貴族であり続けるための試験がある国で婚約破棄された令嬢、彼女は婚約者の試験を邪魔することに決める

試験を邪魔する事で得た愛

　エリザベスは、サリバン家の広大な庭を見渡しながら、ふと立ち止まった。彼女の目には、色とりどりの花々が映っている。庭には春の陽射しが降り注ぎ、花々はその美しさを競い合うように咲き誇っていた。エリザベスの心もまた、花々のように華やかであるべきだった。しかし、彼女の胸には重い石のような悲しみが押し寄せていた。

「エリザベス、あなたの試験の結果が出たわよ」

　母の声が響く。エリザベスはその言葉を聞いた瞬間、心臓が止まるかと思った。先日受けた貴族試験の結果を待ちわびていたが、その知らせはどこか不吉なものに感じられた。

「どうだったの？」

　エリザベスは声を震わせながら尋ねた。母はため息をつき、顔を曇らせる。

「……残念だけれど、あなたは不合格だったの」

　その瞬間、エリザベスの世界は崩れ去った。夢にまで見た貴族としての名誉、そしてレオナルドとの幸せな未来が、一瞬にして奪われたのだ。

　婚約者であるレオナルドは、彼女の目の前で微笑んでいた。彼は優雅で、誰からも愛される性格の持ち主であった。エリザベスは、彼と共に貴族の仲間として名を馳せる未来を描いていた。しかし、その夢が崩れ去る瞬間を、彼女は想像もしていなかった。

「エリザベス、君が試験に合格しなかった以上、我々の婚約は無効だ。新たな名誉を持つ者を迎え入れるべきだ」

　レオナルドの言葉は、冷たく響いた。彼の目に映るのは、もうかつての愛しい彼女ではなかった。エリザベスは言葉を失い、彼女の心は絶望で満たされた。

「私……あなたを愛しているのに……」

　彼女の声は、涙に濡れた。しかし、レオナルドは何も答えず、冷淡に背を向けて去っていった。

　その夜、エリザベスは自室の窓から星空を見上げた。彼女の心の中には、レオナルドとの未来があった。彼と共に、名門の貴族としての人生を歩むことを夢見ていた。しかし、今やその夢は遥か彼方に消え去ってしまった。

「どうして……私が試験に落ちてしまったの？」

　エリザベスは自分を責め続けた。彼女は勉強を重ね、努力してきたはずだった。それなのに、なぜ結果は伴わなかったのか。

　悲しみと孤独が彼女を包み込み、涙が止まらなかった。エリザベスは、失ったものの大きさを思い知らされ、ただ泣くことしかできなかった。

　数日後、彼女は心の中にひとつの決意を固めた。レオナルドが新たな婚約者を見つけることを許さない。彼女は、彼の貴族試験を邪魔することに決めた。自分の夢が砕かれたのだから、彼の夢も同じように壊してやる。

「私はあなたの試験を邪魔するわ……」

　エリザベスは静かに誓った。復讐心が彼女の心を支配し始め、彼女は新たな計画を立てることにした。彼女はレオナルドの試験の行方を見守り、彼の成功を阻止する手段を考え始めた。

　時が経つにつれ、エリザベスの心の中には葛藤が生まれ始めた。彼女が彼を傷つけようとしている一方で、彼への愛情が消え去ることはなかった。試験の日が近づくにつれ、彼女はその感情に押しつぶされそうになった。

「本当にこれが私の望んでいることなのか……」

　エリザベスは何度も自問自答したが、答えは見つからなかった。彼女の心は迷いに満ち、愛と復讐の狭間で揺れ動いていた。

　エリザベスは、心の中で抱えた復讐の思いを実行に移すことに決めた。彼女はまず、レオナルドが貴族試験を受ける日まで、彼の健康を損なわせるための計画を立てた。しかし、彼女の思惑はなかなか実を結ばなかった。

　試験の日が近づくある日、エリザベスは友人のエミリーに相談した。

「エミリー、レオナルドに何か食べさせて、腹痛を起こさせることができないかしら？」

　エミリーは目を丸くし、心配そうに答えた。

「エリザベス、それは本当に良い考えなの？彼に何かあったら……」

「大丈夫よ。彼が試験に合格することは許せないの。私が何とかするから」

　エリザベスは、意を決してレオナルドの好きな料理を用意するようにエミリーに頼んだ。エミリーはため息をつきながらも、彼女の意志を尊重した。

　試験の日、レオナルドはエミリーが作った特製料理を食べた。エリザベスは、その様子を窓から隠れて見守っていた。しかし、彼が料理を食べ終わった後、何の兆候も見られなかった。

