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第24話 決着!五十嵐の勇姿
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小技を駆使した第6ラウンド、大技で押し切った第7ラウンドを終え、激しさを増しながら、第8ラウンドが開始された。互いに足を左右に広げ重心を低くした構えであり、主にインファイトの時に用いられる『アストライドポジション』を取っている。
向かい合って立ち、どちらかが倒れるまで打つのを止めない覚悟を決めたようだ。ロビンソンは舌を出して挑発している。油断したロビンソンに五十嵐が『スマッシュ』をお見舞いする。
しかし、このロビンソンという男は恐ろしくタフである。臍(へそ)の上に突き刺さった筈の迫撃を、分厚い筋肉で受け止めてしまっていた。相当な痛みが走った筈だが、肉体も然る事ながら、精神力も人並外れたものがあると見える。
隙を突いて強烈な『ガゼルパンチ』と見せかけて、そのまま五十嵐の左テンプルを狙い撃ちして来た。本来の五十嵐なら、この戦法が頭にあっただろうが、満身創痍の今の状況では、これが思いの外(ほか)効果的であった。
目を覆いたくなるような一撃が、モロに『テンプル』を直撃した。意識などあろう筈もない。膝をついて倒れかけている光景を見て、誰もが目を疑わずにはいられなかった。胡坐を掻き、前傾姿勢になるような形で、五十嵐はこの試合初めてのダウンを取られてしまった。
日数にして1784日。五十嵐はこれまで世界チャンピオンとして君臨し続ける中で、『ただの一度も』ダウンを奪われたことはなかった。バンタム級のボクサーにしてみれは、この光景事態が既にニュースとして成り立つほどの衝撃的な出来事であった。
微動だにしない五十嵐。もはやこれまでか――皆がそう感じた矢先、苦しそうに五十嵐が身体を起こした。どうやら意識は回復したが、身体が動かせなかったようだ。
ロープ際まで身体を倒し、反動を使い、なんとか立ち上がって見せた。審判が再開の合図をした1秒後、大袈裟なほどに大きなゴングの音が鳴り響いた。
「どうしよう、明くん。叔父さんが――」
秋奈はいつになく取り乱した様子である。
「大丈夫だから。信じて見守ろう」
この言葉は秋奈に対してもだが、自分に言い聞かせる意味合いも強かった。
「だって――」
「だっても明後日もねえだろ。心配すんな。あの人は俺の憧れだ。負ける訳ねえよ」
「そうだよね。叔父さん、無事で帰って来てくれるよね」
力なくそう話した二人には、ハラハラした気持ちを抑えながら、試合を見守ることしかできなかった。
優勢に見えた第9ラウンド、劣勢に見えた第10ラウンド、精神を削った第11ラウンド、疲弊しきった第12ラウンドを終え、緊迫した空気の中、第13ラウンドが開始された。堰を切ったように力を尽くして闘う二人は、形振り構わずといった感じだ。終盤に差し掛かり、体力が尽きかけているのであろう。
そして、ロビンソンの勢いに乗った『ガゼルパンチ』が五十嵐の身体にぶち当たる。『クロスアームガード』で防いではいるが、縦にした左腕の肘が、不運にも自らの肋骨を痛めつけてしまう。白目を剥き、己を奮い立たせて耐え忍ぶ。
そして、このラウンド二度目の『ガゼルパンチ』が五十嵐を襲う。交通事故のような衝撃に、とうとう五十嵐は血を吐いてしまった。またもや崩れ落ちそうになる五十嵐。
この絶体絶命の状況に、レフェリーは試合を止めようかと迷ってしまう程であった。会場が諦めかけたその時、一人の男が立ち上がった。
「耐えてくれ!お願いだ――負けないでくれえ!!」
明たちから15m程離れた観客席で、一際(ひときわ)大きな声を出して応援している人物が居た。その青年を見て、秋奈が表情を変えたので、明にはそれが誰なのか容易に想像が付いた。
だが、無情にも時は流れ、残酷にも試合は続いて行く。絶体絶命の状況の中、五十嵐の肝臓を目掛け、ロビンソン必殺の『リバー・ブレイク・ガゼル』が炸裂する。それに対し微動だにしない五十嵐。不気味な膠着状態が訪れる。
不思議に思ったレフェリーが、真正面から五十嵐を見て、慌てて両手を交差させる。
突然の出来事に、会場からは驚嘆の声や悲鳴が聞こえる。一体どうしたというのであろうか。なんと、五十嵐はファイティングポーズをとったまま気絶してしまっていた。
