2 / 46
第2話 仲間たち
しおりを挟む
2日目、バランサーズの面々は昨日と同じように走トレを終え、昼食のカレーを食べビーチに戻った。少し目の下に隈がある保はそれでも意気揚々と話し始める。
「おっし、今日の午後練は連携戦術だな。ミスなく確実に行くぞ」
「オッケー、みんな大事に行こうぜ」
昴は昨日の保の頑張りを酌むことにしたのだろう。疲れが見え始める前に、率先してチームを引っ張ろうとしていた。
この日はまず、各ポジション間での連携とゴレイロからフィールダーへのパス出しをAチームBチームに分かれて行い、10分間の休憩を挟んだ。それからコートの四つ角に立ち、走り込んでパスを貰った選手が対角に出して、受けた選手はボールを間に出し、最初の選手がまた走り込んでシュートするという『パス&コントロール』、左右非対称になるようにOFがセンターライン、DFがエンドラインに立ち、DFがOFにパスを出した後にOFを追いかけて守備を行う『コントロールドリブルシュート』を練習した。
そして、ロンドと筋トレをこなして2日目の練習が終わってシャワーを浴び、夕飯のクリームシチューを食べ終わった頃、保がデッキに集まった皆に声を掛けた。
「お~い。ネットの動画見てモチベーションアップするぞ」
「すっげえ為になるなコレ。こんなの開示しちゃっていいんですかね?」
「いいんだよ。トレーニングが凄いんじゃない、選手が凄いんだ。心血注いで練習するからこそ、ロナウジーニョで居られるんだよ」
「ふ~ん、そういうもんなのかね」
保の話を聞いた昴は、さほど疲れも見せずにそう言った。
3日目、走トレと3回目のカレーに少々うんざりしながら、一同はビーチへ戻った。最後の基礎練とあって保の弁にも力が入り、昴もそれに応えようとする。
「今日はいよいよ対人戦術だ。練習ももう佳境に入るし、気を抜かないようにな」
「当然だろ、俺ら今年は優勝目指するんだぜ。これくらいで根を上げてらんねえよな」
「頼もしいな。5月5日のフットサルの日に気合いが入らないわけないしな」
「ああ。けど俺らくらい練習してたら、毎日がフットサルの日みたいなもんだよ」
「ははは、それもそうだな。じゃあ皆ここからがキツいところだが頑張って行くぞ」
「「「「おー!!」」」」
ここではもう気合いが空回りするようなことはなく、蓮以外のメンバーも一斉に声を上げてチームを鼓舞した。それから1on1、OFとDFに分かれてのカウンターとしての2on1、ブレイク、ロンド、菱形の陣形で斜めに走り込むと勝ちという2on2、DFがセンターラインで待ち構えてOFが走り込む練習、逆にDFがOFを抜き去ってゴールする練習、二人のプレーヤーが半円を描くようにして交差し、置かれたボールを取り合って、取った方がゴールに向かってシュートするサークリング練を行った。
そして最後に例日の通り20分間のロンドと2種類の筋トレを行い、この日の練習を締め括った。夕食後、一同は今シーズンの戦術についてのミーティングを行った。
「今年も従来通り、ディフェンス主体のチームで行く。90年代イタリアのカテナチオみたいに1点取って最後まで守り切るようなイメージだ。勿論フットサルは、サッカーより点が入りやすいから、追加点ならいくらでも入れてくれて構わないがな」
保は尚も話し続ける。
「基本的にスタメン5人でガッチリ固めて、後は体力に応じて個々で入れ替え。マークはマンツーマンで着いて、スクリーン掛けられたら入れ替え。まあ、毎度のことだがな」
ここで昴が、何かを思いついたように声を発した。
「保さん、そのスタメン5人ってのもだけど、今回せっかくビーチサッカーやるんだし、入れ替えてみてもいいんじゃない?」
「ん!それもそうだな。よし、それじゃあ結果次第で入れ替えてみることにするか」
「おおーっ。俄然やる気出て来た!」
万年補欠の蓮はこの提案にかなり乗り気になって興味を示した。
合宿は遂に最終日となり、それぞれ明日から仕事があることを考慮し、午前中は特別メニューとしてレクリエーションを行うことになっていた。
「おしっ、皆さん張り切って行きましょう!」
