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第34話 恋の行方
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それから二人は店を出て、自然と小指を絡めて手を繋いだ。
「ねえ、公園行かない?」
「いいぜ。俺もちょうど海が見たいと思ってたところだ」
明もこれに同調し、近くにあった『山下公園』というところで一休みすることにした。
「凄~い。おっきな船」
風に髪を靡(なび)かせて、遠くを眺める横顔は、女神のように綺麗に映った。
この頃にはもう『自覚』していた。自分がどういう感情を抱いているのかを。
「お菓子あるんだけど食べる?」
「おう、気が利くじゃん。食べる食べる」
「ピーナッツなんだけど、同じものが2袋あって食べきれなくて――」
明にあげるために態々買った訳ではなく、父の実家から送られて来たものが、捨ててしまおうかと思うほどに余っているのであった。
「おう、そういうことなら任しとけよ。まあ、カロリー的に一袋が限界だけどな」
「うん、助かるよ。私の家族、このお菓子あんまり好きじゃないみたいだし。あ、そう言えば、今日って成人式だよね」
「ん?そうなのか?あんま気にしてなかったな。そう言えばここへ来る前に着物の奴を何人か見たな」
「私たちもあと2年したら大人になるんだよね。けど、明くんはもう働いてるから、大人みたいなもんか――」
「俺なんかまだまだヒヨッコだよ。車だってファイトマネーをやり繰りしてやっと買えたんだし。大人だなんてまだ早えよ」
「ふふふ、そうかもね。明くんは車、何乗ってんの?」
昭和の終わり、この時代に決まり文句のように繰り返されていたこの質問。車のランクが男の評価に直結するような、妙な風潮があった。
「知ってるだろ?カローラだよ」明は笑いながらそう答えた。
二人は何度かドライブへ行っており、カローラというメジャーな車なため、秋奈が車種を知らない筈はない。
「へへへ、そうだったね。ちょっと言ってみただけ」
秋奈はとぼけて子供のように嬉しそうに笑って見せた。この頃になるとかなり明に気を許していたのであろう、秋奈の性格からは珍しく、思い付いたことをそのまま話し、わりとどうでもいいことでも話題にするようになっていた。
「今日は楽しかったね~」
「うん――」
デパートで買い物をしている時のように上機嫌の秋奈に反し、明はなんだか思う所があるようだ。
“クソッ。これじゃ、あの時から何の進歩もねえじゃねえかよ。根性見せろよ、赤居 明”自分を奮い立たせようと鼓舞するが、チャンスはあるがなかなか行動に移せない。顔が凄く近いのに、どうしてもキスすることができないでいた。長い沈黙の後、意に反し会話を始める。
気まずさを打ち消すようにするが、空気を読むことが『逃げ』に繋がっていることが自分でもよく分かっていた。そしてそのまま30分近く戸惑ったまま、時間だけが過ぎて行った。なんとも青春まっしぐらな話だが、初キスの時には妙に緊張してしまうものなのである。秋奈が夕焼けの綺麗さに見とれていると、明は意を決して言葉を発した。
「目、瞑って」そう言われ、秋奈は察しが付いたのか黙って頷いてその言葉に従った。
明は少し震えながら、秋奈の肩に手を回した。鼓動が高鳴り、頭に靄が掛かったように何も考えられない。そして、昔聞いた古めかしい歌謡曲を思い出していた。唇がふっと触れ、初めてマシュマロを食べた時のような感覚に囚われた。
「「レモン――」」声が被ったので、思わず二人とも笑ってしまった。
沈黙の後、寄り添ってお互いの体温を感じ合う。そして帰り際、歩きながら最後にもう一回という感じでキスをした。キスの後に、照れながら二人で笑い合った。
「俺、これから秋奈のこと大切にするよ」
「そうだね。これからもよろしくね」
秋奈は子供のように無邪気な笑みを浮かべながらそう言った。
「――うん」
「赤くなってる~。可愛いとこあんじゃん」
