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弐場 三
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篠笛の調べが流れてくる。早朝の山野に響く優しい音色、そして人によっては破滅への音色。
翌日の早朝まだ夜が明けきって無い時間、寺の裏門近くに潜む静華がいた。静華はさっそく昨日の”妹”をとらえていた。それは境内の反対側、本堂に隠れて、ここからは見えないが正門のすぐそばの建屋の中にいる。それ以外は、三十名ほどがこの寺の中にいることが分かる。あと少しで寺の中の者たちが起きてくる。時間はそうない。
静華は歩哨を無力化するために早速、力を使う。静華が使った力は歩哨の思考力を奪っている。見えているのにその先の脳内で判断が出来ないのだ。裏門から侵入し目標の建屋を一直線に目指した。
境内は歩哨が立つ監視塔の他は中央に本堂があり隣に社殿、正門の両傍にそれぞれ倉庫の様な建屋があり普通の小さい規模の寺社であった。駆け抜ける静華の前に一人の僧侶が立ちふさがった。
「お待ちしておりました。降天の巫女様」
僧侶が静華に話しかけて来た。
「ウチを降天の巫女と知ってはるなら話は早いわ。ウチの妹をもらい受けに来たんや。早う渡してや」
「巫女様、何かの間違いだと思います。ここには降天の巫女などはおりませぬ」
僧侶はしらを切った。
「面倒やな」
時間もなく焦っている静華は僧侶の話を無視しそいつを止めにかかった。簡単な事だいつもやっているのだから。
「巫女様、ありがとうございます」
何を言われているのかわからなかった。
静華の身体の周りが次第に黄金色に輝きだした。
「な」
戸惑う静華は自分の身体の周りに生じ始めた黄金色の微粒子が社殿の中に徐々に流れていくのが見える。
社殿は両の扉が開け放たれており、中の様子がうかがい知れる。しめ縄、鏡、蝋燭で棚上に祭られているその中央には直径が1メートル、高さも同程度の壺があった。壺は周囲を鏡面に磨かれているようで周囲の景色を反射させ微粒子の黄金色を反射し輝いている。
黄金色の微粒子はそのツボへとウネリを生じながら流れ込見続ける。
そして、時間とともに、その微粒子はやがて太いらせんを描き、壺の中へさらに吸い込まれ消えていった。
「あのツボが気になりましたか? あれは神鏡の坩堝。巫女様のお力の元をあれにためて後程、精製して膨大なお力を発生する結晶を取り出す坩堝となるものでございます。只今、巫女様のお力を収集中でございます」
「あほか!」
静華が自身を金色に発光させた。
刹那、坩堝に取り込まれていく黄金色の微粒子たちの量は、桁違いに増えて坩堝の鏡面が変色をきたす。
「もう一杯やわ」
静華が笑いながら指をさす。
「そんな!」
僧侶が変色した坩堝を見やる。坩堝は白色になり社殿の中で溶融し原型をとどめていない。やがて……坩堝の中にあった微粒子は静華に逆流し始めた。
「なんや、もう一杯か。ウチの事を狙ってたんならこんな一個でどうするつもりやったの?全然たりへんやん。どないする?これで終わりか?」
微粒子が全て戻って発光が収まっている静華が僧侶に聞いた。
「ちょっと待ちぃ」
静華が僧侶の目を見ている。
「……アハハ!じっちか。やりそうやな。これで、何をしようとしたんか。まぁええわ。降参しぃ」
「これで終わったと思うなよ」
「なんや、悪党が最後に言うセリフ吐きよったな。いよいよ、本当に最後なんか?」
「そんな余裕のある事を言っていられるのも今のうちだ」
「だから、早よせいや。会話はテンポや! 壮大なオチ見せてくれはるんやろな! スカしたら説教やよ!!」
「現世(うつしよ)の巫女だ」
「月闇に」
靜華が後ろを振り返ると、そこには昨日、稲妻を仕掛けてきた女が立っていた。
桃色の小袖を着た15,6歳の少女だ。
「おい!よせ!」
僧侶が急に狼狽しながら裏門の方へと走り去った。
「満る調べの」
「……」
靜華がまっすぐに少女を見ている。
「天高き」
「そうか、辛かったな」
靜華が天を仰いだ。
「おつる雷鳴」
「こっちにきいや。姉様が守ったる」
「常世へ還れ」
大きく天を仰ぎ手をかざす少女。
靜華がそっと少女を抱きしめ---
一帯が爆風と熱風に包まれた。
白色の閃光が視覚を奪い爆音が聴覚を失わせ動くことが困難になったところで、その刹那、熱風が襲ってきた。本堂と社殿は石組みの土台を残して昇華した。周囲を警戒していた監視塔は柱を残すのみで上部の監視台は今ではそんなものがあったのかすらわからない程の破壊具合だ。正門、裏門、二つの建屋、塀も既に消し飛んでいる。というより半径100mにわたって直立しいているものは何も無い。
それよりも遠方の木々は爆心地を中心としてすべて外側に向いて倒れている。その範囲は半径500m。その範囲内は、なにかしらの影響がみられ主に倒木として影響を具現化していた。