「おおっ、別記さん」
「いいですね」
「珍しいな」
「ははっ。僕だってやる時はやりますよ」
その言葉通り、別記は最初のリフティング練を唯一ノーミスで乗り切った。
そしてパンツに挟んだタオルを取り合うしっぽ鬼、コーンの端と端を掴んで引っ張り合うバランスゲーム、三つのマーカーの間で2つのボールを取り合う挟み鬼、向かい合って手で押し合う手押しゲーム、鳥籠の5対2の陣形でボールの代わりに、一人の人が手を上げる手上げゲームを行った。
別記は終始完璧にこなせていたのだが、最後の手上げゲームで勢い余ってズッツコケてしまい、皆にイジられていた。また、ゴレイロにとっても体躯は必要ということで、これらの練習にも苦氏と味蕾は参加していた。
それから午後になり、初夏を感じさせる暑さで一同は更に日焼けして行った。
「あっち~」
昴はそう言って上半身裸で頭にタオルを巻きながら、腕で額の汗を拭っていた。
“かっこいい~”
その逞しい『姿』を見て、瑞希は思わず目がハートになっていた。そしてこれから、バランサーズの面々は保の号令で最後に5対5の試合形式でミニゲームを行う。
「午後の練習はお待ちかねのビーチサッカーだ。みんな本戦のつもりで行けよ」
「おっしゃーやったるぞー」
味蕾は昨日の話しもあってか、好機到来とばかりに意気込んでいた。ビーチサッカーは基本的にフットサルと同じようなものなのだが、その醍醐味としてはなんと言ってもオーバーヘッドシュートがし易いことである。
「ホントはビーチサッカーもサッカーと一緒で5号球なんだがな」
「まあそこはご愛敬ってことでいいじゃないですか」
「フットサルだけですもんんね、4号球なのって」
フットサルではサッカーでは小学生が使用する大きさの4号球が使われており、直径で言うと20.5cm。サッカーボールが22cmなので、たった1.5cmの違いではあるが、見た目にはやはりそれなりに違って見える。
サッカーボールのように大きくバウンドすることがない空気圧だが、軽いため弾丸のようなシュートが繰り出される。
午後練はそれなりに時間があったため、まずはコテ調べにと20分1オールで1軍白、2軍黒でビブスを付けて試合を行った。早速マネージャーが準備をする。
このチームにはマネージャーが3人おり、茶髪セミロングで社交的な瑞希、黒髪ショートでしっかり者の莉子、金髪ロングでどこか抜けた雰囲気のある美奈とが居り、見た目にも性格的にも分かりやすかった。そして、A型の瑞希、O型の莉子、B型の美奈とここでもバランスが取れているのであった。瑞希が聞いたところでは美奈はサッカーについてはある程度のルールを把握できているようだ。
「ねえ莉子ちゃん、フットサルってサッカーとどう違うの?」
「そっか、美奈ちゃん入ったばっかだもんね。フットサルっていうのは5人制サッカーのことで、攻撃主体のピヴォ、攻守両方ともこなすアラが2人、守備主体のフィクソ、キーパーのゴレイロが居て、他にスーパーサブ的ポジションのポニョが居るの」
「ふんふん、それでそれで」
「試合時間は前半、後半20分ずつで、試合中は時計を止めてプレーするの。コートの大きさは約40×20mくらいで、試合時間もコートの大きさもサッカーの半分って訳。まあ、日本では25×15mのコートとかでやってる所もあるけどね」
「おおーさすが莉子ちゃん!なんか説明が理系っぽい」
「でしょ。マネージャーは練習以外のデータ管理とかも仕事のうちだからね」
見ると選手たちがなんだか少し変わった動きをしている。
「ねえ、あれは何?なんかみんなエビみたいに後ろに下がってるけど」
「あれは『ドラッグバック』って言って、ボールの上をつま先で引っ掛けて躱(かわ)すテクニックなの。サッカーではやらないみたいで、フットサル特有のスキルなんだって」
「知らなかった~フットサルならではなんだね」
「そゆこと。フットサルにはフットサルの文化みたいなものがあるのよね」
見ると選手たちが頻りに何か叫んでいた。
「パウ!!」
「パウ!!」
それを聞いた美奈は不思議そうに莉子に尋ねる。
「ねえ、莉子ちゃん。『パウ』って何?」