「どうして……？」

　彼女は心の中で叫んだ。エミリーに話を聞くと、レオナルドは料理を完璧に消化していたらしい。

　次にエリザベスは、レオナルドに熱を出させることを決意した。彼女は自分の部屋にこっそりとこもり、薬草の本を引っ張り出して調べた。いくつかの薬草が熱を引き起こすと知り、エリザベスは手に入れることにした。

　しかし、薬草を用意する間もなく、レオナルドは試験の準備を整え、出かける準備をしていた。エリザベスは焦り、急いでレオナルドの元へ向かう。

「ちょっと待って、レオナルド！風邪を引いているみたいじゃない？」

　エリザベスはレオナルドに向かって、心配そうな声をあげた。しかし、レオナルドはにっこりと笑い、何も心配する必要はないと言って、彼女の心配を一笑に付した。

「エリザベス、心配しないで。今日は完璧に準備ができている」

　その言葉を聞いたエリザベスは、力が抜けた。試験の日、レオナルドは元気に試験に臨み、見事に合格してしまった。

　日が経つにつれ、エリザベスは計画が全く上手くいかないことに苛立ちを感じていた。どんなに手を尽くしても、彼の試験を邪魔することはできなかった。自分の無力感に押しつぶされそうになり、彼女は心の奥底に不安を抱え始めた。

「どうして私はこんなに失敗ばかりしているのか……」

　彼女は一人で悩む時間が増え、自分の行動に疑問を抱き始めた。復讐心が彼女の行動を支配していたはずなのに、その行動は逆に彼女を追い詰めていった。

　試験はまだ一つが終わっただけだったが、リザベスの焦燥感はますます募っていた。

　次は武術試験が待ち受けていた。エリザベスは、今度こそ彼の成功を妨害しようと決意した。

　武術試験数日前、エリザベスは自らの計画を練り直した。彼女は、レオナルドが稽古をしている道場を訪れることにした。そこには彼の友人たちも集まり、試験に向けて特訓をしている。

「今日は何があっても、彼の集中を妨げるわ……」

　エリザベスは、道場の入り口で決意を固めた。彼女は友人のエミリーに相談し、彼女も一緒に道場に向かうことにした。二人は、レオナルドの友人たちが真剣に訓練をしている様子を見て、彼の姿を探した。

「レオナルド、見つけたわ」

　エリザベスは彼を見つけると、心臓が高鳴った。レオナルドは剣を持ち、真剣な表情で武道の型を決めている。彼の姿は、鍛え抜かれた体つきと自信に満ちていた。エリザベスの心の中で、彼に対する愛情が再び揺れ動く。

「どうするつもりなの？」とエミリーが不安そうに尋ねる。

「まずは、彼の気を散らせるために何か大きな音を立てるわ」とエリザベスは答えた。彼女は道場の隅にある木製の棚を指差し、棚の中の道具を利用することにした。

　エリザベスは棚を揺らし、音を立てると、道場全体に響き渡る音がした。訓練中のレオナルドは驚いて振り向き、エミリーは彼の注意を引くために大声で叫んだ。

「レオナルド、エリザベスが来たよ！」

　彼は一瞬気を取られたが、すぐに気を取り直して稽古を再開した。エリザベスは自分の計画が上手くいかないことに愕然とし、再度の妨害を考えなければならなかった。

　次にエリザベスは、訓練場の隅にいた仲間たちに目を向け、彼らに協力をお願いすることにした。彼女は友人たちに手を振り、音を立てるように合図した。彼女の言葉が彼らの耳に届くと、仲間たちは笑いながら盛り上がり、道場内に音が響き渡った。

「これで彼の集中力が切れるはず……！」

　しかし、レオナルドは冷静だった。彼は仲間たちの騒がしさに動じることなく、剣を振り続けていた。エリザベスは、彼の意志の強さを感じ、再び失望感に襲われた。

　武術試験の日、エリザベスの心の中には不安と緊張が入り混じっていた。試験の内容は、現役の騎士と戦い、その勝利を収めること。観客が見守る中で行われるこの試験は、緊張感とプレッシャーに満ちていた。彼女は、レオナルドの集中を妨げるために、全力で応援することを決意した。

　会場には、貴族たちや市民が集まり、試験の様子を見守るために賑わっていた。観衆の期待に満ちた視線が、選手たちに向けられる。エリザベスは人混みの中で、レオナルドの姿を見つけた。彼は緊張した表情で現役騎士と対峙していた。