しかし、不思議な事に爆心地の円状半径5mには何ら影響がみられず……
二人の姉妹が抱き合いながら立っていた。
翌日の早朝まだ夜が明けきって無い時間、寺の裏門近くに潜む静華がいた。静華はさっそく昨日の”妹”をとらえていた。それは境内の反対側、本堂に隠れて、ここからは見えないが正門のすぐそばの建屋の中にいる。それ以外は、三十名ほどがこの寺の中にいることが分かる。あと少しで寺の中の者たちが起きてくる。時間はそうない。
静華は歩哨を無力化するために早速、力を使う。静華が使った力は歩哨の思考力を奪っている。見えているのにその先の脳内で判断が出来ないのだ。裏門から侵入し目標の建屋を一直線に目指した。
境内は歩哨が立つ監視塔の他は中央に本堂があり隣に社殿、正門の両傍にそれぞれ倉庫の様な建屋があり普通の小さい規模の寺社であった。駆け抜ける静華の前に一人の僧侶が立ちふさがった。
「お待ちしておりました。降天の巫女様」
僧侶が静華に話しかけて来た。
「ウチを降天の巫女と知ってはるなら話は早いわ。ウチの妹をもらい受けに来たんや。早う渡してや」
「巫女様、何かの間違いだと思います。ここには降天の巫女などはおりませぬ」
僧侶はしらを切った。
「面倒やな」
時間もなく焦っている静華は僧侶の話を無視しそいつを止めにかかった。簡単な事だいつもやっているのだから。
「巫女様、ありがとうございます」
何を言われているのかわからなかった。
静華の身体の周りが次第に黄金色に輝きだした。
「な」
戸惑う静華は自分の身体の周りに生じ始めた黄金色の微粒子が社殿の中に徐々に流れていくのが見える。
社殿は両の扉が開け放たれており、中の様子がうかがい知れる。しめ縄、鏡、蝋燭で棚上に祭られているその中央には直径が1メートル、高さも同程度の壺があった。壺は周囲を鏡面に磨かれているようで周囲の景色を反射させ微粒子の黄金色を反射し輝いている。
黄金色の微粒子はそのツボへとウネリを生じながら流れ込見続ける。
そして、時間とともに、その微粒子はやがて太いらせんを描き、壺の中へさらに吸い込まれ消えていった。
「あのツボが気になりましたか? あれは神鏡の坩堝。巫女様のお力の元をあれにためて後程、精製して膨大なお力を発生する結晶を取り出す坩堝となるものでございます。只今、巫女様のお力を収集中でございます」
「あほか!」
静華が自身を金色に発光させた。
刹那、坩堝に取り込まれていく黄金色の微粒子たちの量は、桁違いに増えて坩堝の鏡面が変色をきたす。
「もう一杯やわ」
静華が笑いながら指をさす。
「そんな!」
僧侶が変色した坩堝を見やる。坩堝は白色になり社殿の中で溶融し原型をとどめていない。やがて……坩堝の中にあった微粒子は静華に逆流し始めた。
「なんや、もう一杯か。ウチの事を狙ってたんならこんな一個でどうするつもりやったの?全然たりへんやん。どないする?これで終わりか?」
微粒子が全て戻って発光が収まっている静華が僧侶に聞いた。
「ちょっと待ちぃ」
静華が僧侶の目を見ている。
「……アハハ!じっちか。やりそうやな。これで、何をしようとしたんか。まぁええわ。降参しぃ」
「これで終わったと思うなよ」
「なんや、悪党が最後に言うセリフ吐きよったな。いよいよ、本当に最後なんか?」
「そんな余裕のある事を言っていられるのも今のうちだ」
「だから、早よせいや。会話はテンポや! 壮大なオチ見せてくれはるんやろな! スカしたら説教やよ!!」
「現世(うつしよ)の巫女だ」
「月闇に」
靜華が後ろを振り返ると、そこには昨日、稲妻を仕掛けてきた女が立っていた。
桃色の小袖を着た15,6歳の少女だ。
「おい!よせ!」
僧侶が急に狼狽しながら裏門の方へと走り去った。
「満る調べの」
「……」
靜華がまっすぐに少女を見ている。
「天高き」
「そうか、辛かったな」
靜華が天を仰いだ。
「おつる雷鳴」
「こっちにきいや。姉様が守ったる」
「常世へ還れ」
大きく天を仰ぎ手をかざす少女。
靜華がそっと少女を抱きしめ---
一帯が爆風と熱風に包まれた。
白色の閃光が視覚を奪い爆音が聴覚を失わせ動くことが困難になったところで、その刹那、熱風が襲ってきた。本堂と社殿は石組みの土台を残して昇華した。周囲を警戒していた監視塔は柱を残すのみで上部の監視台は今ではそんなものがあったのかすらわからない程の破壊具合だ。正門、裏門、二つの建屋、塀も既に消し飛んでいる。というより半径100mにわたって直立しいているものは何も無い。
それよりも遠方の木々は爆心地を中心としてすべて外側に向いて倒れている。その範囲は半径500m。その範囲内は、なにかしらの影響がみられ主に倒木として影響を具現化していた。
しかし、不思議な事に爆心地の円状半径5mには何ら影響がみられず……
二人の姉妹が抱き合いながら立っていた。
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