「ああ、あれはゴールポストって意味ね。なんかちょっと変だもんね」
「チーラしっかり!!」
「これは?」
「『チーラ』って言うのはサッカーで言うクリアのことで、自陣で相手ボールになった時にコートの外とか危険なエリアから出すことを言うの」
見ると、昴がピッチから出たボールを足早に蹴り込んでいた。
「ねえ、なんであんなに急いで蹴ってるの?もっと落ち着いて蹴ればいいのに」
「ああ、あれは『4秒ルール』って言ってね。プレーが止まってから蹴る時には、必ず4秒以内に蹴らないといけないって決まりになってるの」
「へ~そうなんだ!フットサルって時間短いから、早くしないとだもんね」
「そうそう、その割に時計止めながらだから、結局はサッカーと同じくらい掛かっちゃうことが多いんだけどね。あと『5mルール』って言って、フリーキックを行う時に、相手選手は5m以上離れないといけないことになってたりもするの」
「おお~。いろいろ気を付けないといけないことが多いんだね」
「うん。人も社会も、逃れられないことが多いもんなんだよね」
そう言うと莉子は何か思い出したのか、口を尖らせて思いを巡らせた。
そして、『アラ・コルタ』と呼ばれる、パサーに近い側の足でボールを受ける戦術を用いて得点を決めた昴が、小休止の際に蓮に要望を出していた。
「おい蓮、フィードはガンショで出してくれ。あと、バックパスにも気を付けろよ」
「はい!気を付けます、ありがとうございます」
美奈はこの用語が気になったようで、透かさず聞きに掛かる。
「ねえ、これはこれは?」
「『フィード』は得点に繋がる可能性のあるパスで、『ガンショ』は浮き球って意味」
「うんうん」
「『バックパス』は相手にボールが渡る前に、ゴレイロがボールに触れることだね」
「お~、そうなんだ。わりと覚えることあるんだね」
「そうだね。まあ、最初に覚えさえすれば簡単なんだけどね」
ここまで説明を受けて、美奈はふと気付いたことがあったようだ。
「瑞希!思ったんだけど、このチームって10番居ないんだね」
「ああ、ちょっとワケありでね」
サッカーではエースが10番、2番手が11番、点取り屋が9番なことが多いのだが、このチームでは1番上手い昴、キャプテンの保と両人とも10番をつけていなかった。
「ふ~ん、そっか~」
美奈は理由が気になったようだが、空気を読んで聞かないことにしたようだった。
ここで蓮がプレーに関して気になったことがあったようで、昴に改善を要求する。
「昴さん。今の場面、ピヴォ当てやってもらえると、助かるんですけどーー」
「やんないよピヴォ当てなんて。そんなのはザコのやることだろ?」
「でもこれってチームに必要なプレーですよね?」
「いいんだよ。所詮は遊びなんだから、楽しくやれさえすれば」
「う~ん、そうなのかな?」
「なんだよ、どうプレーしようと俺の勝手だろ。文句あんのかよ?」
「そういうわけじゃないんですけどーー」
「だったら別に気にすることないだろ」
蓮は思うところがあったのだが、年下といったことで昴に強く言えなかったようだ。この『ピヴォ当て』はサッカーではレイオフと呼ばれ、自らを布石として使うことで、後ろのプレーヤーが前を向いた状態でプレーできるという連携である。
試合は結果的に1軍が7対0で圧勝し、休憩を挟んでAチームBチームに分かれての紅白戦となった。だが開始早々、勢いよく飛び出した蓮が蹴ったボールがクロスバーに当たって跳ね返り、運悪くBチーム側の無人のゴールに吸い込まれてしまった。
「馬鹿野郎!オウンゴールになってんじゃねえか」
「あ!やっちゃった。すません」
いきなり昴に怒られながらも、その後の蓮は堅実に試合を熟して行った。結局試合は蓮のオウンゴールと別記の得点で、Aチームに2点が入ったものの、昴が2点、甘利、辛損、蓮が1点ずつで5点を獲得したBチームの勝利で幕を閉じた。
「おっし、今日の午後練は連携戦術だな。ミスなく確実に行くぞ」
「オッケー、みんな大事に行こうぜ」
昴は昨日の保の頑張りを酌むことにしたのだろう。疲れが見え始める前に、率先してチームを引っ張ろうとしていた。
