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6月 追憶
12 防波堤の美少女
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梅雨の合間の晴れ模様。防波堤の先端の美少女と、会えるかわからない彼女に会うために、俺は、今月最後の土曜日の午後に、そこに向かった。
暇を見ては、時間を作っては何度となくリリィさんに会ってはいるが、特段、何か進展があったわけでは無かった。
そして、そこには、防波堤の先端には麦わら帽子をかぶり、黄色のショートパンツに紫のTシャツを着たリリィさんが俺の期待通りに釣り糸を垂らして、小さなクーラーボックスの上に座っていた。
「こんにちは、リリィさん」
「あ、佐藤君、随分ご無沙汰ですね」
「今日は何を狙っているんですか?」
「私はサビキ専門。小魚をたくさん釣るの。みて、こんなに釣れたよ」
バカッと開けて30匹程イワシが入った中身を俺に見せてニィと笑顔を作っている。
相変わらずの小麦色の肌と麦わら帽子の影の中にある大きな瞳と真っ白な歯が俺の心をグッと掴んで離さない。
時折吹く爽やかな海風が、微笑むリリィさんの栗色の髪をゆらし、その合いの手として凪いだ海から、思い出したように防波堤にあたる波の音が、静かに耳に心地よく聞こえてくる。
「リリィさんは、ここに来ないときは何してるんですか?」
俺は、俺の一周目との違いを知りたくて、何の意図も無く聞いた。
「そうですねぇ」
と言うリリィさんは少し小首を傾げて可愛く悩んで、
「お家で……そうですねぇ、う~ん、色々、忙しいんです」
少し悩んで、答えを探すように考えながら、最後には具体的に答える事はしなかった。
「そうですか」
俺もそれ以上、聞くつもりは無い。
「勉強って、どうしてるんですか?」
「勉強ですか……教科書と問題集を……もう1周終わりそうです」
リリィさんは、人差し指で1と示すと、俺に微笑んでいる。
俺も、探り探りだ。どうすれば、良いのか。
「佐藤君って何者なんですか?」
何者なんでしょうね、深いな……深すぎて即答できない。
完成されたロリの、嫌味の無い、澄んだ目で見る彼女の質問に、俺は、どうしていいのかわからずにいたら、
「だって、不思議だよね。そんな、お兄さんなのに小学生で、見ず知らずの私にこうして会いにわざわざ来て」
や、会いに来ている事がバレている。
「そうね、リリィさんに興味が無いかと言えば、それは大いにある。だから、こうしてわざわざ、会いに来てしまう。理由にならないかな?」
「佐藤君、それ私の受け取り様では事案そのものよ。大丈夫?」
少し、リリィさんは意地悪な顔をして俺を見つめる。その表情は、“これ、もう子供じゃねぇな”、俺はそう思はざる得なかった。
「そうだな、リリィさん。忘れてもらっては困るけど、俺は君のクラスメートなんだよ。その辺の見知らぬ不審者と一緒にされる方が、よっぽど心外なんだよね」
「そうだったね。難しいよ。だってさ、もうすっかりお兄さんでしょう? それなのに同級生です。クラスメートですって言われても」
まあ、そうだろう。今の俺がそうだ、リリィさんをみて子供です。まだ小学六年生です。と、言われても、大人びた表情に喋り方に、身体の出来そのものからも、纏う空気も、全部大人だ。
それ、お前に全部返したくなる。
「ねえ、リリィさん聞いていい?」
何?と小首を傾げる彼女に俺は、
「お父さんとか、お母さんは、なんて言ってるの? リリィさんのその自由さに」
「自由か……」
彼女は麦わら帽子を風に飛ばされないように押さえながら、青く澄んだ空を、天を見上げ、
「自由なんかじゃないよ。むしろ、不自由だから、こんな事をしているのかもしれないな……」
一人呟いた。
リリィさんのその言葉を俺は聞き逃さなかった。初めてじゃないか?自分を卑下する様な言葉をはくリリィさんを見るのは……、今、確かに“こんな事”って言った。そうなのか、彼女もどこかで、こんな事って思っていたのか……
一人、天を仰いでいたリリィさんが俺に向き合った時には、瞳の輝きと、今までの話しやすい少女の表情を無くし、俺を見ないように俯いて、自分のクーラーボックスへと歩み、背中を見せて座り込み、竿を上下させて、分かりやすく俺を拒絶するかのように、凪いだ海を見つめ、その後、俺に話しかける事はなかった。
