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5月 リリィさん
8 防波堤
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俺は、近くの港に来ている。港の防波堤で釣りをしている。
陽光が肌に痛い。小学校で一日中、運動会の練習をしている俺は、まともな大人の色黒さを優に飛び越えて、人種の壁さえ超えてしまったようだ。真っ黒だ。そんな俺は、一人、港の防波堤から釣り糸を垂れ、しばし、午後の出勤までの時間をここで過ごしている。
何故か?
波は良い、波の音が良い。
波は防波堤に時折ぶつかって大きな音を上げるが、それ以外は単調なリズムを刻み、俺のガサついた心を癒してくれる。立場上、キャストに癒してもらう訳にはいかないので、ここで、この防波堤で、波の音を聞いて自分自身で慰めている。
心だぞ。念のため、
波の音を聞いているだけでも怪しいので、様になる釣道具一式をそろえ何か知らないものを釣る為に仕掛けをブッコんでいる。
防波堤は、土曜の日中なので、家族連れやらで結構込み合っていて、ところどころで、歓声が、魚を釣った事で子供が歓声を上げている。
俺は防波堤の先端にいた。ここまでは、駐車場から歩いて500mくらい。港の南側の内側を大きく取り囲むように造られて、幅は10mくらい水面の高さまでは満潮時でも3mくらいありそうだ。
しばらく俺は釣糸の動きに集中していた。
「釣れますか?」
ふと背中から声を掛けられて、俺は驚いた。いつの間にか人が背中にいた事と、その声を掛けてきた、声の主が、美少女だったからだ。
その美少女は、何故か俺の顔を見て安心したような表情を一瞬見せた。
声の主は160cmくらいで、青いショートパンツに白いTシャツでそこから伸びる細くしなやかな肢体は小麦色に日焼けして、顔も同じように日焼けして小麦色だった。大きめの麦わら帽子をかぶり、そこから背中までの栗色の髪の毛を風になびかせて整った目鼻立ちと薄い唇を横にニイと広げ微笑み、俺の隣にクーラーBOXを椅子代わりにして、俺の答えなどどうでもいいように釣りの準備を始めていた。
「ボチボチですね」
「そうですか、ボチボチですか」
中学生、3年生くらいか、高校生くらいか。
その女の子はそんな事を言って、素早く仕掛けを着けると早速、凪いだ海面へと投げ込んでいた。
お、この流れる様な動作は素人のそれじゃあないな。俺は、彼女の慣れ切った動きからそれを見ていた。
「いつも釣りしてるんですか?」
俺はたまらずに声を掛けた。いや、たまらずってのは釣りの方だけど。
「そう~ですね~。結構、来てますよ」
そうだろうな。俺はそれ以上何もなく、自分の釣竿の穂先を見つめていた。
「よし! 来た!」
背中で声がする。さっきの美少女さんだ。リールをカリカリ巻いて同じようにニイと笑顔で俺に見せている。イワシが三匹、かかっていた。サビキという仕掛けなので針がいくつもついていて、その上にコマセという魚を寄せるための餌を入れる網があり、その下に、いくつもついている赤いひらひらの付いた針を、魚はコマセと勘違いして食いつくのだ。
「凄いね。一投目からだ」
俺の率直な感想だ。
「ん~、サビキは簡単だよ。お兄さんは何で釣ってるの?」
「俺? イソメで投げ込んでる。何が釣れるかは釣れてからのお楽しみさ」
何、狙っているんだろう……何でもいいんだ。波の音を聞いているだけだから。
詩人調に言ってみた。
その美少女さんはすぐにサビキを仕掛けの網に入れ投げ込んでいる。
「サビキくさ~」
と言って、手をタオルで拭いた。俺はその手の元、その美少女の胸を見ていた。おっと、勘違いされては困る。俺は、ロりに興味はない。いや、ここまで育てばそもそもロりじゃない。いや、定義の話など、どうでもいい。俺の目に映った、美少女の服、白いTシャツ。それは、そこには見慣れたマークがついてる。そのマークは俺の通学する小学校の校章で、その校章の隣には5-2、篠塚百合と黒のマーカーではっきりと書かれていた。
陽光が肌に痛い。小学校で一日中、運動会の練習をしている俺は、まともな大人の色黒さを優に飛び越えて、人種の壁さえ超えてしまったようだ。真っ黒だ。そんな俺は、一人、港の防波堤から釣り糸を垂れ、しばし、午後の出勤までの時間をここで過ごしている。
何故か?