この日はまず、各ポジション間での連携とゴレイロからフィールダーへのパス出しをAチームBチームに分かれて行い、10分間の休憩を挟んだ。それからコートの四つ角に立ち、走り込んでパスを貰った選手が対角に出して、受けた選手はボールを間に出し、最初の選手がまた走り込んでシュートするという『パス&コントロール』、左右非対称になるようにOFがセンターライン、DFがエンドラインに立ち、DFがOFにパスを出した後にOFを追いかけて守備を行う『コントロールドリブルシュート』を練習した。
そして、ロンドと筋トレをこなして2日目の練習が終わってシャワーを浴び、夕飯のクリームシチューを食べ終わった頃、保がデッキに集まった皆に声を掛けた。
「お~い。ネットの動画見てモチベーションアップするぞ」
「すっげえ為になるなコレ。こんなの開示しちゃっていいんですかね?」
「いいんだよ。トレーニングが凄いんじゃない、選手が凄いんだ。心血注いで練習するからこそ、ロナウジーニョで居られるんだよ」
「ふ~ん、そういうもんなのかね」
保の話を聞いた昴は、さほど疲れも見せずにそう言った。
3日目、走トレと3回目のカレーに少々うんざりしながら、一同はビーチへ戻った。最後の基礎練とあって保の弁にも力が入り、昴もそれに応えようとする。
「今日はいよいよ対人戦術だ。練習ももう佳境に入るし、気を抜かないようにな」
「当然だろ、俺ら今年は優勝目指するんだぜ。これくらいで根を上げてらんねえよな」
「頼もしいな。5月5日のフットサルの日に気合いが入らないわけないしな」
「ああ。けど俺らくらい練習してたら、毎日がフットサルの日みたいなもんだよ」
「ははは、それもそうだな。じゃあ皆ここからがキツいところだが頑張って行くぞ」
「「「「おー!!」」」」
ここではもう気合いが空回りするようなことはなく、蓮以外のメンバーも一斉に声を上げてチームを鼓舞した。それから1on1、OFとDFに分かれてのカウンターとしての2on1、ブレイク、ロンド、菱形の陣形で斜めに走り込むと勝ちという2on2、DFがセンターラインで待ち構えてOFが走り込む練習、逆にDFがOFを抜き去ってゴールする練習、二人のプレーヤーが半円を描くようにして交差し、置かれたボールを取り合って、取った方がゴールに向かってシュートするサークリング練を行った。
そして最後に例日の通り20分間のロンドと2種類の筋トレを行い、この日の練習を締め括った。夕食後、一同は今シーズンの戦術についてのミーティングを行った。
「今年も従来通り、ディフェンス主体のチームで行く。90年代イタリアのカテナチオみたいに1点取って最後まで守り切るようなイメージだ。勿論フットサルは、サッカーより点が入りやすいから、追加点ならいくらでも入れてくれて構わないがな」
保は尚も話し続ける。
「基本的にスタメン5人でガッチリ固めて、後は体力に応じて個々で入れ替え。マークはマンツーマンで着いて、スクリーン掛けられたら入れ替え。まあ、毎度のことだがな」
ここで昴が、何かを思いついたように声を発した。
「保さん、そのスタメン5人ってのもだけど、今回せっかくビーチサッカーやるんだし、入れ替えてみてもいいんじゃない?」
「ん!それもそうだな。よし、それじゃあ結果次第で入れ替えてみることにするか」
「おおーっ。俄然やる気出て来た!」
万年補欠の蓮はこの提案にかなり乗り気になって興味を示した。
合宿は遂に最終日となり、それぞれ明日から仕事があることを考慮し、午前中は特別メニューとしてレクリエーションを行うことになっていた。
「おしっ、皆さん張り切って行きましょう!」
「おおっ、別記さん」
「いいですね」
「珍しいな」
「ははっ。僕だってやる時はやりますよ」
その言葉通り、別記は最初のリフティング練を唯一ノーミスで乗り切った。
そしてパンツに挟んだタオルを取り合うしっぽ鬼、コーンの端と端を掴んで引っ張り合うバランスゲーム、三つのマーカーの間で2つのボールを取り合う挟み鬼、向かい合って手で押し合う手押しゲーム、鳥籠の5対2の陣形でボールの代わりに、一人の人が手を上げる手上げゲームを行った。
