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第41話 二人の実力者

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同日、ベンチに居ても気まずいだけだからと友助は先日と同じ河原を散歩していた。ゆっくりと歩いていたところ、突然一人の男が近づいて来た。レインコートにフードを被っており、顔はよく見えなかったが見知らぬ人物であった。

「本郷 友助だな?」
「そーっすけど、誰ですかアンタ?」

「俺と1on1で勝負しろ」
「えっ!?何ですかいきなり?いいですけど、質問に答えてくださいよ」
「俺に勝てたら教えてやるよ。勝てなかったら、俺の言うことをなんでも一つ聞いてもらう」
「へえー。おもしろいなソレ。そーとー自身あるんすね。いいですよ、後悔させてあげますね」

 それから一戦交えたが、この人物は相当な実力者であるようだ。
「4対4で引き分けか。さすが、無鉄砲に挑んで来るだけのことはありますね」
「いいもん持ってんなお前。これで2回目だよ。1on1で引き分けたのは」
「アンタでも勝てない人って居るんだね。俺より上手いのその人?」

「俺は今日ソイツのためにここへ来た。約束したよな?俺に『勝てなかったら』言うことを聞くって。荒木 勘九郎だ。バランサーズに戻ってもらうぞ」
それを聞いて友助は察しが付いたようだ。

「お断りですね。あのクソ野郎とプレーするくらいならサッカー辞めた方がマシだ。なんであんなヤツの肩を持つんですか?」
「ちょっと長くなるけどいいか?」
「このあと見たいテレビがあるからそれまでなら」
「よし分かった、手短にだな」

そう言うと勘九郎は友助のそばに腰を下ろした。
「俺とアイツは高校まで同級生でいわゆる幼ななじみなんだ」
「それなら、俺の先輩な訳ですね」
「お前も歓応私塾高か?なら、滝川先生は知ってるよな」

「はい、もちろん。顧問の先生でしたし。ってか、知らないんですか?バランサーズは歓応私塾高で落ちこぼれた人の集まりなんですよ」
「そうなのか?そういえば、みんな滝川先生のことを知ってたな。それより、元はと言えば、この話は10年前の都大会決勝での『ある事件』が発端となっているんだ」

「それって確か負けちゃった試合ですよね?昴さんが最後にシュートを撃てなくて」
「そう、その話だ。あの時、俺がアイツを支えられてさえいればーー」
「けど、それなら勘九郎さんが悪いわけじゃないんじゃないですか?」
「違う、俺が悪いんだ。俺のせいでアイツはプロになれなくなってしまって」
「どういうことなんですか?昴さんって、プロになるチャンスがあったんですか?」

「断っちまったんだ。ドラフトを受けたくないって言って」
「??。なんでソレで 『俺が悪い』になるんですか?」
「本当はアイツがプロになるはずだったんだ」
「話すの下手ですね、筋トレばっかしてきたようなタイプなんですか?」
「――。お前はわりとズケズケものを言うタイプなんだな」
「まあ公務員なんでね、技術屋ですけど」

「アイツは席を空けてくれたんだ、後がない俺のために。当時俺は親の事業が失敗して大学に通うだけの金がなくなっちまったんだ。それでプロになる枠がチームで1つだけだったこともあって、アイツはドラフトを辞退したんだ」
「そうだったのか。それで――その後どうなったんです?」
「その後、アイツは大学に進学して、俺は先生のツテで高卒で消防士になったんだ」

「なるほど。でも、それだと消防士になったのが説明つかないんですけど」
「瑞希だよ。アイツが俺に本当の事を教えたんだ。二人の為にって。けど、それで俺がアイツを説得しようとしたら、二人とも意固地になってドラフトを拒否するようになっちまって。そしたらプロの団体から、やる気がないヤツは要らないって言われて」

