凪の始まり

12月 健太郎は人を愛せない

42 雅さんの想い

「店長、娘と話した。店長のお誘い……
お願いしても良いかな？　私、頑張って働くから」

雅さんが事務所に来て、俺に頭を下げている。
雅さんは真面目だ。
それも知っている。

「分かったよ、雅さん。もう、実はオーナーには話、通してあるんだ。
だから、もう雅さんが、きりのいい所でキャスト引退していいよ。

「ありがとう……ケンちゃん店長。だから、大好きなのよ」

俺がジト目で返すと、

「ゴメン。ありがとうございます。今度の事では、本当にお世話になりました。娘も喜んでくれたし、給料もそれなりに頂けそうだし、ガンバッテ働きます。今まで以上にご指導よろしくお願いします」

雅さんが俺に頭を下げている。
そんな事無い、俺だってあなたに助けられているんだから、

「これからも、よろしくお願いしますね。雅さん」

俺は昔の出来事を思い返していた。

あの日、人様の子供を引き取った彼女の行く末を心配した。

でも、それは大きな驕りで、俺なんかの力が無くても、二人は立派にやって来た、今回の事は流石に雅さんだけでは、どうしようもなくて、俺がやっと助力できそうな事だと思ったまでだ。

あの日、もっと立派になって、その時の彼女に、って言っていた雅さんに、愛情無しで力を貸すことができた。

これで、あの日の貸しはチャラって事で……

ていうか、オーナーに言ったのお前だな！
自作自演か！

思い返して今気が付いた。