「大丈夫、レオナルド。私はあなたを応援するわ！」

　彼女は心の中で彼を励ますが、同時にその瞬間を邪魔する覚悟を決めていた。エリザベスは大きな声で叫び始めた。

「頑張れ、レオナルド！その剣、素晴らしいわ！ああ、もっと強く！」

　彼女の声は試験会場に響き渡り、観衆の視線が彼女に向けられる。エリザベスは、レオナルドの耳に届くように、できるだけ大きな声で叫ぶことにした。周囲の人々は驚きつつも笑いながら彼女の応援を聞いていた。

「その攻撃、すごくかっこいい！もっと行け！」

　レオナルドは初めは彼女の声に驚いていたが、試合が進むにつれて徐々に彼の集中が乱されていくのがわかった。彼女の存在は彼にとって心の中で一瞬の隙間を生み出したのだ。

　試合が進むにつれて、エリザベスはさらに激しい応援を続けた。騎士との接触が続く中、彼女は意地でも彼を応援し続けた。彼の剣が騎士の剣に触れるたびに、彼女は盛大に歓声を上げた。

「いけー！その調子よ、レオナルド！負けないで！」

　レオナルドの顔には、彼女の声がどれほど迷惑になっているかが見え隠れしていた。それでも彼は、何とか冷静さを保とうと努力していたが、エリザベスの応援はますます激しさを増していく。

　エリザベスは、レオナルドの動きに合わせてさらに声を上げることにした。彼が剣を振るうたびに、彼女はその度に声を張り上げて挑発を続ける。

「その動き、素敵だけど本当に騎士に勝てるの？もっと頑張らないと負けちゃうわよ！」

　観客たちはエリザベスの姿に注目し、彼女の大声に笑いながら試合を見守っていた。レオナルドの顔には焦りが見え始め、彼の集中力は急速に失われていく。彼は自分の剣を振るうことよりも、彼女の声が気になって仕方がなかった。

「なんでこんなに声が大きいんだ……！」

　試合が進むにつれて、レオナルドはますます動揺し、エリザベスの声に影響を受け始めていた。彼女は意地でも妨害し続けることに決め、さらに声を張り上げた。

「頑張って、レオナルド！でも、騎士には勝てないかもね！」

　レオナルドは、彼女の言葉が無意識に頭の中で響き渡るのを感じ、さらに戦うことが難しくなった。彼の心の中には、エリザベスの応援が強いプレッシャーとして立ちはだかり、彼の剣の動きが鈍くなっていくのがわかった。

　試合が佳境に入る中、エリザベスはますます力を込めて声を張り上げた。

「あなたは本当に強いの？今がチャンスだよ、レオナルド！でも、本当に勝てるのかな？」

　その言葉がレオナルドの耳に入った瞬間、彼は一瞬の隙間を生じさせてしまった。騎士がその隙を突き、一気に攻め込んでくる。彼の心の中で焦りが広がり、さらに彼の集中力は崩れ落ちていった。

　エリザベスの妨害が功を奏し、レオナルドの試合はますます厳しくなっていく。観客たちはその様子に驚き、レオナルドを応援する声が次第に少なくなっていく。

　エリザベスは、試合の行方を見守りながら、心の中で確信していた。

「これでレオナルドは落ちる……間違いないわ！」

　彼女の心には安堵感が広がり、ほっと息をつく。しかし、その瞬間、彼女の思惑を覆すように、レオナルドの表情が変わった。

　レオナルドは、一瞬の隙を突かれて動揺していたが、その次の瞬間、彼の目が鋭くなり、まるで何かが目覚めたかのように立ち上がった。

「……これは、まだ終わっていない！」

　彼は力強く剣を構え、まるで自分の心の中の迷いを振り払うかのように、冷静さを取り戻した。瞬時に戦いのリズムを変え、彼は相手の攻撃を巧みにかわし始めた。

　レオナルドの動きが滑らかになり、彼の剣さばきはまるで舞踏のように美しく、観客たちもその変化に驚愕した。

「おお、レオナルド！それだよ、もっと頑張って！」

　エリザベスは思わず叫びながらも、心の中で動揺していた。彼が勝つかもしれない、という予想外の展開に興奮し、同時に彼を妨害するつもりだった自分を責めていた。

　レオナルドは、鋭い動きで騎士に近づき、反撃を開始した。彼の剣は、力強く舞い上がり、騎士の動きを捉える。観客たちが息を飲む中、レオナルドは素早く一撃を放つと、相手の防御を打ち破る。

