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第15話 完全無欠の日本チャンプ
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皆藤兄弟の兄である遼に勝利したことで、明は現在日本ランキングで1位となっており、JBC日本チャンピオンである 安威川 泰毅と対戦することとなった。
この闘いに勝利することができれば、チャンピオンベルト保持者となり、晴れて『タイトルホルダー』となることができる。
また、日本チャンピオンを巡るタイトルマッチのファイトマネーは、70から100万円であるため、これからの生活にも余裕ができそうだ。
「 偶には相手のことを知ってから試合をするのも悪くはないだろう」
五十嵐にそう言われ、明と秋奈は今回の対戦相手である安威川の試合を見に来ていた。
彼はヒーローとヒールの二つのイメージがある 稀有な選手。
五十嵐から伝えられたのは、その一言のみだった。
いつも相手選手のことをうんざりするほど説明してくる五十嵐にしては珍しく、明は思わず「他には?」と聞いてしまった程だ。
五十嵐は「安威川は言葉で語るよりも見ておいた方がいい」とだけ言い残し、用事があるからと先にジムを出て行ってしまった。
秋奈に聞いてみても世界チャンピオンになれるレベルだと話題になって来ていて、『恐ろしく強い』とだけ聞いたことがあるという。
会場で試合開始を待つこと15分、待つのが嫌いな明が少々イライラし始めた頃、選手紹介があり二名の選手が入場してきた。初めて安威川を見て明は、「良い身体してんな」とだけ呟いた。
対戦相手は外国人選手で、何でも『冷徹漢』トミー・ドラゴと引き分けたことがあるらしい。
安威川は選手紹介で『浪速の風雲児』と称され、短髪で爽やかな印象が持てる選手だった。
試合を見に来るのが初めての明でも今日の試合で女性の観客が多いことが分かった。
一通りルール説明があった後、両者コーナーポストに着き緊迫した空気が流れる。
少ししてレフェリーが係りに合図をし、試合開始のゴングが鳴らされた。歩み寄る両者。
まず安威川が相手にジャブを繰り出すが普通とは少し違って見える。
「『サウスポー』かよ」
『サウスポー』とは左利きの選手のことで、野球用語から転用された言葉であり、1891年にスポーツライターのチャールズ・シーモアが初めて使用したものである。
米国野球の大リーグでは午後の試合でバッターの目に西日が入って眩しくないようにとホームベースを西に置いている。
従って、一塁側は南、二塁側は東、三塁側は北となり、動物の前足をポー、後足をハインドポーと言うことから、南側の手で投げるのでサウスポーと言われるようになった。
明は五十嵐が左利きであるため見慣れてはいたものの、実際に左利きの選手と対戦するのはこれが初めてとなる。
小刻みに、しかし豪快に繰り出される安威川のジャブは相手選手の動きを止め、反撃の余地もないように見える。
『バシンっ』
次の瞬間、強烈なボディーブローが相手選手の脇腹に突き刺さった。
「うわぁ、痛そう~」
秋奈の少し間抜けな口調に拍子抜けしそうになるも、明は試合の行方を見守った。
相手選手はこの一撃でダウンし、カウント9で辛うじて起き上がった。
だが傍から見ても既に闘えるような状態ではない。
一応ファイティングポーズを取ってはいるがレフェリーが不安を覚えるほどの衰弱ぶりであった。
ファイトが続行され安威川が右足を一歩踏み込み、左手を大きく振り抜いた瞬間、観客の多くは思わず目を覆ってしまった。
リングに転がり、少し痙攣した様子の相手選手。
すぐにタンカが到着し、病院に向けて搬送されて行った。
あまりの惨状に、安威川に促されるまでレフェリーが勝利者宣言を忘れてしまうほどであった。
非現実的な光景に会場は一気に静まり返ってしまった。
「行くぞ」
並んで座っていた明と秋奈の後ろに、いつの間にか五十嵐が座っていたようだ。
いきなり声を掛けられ、二人とも少し身体をビクつかせる。
「ビックリさせんなよ。っていうか、来るの遅えんじゃねえか?いつから居たんだよ?」
明は不満げにそう言い放つ。
「今しがた到着したばかりだ。それより、今回の相手は強いぞ。なんと言っても、日本チャンピオンを『9度も』防衛している男だ。そこらの『青二才』とは訳が違うぞ」
『青二才』が自分のことを指しているのか、いないのか。気にはなったが、聞かないでおくことにした。
「どうだ安威川は。俺が最強の刺客と言うだけのことはあるだろう」
「確かに強えな。だが、俺には『新必殺技』があるから大丈夫だ」
「『新必殺技』?いつの間にそんなものを思いついたんだ。一度見てみたいな」
「ローラースケートやってる時に思いついたんだ。まぁ慌てんなって。今度の試合の時にお披露目するぜ」
「ろーらーすけーと?最近の若い奴はハイカラなものをやっているんだな」
“どうして男はみんなローラースケートに対して同じ感想なんだろう?”
