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8月 リリィさんと海 (前編)
19 夏の夜の海
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防波堤を登ると幅は2m程度で、防波堤の向こうは、2m下に波打ち際まで30m程度の砂浜が広がり、海と平行に延々と続いて、波の音が、穏やかに夜の砂浜に響いていた。
「見て、三日月! 双子だよ!」
丁度、海から出てきた月が、凪いだ海面に映り、鏡の中の様に黄色の双子の月を映し出している。耳に心地いい波の音が繰り返し響く。
「見てあそこ!」
リリィさんの指さす方には数キロ先に岬があって、その岬の上の灯台が周期的な明滅を繰り返している。灯台の黄色の灯りは凪いだ鏡面の海を照らし、海一面を黄色の絨毯が覆っているようだった。
「リリィさん、あそこの灯台に行ったことある?」
俺はほんの先を歩くリリィさんの背中に聞いた。
「うん、パパとママと行ったよ。階段が多いよね」
「灯台のなかに入った?」
「入った。上に昇って外に出ると下の海が遥か下に見えて怖いよね」
ああ、お父さん……悪い事聞いたかな……どうしよう……
「どうしたの? 佐藤君」
嬉しそうに俺の顔を覗き込むリリィさんにすまない気持ちになってしまった。
俺は母さんを子供の時に無くした。その時の気持ちを思い出した……やはり、絶望……しかなかった。俺の大切な友、リリィさんはまだお父さんを亡くして日が浅い。それでも、こうして、この瞬間は、笑顔を俺に見せている。本当は、まだまだ、笑顔なんか見せられ無いはずなのに……強いな……強く見せているのかな……難しいな……
「見て、三日月! 双子だよ!」
丁度、海から出てきた月が、凪いだ海面に映り、鏡の中の様に黄色の双子の月を映し出している。耳に心地いい波の音が繰り返し響く。
「見てあそこ!」
リリィさんの指さす方には数キロ先に岬があって、その岬の上の灯台が周期的な明滅を繰り返している。灯台の黄色の灯りは凪いだ鏡面の海を照らし、海一面を黄色の絨毯が覆っているようだった。
「リリィさん、あそこの灯台に行ったことある?」
俺はほんの先を歩くリリィさんの背中に聞いた。
「うん、パパとママと行ったよ。階段が多いよね」
「灯台のなかに入った?」
「入った。上に昇って外に出ると下の海が遥か下に見えて怖いよね」
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