「これが、私の本気だ！」

　彼の声は響き渡り、力強い決意が感じられた。その瞬間、会場全体が静まり返り、観客たちの心が彼に引き寄せられていく。

　エリザベスは、彼が騎士を圧倒していく様子を見ながら、心の中で葛藤していた。

「どうして、こんなに強いの？私が邪魔をしたのに……」

　彼女は、自分の意図が完全に裏目に出てしまったことを痛感する。自分が彼を応援することで、逆に彼の力を引き出してしまったのだ。

「もしかして、私の声が……」

　その思いは、彼女の胸に重くのしかかる。彼の背中を押すつもりが、逆に彼を奮起させてしまったことに気づいた。

　試合は激しさを増し、レオナルドは圧倒的な力で騎士を追い詰めていく。最後の一撃が放たれると、観客たちが歓声を上げた。

「やった！レオナルドが勝った！」

　その瞬間、エリザベスは喜びと驚きの狭間で揺れ動いた。彼が勝利を収めたことに心から喜ぶ一方で、彼女の計画が完全に崩れ去ったことにショックを受けていた。

　試験が終わり、レオナルドは歓声に包まれた。彼は勝利の証として剣を高く掲げ、笑顔を浮かべている。しかし、エリザベスはその姿を見つめながら、複雑な思いを抱えていた。

「これが私の思い通りにならない世界……」

　彼女の心は彼に対する思いで溢れていたが、同時に自分の計画が失敗したことを実感していた。彼の成功を祝うことができる自分と、彼に対する妨害の思いを抱える自分がせめぎ合っていた。

「次は何をしようか……」

　エリザベスは再度計画を練り始めた。

　貴族試験が進む中、エリザベスの心には焦りが渦巻いていた。知と体技の試験を乗り越えたレオナルドに対抗するため、最後の試験は影響力に決まった。彼がこの試験でも成功すれば、彼の貴族としての地位は揺るぎなくなる。エリザベスは何とかして彼を妨害しなければならなかった。

　影響力の試験は、貴族としての振る舞いや他者に与える好印象を審査するものであった。会場には名だたる貴族たちが集まり、レオナルドの行動を見守っていた。試験官は、彼がいかに周囲の人々と良好な関係を築き、影響を与えられるかを判断するのだ。

　エリザベスは、この試験の重要性を理解していた。貴族試験が終わるまでは貴族としての称号が維持されるため、エリザベスはこの会場に入ることが可能。

　そこで、彼に近づく方法を考えた。彼を動揺させるためには、知り合いのセクシーな女性を送り込むのが一番効果的だと考えた。

「これでレオナルドも動揺するはず……」

　彼女は自信満々に、魅力的な衣装を纏った女性を選び、試験会場に送り込んだ。エリザベスはこれでもあらゆる貴族と人脈がある。会場に送り込むのは容易だった。

　女性は妖艶な笑みを浮かべ、レオナルドに近づいていく。エリザベスはその様子を遠くから見守りながら、心の中で勝利を確信していた。

「これで彼の集中を妨げられる！」

　だが、思わぬ展開が待ち受けていた。

　女性がレオナルドに近づいた瞬間、彼はその存在に気づき、微笑みを浮かべた。しかし、次の瞬間、彼の表情は変わり、冷静さを保ったまま女性を見つめる。

「申し訳ありませんが、私は今、試験中です。どうかお引き取りください」

　その一言が、女性の顔から笑みを消した。驚くべきことに、レオナルドは彼女を優しく、しかし断固とした態度で追い返したのだ。

「えっ、どうして……？」

　エリザベスはその光景を見て、思わず声を失った。自分が計画した罠は、まるで水泡のように崩れていく。彼の冷静さと毅然とした態度に、エリザベスの心は動揺を隠せなかった。

「彼は私の策略を見抜いたの……？」

　試験会場の雰囲気は静まり、周囲の貴族たちもそのやりとりを注視していた。レオナルドが女性を追い返した瞬間、彼の評価はさらに上がってしまった。彼の冷静さは、他者に好印象を与える要因となり、試験官たちの間で好感を持たれることになった。

