凪の始まり

8月 リリィさんと海 （前編）

6 可愛いリリィさん4

「キャー、何この子。お人形さんみたい」

入れ替わりでことりちゃんが絡んできた。

「店長の妹さんですか？」

「同級生」

「え？………………」

俺を明らかにヤバい奴認定したと思われることりちゃん。口元は笑っているけど、目が怯えている。

「あ、そうじゃなくて……ことりちゃん」

「い、いえ。少し驚いただけです。そんな、二人が良いのなら私がどうこういう事ではないですから……」

完全に誤解してんだろ。そそくさと自分の席に消えていった。

「ちわっす！　く～、めっちゃ可愛いじゃないっすか、彼女さんですか？　店長の」

「リリィさん話ししちゃだめだよ。馬鹿がうつるから」

「またまた～やめて下さいよ～」

隣の席にいたみなみちゃんが、

「目、見ちゃ駄目よ。妊娠するから」

「妊娠するの？」

リリィさんは俺の方へ振り返り、確認をする。
俺に確認すんなよ。

「アハハ、可愛い」

みなみちゃんはリリィさんの様子を見て喜び、

「それじゃ、また後で、来ます」

もう、くんな！充希は消えていった。

「店長、おはようございます」

殺し屋が現れた。

「郷田さん、おはようございます」

隣のリリィさんに視線を移し一礼すると、

「それでは後程」

おい！何もないんか！

「面白いね、佐藤君」

「そう？　そう思ってもらえるのならいいけど、変な奴ばっかでしょ。困っちゃうね」

俺を見つめて、そんな事ないよと微笑むリリィさんは本当に可愛い笑顔で俺に向き合っている。
なんかどっかから視線を感じたので、そこを振り向くと、雅さんが俺の方をスワった目で凝視していた。