弁慶宛ら、なんという『精神力』であろうか。衝撃の『スタンディングノックダウン』に会場は大混乱の様相であった。
「嘘だ――嘘だろ!!」
いつもは取り乱すことなどない明だが、流石にこの状況には動揺を禁じ得なかった。明と秋奈はタンカで運ばれる五十嵐に駆け寄り、必死に声を掛け続けた。米原は命を削って挑んだ五十嵐に、何もしてやれなかったと、悔やんでも悔やみきれなかった。
明は両の拳を強く握り、噛み砕かんとするほどに歯を食いしばった。泣き崩れる秋奈を、力なく支えることしかできない自分に、激しい憤りを感じた。
“待ってろよ。いつになっても、この借りは必ず返すからな”
明は天地天命に誓って、ロビンソンにリベンジすることを決めた。
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ここまで読んで頂いてありがとうございます。
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隙を突いて強烈な『ガゼルパンチ』と見せかけて、そのまま五十嵐の左テンプルを狙い撃ちして来た。本来の五十嵐なら、この戦法が頭にあっただろうが、満身創痍の今の状況では、これが思いの外(ほか)効果的であった。
目を覆いたくなるような一撃が、モロに『テンプル』を直撃した。意識などあろう筈もない。膝をついて倒れかけている光景を見て、誰もが目を疑わずにはいられなかった。胡坐を掻き、前傾姿勢になるような形で、五十嵐はこの試合初めてのダウンを取られてしまった。
日数にして1784日。五十嵐はこれまで世界チャンピオンとして君臨し続ける中で、『ただの一度も』ダウンを奪われたことはなかった。バンタム級のボクサーにしてみれは、この光景事態が既にニュースとして成り立つほどの衝撃的な出来事であった。
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「だって――」
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そして、ロビンソンの勢いに乗った『ガゼルパンチ』が五十嵐の身体にぶち当たる。『クロスアームガード』で防いではいるが、縦にした左腕の肘が、不運にも自らの肋骨を痛めつけてしまう。白目を剥き、己を奮い立たせて耐え忍ぶ。
そして、このラウンド二度目の『ガゼルパンチ』が五十嵐を襲う。交通事故のような衝撃に、とうとう五十嵐は血を吐いてしまった。またもや崩れ落ちそうになる五十嵐。
この絶体絶命の状況に、レフェリーは試合を止めようかと迷ってしまう程であった。会場が諦めかけたその時、一人の男が立ち上がった。
「耐えてくれ!お願いだ――負けないでくれえ!!」
明たちから15m程離れた観客席で、一際(ひときわ)大きな声を出して応援している人物が居た。その青年を見て、秋奈が表情を変えたので、明にはそれが誰なのか容易に想像が付いた。
だが、無情にも時は流れ、残酷にも試合は続いて行く。絶体絶命の状況の中、五十嵐の肝臓を目掛け、ロビンソン必殺の『リバー・ブレイク・ガゼル』が炸裂する。それに対し微動だにしない五十嵐。不気味な膠着状態が訪れる。
不思議に思ったレフェリーが、真正面から五十嵐を見て、慌てて両手を交差させる。
突然の出来事に、会場からは驚嘆の声や悲鳴が聞こえる。一体どうしたというのであろうか。なんと、五十嵐はファイティングポーズをとったまま気絶してしまっていた。
弁慶宛ら、なんという『精神力』であろうか。衝撃の『スタンディングノックダウン』に会場は大混乱の様相であった。
「嘘だ――嘘だろ!!」
いつもは取り乱すことなどない明だが、流石にこの状況には動揺を禁じ得なかった。明と秋奈はタンカで運ばれる五十嵐に駆け寄り、必死に声を掛け続けた。米原は命を削って挑んだ五十嵐に、何もしてやれなかったと、悔やんでも悔やみきれなかった。
明は両の拳を強く握り、噛み砕かんとするほどに歯を食いしばった。泣き崩れる秋奈を、力なく支えることしかできない自分に、激しい憤りを感じた。
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