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第2話 仲間たち

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 2日目、バランサーズの面々は昨日と同じように走トレを終え、昼食のカレーを食べビーチに戻った。少し目の下に隈がある保はそれでも意気揚々と話し始める。
「おっし、今日の午後練は連携戦術だな。ミスなく確実に行くぞ」
「オッケー、みんな大事に行こうぜ」
昴は昨日の保の頑張りを酌むことにしたのだろう。疲れが見え始める前に、率先してチームを引っ張ろうとしていた。

 この日はまず、各ポジション間での連携とゴレイロからフィールダーへのパス出しをAチームBチームに分かれて行い、10分間の休憩を挟んだ。それからコートの四つ角に立ち、走り込んでパスを貰った選手が対角に出して、受けた選手はボールを間に出し、最初の選手がまた走り込んでシュートするという『パス&コントロール』、左右非対称になるようにOFがセンターライン、DFがエンドラインに立ち、DFがOFにパスを出した後にOFを追いかけて守備を行う『コントロールドリブルシュート』を練習した。

 そして、ロンドと筋トレをこなして2日目の練習が終わってシャワーを浴び、夕飯のクリームシチューを食べ終わった頃、保がデッキに集まった皆に声を掛けた。
「お~い。ネットの動画見てモチベーションアップするぞ」
「すっげえ為になるなコレ。こんなの開示しちゃっていいんですかね?」

「いいんだよ。トレーニングが凄いんじゃない、選手が凄いんだ。心血注いで練習するからこそ、ロナウジーニョで居られるんだよ」
「ふ~ん、そういうもんなのかね」
保の話を聞いた昴は、さほど疲れも見せずにそう言った。

3日目、走トレと3回目のカレーに少々うんざりしながら、一同はビーチへ戻った。最後の基礎練とあって保の弁にも力が入り、昴もそれに応えようとする。
「今日はいよいよ対人戦術だ。練習ももう佳境に入るし、気を抜かないようにな」
「当然だろ、俺ら今年は優勝目指するんだぜ。これくらいで根を上げてらんねえよな」

「頼もしいな。5月5日のフットサルの日に気合いが入らないわけないしな」
「ああ。けど俺らくらい練習してたら、毎日がフットサルの日みたいなもんだよ」
「ははは、それもそうだな。じゃあ皆ここからがキツいところだが頑張って行くぞ」
「「「「おー!!」」」」

 ここではもう気合いが空回りするようなことはなく、蓮以外のメンバーも一斉に声を上げてチームを鼓舞した。それから1on1、OFとDFに分かれてのカウンターとしての2on1、ブレイク、ロンド、菱形の陣形で斜めに走り込むと勝ちという2on2、DFがセンターラインで待ち構えてOFが走り込む練習、逆にDFがOFを抜き去ってゴールする練習、二人のプレーヤーが半円を描くようにして交差し、置かれたボールを取り合って、取った方がゴールに向かってシュートするサークリング練を行った。

そして最後に例日の通り20分間のロンドと2種類の筋トレを行い、この日の練習を締め括った。夕食後、一同は今シーズンの戦術についてのミーティングを行った。

「今年も従来通り、ディフェンス主体のチームで行く。90年代イタリアのカテナチオみたいに1点取って最後まで守り切るようなイメージだ。勿論フットサルは、サッカーより点が入りやすいから、追加点ならいくらでも入れてくれて構わないがな」
保は尚も話し続ける。

「基本的にスタメン5人でガッチリ固めて、後は体力に応じて個々で入れ替え。マークはマンツーマンで着いて、スクリーン掛けられたら入れ替え。まあ、毎度のことだがな」
 ここで昴が、何かを思いついたように声を発した。

「保さん、そのスタメン5人ってのもだけど、今回せっかくビーチサッカーやるんだし、入れ替えてみてもいいんじゃない?」
「ん!それもそうだな。よし、それじゃあ結果次第で入れ替えてみることにするか」
「おおーっ。俄然やる気出て来た!」
万年補欠の蓮はこの提案にかなり乗り気になって興味を示した。

合宿は遂に最終日となり、それぞれ明日から仕事があることを考慮し、午前中は特別メニューとしてレクリエーションを行うことになっていた。
「おしっ、皆さん張り切って行きましょう!」
「おおっ、別記さん」
「いいですね」
「珍しいな」
「ははっ。僕だってやる時はやりますよ」

その言葉通り、別記は最初のリフティング練を唯一ノーミスで乗り切った。
そしてパンツに挟んだタオルを取り合うしっぽ鬼、コーンの端と端を掴んで引っ張り合うバランスゲーム、三つのマーカーの間で2つのボールを取り合う挟み鬼、向かい合って手で押し合う手押しゲーム、鳥籠の5対2の陣形でボールの代わりに、一人の人が手を上げる手上げゲームを行った。

 別記は終始完璧にこなせていたのだが、最後の手上げゲームで勢い余ってズッツコケてしまい、皆にイジられていた。また、ゴレイロにとっても体躯は必要ということで、これらの練習にも苦氏と味蕾は参加していた。
それから午後になり、初夏を感じさせる暑さで一同は更に日焼けして行った。
「あっち~」
昴はそう言って上半身裸で頭にタオルを巻きながら、腕で額の汗を拭っていた。

“かっこいい~”
その逞しい『姿』を見て、瑞希は思わず目がハートになっていた。そしてこれから、バランサーズの面々は保の号令で最後に5対5の試合形式でミニゲームを行う。

「午後の練習はお待ちかねのビーチサッカーだ。みんな本戦のつもりで行けよ」
「おっしゃーやったるぞー」

味蕾は昨日の話しもあってか、好機到来とばかりに意気込んでいた。ビーチサッカーは基本的にフットサルと同じようなものなのだが、その醍醐味としてはなんと言ってもオーバーヘッドシュートがし易いことである。

「ホントはビーチサッカーもサッカーと一緒で5号球なんだがな」
「まあそこはご愛敬ってことでいいじゃないですか」
「フットサルだけですもんんね、4号球なのって」

フットサルではサッカーでは小学生が使用する大きさの4号球が使われており、直径で言うと20.5cm。サッカーボールが22cmなので、たった1.5cmの違いではあるが、見た目にはやはりそれなりに違って見える。

サッカーボールのように大きくバウンドすることがない空気圧だが、軽いため弾丸のようなシュートが繰り出される。
 午後練はそれなりに時間があったため、まずはコテ調べにと20分1オールで1軍白、2軍黒でビブスを付けて試合を行った。早速マネージャーが準備をする。

このチームにはマネージャーが3人おり、茶髪セミロングで社交的な瑞希、黒髪ショートでしっかり者の莉子、金髪ロングでどこか抜けた雰囲気のある美奈とが居り、見た目にも性格的にも分かりやすかった。そして、A型の瑞希、O型の莉子、B型の美奈とここでもバランスが取れているのであった。瑞希が聞いたところでは美奈はサッカーについてはある程度のルールを把握できているようだ。

「ねえ莉子ちゃん、フットサルってサッカーとどう違うの?」
「そっか、美奈ちゃん入ったばっかだもんね。フットサルっていうのは5人制サッカーのことで、攻撃主体のピヴォ、攻守両方ともこなすアラが2人、守備主体のフィクソ、キーパーのゴレイロが居て、他にスーパーサブ的ポジションのポニョが居るの」
「ふんふん、それでそれで」

「試合時間は前半、後半20分ずつで、試合中は時計を止めてプレーするの。コートの大きさは約40×20mくらいで、試合時間もコートの大きさもサッカーの半分って訳。まあ、日本では25×15mのコートとかでやってる所もあるけどね」

「おおーさすが莉子ちゃん!なんか説明が理系っぽい」
「でしょ。マネージャーは練習以外のデータ管理とかも仕事のうちだからね」
見ると選手たちがなんだか少し変わった動きをしている。

「ねえ、あれは何?なんかみんなエビみたいに後ろに下がってるけど」
「あれは『ドラッグバック』って言って、ボールの上をつま先で引っ掛けて躱(かわ)すテクニックなの。サッカーではやらないみたいで、フットサル特有のスキルなんだって」