「――二人とも要領悪そうですもんね。単細胞っていうか脳筋って言うか」
「お前もうちょっと言葉に気を付けないと、いつか誰かにやられるぞ」
「大丈夫です、人を見て言ってるんで。それはそうと、そろそろ話してくださいよ。10年前、都大会決勝で何があったのかを――」
「そうだな。お前になら、この話をしてもいいだろう」

そう言って勘九郎は、ためらいがちに重い口を開いた。
10年前の観歓応私塾高校サッカー部は、所謂全盛期を迎えており、都内でも優勝候補の筆頭としてその名を轟かせていた。その強さの所以は県外から特別講師として呼び寄せられた顧問の指導力と、ある優秀な一人の選手の活躍によるものであった。

「今年は行けるぞ」
「なんたってウチには、絶対エースの窪田が居るんだからな」
「ネバーギブアップだ!いい言葉だろ?覚えとけよ、みんな」
「ワンフォーオール、オールフォーワンだ」
「これはラグビーの概念だが、俺はサッカーでも通用すると思っている。一人はみんなの為に、みんなは一人の為に、全員サッカーだ!!」

 これは顧問の滝川の信条であり、このチームのスローガンでもあった。
「さあ行くぞ!目指すは最高の舞台、全国大会だ!」
そして迎えた決勝当日、滝川はどこか浮かない顔をしている。
「今日のトップ下は堺で行く」それを聞いた昴は、動揺を隠し切れない。
「先生、どういうことですか?窪田は?窪田はなぜ来ていないんですか?」

「試合前だが、隠せるような話でもないよな。窪田は今日事故に遭って今、手術中だ。命に別状はないんだが、問題は――」みんな固唾を飲んで見守っている。
「怪我をしたのが左脚でな。治るのに相当な時間が掛かるらしい。最悪、一生サッカーができなくなるかもしれん」
「そんな――なんであいつがそんな目に!!」勘九郎は声を荒げる。

「取り乱すな。何の為に今日まで死ぬ思いでやって来たと思ってるんだ?窪田の思いを無駄にするな。みんなで全国の舞台に連れて行ってやろう!!」
そこまで話を聞いて、友助は少しうんざりしたように溜め息をついた。

「で――負けちゃった訳ですね」
「そう――みんな上手かったんだが、俺たちガキの頃から一緒にやっててさ。精神的支柱が抜けちまったのが痛いのなんのって。フォーメーションもいつもと違うだろ。もう悲しいくらいガタガタでさ」
「意外ですね。昴さんと勘九郎さんだけでも十分勝てそうなのに。それに、二人より上手い人が居たなんてのも信じられないですけど」

「いや、あいつは紛れもなく本物の『天才』だった。怪我さえなければ、日本代表で10番を約束されていた、とんでもないヤツだったんだ」
「知らなかった。そんな凄い人が歓応私塾高に居たんですね」
「知らねえのか?中だよ。事故で足がオシャカになっちまうまで、あいつは10番以外つけたことなんかなかったんだ」

「えっ!?あっそうか、中さんって窪田って苗字でしたね。そんな凄い人だったとは――あんなにいつもボーっとしてるのに」
「サッカーばっかやってるようなヤツは、ボール追ってるだけだから意外と喋んねーもんなんだよ。軸足が折れて威力が下がってはいるが、俺はアイツがシュートを外すのを見たことがねえ」
「そういえば俺もないっすね。へえー、人は見かけによらないんだな」

 それから友助はゆっくりと立ち上がると、尻に着いた土を払った。
「ああ、もう放送時間に間に合わないな」
「なにっ!?それなら途中で話を遮ればよかったのに」
「話の腰を折るのが嫌いでね」
「すまなかったな」
「いいですよ、それより今からあのクソ野郎と話をつけに行ってきますよ」

「ありがとな、友助」
「殴り合いになっても止めないでくださいよ」
「止めねえよ。昨日俺がそーなったのに、今さらそんなことできっかよ」
「ははっ。おもしろいねアンタ」
 初対面ではあったが、友助は勘九郎となら上手くやっていけそうな予感がした。



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