波は良い、波の音が良い。
波は防波堤に時折ぶつかって大きな音を上げるが、それ以外は単調なリズムを刻み、俺のガサついた心を癒してくれる。立場上、キャストに癒してもらう訳にはいかないので、ここで、この防波堤で、波の音を聞いて自分自身で慰めている。
心だぞ。念のため、
波の音を聞いているだけでも怪しいので、様になる釣道具一式をそろえ何か知らないものを釣る為に仕掛けをブッコんでいる。
防波堤は、土曜の日中なので、家族連れやらで結構込み合っていて、ところどころで、歓声が、魚を釣った事で子供が歓声を上げている。
俺は防波堤の先端にいた。ここまでは、駐車場から歩いて500mくらい。港の南側の内側を大きく取り囲むように造られて、幅は10mくらい水面の高さまでは満潮時でも3mくらいありそうだ。
しばらく俺は釣糸の動きに集中していた。
「釣れますか?」
ふと背中から声を掛けられて、俺は驚いた。いつの間にか人が背中にいた事と、その声を掛けてきた、声の主が、美少女だったからだ。
その美少女は、何故か俺の顔を見て安心したような表情を一瞬見せた。
声の主は160cmくらいで、青いショートパンツに白いTシャツでそこから伸びる細くしなやかな肢体は小麦色に日焼けして、顔も同じように日焼けして小麦色だった。大きめの麦わら帽子をかぶり、そこから背中までの栗色の髪の毛を風になびかせて整った目鼻立ちと薄い唇を横にニイと広げ微笑み、俺の隣にクーラーBOXを椅子代わりにして、俺の答えなどどうでもいいように釣りの準備を始めていた。
「ボチボチですね」
「そうですか、ボチボチですか」
中学生、3年生くらいか、高校生くらいか。
その女の子はそんな事を言って、素早く仕掛けを着けると早速、凪いだ海面へと投げ込んでいた。
お、この流れる様な動作は素人のそれじゃあないな。俺は、彼女の慣れ切った動きからそれを見ていた。
「いつも釣りしてるんですか?」
俺はたまらずに声を掛けた。いや、たまらずってのは釣りの方だけど。
「そう~ですね~。結構、来てますよ」
そうだろうな。俺はそれ以上何もなく、自分の釣竿の穂先を見つめていた。
「よし! 来た!」
背中で声がする。さっきの美少女さんだ。リールをカリカリ巻いて同じようにニイと笑顔で俺に見せている。イワシが三匹、かかっていた。サビキという仕掛けなので針がいくつもついていて、その上にコマセという魚を寄せるための餌を入れる網があり、その下に、いくつもついている赤いひらひらの付いた針を、魚はコマセと勘違いして食いつくのだ。
「凄いね。一投目からだ」
俺の率直な感想だ。
「ん~、サビキは簡単だよ。お兄さんは何で釣ってるの?」
「俺? イソメで投げ込んでる。何が釣れるかは釣れてからのお楽しみさ」
何、狙っているんだろう……何でもいいんだ。波の音を聞いているだけだから。
詩人調に言ってみた。
その美少女さんはすぐにサビキを仕掛けの網に入れ投げ込んでいる。
「サビキくさ~」
と言って、手をタオルで拭いた。俺はその手の元、その美少女の胸を見ていた。おっと、勘違いされては困る。俺は、ロりに興味はない。いや、ここまで育てばそもそもロりじゃない。いや、定義の話など、どうでもいい。俺の目に映った、美少女の服、白いTシャツ。それは、そこには見慣れたマークがついてる。そのマークは俺の通学する小学校の校章で、その校章の隣には5-2、篠塚百合と黒のマーカーではっきりと書かれていた。
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