6 / 48
第6話 新人戦
しおりを挟む
そして、初戦から二週間後の10月29日。
トーナメント二試合目、準決勝は東京都江東区にある有明(ありあけ)コロシアムで行われる。
試合の相手は 大宮 潤との試合に勝利した、 勅使川原 裂との対戦となる。
彼は魚屋の息子で、空手の県大会で2位に入賞したこともある実力者だ。
少々余裕を見せている明に対し、米原は気を抜かないようにと 釘を刺す。
「今回のトーナメントには『輸入ボクサー』は居ないようだな。
大抵ロシア辺りから来た奴が一人くらいは居るもんだが」
「そんな奴が居たら面白いかもな。なんか楽勝な気がするんだよな、このトーナメント。さっさと優勝しちまいてえぜ」
「そうかもしれんが、気は抜くんじゃないぞ。試合に勝つことは、己に勝つことだからな」
「ああ、オシャカになっちまわねえように頑張るよ」
明はそう言い残すと、スタスタと会場まで向かって行ってしまった。
試合開始5分前、秋奈と五十嵐は観戦のため、観客席に来ていた。
どうやら秋奈は少し機嫌が悪いようだ。
「もう~。新人戦だからって、明くんの試合なんだから寝ようとしないでちゃんと見てよ」
「んん~。今のところ赤居の敵になるほどの奴は出て来ていないからな」
「せっかく来たんだから、応援すればいいのに」
秋奈の話を気にも留めず、五十嵐は会場の一点を見つめている。
「あれは――」五十嵐は誰かに気付いて近づいて行く。
「古波蔵じゃないか。どうした?こんなところで」
「五十嵐くん!いや~実は筋の良い子に出会ってね。生まれて初めて『指導』することにしたんだ」
「ほう~奇遇だな。実は俺も同じ状況なんだ」
「やはり、宿命と言うものなのかな~。その子は近い将来、間違いなく世界に名を 馳す存在となる。今日は決勝戦での対戦相手を見ておこうと思ってね」
「これは次の試合は苦戦するかもしれんな。名は何と言うんだ?」
「 与那嶺くんと言うんだ」
その言葉を聞いた秋奈は、顔から血の気が引くのを感じた。
「ヨナミネ?ヨナミネって『与那嶺 弘樹』のこと?」
「あいっ。友達かい?よく知ってるね~」古波蔵は嬉しそうにしている。
「なんだ秋奈?知っているのか?」五十嵐も同じ気持ちのようだ。
テンションの高い二人に対して、秋奈は冷静に言い切る。
「友達な訳ないでしょ。武蔵総連の初代総長だった人だよ。中学2年生の時に10人に絡まれて無傷で帰って来たって有名だよ」
武蔵総連とはメンバー50名以上、関東最強の暴走族である。
「ほお~おもしろそうな奴だな」五十嵐は全く意に介さずと言った様子だ。
「やめといた方がいいよ。『鬼殴り』って言って、殴りだしたら気絶するまで絶対に止めないんだって。ヤバいんじゃない?」
「大丈夫さ。赤居は俺が見込んだ男なんだ。古波蔵、悪いが今回も勝たせてもらうぞ」
五十嵐は自信満々に言い切った。
「五十嵐くんの教え子は赤居くんと言うのか~。覚えておくよ。だけど今回は前の時のようには行かないよ、なんたって彼には――」
古波蔵はそう言い掛けて言葉を飲み込んだ。
その後、「決勝で会おう」とだけ言い残し、その場を後にした。
明の試合は、殴る部分『ナックルパート』でない拳の内側で打つ反則打である『インサイドブロー』や、手を開いたまま打つ反則打である『オープンブロー』などクリーンとは言えない相手の攻撃に怪我の心配があったものの、2ラウンド中盤で得意のアッパーが決まり、決勝へと 駒を進めることができた。
『オープンブロー』は縫い目などで相手が額をカットする危険性があること、殴った方が手首を痛める危険性があること、耳に当たると鼓膜が破れることから、かなり危険な反則打であると言える。
そして、試合と試合の間の10分間の休憩を挟み、与那嶺の試合が行われたが、対戦相手の 中垣 泰造は1ラウンド終了を待たずして速攻でやられてしまった。
「コンパクトで良いフォームをしていて、ヒット&アウェイが徹底している。『リターンブロー』も上手く狙っているな。若い頃の古波蔵を見ているようだ」
五十嵐は与那嶺の実力を相当高く評価したようだ。
『リターンブロー』とは、相手の打ち終わりに合わせて打つパンチである。狙われているパンチをわざと打つ『捨てパンチ』を打ち、その後にこれを打つことも多い。
一方の秋奈は、その暴力的な内容の試合を見ていられなかったようだ。
----------------------------
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
現在作者は創作大賞2024に応募中です!
下記リンクで『♡を押して頂けると』凄く助かります。
あなたの1票でデビューにグッと近づきます!
全てのページに『♡が10個以上』ついた場合、
アルファポリスにて本作を特別に50話までフル公開します!