別記は終始完璧にこなせていたのだが、最後の手上げゲームで勢い余ってズッツコケてしまい、皆にイジられていた。また、ゴレイロにとっても体躯は必要ということで、これらの練習にも苦氏と味蕾は参加していた。
それから午後になり、初夏を感じさせる暑さで一同は更に日焼けして行った。
「あっち~」
昴はそう言って上半身裸で頭にタオルを巻きながら、腕で額の汗を拭っていた。
“かっこいい~”
その逞しい『姿』を見て、瑞希は思わず目がハートになっていた。そしてこれから、バランサーズの面々は保の号令で最後に5対5の試合形式でミニゲームを行う。
「午後の練習はお待ちかねのビーチサッカーだ。みんな本戦のつもりで行けよ」
「おっしゃーやったるぞー」
味蕾は昨日の話しもあってか、好機到来とばかりに意気込んでいた。ビーチサッカーは基本的にフットサルと同じようなものなのだが、その醍醐味としてはなんと言ってもオーバーヘッドシュートがし易いことである。
「ホントはビーチサッカーもサッカーと一緒で5号球なんだがな」
「まあそこはご愛敬ってことでいいじゃないですか」
「フットサルだけですもんんね、4号球なのって」
フットサルではサッカーでは小学生が使用する大きさの4号球が使われており、直径で言うと20.5cm。サッカーボールが22cmなので、たった1.5cmの違いではあるが、見た目にはやはりそれなりに違って見える。
サッカーボールのように大きくバウンドすることがない空気圧だが、軽いため弾丸のようなシュートが繰り出される。
午後練はそれなりに時間があったため、まずはコテ調べにと20分1オールで1軍白、2軍黒でビブスを付けて試合を行った。早速マネージャーが準備をする。
このチームにはマネージャーが3人おり、茶髪セミロングで社交的な瑞希、黒髪ショートでしっかり者の莉子、金髪ロングでどこか抜けた雰囲気のある美奈とが居り、見た目にも性格的にも分かりやすかった。そして、A型の瑞希、O型の莉子、B型の美奈とここでもバランスが取れているのであった。瑞希が聞いたところでは美奈はサッカーについてはある程度のルールを把握できているようだ。
「ねえ莉子ちゃん、フットサルってサッカーとどう違うの?」
「そっか、美奈ちゃん入ったばっかだもんね。フットサルっていうのは5人制サッカーのことで、攻撃主体のピヴォ、攻守両方ともこなすアラが2人、守備主体のフィクソ、キーパーのゴレイロが居て、他にスーパーサブ的ポジションのポニョが居るの」
「ふんふん、それでそれで」
「試合時間は前半、後半20分ずつで、試合中は時計を止めてプレーするの。コートの大きさは約40×20mくらいで、試合時間もコートの大きさもサッカーの半分って訳。まあ、日本では25×15mのコートとかでやってる所もあるけどね」
「おおーさすが莉子ちゃん!なんか説明が理系っぽい」
「でしょ。マネージャーは練習以外のデータ管理とかも仕事のうちだからね」
見ると選手たちがなんだか少し変わった動きをしている。
「ねえ、あれは何?なんかみんなエビみたいに後ろに下がってるけど」
「あれは『ドラッグバック』って言って、ボールの上をつま先で引っ掛けて躱(かわ)すテクニックなの。サッカーではやらないみたいで、フットサル特有のスキルなんだって」
「知らなかった~フットサルならではなんだね」
「そゆこと。フットサルにはフットサルの文化みたいなものがあるのよね」
見ると選手たちが頻りに何か叫んでいた。
「パウ!!」
「パウ!!」
それを聞いた美奈は不思議そうに莉子に尋ねる。
「ねえ、莉子ちゃん。『パウ』って何?」
「ああ、あれはゴールポストって意味ね。なんかちょっと変だもんね」
「チーラしっかり!!」
「これは?」
「『チーラ』って言うのはサッカーで言うクリアのことで、自陣で相手ボールになった時にコートの外とか危険なエリアから出すことを言うの」
見ると、昴がピッチから出たボールを足早に蹴り込んでいた。
「ねえ、なんであんなに急いで蹴ってるの?もっと落ち着いて蹴ればいいのに」