暇を見ては、時間を作っては何度となくリリィさんに会ってはいるが、特段、何か進展があったわけでは無かった。
そして、そこには、防波堤の先端には麦わら帽子をかぶり、黄色のショートパンツに紫のTシャツを着たリリィさんが俺の期待通りに釣り糸を垂らして、小さなクーラーボックスの上に座っていた。
「こんにちは、リリィさん」
「あ、佐藤君、随分ご無沙汰ですね」
「今日は何を狙っているんですか?」
「私はサビキ専門。小魚をたくさん釣るの。みて、こんなに釣れたよ」
バカッと開けて30匹程イワシが入った中身を俺に見せてニィと笑顔を作っている。
相変わらずの小麦色の肌と麦わら帽子の影の中にある大きな瞳と真っ白な歯が俺の心をグッと掴んで離さない。
時折吹く爽やかな海風が、微笑むリリィさんの栗色の髪をゆらし、その合いの手として凪いだ海から、思い出したように防波堤にあたる波の音が、静かに耳に心地よく聞こえてくる。
「リリィさんは、ここに来ないときは何してるんですか?」
俺は、俺の一周目との違いを知りたくて、何の意図も無く聞いた。
「そうですねぇ」
と言うリリィさんは少し小首を傾げて可愛く悩んで、
「お家で……そうですねぇ、う~ん、色々、忙しいんです」
少し悩んで、答えを探すように考えながら、最後には具体的に答える事はしなかった。
「そうですか」
俺もそれ以上、聞くつもりは無い。
「勉強って、どうしてるんですか?」
「勉強ですか……教科書と問題集を……もう1周終わりそうです」
リリィさんは、人差し指で1と示すと、俺に微笑んでいる。
俺も、探り探りだ。どうすれば、良いのか。
「佐藤君って何者なんですか?」
何者なんでしょうね、深いな……深すぎて即答できない。
完成されたロリの、嫌味の無い、澄んだ目で見る彼女の質問に、俺は、どうしていいのかわからずにいたら、
「だって、不思議だよね。そんな、お兄さんなのに小学生で、見ず知らずの私にこうして会いにわざわざ来て」
や、会いに来ている事がバレている。
「そうね、リリィさんに興味が無いかと言えば、それは大いにある。だから、こうしてわざわざ、会いに来てしまう。理由にならないかな?」
「佐藤君、それ私の受け取り様では事案そのものよ。大丈夫?」
少し、リリィさんは意地悪な顔をして俺を見つめる。その表情は、“これ、もう子供じゃねぇな”、俺はそう思はざる得なかった。
「そうだな、リリィさん。忘れてもらっては困るけど、俺は君のクラスメートなんだよ。その辺の見知らぬ不審者と一緒にされる方が、よっぽど心外なんだよね」
「そうだったね。難しいよ。だってさ、もうすっかりお兄さんでしょう? それなのに同級生です。クラスメートですって言われても」
まあ、そうだろう。今の俺がそうだ、リリィさんをみて子供です。まだ小学六年生です。と、言われても、大人びた表情に喋り方に、身体の出来そのものからも、纏う空気も、全部大人だ。
それ、お前に全部返したくなる。
「ねえ、リリィさん聞いていい?」
何?と小首を傾げる彼女に俺は、
「お父さんとか、お母さんは、なんて言ってるの? リリィさんのその自由さに」
「自由か……」
彼女は麦わら帽子を風に飛ばされないように押さえながら、青く澄んだ空を、天を見上げ、
「自由なんかじゃないよ。むしろ、不自由だから、こんな事をしているのかもしれないな……」
一人呟いた。
リリィさんのその言葉を俺は聞き逃さなかった。初めてじゃないか?自分を卑下する様な言葉をはくリリィさんを見るのは……、今、確かに“こんな事”って言った。そうなのか、彼女もどこかで、こんな事って思っていたのか……
一人、天を仰いでいたリリィさんが俺に向き合った時には、瞳の輝きと、今までの話しやすい少女の表情を無くし、俺を見ないように俯いて、自分のクーラーボックスへと歩み、背中を見せて座り込み、竿を上下させて、分かりやすく俺を拒絶するかのように、凪いだ海を見つめ、その後、俺に話しかける事はなかった。
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