宜しくお願い致します。
https://note.com/aquarius12/n/nad4dd54d03cf
https://note.com/aquarius12/n/n5bc56bcf0602
https://note.com/aquarius12/n/n77db5dcacc2a
https://note.com/aquarius12/n/n9ca58e3f3b5b
https://note.com/aquarius12/n/n2ce45cabaa78
トーナメント二試合目、準決勝は東京都江東区にある有明(ありあけ)コロシアムで行われる。
試合の相手は 大宮 潤との試合に勝利した、 勅使川原 裂との対戦となる。
彼は魚屋の息子で、空手の県大会で2位に入賞したこともある実力者だ。
少々余裕を見せている明に対し、米原は気を抜かないようにと 釘を刺す。
「今回のトーナメントには『輸入ボクサー』は居ないようだな。
大抵ロシア辺りから来た奴が一人くらいは居るもんだが」
「そんな奴が居たら面白いかもな。なんか楽勝な気がするんだよな、このトーナメント。さっさと優勝しちまいてえぜ」
「そうかもしれんが、気は抜くんじゃないぞ。試合に勝つことは、己に勝つことだからな」
「ああ、オシャカになっちまわねえように頑張るよ」
明はそう言い残すと、スタスタと会場まで向かって行ってしまった。
試合開始5分前、秋奈と五十嵐は観戦のため、観客席に来ていた。
どうやら秋奈は少し機嫌が悪いようだ。
「もう~。新人戦だからって、明くんの試合なんだから寝ようとしないでちゃんと見てよ」
「んん~。今のところ赤居の敵になるほどの奴は出て来ていないからな」
「せっかく来たんだから、応援すればいいのに」
秋奈の話を気にも留めず、五十嵐は会場の一点を見つめている。
「あれは――」五十嵐は誰かに気付いて近づいて行く。
「古波蔵じゃないか。どうした?こんなところで」
「五十嵐くん!いや~実は筋の良い子に出会ってね。生まれて初めて『指導』することにしたんだ」
「ほう~奇遇だな。実は俺も同じ状況なんだ」
「やはり、宿命と言うものなのかな~。その子は近い将来、間違いなく世界に名を 馳す存在となる。今日は決勝戦での対戦相手を見ておこうと思ってね」
「これは次の試合は苦戦するかもしれんな。名は何と言うんだ?」
「 与那嶺くんと言うんだ」
その言葉を聞いた秋奈は、顔から血の気が引くのを感じた。
「ヨナミネ?ヨナミネって『与那嶺 弘樹』のこと?」
「あいっ。友達かい?よく知ってるね~」古波蔵は嬉しそうにしている。
「なんだ秋奈?知っているのか?」五十嵐も同じ気持ちのようだ。
テンションの高い二人に対して、秋奈は冷静に言い切る。
「友達な訳ないでしょ。武蔵総連の初代総長だった人だよ。中学2年生の時に10人に絡まれて無傷で帰って来たって有名だよ」
武蔵総連とはメンバー50名以上、関東最強の暴走族である。
「ほお~おもしろそうな奴だな」五十嵐は全く意に介さずと言った様子だ。
「やめといた方がいいよ。『鬼殴り』って言って、殴りだしたら気絶するまで絶対に止めないんだって。ヤバいんじゃない?」
「大丈夫さ。赤居は俺が見込んだ男なんだ。古波蔵、悪いが今回も勝たせてもらうぞ」
五十嵐は自信満々に言い切った。
「五十嵐くんの教え子は赤居くんと言うのか~。覚えておくよ。だけど今回は前の時のようには行かないよ、なんたって彼には――」
古波蔵はそう言い掛けて言葉を飲み込んだ。
その後、「決勝で会おう」とだけ言い残し、その場を後にした。
明の試合は、殴る部分『ナックルパート』でない拳の内側で打つ反則打である『インサイドブロー』や、手を開いたまま打つ反則打である『オープンブロー』などクリーンとは言えない相手の攻撃に怪我の心配があったものの、2ラウンド中盤で得意のアッパーが決まり、決勝へと 駒を進めることができた。
『オープンブロー』は縫い目などで相手が額をカットする危険性があること、殴った方が手首を痛める危険性があること、耳に当たると鼓膜が破れることから、かなり危険な反則打であると言える。
そして、試合と試合の間の10分間の休憩を挟み、与那嶺の試合が行われたが、対戦相手の 中垣 泰造は1ラウンド終了を待たずして速攻でやられてしまった。
「コンパクトで良いフォームをしていて、ヒット&アウェイが徹底している。『リターンブロー』も上手く狙っているな。若い頃の古波蔵を見ているようだ」
五十嵐は与那嶺の実力を相当高く評価したようだ。
『リターンブロー』とは、相手の打ち終わりに合わせて打つパンチである。狙われているパンチをわざと打つ『捨てパンチ』を打ち、その後にこれを打つことも多い。
一方の秋奈は、その暴力的な内容の試合を見ていられなかったようだ。
----------------------------
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
現在作者は創作大賞2024に応募中です!
下記リンクで『♡を押して頂けると』凄く助かります。
あなたの1票でデビューにグッと近づきます!
全てのページに『♡が10個以上』ついた場合、
アルファポリスにて本作を特別に50話までフル公開します!
宜しくお願い致します。
https://note.com/aquarius12/n/nad4dd54d03cf
https://note.com/aquarius12/n/n5bc56bcf0602
https://note.com/aquarius12/n/n77db5dcacc2a
https://note.com/aquarius12/n/n9ca58e3f3b5b
https://note.com/aquarius12/n/n2ce45cabaa78
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
Bグループの少年
櫻井春輝
青春
クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる