上 下
6 / 48

第6話 父と母と里帰り

しおりを挟む
*ぼくのお父さんの話
ぼくの父は山口の田舎の育ちで、こち亀の両さんの父親にそっくりな人物であった。口ぐせは『だまされる方が悪い』で、怒りっぽくて荒い人だった。

けど、遊びに関してはいろいろ知っていて、父と二人で風呂に入った時に『タオル気球』という浴槽でタオルに空気を入れながら、水の中に入れて膨らませる遊びを教えてもらったことがあり、その時期は嵌ってよくやっていた。これは浴槽で時間をつぶすには最適で、よく肩までつかって100数えてなどと言われる時にやっていた。

また、家族でファミレスに寄った時に、『指かくし』という遊びを教えてもらったこともある。これは両手の掌の指を交互に組んで、その内の一本を内側に折り込み、どの指が中に入っているかを当てるゲームである。これは待ち時間にやるのが丁度いいくらいのゲームで、複数人でもできるので、家族4人のうち誰かが出題し、他の3人が当てるという形で遊んでいた。

それと、川に行った時に『水切り』という遊びを習ったこともある。この遊びはまず河原で平らな石を探して来て、次にその石を持って構え、最後に水面と水平に勢い良く投げるというやり方だ。放たれた石は地面にバウンドするのと同じ要領で水面を何度も跳ねて行き、最終的に勢いがなくなった時には水の中に落ちて行くのである。

 距離よりも跳ねる回数を競うことが多い遊びで、どれだけ勢いよく水面に対して水平に投げられるかがポイントであった。跳ねる際には最初は間隔が大きいのだが、最後の方になると小刻みに跳ねるようになり、失速して少し右に曲がりながらもちょろちょろと跳ねて行くのがなんとも言えずおもしろかった。

 このようにいろいろな遊びを教えてくれたのだが、『テレビを見ている間は集中するために会話をしてはいけない』という岡本家特有のルールがあったのと、夜9時には床に就くような『かなりの変わり者』だったので、土日以外はほとんど会話をしないような感じだった。

 剣道をやっていたことで足が短くなったと語っており、確かに見た感じ他の子のお父さんと比べて短いような気はしていた。凄く字がきれいで“ぼくは大人になってもこんな字は書けないな”と思っていた。
父親(ぼくの祖父に当たる人)がぼくが生まれる前に早世したことがキッカケで健康マニアになり、青汁や野菜ジュースを山ほど買い込んではせっせと飲んでいたのをよく覚えている。


*ぼくのお母さんの話
 ぼくの母はセルフサービスというわりには死ぬほどおせっかいだったり、30点を100点と思っているような節があり、何かと抜けていて、自己肯定感が強い人だった。基本的に『人の話を聞かずに自分が一方的に話す』というスタイルを貫いており、ぼくがこうやって文章をしたためるようになったのも、幼少期から誰かに話を聞いてほしいという欲求を溜め続けて来たからに他ならない。

学生時代はテニスをやっていたのだが、練習をサボって友達とダベって帰ることが多かったようで、あまり真剣にはやっていなかったらしい。

 唯一頑張ったのは受験勉強らしく、その時期には10円ハゲができるほど勉強し、有名な大学の教育学部に入って勉強に励んだそうだ。その後、教育実習を経て山口の離島で教師になり、2年務めたあと、見合いで父と結婚したらしい。

 国語教師であったことに強い誇りを持っているようで、『勉強しなさい』と全然言われなかったぼくも、漢字の書き順についてだけは、いつも口うるさく言われていた。とにかく話すのが好きな人で、寝る前に本を読み聞かせてくれたり、妹と3人で自分で創った出鱈目な話、『でたばな』をしたりして遊んでくれていた。

 因みにぼくはこの『勉強しなさい』を人類最低の発言だと考えていて、これは「今からロケットで月に行きなさい」と言っているようなものだと思う。設計図を渡して現物を見せ、技術者と協力しながら作成しなければ、到底このようなことは無理なのである。

 やってみせ、言って聞かせてさせてみせ、褒めてやらねば人は動かないのである。

*田舎への里帰りの話
 千葉から母の実家がある下松の家に行くのはいつも大変で、まず東京駅まで在来線で出てそこから新幹線のぞみに乗って広島まで行き、こだまに乗り換えて山口県の徳山駅まで行って、更に在来線で二駅先の下松駅まで行かないといけなかった。

 1987年、国鉄がJRになった年に生まれたぼくではあったが、音(こだま)より光(ひかり)が速く、目に見えない望(のぞみ)がそれより速いということを、当時のぼくはよくわかっておらず、親に言われるまま着いて行っていた。