二人は安心したようにまた笑い合った。
夕焼けに照らされた二人の『姿』は、心なしか輝いて見えた。
「ねえ、公園行かない?」
「いいぜ。俺もちょうど海が見たいと思ってたところだ」
明もこれに同調し、近くにあった『山下公園』というところで一休みすることにした。
「凄~い。おっきな船」
風に髪を靡(なび)かせて、遠くを眺める横顔は、女神のように綺麗に映った。
この頃にはもう『自覚』していた。自分がどういう感情を抱いているのかを。
「お菓子あるんだけど食べる?」
「おう、気が利くじゃん。食べる食べる」
「ピーナッツなんだけど、同じものが2袋あって食べきれなくて――」
明にあげるために態々買った訳ではなく、父の実家から送られて来たものが、捨ててしまおうかと思うほどに余っているのであった。
「おう、そういうことなら任しとけよ。まあ、カロリー的に一袋が限界だけどな」
「うん、助かるよ。私の家族、このお菓子あんまり好きじゃないみたいだし。あ、そう言えば、今日って成人式だよね」
「ん?そうなのか?あんま気にしてなかったな。そう言えばここへ来る前に着物の奴を何人か見たな」
「私たちもあと2年したら大人になるんだよね。けど、明くんはもう働いてるから、大人みたいなもんか――」
「俺なんかまだまだヒヨッコだよ。車だってファイトマネーをやり繰りしてやっと買えたんだし。大人だなんてまだ早えよ」
「ふふふ、そうかもね。明くんは車、何乗ってんの?」
昭和の終わり、この時代に決まり文句のように繰り返されていたこの質問。車のランクが男の評価に直結するような、妙な風潮があった。
「知ってるだろ?カローラだよ」明は笑いながらそう答えた。
二人は何度かドライブへ行っており、カローラというメジャーな車なため、秋奈が車種を知らない筈はない。
「へへへ、そうだったね。ちょっと言ってみただけ」
秋奈はとぼけて子供のように嬉しそうに笑って見せた。この頃になるとかなり明に気を許していたのであろう、秋奈の性格からは珍しく、思い付いたことをそのまま話し、わりとどうでもいいことでも話題にするようになっていた。
「今日は楽しかったね~」
「うん――」
デパートで買い物をしている時のように上機嫌の秋奈に反し、明はなんだか思う所があるようだ。
“クソッ。これじゃ、あの時から何の進歩もねえじゃねえかよ。根性見せろよ、赤居 明”自分を奮い立たせようと鼓舞するが、チャンスはあるがなかなか行動に移せない。顔が凄く近いのに、どうしてもキスすることができないでいた。長い沈黙の後、意に反し会話を始める。
気まずさを打ち消すようにするが、空気を読むことが『逃げ』に繋がっていることが自分でもよく分かっていた。そしてそのまま30分近く戸惑ったまま、時間だけが過ぎて行った。なんとも青春まっしぐらな話だが、初キスの時には妙に緊張してしまうものなのである。秋奈が夕焼けの綺麗さに見とれていると、明は意を決して言葉を発した。
「目、瞑って」そう言われ、秋奈は察しが付いたのか黙って頷いてその言葉に従った。
明は少し震えながら、秋奈の肩に手を回した。鼓動が高鳴り、頭に靄が掛かったように何も考えられない。そして、昔聞いた古めかしい歌謡曲を思い出していた。唇がふっと触れ、初めてマシュマロを食べた時のような感覚に囚われた。
「「レモン――」」声が被ったので、思わず二人とも笑ってしまった。
沈黙の後、寄り添ってお互いの体温を感じ合う。そして帰り際、歩きながら最後にもう一回という感じでキスをした。キスの後に、照れながら二人で笑い合った。
「俺、これから秋奈のこと大切にするよ」
「そうだね。これからもよろしくね」
秋奈は子供のように無邪気な笑みを浮かべながらそう言った。
「――うん」
「赤くなってる~。可愛いとこあんじゃん」
二人は安心したようにまた笑い合った。
夕焼けに照らされた二人の『姿』は、心なしか輝いて見えた。
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