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世界樹

ポーション屋とユリトの願い

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 『シル公国』での納品先はポーション屋だ。
 ポーション屋は世界樹の大通り沿いに面している。
 メフィスとラファを連れて目的の場所に着く。店先では売り子のエルフがビラを配っていた。

「タイムセール実施中で~す。マジックポーション大量販売中で~す」

 日本で聞きなれた言葉が耳に入る。
 世界樹も転生者が増えた影響だろう。Aランクから世界樹にこれるが、Aランク以上の冒険者の割合にだいぶ転移者が入っているのだと思う。

「タイムセールとはなんなのでしょうか」
「ああ、時間限定で値下げしてますって宣言してるんだよ」

 ここでは馴染みがないだろう。
 メフィスとラファは感心していた。
 用件を済ませるため、店先のエルフに声をかける。

「すみません。依頼の納品でこちらに……」

 ッタッタッタ。走りかけてくる音が聞こえる。
 このパターンに見覚えがある。
 そして俺の視界に走ってくる女を捉える。
 最初に会った詩音とは比べものにならないスピードだ。
 黒髪、黒目、エルフ耳ですか。蹴りがきても避けきれる準備は万端だった。
 けれども俺は避けることはきなかった。

 その女性は知った顔だった。
 ただ、この世界ではなく日本にいた頃からの――

「うちの売り子にナンパすんなぁぁぁぁぁぁ」
「せ、か、・・・・・・ぃ」

((だから、油断大敵です))

 面目ない。

 -------------------------------------
 俺達はポーション屋の裏にある、建物の一室に座っている。
 俺を挟むようにメフィスとラファが座り、テーブルを挟んだ向かいに俺を蹴り飛ばした女性、世界が座っている。

「ユリくん、ごめん!最近、世界樹も人が増えてきてお店も大盛況なんだけど、調子に乗った転移者も増えてきて勘違いしちゃった。けどその中二病くさいマントはやめた方がいいよ?マントどころか全部?」
「避けられなかった俺が悪いし、見た目が危ない奴なのは自覚してるさ」
「ふーん。自覚しても着けたままなんだ。『最強』って言われるぐらいだから、普通のマントではないってことね」
「世界は今ポーション屋の店長ってところか?」
「半分正解かなー。私は『魔国アノン』のSSランク。クラン『EXTRA』のリーダーもしているわ。私のとこはパーティー名も同じね」

 俺が知っている世界は小学生までだが、当時からクラスでも男女問わず人気が高く周りを引っ張っていく少女だった。SSランクでクランリーダーは少し驚いたが、世界なら不思議ではないかと納得する。

「ユリくんは椎花ちゃんのために魔王を・・・・・・・」
「ああ」

 世界も合わなくなって5年経つけど、今の椎花の事を話すべきだな。

 -------------------------------------
 俺には5つ下に妹の椎花がいる。
 世界は隣に住んでおり、3人でよく遊ぶことが多かった。
 その頃は順風満帆な生活だった。
 そんな生活に変化が訪れたのは椎花が小学校に上がるタイミングだ。
 ある日、突然椎花が倒れた。
 両親が急いで病院に連れていくと、心臓の難病だと判明した。
 椎花はそのまま入院となった。
 元々体が強い方ではなかったが、病気と判明してから見る見る椎花は弱っていった。
 弱っていく椎花を見るのは辛かった。
 小学生だった俺にできることは、笑顔で楽しい話をすることしかできない。
 入院してから一年が経つ頃、次は父が交通事故で亡くなった。
 母の収入では家を維持することはできず、引っ越しを余儀なくされたが妹の入院している病院に近くにしたため、椎花と会える回数は増えた。
 高校に入ってからは俺もアルバイトをするようになり、帰りには椎花に会いに行く日々が日課となっていた。
 入院当初は立ち上がって歩くこともできていたが、その頃は立ち上がることもできずベットの上で俺の話を笑顔で聞いてくれていた。
 そして、転移する1か月前に余命宣告を病院の先生からされた。

「椎花さんが生きていける時間は残り2年だと思ってください――」

 その後も椎花を心配させないように変わらない生活を送るようにしていた。

 そして、異世界に俺は転生された――

 -------------------------------------
「椎花ちゃんが後2年なんて想像できない……去年会った時は普通に会話してたのに」

 去年?引っ越してから5年は経つだろ。
 俺の表情から察したのか世界が教えてくれる。

「私と椎花ちゃんはずっと携帯で連絡とってるわよ?あの後、私も引っ越したから会うのは年に数回だけど」

 初耳だ。
 椎花と会う時は俺の話ばかりだったせいか。

「私も椎花ちゃんのために魔王を倒すつもりなの。目的は一緒なんだから『EXTRA』に入らない?何も知らないお兄さん。後、最初に言っとくけど、ユリくんのためじゃなくて1人の親友を助けるためだから!」
「そこまで自惚れてないさ。誘いはありがたいが、すまん。俺はパーティーを組むと弱くなるから」
「やっぱそうなんだ。パーティーは無理でも目的は一緒なんだし、困ったらいつでもおいでね。お店の方に連絡してくれたら私の方に行くようにするから」
「ああ、ありがと。なんかあったら言うよ」
「後、今依頼で国を順番に回ってるよね?それで次『レティナ皇国』行くのよね?そこで冒険者ギルドが運営するソロ限定の大会があるわよ!賞金も5000万エルって聞いたわ。各国から参加者集めているみたいで、私達のクランの『万能型』も参加するわ。ユリくんでてみたら?個人的には『最強』の名がどれだけ強いか私気になるし」
「ほ~。ま、考えとくよ」

 その後は、世界に納品のアイテムを渡しお店を後にした。

「「ユリト様!!!」」

 お店を出て次の依頼のある『レティナ皇国』に向かうため、歩き始めようとしたら2人から声がかかった。

「「私達もっと強くなります(ね)。ユリト様と私達の3人で『魔王』をなんて倒しましょう!!」」

 今日は静かだと思っていたが、2人も色々考えてくれていたのか。

「ああ、メフィスとラファには期待している――」

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