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第30話 観光@バンドン

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10月27日は、疲れが溜まっているということを考慮して、林の提案で一日オフということになった。昴と瑞希は朝8時すぎに目を覚まして一緒に朝食を取っていた。眠い目を擦っていた昴に、瑞希が何か思いついたように話し掛ける。

「ねえバンドン行こうよ。せっかくインドネシアに来たんだし観光しに行きたい!」
「観光か~ちょっと疲れそうだよな」
「ねえ、ちょっとくらいいいじゃん。31日にはもう帰っちゃうんだし」
「う~ん。それもそうだね、そうしよっか」
「やったー。やっぱ分かってんじゃん、昴くん!」
「まあね。ただし夕方までだよ。試合に影響が出ない程度にね」

 10月は日本では秋ごろだが、インドネシアは南半球にあって夏であるため、半袖半ズボンの服に着替えた。準備が整うとさっそくホテルを出て、昴がタクシーを拾おうとすると瑞希が少し慌てて声を掛けた。 
「あっ、そっちじゃなくてこっちにしよう」
「えっ!?うん、いいよ。こっちの方が好きなの?」
「ブルーバードタクシーって言って、他のより安全なんだって。ローカルタクシーだとドアを開かないようにされて脅されたり、かなり高くついたりするみたいだから」
「そっかー。ちゃんと調べてくれてんだね。それなら断然こっちの方がいいな」
本物の『ブルーバードタクシー』はまがい物のローカルタクシーとは違って青い鳥のロゴとIVやVVのナンバーがあるのが特徴だ。近年では、マイ・ブルーバード・タクシーのアプリを使って呼ぶことができたりもする。

「トロン・ク・スタシウン(駅までお願いします)」
「サヤ・メン・ゲーティ(かしこまりました)」
「おおっ!凄いじゃん、インドネシア語」
「でしょ?この日のために、ちょっとだけ覚えといたの」
タクシーが走り出して目的地であるガンビル駅まで15分ほどで到着した。金額を見て昴がお金を支払った後、瑞希が何か思い出したように言葉を発した。

「ミンタ ストラクニャ(レシートください)」
「サヤ スダ メンガクイ(承知しました)」
「すっげえ。きっちりしてんな」
「うん、一応ね」

料金の誤魔化しを防ぐことや、書いてある番号に電話を掛けたら落とし物が帰って来るかもしれないことを考えると、レシートは必ず貰っておいた方がいいと言える。
そして二人は、ジャカルタにあるガルビン駅から、バンドン駅まで電車で移動することにした。バスでも約3時間と同じ所要時間だが、延滞によって6時間ほど掛かる場合もあるため、正確を期すためにも電車を利用する方が良い。

「ちょっと高いけど、エグゼクティブシートにしよう」
「別にいいけど、お金掛け過ぎじゃない?」
「こっちじゃないとシートが固いから体が痛くなるんだって。240円の違いだし」
「そっかー。それなら、そっちの方が助かるな」

 それから約3時間、楽しくおしゃべりしながら電車に揺られて旅をしてバンドン駅に到着した。バンドンはインドネシア第3の都市であり、ジャカルタからだと電車で9時間かかる第2の都市スラバヤより近いためついでに観光することが可能だ。到着すると12時を回っていてお腹が空いてきたため、その辺の屋台に入ってご飯を食べることにした。メニューを開いてアレコレ悩んでいく。

「サピバリ。バリ島牛か――」
「せっかく来たしコレにしようよ!」
「う~ん、そうだね。なんか美味そうだし」
「あとはナシゴレン(米炒め)とガドガド(温野菜の詰め合わせ)も」
「おっ、いいね。じゃあサテ・アヤム(串焼き鳥)も」

 インドネシアは皿に盛ってバイキング形式でご飯を食べることが多く、これは彼らが家族を何より大切にすることを象徴するスタンスだ。2億4千万人が恵まれた肥沃な大地をベースに暮らしているため、東南アジアらしい平和で穏やかな空気感がある。

