凪の始まり

Shigeru_Kimoto

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2015年5月 凪の始まり(前編)

28 2015年5月 28

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「リリィちゃん……
あんた……
もう子供じゃないよね?」

ひとしきり泣いた私は、多少の落ち着きを見せたのだと思う、それを見ていたけんたろーのお姉さんがそんな事を聞いて来た。

「子供……」

「あの日、健太郎にお別れしたあの頃とは違って、その見かけ通り、大人の判断が出来るんでしょうって事」

「……はい」

「子供のあんたは、前後なく健太郎に待つように言って、いま、5年越しにここに来た……
それで聞くんだけど……

その5年たった大人のあんたは……
健太郎をどう思ってるの?

12歳の子供の話じゃないよ。
立派な大人の女性のリリィさんは、どう考えてるんだ?」

「どうって……
私、ずっとけんたろーが大好きで、ずっと一緒に居たくて、だから今でも大好きで……」

「大好きって……
聞くんじゃなかった……

やっぱり、あんた、子供の“好き”の延長だよ。
立派な大人の健太郎には不釣り合いだ。

辞めときな、相手は成熟した男だ。
あんたでは処理しきれない男そのものだ。きっと、やっぱり、上手くいかない。
その可愛いセーラーと一緒で、まだまだお嬢ちゃんだよ。女性というには……早すぎだ。

そうか、分かったよ。

あんたの母ちゃんはどうした?
元気なのかい?
また、健太郎に厄介かけんじゃないの?」

「お母さんは、おかげさまで、すっかり良くなって、向こうで元気に仕事してます」

「……はあ?
何言ってんだ?

向こうって……」

「モスクワでお母さんは仕事してます」

「……じゃあ、あんた、一人なの?」

「はい……」

「ちょっと……
見えないんだけど………………
話がみえないんだけど」

「私、けんたろーに会うために……
けんたろーとの約束を守るために……

もう、手遅れらしいけど……

私、一人で、ここに来たんです……」

「一人って……
あんなアホの為にわざわざ、こんな片田舎に……

来たのかい?」

「はい……
だって、約束だから……
いっつも待つだけのけんたろーに、一人でも、一人だけでも、ただいまって……

言ってあげる人がいても……
良いんじゃないかって……
そう思って……」

「そのためだけに……

そんな事の為に」

「けんたろーにとっては、それは小さなことじゃないんです。けんたろーは、待つだけで、いつも、その待ってる人は来てくれないんです。

でも、本当はそんな事ばっかじゃないって、けんたろーに言いたくて、分かって欲しくて、だから……

無理を言って、ここに来て、それに、私はけんたろーが大好きだから、お姉さんが言う様に大好きが子供の延長って言うのなら、

私は、けんたろーのことを……

愛してる。
だから、ここまで来れたの……

一人でも寂しくない。
だって、けんたろーの傍にいるんだから、だがら私は寂しくない。
それよりも、きっと私がいれば、けんたろーは幸せになれるって、そう思って、ここまで来たの」
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