秋奈はそう思ったが、口に出すのは止めておいた。
「1ヶ月後、4月の第2日曜日に午後6時から兵庫県神戸市にあるサンボーホールで安威川とファイトだ。これは相当な正念場になるぞ」
五十嵐は心配半分、期待半分と言ったところであろうか。
「そうか。まぁ1ヶ月もあれば『新必殺技』も精度が上がるってもんよ」
明は余程手応えがあるのだろうか、試合を決めるのはこの『新必殺技』に頼ることにしていそうだ。
この闘いに勝利することができれば、チャンピオンベルト保持者となり、晴れて『タイトルホルダー』となることができる。
また、日本チャンピオンを巡るタイトルマッチのファイトマネーは、70から100万円であるため、これからの生活にも余裕ができそうだ。
「 偶には相手のことを知ってから試合をするのも悪くはないだろう」
五十嵐にそう言われ、明と秋奈は今回の対戦相手である安威川の試合を見に来ていた。
彼はヒーローとヒールの二つのイメージがある 稀有な選手。
五十嵐から伝えられたのは、その一言のみだった。
いつも相手選手のことをうんざりするほど説明してくる五十嵐にしては珍しく、明は思わず「他には?」と聞いてしまった程だ。
五十嵐は「安威川は言葉で語るよりも見ておいた方がいい」とだけ言い残し、用事があるからと先にジムを出て行ってしまった。
秋奈に聞いてみても世界チャンピオンになれるレベルだと話題になって来ていて、『恐ろしく強い』とだけ聞いたことがあるという。
会場で試合開始を待つこと15分、待つのが嫌いな明が少々イライラし始めた頃、選手紹介があり二名の選手が入場してきた。初めて安威川を見て明は、「良い身体してんな」とだけ呟いた。
対戦相手は外国人選手で、何でも『冷徹漢』トミー・ドラゴと引き分けたことがあるらしい。
安威川は選手紹介で『浪速の風雲児』と称され、短髪で爽やかな印象が持てる選手だった。
試合を見に来るのが初めての明でも今日の試合で女性の観客が多いことが分かった。
一通りルール説明があった後、両者コーナーポストに着き緊迫した空気が流れる。
少ししてレフェリーが係りに合図をし、試合開始のゴングが鳴らされた。歩み寄る両者。
まず安威川が相手にジャブを繰り出すが普通とは少し違って見える。
「『サウスポー』かよ」
『サウスポー』とは左利きの選手のことで、野球用語から転用された言葉であり、1891年にスポーツライターのチャールズ・シーモアが初めて使用したものである。
米国野球の大リーグでは午後の試合でバッターの目に西日が入って眩しくないようにとホームベースを西に置いている。
従って、一塁側は南、二塁側は東、三塁側は北となり、動物の前足をポー、後足をハインドポーと言うことから、南側の手で投げるのでサウスポーと言われるようになった。
明は五十嵐が左利きであるため見慣れてはいたものの、実際に左利きの選手と対戦するのはこれが初めてとなる。
小刻みに、しかし豪快に繰り出される安威川のジャブは相手選手の動きを止め、反撃の余地もないように見える。
『バシンっ』
次の瞬間、強烈なボディーブローが相手選手の脇腹に突き刺さった。
「うわぁ、痛そう~」
秋奈の少し間抜けな口調に拍子抜けしそうになるも、明は試合の行方を見守った。
相手選手はこの一撃でダウンし、カウント9で辛うじて起き上がった。
だが傍から見ても既に闘えるような状態ではない。
一応ファイティングポーズを取ってはいるがレフェリーが不安を覚えるほどの衰弱ぶりであった。
ファイトが続行され安威川が右足を一歩踏み込み、左手を大きく振り抜いた瞬間、観客の多くは思わず目を覆ってしまった。
リングに転がり、少し痙攣した様子の相手選手。
すぐにタンカが到着し、病院に向けて搬送されて行った。
あまりの惨状に、安威川に促されるまでレフェリーが勝利者宣言を忘れてしまうほどであった。
非現実的な光景に会場は一気に静まり返ってしまった。
「行くぞ」
並んで座っていた明と秋奈の後ろに、いつの間にか五十嵐が座っていたようだ。
いきなり声を掛けられ、二人とも少し身体をビクつかせる。
「ビックリさせんなよ。っていうか、来るの遅えんじゃねえか?いつから居たんだよ?」
明は不満げにそう言い放つ。
「今しがた到着したばかりだ。それより、今回の相手は強いぞ。なんと言っても、日本チャンピオンを『9度も』防衛している男だ。そこらの『青二才』とは訳が違うぞ」
『青二才』が自分のことを指しているのか、いないのか。気にはなったが、聞かないでおくことにした。
「どうだ安威川は。俺が最強の刺客と言うだけのことはあるだろう」
「確かに強えな。だが、俺には『新必殺技』があるから大丈夫だ」
「『新必殺技』?いつの間にそんなものを思いついたんだ。一度見てみたいな」
「ローラースケートやってる時に思いついたんだ。まぁ慌てんなって。今度の試合の時にお披露目するぜ」
「ろーらーすけーと?最近の若い奴はハイカラなものをやっているんだな」
“どうして男はみんなローラースケートに対して同じ感想なんだろう?”
秋奈はそう思ったが、口に出すのは止めておいた。
「1ヶ月後、4月の第2日曜日に午後6時から兵庫県神戸市にあるサンボーホールで安威川とファイトだ。これは相当な正念場になるぞ」
五十嵐は心配半分、期待半分と言ったところであろうか。
「そうか。まぁ1ヶ月もあれば『新必殺技』も精度が上がるってもんよ」
明は余程手応えがあるのだろうか、試合を決めるのはこの『新必殺技』に頼ることにしていそうだ。
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