　エリザベスはその場から逃げるように後ずさりし、心の中で絶望的な思考が渦巻く。

「これじゃあ、私の試験を邪魔する方法がどんどん失敗している……！」

　彼女は自分の力不足を感じ、何か別の手段を考える必要があると決意する。次の策を練らなければならなかった。

「まだ試験は終わっていない……」

　エリザベスは意気消沈しつつも、彼を妨害するための新たな計画を立て始める。今度こそ、確実にレオナルドの影響力を削ぐ方法を考え出さなければならない。彼女は、運命を逆転させるために新しいアイデアを模索し、試験の行方に再び目を向けた。

「次は、もっと慎重に……」

　エリザベスは心に決意を固め、レオナルドの成功を阻むための新たな手段を考え続けるのだった。

　エリザベスはこの試験で何としてもレオナルドの成功を阻止するための策を練る必要があった。彼女の頭の中を、様々なアイデアが駆け巡るが、どれも彼の冷静さを揺るがすには至らなかった。

　そんな時、彼女は最終手段に辿り着く。これしかない、と。

「試験官の利用だ」

　彼女は自分の心に決意を固めた。正直なところ、そんな手段を使うことには気が向かなかったが、ここまできたらやるしかないと腹を括った。彼女が事前に買収しておいた試験官は、今後の試験で彼の合格に対して否定的な意見を示すことができる立場にあった。

　エリザベスは、試験官との合図を決めていた。試験官に対して、何気ない仕草でサインを送ることで、計画を実行する合図とするつもりだった。

　試験の時間が過ぎる中、エリザベスは試験会場の隅から見守る。彼女の心臓は高鳴り、緊張感が全身を包んでいた。彼女は、レオナルドがどのように反応するのかを見逃すまいと、目を凝らした。

　試験官がレオナルドに近づくと、エリザベスはその動きを注視し、合図を送る。彼女は自分の手を軽く頬に当て、もう一方の手で小さく指を弾く。試験官はその合図を受け取り、レオナルドに近づいた。そして、耳打ちするように言葉を囁く。

「今のままでは、合格は難しいかもしれませんね……」

　その言葉を耳にした瞬間、レオナルドの表情が一瞬だけ曇った。エリザベスの心の中で小さな喜びが芽生える。

「さあ、これで少しは不安になってくれるはず……」

　だが、彼女の期待に反して、レオナルドはすぐにその表情を取り戻し、冷静に試験に臨んだ。

「どうして、彼はこんなにも平然としていられるの？」

　エリザベスは焦りを感じ始めた。試験官の言葉が彼に影響を与えないとは思っていなかった。彼の精神力の強さに、再び驚かされる。

　試験が進むにつれて、レオナルドはその場の雰囲気を引き締めるように行動していた。周囲の貴族たちも彼の様子に感心し、次々と彼を称賛している。

「彼は冷静すぎる……」

　エリザベスは、もう一度試験官に目を向け、何とかして彼の心に不安を植え付けるように仕向けなければならないと考えた。次の手段を考える時間が迫っていた。

「次は何をしよう……？」

　エリザベスは焦りを感じつつも、再び頭を働かせる。彼女の心の中で、試験官を利用した計画は失敗しつつあるが、まだ時間はある。最後のチャンスを無駄にするわけにはいかない。

　エリザベスは、試験官に向かって再度合図を送る。今度は少し強めに、片方の手で自分の頬を叩くようにした。試験官は彼女の合図を受け取り、頷きながら再びレオナルドに近づいた。

「実は、他の試験官たちが、君に厳しい目を向けているという噂もある。君はこのままだと、合格できないかもしれない……」

　その言葉がレオナルドに届くと、彼の眉がわずかに動いた。エリザベスは心の中で期待を膨らませるが、彼はすぐに冷静さを取り戻した。

「これじゃあ、私の試験を邪魔する方法がどんどん失敗している……！」

　エリザベスはその場から逃げるように後ずさりし、心の中で絶望的な思考が渦巻く。試験官の言葉が彼に影響を与えないとは思っていなかった。彼の精神力の強さに、再び驚かされる。

　試験が進むにつれて、レオナルドはその場の雰囲気を引き締めるように行動していた。周囲の貴族たちも彼の様子に感心し、次々と彼を称賛している。

　エリザベスは、心臓が高鳴る中、試験が進むにつれて不安が募っていくのを感じていた。試験官の言葉がレオナルドに届くたびに、彼は驚くほど冷静に対処し、周囲の期待に応えている。エリザベスの考えはどんどん虚しくなっていった。

「どうして……どうして彼は、こんなにも強いの？」

　試験がついに終了を迎えると、レオナルドは満ち足りた表情を浮かべていた。彼の周りには賛辞が飛び交い、貴族たちの視線は彼に向けられていた。彼が無事に試験を突破したことは明らかだった。

