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壱場 十
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吉右衛門が、今晩の偵察の終了を宣言しようとした時、二人の背後から篠笛の調べが聞こえてくる。
ゆったりとした調べが耳に心地良い。
「まずい! 靜華だ!! 何でここがわかった? いや、でも。あいつ力が無いって……」
弁慶と目を合わせる吉右衛門。弁慶も何が起こったのかわからずに背後を振り帰る。
背後の森から聞こえている笛の調べは次第にこちらに近づいてくる。
今夜も月が輝いていて見通しは良いが、笛の音がする森の中までは見通せていない。
「どういう訳か力が戻ったってことか……まずいぞ弁慶。靜華の奴、本気だ。もう俺たちは手遅れだ。既に術の中だ……」
吉右衛門がなすすべなく天を仰いだ。
「なぜ、靜華様が我々にこんな仕打ちを?」
「どうするか……」
思考をめぐらす吉右衛門の耳には弁慶の声が届いていない。
『靜華なら次にどう出てくる……』
笛の調べが止んだ。
人の気配がする。
「月闇に」
森の中から女の声が聞こえてきた。
「満る調べの」
少女か?森の出口から出てきてシルエットが見えてきた。
「天高き」
桃色の小袖を来た少女がこちらを見て何やら呟いている。
「なんだ?」
弁慶が声を漏らす。
「おつる雷鳴」
金色に少女が発光する。
「靜華じゃない。まずい!弁慶!!俺のところに来い!!!!早くしろ!!!!!」
「常世へ還れ……」
少女が両手を天にかざした---
瞬間、全ての景色が白くなった。
乾いた木が裂けるような小さな音が上空でしたと思ったら、
遅れて
空気を切り裂くような鋭い金属音とともに
とてつもなく大きな衝撃波、そして、地面の巨大な振動が後に続く。
遅れて強大な爆風が襲って吉右衛門達の周囲の状況が一変した。
……吉右衛門は視覚と聴覚を奪われた。
視界はホワイトアウトしている。音は耳鳴りで何も聞こえない。少女の気配はまだある。
「くそ、弁慶生きてるか?」
すぐそばで人の気配がする。吉右衛門は気配のする方向に手を差し出すと太い腕があった。
「弁慶!俺を掴め。逃げるぞ!!」
吉右衛門はとにかくこの場所から離れたかった。弁慶に聞こえているかわからないが大声で声を掛け、弁慶の腕を自分の肩に乗せると走り出した。おそらく、弁慶も視覚と、聴覚を奪われているはずだ。
幸い少女の気配は二人を追ってくる様子が無い。
「何だ。あれは?」
聴覚が戻ってきた。弁慶のつぶやきが聞こえた吉右衛門は、右目をうっすらと開けてみる。
ぼんやりとだが見えてきているようだ。
「よし、弁慶見えるようになってきた。全力で逃げろ!!」
後ろを振り返る二人の目には天を仰いで両手を上げたまま微動だにしない少女がいた。
今まで二人がいた跡は円形に残っているが、それよりも半径5mの外側は大きく円形にくぼんで、今まであった草木を消滅させている。煙も見えている。衝撃と高熱が一瞬で襲ったのだろう。
『竜の力に守られたってことか……こんな事まで出来るのか……なかったら、二人とも消滅するところだったな……』
ゆったりとした調べが耳に心地良い。
「まずい! 靜華だ!! 何でここがわかった? いや、でも。あいつ力が無いって……」
弁慶と目を合わせる吉右衛門。弁慶も何が起こったのかわからずに背後を振り帰る。
背後の森から聞こえている笛の調べは次第にこちらに近づいてくる。
今夜も月が輝いていて見通しは良いが、笛の音がする森の中までは見通せていない。
「どういう訳か力が戻ったってことか……まずいぞ弁慶。靜華の奴、本気だ。もう俺たちは手遅れだ。既に術の中だ……」
吉右衛門がなすすべなく天を仰いだ。
「なぜ、靜華様が我々にこんな仕打ちを?」
「どうするか……」
思考をめぐらす吉右衛門の耳には弁慶の声が届いていない。
『靜華なら次にどう出てくる……』
笛の調べが止んだ。
人の気配がする。
「月闇に」
森の中から女の声が聞こえてきた。
「満る調べの」
少女か?森の出口から出てきてシルエットが見えてきた。
「天高き」
桃色の小袖を来た少女がこちらを見て何やら呟いている。
「なんだ?」
弁慶が声を漏らす。
「おつる雷鳴」
金色に少女が発光する。
「靜華じゃない。まずい!弁慶!!俺のところに来い!!!!早くしろ!!!!!」
「常世へ還れ……」
少女が両手を天にかざした---
瞬間、全ての景色が白くなった。
乾いた木が裂けるような小さな音が上空でしたと思ったら、
遅れて
空気を切り裂くような鋭い金属音とともに
とてつもなく大きな衝撃波、そして、地面の巨大な振動が後に続く。
遅れて強大な爆風が襲って吉右衛門達の周囲の状況が一変した。
……吉右衛門は視覚と聴覚を奪われた。
視界はホワイトアウトしている。音は耳鳴りで何も聞こえない。少女の気配はまだある。
「くそ、弁慶生きてるか?」
すぐそばで人の気配がする。吉右衛門は気配のする方向に手を差し出すと太い腕があった。
「弁慶!俺を掴め。逃げるぞ!!」
吉右衛門はとにかくこの場所から離れたかった。弁慶に聞こえているかわからないが大声で声を掛け、弁慶の腕を自分の肩に乗せると走り出した。おそらく、弁慶も視覚と、聴覚を奪われているはずだ。
幸い少女の気配は二人を追ってくる様子が無い。
「何だ。あれは?」
聴覚が戻ってきた。弁慶のつぶやきが聞こえた吉右衛門は、右目をうっすらと開けてみる。
ぼんやりとだが見えてきているようだ。
「よし、弁慶見えるようになってきた。全力で逃げろ!!」
後ろを振り返る二人の目には天を仰いで両手を上げたまま微動だにしない少女がいた。
今まで二人がいた跡は円形に残っているが、それよりも半径5mの外側は大きく円形にくぼんで、今まであった草木を消滅させている。煙も見えている。衝撃と高熱が一瞬で襲ったのだろう。
『竜の力に守られたってことか……こんな事まで出来るのか……なかったら、二人とも消滅するところだったな……』
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