凪の始まり

Shigeru_Kimoto

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2015年5月 凪の始まり(前編)

11 2015年5月 11

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「ね? 今から、やろう、このまま、行こう! ユー、 やっちゃいなよ!」

モスクワ迄の渡航費……
いくらかな……

「割引券も付けちゃうよ!」

要らねえよ……

「ねえ、健太郎!
毎日、彼女待つのも良いけど、たまには息抜きしてさ、いろんなもの抜かないとさ、疲れちゃうよ!」

「彼女じゃねえよ」

「……」

なんだ?
雅さんの顔が……
表情がとたんに陰った……

「健太郎……

彼女じゃ無かったら、なんで毎日あんなとこに行ってんだよ……

健太郎さ、もしかして、認めるのが怖いとか、恥ずかしいとかそんなやつ?
もう、健太郎にはとっくに無い、世間体みたいなの気にしてる?

だとしたら、お門違いだよね。

小学生じゃないよ、あんたの愛しい彼女は、もう17歳だろう?
もう、立派に自分で考えられるよ。

他人に見られたらとか、他人にどう思われるかとかさ、そんなの、あんたなんかよりもいっぱいいる、立派な奴が考えればいいんだよ。

もしも、そんな事で、認めたくないってんなら……

残念だな……
その程度なんだ……

それにさ、あんたの成績だったら、もっと立派な大学に行けたろう?
それを何で、地元の大学にしたのさ?

ねえ、言ってみなよ……

なんで、時間があるのにバイトもしないで、いっつもあそこで釣り糸垂らしてるふりしてんだよ……

健太郎って、そんなに釣り好きだったっけ?

なんでそんな真っ黒になるまで、潮風にふかれたかった?

全部繋がるじゃん……

全部……

全部……

あの子がここに来た時に、会えるように……
ずっと、待ってられるように……

そうしているんだよね?

だったら、それって、愛しい彼女じゃないのかな?

健太郎のさ、そう言うスカシタところが、あたし大っ嫌い……

もっと、じたばたすればいいのに、なんか全部分かってますみたいに、少し離れて客観的に自分を見てるふりしてるあんたが、あたし……

大っ嫌い……」

雅さんはそう言うと、くるりと背を向け、夕日の眩しい、出口のドアへと足早に歩いて、それっきり、こちらを見ることなくいなくなった。
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