　エリザベスは、その様子を見つめながら、心の中に押し寄せる無力感に苛まれた。自分がどれだけ努力し、計画を練ったところで、彼を引きずり下ろすことはできなかった。周囲の歓声が耳に入るたびに、彼女は胸の内が締め付けられるような感覚を覚えた。

「彼が試験に合格したら、私たちの関係はどうなるのだろう……」

　その後他の受験者を試験を行い。遂に結果が発表された。

　……レオナルドは圧倒的高ポイントでの合格だった。彼はこれからも貴族称号を維持し、この時を以てエリザベスの貴族称号は剥奪された。

　エリザベスは自室に戻り、思わず膝をついて声を上げて泣き叫んだ。

「何をやってもうまくいかない……私は一体、何のために……」

　涙は止まることを知らず、彼女の心は暗闇に覆われていく。もはや未来に希望を持つことなどできなかった。全てを失ったエリザベスは、死を考えるようになっていた。

「もう、死ぬしかないのかもしれない……」

　その時、彼女の悲しみに沈む心に、使用人の一人が訪れた。

「お客様が来ています、エリザベス様」

　ふらふらとした足取りでドアを開けると、そこには想像もしなかった人物が立っていた。レオナルドだった。彼の姿を見た瞬間、エリザベスの心は驚きと混乱でいっぱいになった。

「エリザベス……」

　彼は何も言わず、エリザベスを抱きしめた。優しく温かいその腕に包まれると、彼女の涙は止まった。彼女の心に、少しだけ希望が芽生え始めた。

「どうして……私なんかを、来てくれたの？」

　エリザベスは、彼の胸の中で泣きじゃくりながら、戸惑いを隠せなかった。

「お前が必要だ。試験に挑む中で、エリザベスのことを考えない日はなかった」

　レオナルドの言葉は、彼女の心に温かい光をもたらした。

「君が邪魔をしようとしていることには薄々気づいていたが、それと同時に君が近くにいると思うだけで頑張ろうと思えたんだ」

　彼の言葉に、エリザベスは目を見開いた。

　だが同時に残酷な事実もそこにはあった。

「私はもう、貴族じゃない……」

　エリザベスの声は震えていた。貴族は貴族以外との婚約を認められてはいない。

　だがレオナルドは優しく彼女を見つめ直した。

「貴族の称号がなくても、エリザベスはエリザベスだ。お前の存在が、俺にとってどれほど大切かを忘れたことはない」

　その言葉は、エリザベスの心の中に新たな力を吹き込んだ。彼女は、自分の運命を再び見つめ直す必要があると感じ始めていた。失ったものは多かったが、同時に彼女には守るべき人がいることを思い出した。

「私は、どうすればいいのか……」

　エリザベスは、レオナルドの腕の中で小さく呟いた。彼はその言葉に静かに頷き、エリザベスの手を優しく握りしめた。

「次合格すればいいじゃないか。僕が全力でサポートするし、仮にまた落ちても受かるまでずっと君を支え続けるから」

　レオナルドの言葉は、彼女の心に光を灯した。自分はまだ終わりではない。自分の人生を取り戻すために、立ち上がる覚悟を持たなければならないのだ。

「……レオナルド」

「君ならできる。そうだろう？　だって復讐のために試験官まで買収するぐらいなのだから」

　レオナルドは笑た。エリザベスは口を開けて沈黙する。

「えっと……」

「いいよ。そこまでするほど悔しかったんだろ？　なら僕は君が諦めるまで一緒にいるんだ」

「レオナルド……！」

　エリザベスは、レオナルドの温かい腕に包まれて、ついに涙があふれ出すのを止めることができなかった。彼に抱きついたまま、彼女は自分の無力感や悲しみを全て吐き出すように泣き続けた。

　声を震わせながら、彼女は彼の胸に顔を埋めた。心の奥底から湧き上がる感情が、言葉にできないほどの苦しみとして彼女を襲った。

　レオナルドは、彼女の頭を優しくなで続け、静かに彼女を励ました。彼の手の温もりが、少しずつエリザベスの心を和らげていく。彼は何も言わず、ただ彼女の存在を感じているかのように、そのまま抱きしめ続けた。

「私たちの未来を、もう一度描き直そう」

　二人は、互いに見つめ合い、頷き合った。彼らの新たな旅が始まる予感が、心の中に広がっていく。エリザベスは、レオナルドの手をしっかりと握りしめ、これからの挑戦に向けて歩み出す準備を整えた。