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第11話 暇(いとま)の妙技
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本日6月23日は橙色のユニフォームが絢爛な藤枝フェインターズとの試合である。
フェインターズは早朝の練習で大声を出すので近所迷惑だと言われ、疲れが残らないようにしっかりマッサージを行うのだが、仕事が忙しいためなかなか練習の日程が取れていないのが悩みであった。
チームのエースであるアラ暇(いとま) 弘志は高校時代全国優勝チームの3番手であり、今の仕事がやりたいがために、プロからのスカウトを断ったという経歴がある。
身長の高い選手ばかりだが俊敏で、アラの明神は走り幅跳びで6m20の記録を出したこともある身体能力の持ち主だ。
試合開始5分前、何気なく暇と明神が話をしている。
「暇くんいつもフェイントの練習に余念ないよね」
「そうなんだよ。なんかいつまで経っても自分の技に自身が持てなくってさ」
「なんていうか、上手い人ほど謙虚なもんだよね。そんなに不安なの?」
「うん。俺、小指の第二関節ないんだよな――その所為かな?」
「いや、それは関係ないと思うよ」
「そうかな~まあでも大丈夫、俺には偉大な古代の武人の守護霊が憑いてるから」
「路肩の占いで言われた事まだ信じてんの?暇くんってちょっと天然入ってるよね」
「けど、憑いてないって証拠もないだろ。ハッキリと言い切れんの?」
「う~ん。まあそれはそうだけど――」
そんな会話をしているとあっという間に試合開始時間が来てしまい、フェインターズボールからのキックオフでの試合開始直後に、さっそく暇が小手調べとばかりに攻勢を掛けて来た。
フェインターズはショートパスで細かく繋ぎ、相手にプレッシャーを与えさせないスタイルでのオフェンスである。
“やっぱ上手いなイトマン”
いつも昴は人のプレーを見ては、自分にないものを感じて羨ましくなるのであった。
「おっ、ヒールリフトか――」
暇のこの『ヒールリフト』は、その名の通り踵でボールを引っ掛けて宙に浮かせて、その隙に相手を抜き去るという技である。
「うわっ!?こっちもか」
そして、フェインターズの2番手であるアラの明神も、俊足を活かしてヒールリフトを繰り出してきた。
フェインターズは全員がこのヒールリフトを使い熟すという器用なチームである。
一方のバランサーズは、今日は保が仕事で来られないため、フィクソとして代わりに別記が出場しており、キャプテンマークは昴が付けていた。
「うおっ!?眩しい」
「ははっ。すまんなトレードマークなんだ、コレ」
ピヴォの曙野は身長190cm体重100kgの巨漢で、時折スキンヘッドに日光が当たって相手の選手の目眩ましになっているのであった。
慣れない相手に、別記は終始マッチアップしにくそうにしていた。
「調子はどうですか、大将?」
「う~ん、今は気分が乗ってるな!!」
「そりゃよかったホント気分屋ですもんね、曜日さん」
「まあそう言うなよ、今日は神セーブ連発できる気がするんだ」
ゴレイロの曜日はセーブごとに気分が変わり、フィクソの日立は日頃からそんな彼を気遣っているのであった。
「おっしゃ!!こんから、いっちょやったろうぜ!!」
「「「「おう!!」」」」
仲間を奮い立たせるように暇の掛け声に共鳴するように、他の選手たちも調子を上げていくのであった。
双方1点を取ろうと努めている中、暇のプレッシャーに、蓮が倒れそうになるが必死で踏ん張ってボールをキープしていた。
そしてそれを前線へ送ると、昴はあっけなく倒れ込んでしまった。
だが、これを見た審判が即座に笛を鳴らし若干シミュレーション気味ではあったが、かなりいい位置でのPKをもぎ取ることができた。
昴は内側にスピンを掛けた速さのあるシュートで難なくこれを決め、1対0で前半を折り返すことができた。
ハーフタイムに入り、少々ヒートアップした昴が蓮に話し掛ける。
「おい、なに正直にやってんだよ。正直者は馬鹿を見るってな。マリーシア(駆け引き)くらいは熟せるようになれよ」
「今のってシミュレーションじゃないですか。僕の位置からはそう見えました」
「いいんだよ。ピッチでは相手を出し抜くくらいの気概が必要なんだ」
「そんなのズルいじゃないですか?楽してるだけですよ」
「だりーこと言ってんなよ。お前そんなんじゃ点なんか取れないぞ」
「けど、それじゃ何の成長もないですよね」
「いいんだよ。楽してできるならそれに越したことなんかないだろ?どうせアマチュアの試合なんだしよ。適当でいいんだよ、こんなの」
「昴さん、いつも斜に構えてて、本気出さないのがカッコイイみたいな。そんなの全然カッコよくないですよ。失敗しても、泣いても、乗り越えて行くのが人間なんだと思います。プロになりたかったって、そう言ったら免罪符になるとでも思ってるんですか?将来のことに、本気で挑んできましたか?」
「お説教かよ。偉くなったもんだな、蓮」
「ボーッとしてたって時間は経ってしまうんです。時間は有限です。だからこそ自分にとって本当に大切なものを選んで行かないといけないんだと思います。昴さんにとって本当に大切なものって――何なんですか?」
「うっ――」
それきり会話はなくなってしまったが、この一言は昴にとってその価値観を揺るがすようなものであり、頬を叩かれたような一言であった。
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試合開始5分前、何気なく暇と明神が話をしている。
「暇くんいつもフェイントの練習に余念ないよね」
「そうなんだよ。なんかいつまで経っても自分の技に自身が持てなくってさ」
「なんていうか、上手い人ほど謙虚なもんだよね。そんなに不安なの?」
「うん。俺、小指の第二関節ないんだよな――その所為かな?」
「いや、それは関係ないと思うよ」
「そうかな~まあでも大丈夫、俺には偉大な古代の武人の守護霊が憑いてるから」
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「けど、憑いてないって証拠もないだろ。ハッキリと言い切れんの?」
「う~ん。まあそれはそうだけど――」
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いつも昴は人のプレーを見ては、自分にないものを感じて羨ましくなるのであった。
「おっ、ヒールリフトか――」
暇のこの『ヒールリフト』は、その名の通り踵でボールを引っ掛けて宙に浮かせて、その隙に相手を抜き去るという技である。
「うわっ!?こっちもか」
そして、フェインターズの2番手であるアラの明神も、俊足を活かしてヒールリフトを繰り出してきた。
フェインターズは全員がこのヒールリフトを使い熟すという器用なチームである。
一方のバランサーズは、今日は保が仕事で来られないため、フィクソとして代わりに別記が出場しており、キャプテンマークは昴が付けていた。
「うおっ!?眩しい」
「ははっ。すまんなトレードマークなんだ、コレ」
ピヴォの曙野は身長190cm体重100kgの巨漢で、時折スキンヘッドに日光が当たって相手の選手の目眩ましになっているのであった。
慣れない相手に、別記は終始マッチアップしにくそうにしていた。
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「うっ――」
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