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第1話 赤居 明
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第一章 新 人 編
1983年8月、赤居 明は喧嘩に明け暮れていた。
2年通った高校を暴力沙汰で退学になり、それからはバイトもせず人を殴ることだけが日課になっていた。
目が合えば因縁を付け、気の弱そうな若者から金を巻き上げるのは明にとって気分の良いことであり、罪悪感など微塵も感じていなかった。
同級生が夏休みということもあり、毎日友人の家に泊まって朝まで遊んでいた。
将来の不安を頭の片隅に押し込めて、明は日々を楽しく過ごしていた。
そう、あの忘れもしない8月30日までは。
「今日は2万も儲かっちまったよ」
明の得意げに話す姿に、田中 慎也は少し呆れていた。
「暗い顔したメガネの奴でさ、話しかけただけで 狼狽えやがって、ムカつくからいつもより多く殴ってやったよ」それを聞いて慎也は口を開く。
「お前さあ、俺は別にカツアゲを悪いとかは言わねぇよ。けど、中退してそろそろ3ヶ月経つんだし、フラフラしてばっかじゃなくて働き口でも探した方がいいんじゃねぇの?こんな親みたいなこと言われたらウザいかもしんねぇけどよ」
明も言われなくてもそんなことは分かっていた。
けれど、この3ヶ月そういうことを言われなかった親友に言われると悲しさと苛立ちが込み上げてくる。
「なんだよ、お前までそんなこと言うのかよ。俺はこの有り余る力をどこにぶつけていいか分かんねぇんだよ。将来なんか関係ねぇ。俺はただ、強い奴をぶちのめしたいだけなんだ」
慎也はそう言われても親友のため、言うべきことは言おうと考えた。
「大輝の親父さん大工やってんだろ。人手が足りないから誰か雇いたいって言ってるみたいだぞ。今なら頭下げたら働かしてくれんじゃねぇの?」
明もこう言われると引き下がる訳にはいかない。
「うるせぇな。俺には俺の考えがあるんだよ。ちょっと煙草吸ってくる」
そういうと部屋から出て階段を降り、玄関から外へ出て行ってしまった。
少し気分が落ち込みながらも煙草に火を付け歩き始める。
「おい!」
いきなり大きな声を出されたので明は驚いて振り返る。
「お前二十歳超えてるように見えねぇけどいくつだ?」
振り向いた先にいた男に大きな声でこう怒鳴られる。
さっき慎也に言われてイライラしていたものが、ここで一気に爆発する。
「うるせぇな。てめぇに関係ねぇだろうが。文句あるってんなら、やったろうじゃねぇか」
明は普段から目つきが悪く、喧嘩を売られることなどないので、これ幸いと男に詰め寄った。
「それじゃあ答えになってないだろうが。いくつだと聞いているんだ。年上の者に対しては敬意を払うものだと思うが」
男は全く怯む様子もなく明の目を真っ直ぐ見返した。
明はこの状況で視線を外さない男に久しぶりに会ったことに対して、少し嬉しく感じた。
「ちょっと度胸があるかもしんねぇが、後悔させてやるよ」
そう言うと明は男に向かって思い切り拳を振りかざした。
「くそっ」
男がそれを難なく 躱したので、明の気持ちが思わず声に出る。
2発、3発と殴りかかるが全く当たる気配がない。
「てめぇ、なかなかやるじゃねぇか」
明はそういうと右足を男の顔目掛けて振り上げた。
しかし男は軽く屈んでみせると、まるで何事もなかったかのように蹴りを躱した。
「動きが大きいんだよ。筋はいいんだが、お前のはただ闇雲に攻撃しているだけだ。それと、年上の者には敬意を払えと言った筈だが」
男はそう言い終わると凄い速さで拳を繰り出してきた。
その右手を避けきれずにその場に倒れこんでしまう。
初めて人に殴り倒された。そのショックが大きすぎて、明は言葉を失った。
「明日31日の午後4時。浅草にある米原ジムに来い。そこで本物の喧嘩ってもんを見せてやるよ」
男はそう言うと振り返って立ち去ろうとした。
「待てよ!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
「まだ勝負は終わってねぇだろうが、勝った気になってんじゃねぇぞ」
明は立ち上がって男に殴りかかろうとする。
「俺は『左利き』なんだ」男がそう言うと明は足を止めた。
「この状況で負けを認めないのはたいしたもんだ。だが、お前自身、実力の差が分からないほど喧嘩慣れしてないとは思えん」
男は明を真っ直ぐ見ている。
「明日来るかどうかはお前が決めることだ。強くなりたいのか、弱い奴に勝って満足するだけの奴になるかはお前次第。待ってるからな」
そう言うと男は立ち去ってしまった。
