?」

「巫女を返せ」

「あの寺はお前のか?」

「巫女を返せ」

「あそこで何をしていた?」

「巫女を返せ」

「義経は何処にいる?」

「巫女を返せ」

「怖い。わたし怖い!」

突然、背後にいた霞が恐怖を訴え吉右衛門の背中に張り付いてきて身を隠すようにしている。

「ははは、その黒ずくめが現世の巫女だな。そうか、話が早い。早速、返してもらおう」

二十畳敷きの部屋の中に鎌田を中心に後ろに扇形に広がる五人の男達。対峙する吉右衛門の背後に寄り添う霞、そして、八時方向で太刀を抜く弁慶。さらに、四時方向にいる丸腰の偽頼嗣。どう見ても吉右衛門に分が悪い。

背中で動く霞に吉右衛門が気付いた。

……霞は吉右衛門の背中に文字を書いている。

「……そうか、ご苦労様。よくやった」

吉右衛門が急に笑みを漏らした。
それは、霞が全ての答えにたどり着いたことを意味した。

「さあ、どうするか? 悪党ども。おとなしく降参して俺に殺されろ。それが嫌なら、降参しないで殺されろ。お勧めは前者だが? どちらも今なら特典として、地獄の一丁目直行が確約されるぞ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...