「知らなかった~フットサルならではなんだね」
「そゆこと。フットサルにはフットサルの文化みたいなものがあるのよね」

見ると選手たちが頻りに何か叫んでいた。
「パウ!!」
「パウ!!」

それを聞いた美奈は不思議そうに莉子に尋ねる。
「ねえ、莉子ちゃん。『パウ』って何?」
「ああ、あれはゴールポストって意味ね。なんかちょっと変だもんね」
「チーラしっかり!!」
「これは?」

「『チーラ』って言うのはサッカーで言うクリアのことで、自陣で相手ボールになった時にコートの外とか危険なエリアから出すことを言うの」
 見ると、昴がピッチから出たボールを足早に蹴り込んでいた。

「ねえ、なんであんなに急いで蹴ってるの?もっと落ち着いて蹴ればいいのに」
「ああ、あれは『4秒ルール』って言ってね。プレーが止まってから蹴る時には、必ず4秒以内に蹴らないといけないって決まりになってるの」

「へ~そうなんだ!フットサルって時間短いから、早くしないとだもんね」
「そうそう、その割に時計止めながらだから、結局はサッカーと同じくらい掛かっちゃうことが多いんだけどね。あと『5mルール』って言って、フリーキックを行う時に、相手選手は5m以上離れないといけないことになってたりもするの」

「おお~。いろいろ気を付けないといけないことが多いんだね」
「うん。人も社会も、逃れられないことが多いもんなんだよね」
 そう言うと莉子は何か思い出したのか、口を尖らせて思いを巡らせた。

そして、『アラ・コルタ』と呼ばれる、パサーに近い側の足でボールを受ける戦術を用いて得点を決めた昴が、小休止の際に蓮に要望を出していた。

「おい蓮、フィードはガンショで出してくれ。あと、バックパスにも気を付けろよ」
「はい!気を付けます、ありがとうございます」
 美奈はこの用語が気になったようで、透かさず聞きに掛かる。
「ねえ、これはこれは?」

「『フィード』は得点に繋がる可能性のあるパスで、『ガンショ』は浮き球って意味」
「うんうん」
「『バックパス』は相手にボールが渡る前に、ゴレイロがボールに触れることだね」

「お~、そうなんだ。わりと覚えることあるんだね」
「そうだね。まあ、最初に覚えさえすれば簡単なんだけどね」
 ここまで説明を受けて、美奈はふと気付いたことがあったようだ。

「瑞希!思ったんだけど、このチームって10番居ないんだね」
「ああ、ちょっとワケありでね」 
サッカーではエースが10番、2番手が11番、点取り屋が9番なことが多いのだが、このチームでは1番上手い昴、キャプテンの保と両人とも10番をつけていなかった。
「ふ~ん、そっか~」

 美奈は理由が気になったようだが、空気を読んで聞かないことにしたようだった。
 ここで蓮がプレーに関して気になったことがあったようで、昴に改善を要求する。

「昴さん。今の場面、ピヴォ当てやってもらえると、助かるんですけどーー」
「やんないよピヴォ当てなんて。そんなのはザコのやることだろ?」
「でもこれってチームに必要なプレーですよね?」

「いいんだよ。所詮は遊びなんだから、楽しくやれさえすれば」
「う~ん、そうなのかな?」
「なんだよ、どうプレーしようと俺の勝手だろ。文句あんのかよ?」
「そういうわけじゃないんですけどーー」
「だったら別に気にすることないだろ」

 蓮は思うところがあったのだが、年下といったことで昴に強く言えなかったようだ。この『ピヴォ当て』はサッカーではレイオフと呼ばれ、自らを布石として使うことで、後ろのプレーヤーが前を向いた状態でプレーできるという連携である。

 試合は結果的に1軍が7対0で圧勝し、休憩を挟んでAチームBチームに分かれての紅白戦となった。だが開始早々、勢いよく飛び出した蓮が蹴ったボールがクロスバーに当たって跳ね返り、運悪くBチーム側の無人のゴールに吸い込まれてしまった。

「馬鹿野郎!オウンゴールになってんじゃねえか」
「あ!やっちゃった。すません」

 いきなり昴に怒られながらも、その後の蓮は堅実に試合を熟して行った。結局試合は蓮のオウンゴールと別記の得点で、Aチームに2点が入ったものの、昴が2点、甘利、辛損、蓮が1点ずつで5点を獲得したBチームの勝利で幕を閉じた。
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