明は生まれて初めての感覚に言葉を与えることができないでいた。
その後何度も味わう、『悔しい』という感覚に。
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ここまで読んで頂いてありがとうございます。
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https://note.com/aquarius12/n/n9ca58e3f3b5b
https://note.com/aquarius12/n/n2ce45cabaa78
1983年8月、赤居 明は喧嘩に明け暮れていた。
2年通った高校を暴力沙汰で退学になり、それからはバイトもせず人を殴ることだけが日課になっていた。
目が合えば因縁を付け、気の弱そうな若者から金を巻き上げるのは明にとって気分の良いことであり、罪悪感など微塵も感じていなかった。
同級生が夏休みということもあり、毎日友人の家に泊まって朝まで遊んでいた。
将来の不安を頭の片隅に押し込めて、明は日々を楽しく過ごしていた。
そう、あの忘れもしない8月30日までは。
「今日は2万も儲かっちまったよ」
明の得意げに話す姿に、田中 慎也は少し呆れていた。
「暗い顔したメガネの奴でさ、話しかけただけで 狼狽えやがって、ムカつくからいつもより多く殴ってやったよ」それを聞いて慎也は口を開く。
「お前さあ、俺は別にカツアゲを悪いとかは言わねぇよ。けど、中退してそろそろ3ヶ月経つんだし、フラフラしてばっかじゃなくて働き口でも探した方がいいんじゃねぇの?こんな親みたいなこと言われたらウザいかもしんねぇけどよ」
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「なんだよ、お前までそんなこと言うのかよ。俺はこの有り余る力をどこにぶつけていいか分かんねぇんだよ。将来なんか関係ねぇ。俺はただ、強い奴をぶちのめしたいだけなんだ」
慎也はそう言われても親友のため、言うべきことは言おうと考えた。
「大輝の親父さん大工やってんだろ。人手が足りないから誰か雇いたいって言ってるみたいだぞ。今なら頭下げたら働かしてくれんじゃねぇの?」
明もこう言われると引き下がる訳にはいかない。
「うるせぇな。俺には俺の考えがあるんだよ。ちょっと煙草吸ってくる」
そういうと部屋から出て階段を降り、玄関から外へ出て行ってしまった。
少し気分が落ち込みながらも煙草に火を付け歩き始める。
「おい!」
いきなり大きな声を出されたので明は驚いて振り返る。
「お前二十歳超えてるように見えねぇけどいくつだ?」
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男は全く怯む様子もなく明の目を真っ直ぐ見返した。
明はこの状況で視線を外さない男に久しぶりに会ったことに対して、少し嬉しく感じた。
「ちょっと度胸があるかもしんねぇが、後悔させてやるよ」
そう言うと明は男に向かって思い切り拳を振りかざした。
「くそっ」
男がそれを難なく 躱したので、明の気持ちが思わず声に出る。
2発、3発と殴りかかるが全く当たる気配がない。
「てめぇ、なかなかやるじゃねぇか」
明はそういうと右足を男の顔目掛けて振り上げた。
しかし男は軽く屈んでみせると、まるで何事もなかったかのように蹴りを躱した。
「動きが大きいんだよ。筋はいいんだが、お前のはただ闇雲に攻撃しているだけだ。それと、年上の者には敬意を払えと言った筈だが」
男はそう言い終わると凄い速さで拳を繰り出してきた。
その右手を避けきれずにその場に倒れこんでしまう。
初めて人に殴り倒された。そのショックが大きすぎて、明は言葉を失った。
「明日31日の午後4時。浅草にある米原ジムに来い。そこで本物の喧嘩ってもんを見せてやるよ」
男はそう言うと振り返って立ち去ろうとした。
「待てよ!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
「まだ勝負は終わってねぇだろうが、勝った気になってんじゃねぇぞ」
明は立ち上がって男に殴りかかろうとする。
「俺は『左利き』なんだ」男がそう言うと明は足を止めた。
「この状況で負けを認めないのはたいしたもんだ。だが、お前自身、実力の差が分からないほど喧嘩慣れしてないとは思えん」
男は明を真っ直ぐ見ている。
「明日来るかどうかはお前が決めることだ。強くなりたいのか、弱い奴に勝って満足するだけの奴になるかはお前次第。待ってるからな」
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