道中は約8時間くらい掛かり、ほぼ半日潰れるので、おじいちゃんとおばあちゃんの家に着いた時には一仕事終えたような感覚になっていた。

 東京駅へ向かう方を『上り』東京駅から出て行く方を『下り』と言うが、田舎へ帰るのは長期休暇の時だったので、東京からの下り電車の中はいつも混んでいた。ぼくが子供だった頃の1990年代後半には東海道新幹線のぞみは時速270kmで走行しており、東京―大阪間は約2時間30分で走破できていた。

 だが、それは度重なる技術革新があったためであり、開業年の1964年(東京オリンピックがあった年)まで、ひかりが210kmで4時間かけて走行していた。その翌年に徐行区間(ゆっくり走るところ)がなくなったことで3時間10分で行けるようになったものの、それから約20年ほどはその状態だった。

この頃は九州と東北、北海道にも新幹線がない時代で、1992年にのぞみが開通してからしか乗ったことのないぼくは、かなりラッキーだったのかもしれない。
ほとんど毎回父は後から合流することになっており、母と妹と3人での帰省で徳山駅まで親戚のおばさんが迎えに来てくれて、駅舎の中にあるフグのハリボテの前で待ってくれていた。

それから車で昔は光市と呼ばれていた今の周南市を通り、母の実家まで連れて行ってもらっていた。ぼくたちの乗った車が家の前に着いてバックで駐車場に入ろうとすると、おじいちゃんとおばあちゃんが待ちきれずに駐車場で出迎えてくれていて、それが凄く嬉しかった。

タクシーで土気駅へ向かって在来線で行った東京駅は、小学生の少年にとってはとても大きく見え、ここが日本の首都なんだと思うとなんだか胸が高鳴る気持ちがあった。1995年までは今とは違って明るい雰囲気があり、景気が低迷し続けていても悲壮感などは漂っていなかった。



----------------------------

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

現在作者は創作大賞2024に応募中です!

下記リンクで『♡を押して頂けると』凄く助かります。

あなたの1票でデビューにグッと近づきます!

全てのページに『♡が10個以上』ついた場合、

アルファポリスにて本作を特別に50話までフル公開します!

宜しくお願い致します。


https://note.com/aquarius12/n/n0bf94361816e

https://note.com/aquarius12/n/n485711a96bee

https://note.com/aquarius12/n/ne72e398ce365

https://note.com/aquarius12/n/nfc7942dbb99a

https://note.com/aquarius12/n/n787cc6abd14b
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

図書室ピエロの噂

猫宮乾
児童書・童話
 図書室にマスク男が出るんだって。教室中がその噂で持ちきりで、〝大人〟な僕は、へきえきしている。だけどじゃんけんで負けたから、噂を確かめに行くことになっちゃった。そうしたら――……そこからぼくは、都市伝説にかかわっていくことになったんだ。※【完結】しました。宜しければご覧下さい!

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミでヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

絡まるソースのような

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
 幼馴染の奏太が貧血で倒れたことをキッカケに、彩夏がバァヤ(おばあちゃん)として奏太の夕ご飯を家で作ってあげることに。  彩夏は奏太に対してバァヤ目線で、会話をしていく。  奏太は彩夏のことが恋愛として好き。  しかし彩夏は奏太のことが実は恋愛として好きだということに気付いていない。  そんな彩夏と奏太が料理で交流していき、彩夏が恋愛に気付いていくストーリー。

バロン

Ham
児童書・童話
広大な平野が続き 川と川に挟まれる 農村地帯の小さな町。 そこに暮らす 聴力にハンデのある ひとりの少年と 地域猫と呼ばれる 一匹の猫との出会いと 日々の物語。

指輪を見つけた王子様

森乃あかり
児童書・童話
森の奥にあるお城にちょっと臆病な王子様が住んでいました。 王子様はみんなで一緒に食事をしたいと思っているのに、自分の気持ちを伝えることができません。 ある日、王妃様から贈られた『勇気の指輪』という絵本を読んだ王子様は、勇気の指輪を探すために森へ出かけていきます。 .・。.・゜✭・.・✫・゜・。. 王子様が読んだ「勇気の指輪」は絵本ジャンルにあります。あわせてお楽しみください。 ※表紙はAI生成したものです。 ※挿絵はありません。

まくちゃんとなかまたち

こぐまじゅんこ
児童書・童話
くまのまくちゃんと森の仲間たちのお話です。 短編集です。 よかったら、読んでみてください。 挿し絵もあります。

アイの間

min
児童書・童話
中学2年生の雪。 思春期の彼には、色々と考えることがあるみたいで…。

処理中です...