「あとビールも」
「ああ、俺はいいよ。明日試合だし」
「ええ~、いいじゃんちょっとくらい」
「よくないよ。大事な試合なんだし、いい加減な調子では出られないよ」
「そっか~。ごめん、そうだよね。私もやめとこっと」
「悪いな。ってか、これだけ頼んで二人で1200円って結構安いね」
「うん。物価が日本の3分の1くらいだもんね」

 この時の物価は125ルピアが1円で、算式としては千円単位で8を掛ければよく、
15万ルピアなら150千ルピア×8で1200円となる。地ビールは25千ルピアで約200円、輸入ビールは35千ルピアで約280円ほどで飲むことができる。

現地でよく飲まれているバリハイビールは、フルーティな味わいであり、ビンタンビールは、コクがあるのだがプリン体が多く太りやすい。店員を呼んで料理を注文し、ゆっくりと30分ほどで食べた終えた後で、昴が会計を済ませて店を出た。
それから、瑞希の提案でちょうど隣にあった売店でお土産を買うことにした。

「ワインとかいいんじゃない?日持ちするから持って帰るのに丁度良さそうだし」
「いいかもね。そうしよう」
「う~ん、どっちがいいかな~。ハッテンワインとプラガワイン」
「インドネシアと言えばハッテンワインだよね、こっちがいいんじゃない?」
「そうだね、そうしよっか」
「あ~あ~、どうせなら飲んで帰りたかったな」
「試合前だもんね。こういう時、スポーツ選手は辛いよね」

お酒はわりと高価で、グラス1杯3万ルピア、屋台の料理が約240円であるのと同額であったりする。ワインについては粗悪なものが出回っていることがあったり、アラックと呼ばれる現地の酒はメタノールが入っていることがある。
失明してしまったり、最悪の場合死に至ることもあるので、信頼のおける所でしか飲むべきではないと言える。昴はワインをレジに持って行って、代金を支払おうとするが、さっき出してもらったからと瑞希が支払った。売店を出て町を歩いて行く。

「重いだろ?持つよ」
「いいよ、これくらい」
「いいから、貸して」

“ちょっと強引だけど嬉しいんだよな、こういうところが好きになったのかも”
「ねえ、せっかくだからアジアアフリカ会議博物館行こうよ」
「ああ、バンドン会議の?いいね、行こう!」

 ハーグ協定で独立し、連邦制を廃したインドネシアで1955年に行われたアジアアフリカ会議、通称『バンドン会議』は、29ヶ国が参加して平和十原則が採択され、冷戦下での米ソ2ヶ国に、第三世界の結束を示す意味合いがあった。

博物館に着くと、ちょうど開館時刻の2時になった所で、タイミングよく入館し、バンドン・グランドモスクや地質博物館を見学して回った。その後、黄昏時になり、市場を見たらそろそろ帰ろうかという話になった。
「おお、パパイヤあんじゃん!!」
「美味しそうだね。私、実は食べたことないかも」
「そう言えば俺もないな。よし、食べてみるか」
「ごめん私、お腹いっぱいかも」
「そうなの?じゃあ一人で食べとくよ」

それから昴はパパイヤを買って黙々と食べ始めた。
「これほんと美味い!けど、なんかちょっとお腹の調子が――」
果物の王様といわれるドリアンをアルコールやコーヒーなどと一緒に食べてはいけないというのはよく聞く話だが、現地のパパイヤは日本のスーパーに並んでいるものと比べてとても大きく、味に癖がなくとても美味しい。ただ、便秘の薬のかわりに食べることもあり、食べ過ぎると下痢になってしまうこともあるので注意が必要だ。

それから、15分ほどトイレを探して回ることにし、やっとのことで探し当てた。
「ああ、紙ないじゃん!!」
「大丈夫?ポケットティッシュあるよ」
「マジで!?ありがとう助かるわ」

この国に限らず、海外旅行に行く際にはトイレットペーパーがそもそもないことが多いため、トイレ用にポケットティッシュを持参することをオススメする。インド、インドネシアでは左手で尻を処理した後に水で洗い流すことが一般的である。左手は不浄の手と呼ばれ、握手を求める際は必ず右手を差し出すようにしなければならない。

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