「ああ、あれは『4秒ルール』って言ってね。プレーが止まってから蹴る時には、必ず4秒以内に蹴らないといけないって決まりになってるの」
「へ~そうなんだ!フットサルって時間短いから、早くしないとだもんね」
「そうそう、その割に時計止めながらだから、結局はサッカーと同じくらい掛かっちゃうことが多いんだけどね。あと『5mルール』って言って、フリーキックを行う時に、相手選手は5m以上離れないといけないことになってたりもするの」
「おお~。いろいろ気を付けないといけないことが多いんだね」
「うん。人も社会も、逃れられないことが多いもんなんだよね」
そう言うと莉子は何か思い出したのか、口を尖らせて思いを巡らせた。
そして、『アラ・コルタ』と呼ばれる、パサーに近い側の足でボールを受ける戦術を用いて得点を決めた昴が、小休止の際に蓮に要望を出していた。
「おい蓮、フィードはガンショで出してくれ。あと、バックパスにも気を付けろよ」
「はい!気を付けます、ありがとうございます」
美奈はこの用語が気になったようで、透かさず聞きに掛かる。
「ねえ、これはこれは?」
「『フィード』は得点に繋がる可能性のあるパスで、『ガンショ』は浮き球って意味」
「うんうん」
「『バックパス』は相手にボールが渡る前に、ゴレイロがボールに触れることだね」
「お~、そうなんだ。わりと覚えることあるんだね」
「そうだね。まあ、最初に覚えさえすれば簡単なんだけどね」
ここまで説明を受けて、美奈はふと気付いたことがあったようだ。
「瑞希!思ったんだけど、このチームって10番居ないんだね」
「ああ、ちょっとワケありでね」
サッカーではエースが10番、2番手が11番、点取り屋が9番なことが多いのだが、このチームでは1番上手い昴、キャプテンの保と両人とも10番をつけていなかった。
「ふ~ん、そっか~」
美奈は理由が気になったようだが、空気を読んで聞かないことにしたようだった。
ここで蓮がプレーに関して気になったことがあったようで、昴に改善を要求する。
「昴さん。今の場面、ピヴォ当てやってもらえると、助かるんですけどーー」
「やんないよピヴォ当てなんて。そんなのはザコのやることだろ?」
「でもこれってチームに必要なプレーですよね?」
「いいんだよ。所詮は遊びなんだから、楽しくやれさえすれば」
「う~ん、そうなのかな?」
「なんだよ、どうプレーしようと俺の勝手だろ。文句あんのかよ?」
「そういうわけじゃないんですけどーー」
「だったら別に気にすることないだろ」
蓮は思うところがあったのだが、年下といったことで昴に強く言えなかったようだ。この『ピヴォ当て』はサッカーではレイオフと呼ばれ、自らを布石として使うことで、後ろのプレーヤーが前を向いた状態でプレーできるという連携である。
試合は結果的に1軍が7対0で圧勝し、休憩を挟んでAチームBチームに分かれての紅白戦となった。だが開始早々、勢いよく飛び出した蓮が蹴ったボールがクロスバーに当たって跳ね返り、運悪くBチーム側の無人のゴールに吸い込まれてしまった。
「馬鹿野郎!オウンゴールになってんじゃねえか」
「あ!やっちゃった。すません」
いきなり昴に怒られながらも、その後の蓮は堅実に試合を熟して行った。結局試合は蓮のオウンゴールと別記の得点で、Aチームに2点が入ったものの、昴が2点、甘利、辛損、蓮が1点ずつで5点を獲得したBチームの勝利で幕を閉じた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
High-/-Quality
hime
青春
「…俺は、もう棒高跳びはやりません。」
父の死という悲劇を乗り越え、失われた夢を取り戻すために―。
中学時代に中学生日本記録を樹立した天才少年は、直後の悲劇によってその未来へと蓋をしてしまう。
しかし、高校で新たな仲間たちと出会い、再び棒高跳びの世界へ飛び込む。
ライバルとの熾烈な戦いや、心の葛藤を乗り越え、彼は最高峰の舞台へと駆け上がる。感動と興奮が交錯する、青春の軌跡を描く物語。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる