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性転換の薬愛

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 エリザベスは広大な庭園の中を歩きながら、心の中で渦巻く感情に戸惑っていた。彼女の心は、かつての婚約者であるアルベルトのことばかり考えていた。彼との婚約は、社交界でも注目を集めるほどの華やかなものだったが、ある日突然、婚約破棄されてしまったのだ。その理由を知る由もなく、彼女は深い悲しみに沈んでいた。

「どうして、あの時彼は私を選ばなかったのかしら……」

 エリザベスは心の中で繰り返す。彼女はアルベルトを愛していたし、彼も彼女を愛していると信じていた。しかし、婚約破棄の瞬間、彼の目には何が映っていたのだろう。彼女の心は彼への愛情と共に、復讐心が芽生え始めていた。傷つけられた心をどうにかして晴らさなければならない。

「復讐……そうね、何か手段を考えないと」

 エリザベスは自分の心に決意を固め、考えを巡らせた。彼女の頭にふと浮かんだのは、彼女が知っているマッドサイエンティスト、ヴィクトールだった。彼は奇抜な発明をすることで知られており、最近では指名手配までされている。しかし、彼の実験は常にユニークで、特に奇想天外なアイデアが思いつくことが得意だった。

「彼なら、私の願いを叶えてくれるかもしれない」

 エリザベスはヴィクトールの秘密の研究施設を訪れることに決めた。彼女は街の外れにある、その場所に向かうために、馬車を走らせた。道中、彼女の心は期待と不安でいっぱいだった。ヴィクトールの研究が成功するかどうか、そして彼に自分の意図を理解してもらえるかどうか、不安が募った。

「……でも、私にはもう選択肢がない」

 彼女の心は強く、固い決意を持っていた。やがて、古びた木の扉の前にたどり着くと、エリザベスは少し息を整え、思い切ってノックした。

「ヴィクトール、いるの?」

 数瞬の静寂の後、扉が開かれ、彼の顔が覗いた。彼は薄暗い研究室の中で、実験器具に囲まれていた。彼の目には、まるで星のような好奇心が宿っていた。

「おや、エリザベス。久しぶりだね。君がここに来るなんて珍しい」

 彼女は彼の好奇心に応えながら、心の中で自分の目的を整理した。

「実は、あなたにお願いがあって来たの」

「お願い? 何だい? 私の研究を手伝ってほしいのかい?」

 エリザベスは彼の言葉に微笑みながらも、心の中では緊張が走った。

「いや、違うの。私はアルベルトに復讐したいの。彼を女にして、友達になりたいの」

 ヴィクトールの目が驚きに見開かれる。

「それは……面白いアイデアだね! でも、どうしてそんなことを考えたの?」

「婚約破棄されたから。彼との関係を新しく築くためには、彼を違う視点で見つめたいの」

 ヴィクトールはしばらく考え込み、彼女の言葉を噛み締めるように聞いていた。

「面白い。私の知識があれば、それを実現できるかもしれない。しかし、これはかなり危険な実験になる。成功するかどうかは分からないが、やってみる価値はあると思う?」

 エリザベスは自分の決意を改めて確かめた。

「もちろん、やりたい。どんな危険があっても、彼に新しい機会を与えたいの」

 ヴィクトールは彼女の目を見つめ、その決意を理解したようだった。

「よし、では私の研究室へ来て、計画を立てよう」

 彼女は心の中で高鳴る期待を抱きながら、ヴィクトールに導かれて研究室の奥へと足を進めた。彼女の復讐の道は、今、始まろうとしていた。

 エリザベスはヴィクトールの研究室の奥に進むと、周囲に並ぶ奇妙な装置や器具が目に飛び込んできた。机の上には色とりどりの液体が入ったビンが並び、彼女の心を好奇心が駆り立てた。しかし、彼女の目的は復讐だった。ヴィクトールは彼女の隣に立ちながら、真剣な表情で考え込んでいた。

「変換させるのが一番楽なんだけど、装置に拘束してしまうと彼との関係が壊れてしまうかもしれない」

 エリザベスはその言葉に頷いた。

「それは確かに……」

「だから、飲み物にするのが良いかと思っているんだ。だけど、液体にして身体を変化させるのはかなり難しい。時間もかかるかもしれない」

 彼の言葉に、エリザベスは少し考え込みながらも決意を固めた。

「時間がかかっても構わない。アルベルトを女にして、友達になるための手段なら、何でもやりたい」

 ヴィクトールは彼女の真剣な眼差しを見つめ、彼女の覚悟を感じ取った。

「分かった。完成したら連絡するよ。しばらくは待っていてくれ」

 彼女はヴィクトールに微笑み、振り返ると帰ろうとした。その瞬間、彼女の腕がつかまれ、驚いた顔をして振り向いた。

「な、何……?」

 ヴィクトールは彼女の目を見つめ、無言で彼女に近づく。彼女はその視線に引き込まれるように、動けなくなってしまった。そして、次の瞬間、彼は深く彼女にキスをした。

 彼女の心臓はドキドキと激しく脈打ち、意識が遠くなりそうになる。彼の唇が優しく触れ、彼女は思わず目を閉じた。この瞬間、彼女は自分の中で芽生えた復讐心と、彼との新たな関係の可能性に揺れ動いていた。キスが終わると、ヴィクトールは静かに彼女の目を見つめ、微笑んだ。

「エリザベス、君に一つ、忘れてはいけないことがある」

「何……?」

 彼の声にはいつもとは違う響きがあり、彼女の心に緊張が走った。

「私がこの実験を行うには、報酬が必要だ」

 彼女は少し考え込み、すぐに返事をした。

「もちろん、見合った額を払うわ。お金なら用意できるから」

 ヴィクトールは彼女の言葉に対して、思わず眉をひそめた。

「お金よりも、君の身体が欲しいんだ」

 エリザベスはその言葉に驚愕し、思わず後ずさった。

「ど、どういうこと……?」

 彼女の問いに答える暇も与えられず、ヴィクトールは彼女に近づき、再び深くキスをした。その瞬間、彼の強い抱擁に包まれ、彼女は完全に抵抗することができなかった。彼の情熱的なキスが唇を貫き、思わず彼女は目を閉じた。

「待って……やめて!」

 エリザベスは力を振り絞って彼を拒むが、ヴィクトールの情熱はまるで波のように押し寄せてくる。彼女の心の中で葛藤が起こり、復讐心と彼に対する興味が交錯していた。

「君は魅力的だ」

 ヴィクトールの言葉は、彼女の心にさらなる混乱を呼び起こす。彼女は、自分が持つ魅力に対する彼の評価がどういう意味を持つのかを理解できずにいた。

「魅力的……? 私が? そんなこと……」

 エリザベスの言葉は、彼の熱意に圧倒され、思わずか細い声になってしまった。彼の目は、まるで彼女のすべてを見透かしているかのように輝いていた。

「君の力強さ、そしてその美しさは、私にとってたまらなく魅力的だ。だから、君の身体を求めるのも無理はない」

 ヴィクトールは彼女を離し、少し距離を取った。しかし、その目は決して離れなかった。エリザベスは心の中で翻弄されながらも、自分が感じる気持ちに戸惑いを隠せなかった。

「でも……私はアルベルトに復讐するために来たの。私の気持ちは……」

「復讐心も、愛情も、すべて君の一部だ。だから、君はもっと自分を解放していいんだ」

 彼の言葉は、彼女の心に新たな視点をもたらした。自分を解放することが、復讐とどう結びつくのかが分からなかったが、彼の目の奥には何か特別なものを感じた。

「ヴィクトール、あなたは……」

 エリザベスは言葉を続けようとしたが、再び彼に近づかれ、深いキスを交わされた。彼女の心はその瞬間に翻弄され、彼に惹かれていく自分を否定できなかった。

「私は君を手に入れたい。君を変えることで、私も変わることができるんだ」

 その言葉は、彼女に新たな可能性を感じさせた。復讐心を抱きつつも、彼との関係が新しい展開を迎えようとしていることに気づいたエリザベスは、戸惑いながらも彼を見つめ返した。

 エリザベスは研究室の薄暗い空間の中、ヴィクトールの強い抱擁に包まれながら、自分の心が彼に奪われていくのを感じていた。彼の体温が彼女の身体に伝わり、熱が彼女の内側から燃え上がる。彼女は復讐のことを一時忘れ、ただ彼の存在を求めていた。

「エリザベス……」

 ヴィクトールは低い声で彼女の名前を呼び、荒々しい手つきで彼女を抱き寄せた。彼の力強い腕が彼女の腰に回り、そのまま引き寄せられると、彼女の心臓は早鐘のように打ち鳴らされた。彼は口を離すことなく、彼女の唇を貪るように求めた。

 彼女はその情熱に応え、身体を寄せていく。彼の手が彼女の背中を撫でるたびに、肌が敏感に反応し、甘い痺れを感じた。彼女は一瞬、アルベルトに対する復讐のことを忘れ、目の前にいる男の魅力に心を奪われていた。

「もっと近くに……」

 ヴィクトールは彼女の耳元で囁き、その言葉が彼女の心を刺激する。彼の呼吸は荒く、彼女もまたその熱を受け止める。彼の唇が彼女の首筋を優しく撫でると、エリザベスは思わず身をよじらせた。

「ヴィクトール……お願い、もっと」

 彼女の言葉に、ヴィクトールはさらに情熱を注ぎ込むように彼女に迫った。彼は激しく、そして優しく彼女を求め、エリザベスはその激しさに心を高鳴らせた。彼の荒々しい手が彼女の髪を撫で、彼女の身体を包み込むように触れ、彼女はその一瞬一瞬を堪能した。

「君は本当に魅力的だ」

 ヴィクトールの言葉は、彼女の心に深く刺さり、彼女は自分が求められていることを実感した。彼の手が彼女の顔に触れ、優しく頬を撫でる。その仕草に、彼女は思わず目を閉じ、彼の愛撫に身を委ねた。

「エリザベス……君が欲しい」

 その言葉が彼女の心に響き、彼女は自分の中に渦巻く感情を否定できなかった。復讐の計画が頭の中をかすめるものの、彼女の心は完全にヴィクトールに支配されていた。彼と一緒にいるこの瞬間が、どれほど幸せかを噛み締める。

 彼女は彼の目を見つめ、その深い瞳の中に自分が映っていることを確信した。彼女は彼を求め、彼もまた彼女を求めていた。二人の間に流れる熱い感情は、何か特別なものであると彼女は感じた。

 研究室の中で、彼らは互いの身体を求め合い、愛し合った。復讐のことは一時忘れ、ただこの瞬間に身を委ねることで、彼女は新たな自分を発見していた。彼の情熱的な愛に包まれながら、エリザベスは自分の心が深く彼に結びついていることを理解していた。

 長々と続いた激しい愛のぶつけ合いは、ついに少しずつ収束していった。エリザベスは、ヴィクトールの体温を感じながら、心臓の鼓動が徐々に落ち着いていくのを感じた。彼女の身体はまだ震えており、その余韻が心地よい感覚として残っていた。

 ヴィクトールはゆっくりと服を整え、落ち着いた口調で言った。

「じゃあ、後はやってくから、連絡待っててね」

 その言葉に、エリザベスは彼の言葉が響いているのを感じた。しかし、彼女はもっと彼と触れ合いたいという欲求が抑えきれなかった。少しだけ触れようと、彼の腕に手を添えた。

「ヴィクトール……もっと一緒にいたいの」

 彼女の声は甘く、少し不安げに響いた。しかし、ヴィクトールは少し困ったような表情を見せ、彼女の期待に応えることはなかった。

「無理。性欲満たしちゃったから、もう一回はやだ」

 その言葉に、エリザベスは心の中で彼の言葉が刺さった。彼女は欲望に溺れたまま、少しだけ彼にすがりつく気持ちを抱いたが、彼の言葉が現実に引き戻した。

「そう……なんだ」

 彼女の声は少し寂しげに響き、ヴィクトールの態度を受け入れるしかなかった。彼の優しさの中に、冷たさを感じる瞬間だった。彼女は彼との関係に期待を寄せていたが、その一方で現実も理解しなければならなかった。

「僕たちは別に恋人じゃないしねー」

 その言葉にエリザベスは少しずつ我を取り戻し、研究所を後にすることにした。心の中にはヴィクトールとの激しい愛の記憶が鮮明に残り、彼との絆が強くなったことを感じていた。しかし、彼との関係が一時的なものに過ぎないのかもしれないという不安も抱いていた。

 研究所を出ると、冷たい空気が彼女の顔を撫で、心の奥にあった熱が少しずつ引いていくのを感じた。彼女は復讐の計画を思い出し、心の中で新たな決意を固める。アルベルトに対する思いを胸に秘めながら、彼女は次のステップに進むための準備を始めるのだった。

 しばらくの間、エリザベスはヴィクトールのことを考える毎日が続いた。何をしていても、彼の姿や声、そして彼との甘美な瞬間が脳裏をよぎる。復讐の計画が頭の中を巡る一方で、彼との関係に対する思いが彼女の心を占めていた。

 数日後、ついに待ち望んでいた手紙が届いた。「完成した」というヴィクトールからの言葉に、彼女の心は高鳴る。急いで研究室へ向かい、ドキドキとした気持ちで扉を開けた。

 その瞬間、ヴィクトールの顔が視界に飛び込んできた。彼の姿を見ると、エリザベスの心は再び彼への強い欲望で満たされた。

「ヴィクトール……!」

 思わず彼に駆け寄り、彼を求めるように手を伸ばした。しかし、ヴィクトールは冷静な表情を浮かべて言った。

「エリザベス、僕たちそういう関係じゃないってば」

 彼の言葉は優しさの中にも冷たさを含んでいて、エリザベスの心を刺した。彼女は思わず気持ちを引き戻そうとしたが、彼の目は彼女を拒絶していた。その瞬間、彼女の中の欲望が少しずつ薄れていくのを感じる。

「それより、これを見て」

 ヴィクトールはエリザベスの反応を無視するように、テーブルの上に置かれた小瓶を指し示した。彼の目は興奮に満ちており、彼女にとっては新しい可能性を秘めたアイテムだった。

「これは、男を女にする薬だ」

 彼の言葉に、エリザベスの心が再び跳ね上がった。彼女はその小瓶に視線を移し、透明な液体が揺れる様子を見つめる。ヴィクトールは真剣な表情で続けた。

「これがあれば、アルベルトを女にすることができる。準備はできているのかい?」

 エリザベスは一瞬、胸の奥が高鳴るのを感じた。復讐の計画が現実のものとなる瞬間が近づいている。彼女はヴィクトールの目を見つめ、彼の言葉の重みを感じた。

「はい、私は準備ができているわ」

 彼女の言葉は決意に満ちていて、ヴィクトールは微笑みを浮かべた。彼の目には、彼女の決意を理解し、応援する気持ちが映っていた。

「じゃあ、この薬をどうやって使うか説明するよ。君がアルベルトに会うとき、これを飲ませるだけだ」

 ヴィクトールは丁寧に説明しながら、エリザベスの心を再び熱くさせていった。彼女はアルベルトに対する復讐の計画が実行に移されることを確信し、その一歩が彼女を強くさせるのを感じていた。

 エリザベスは、アルベルトが主催するパーティーの情報を手に入れるために、彼女の人脈を駆使した。社交界の有力者たちからの情報収集はスムーズで、彼女はそのパーティーへの参加を確定させた。心の中では緊張と興奮が交錯し、復讐の計画が具体的な形を取り始めるのを感じていた。

 パーティーの日、エリザベスは美しいドレスに身を包み、華やかな雰囲気の中で自信を持って歩いた。彼女の心臓は高鳴り、アルベルトに会う瞬間を待ち望んでいた。会場は煌びやかなシャンデリアで照らされ、賑やかな音楽が響き渡る中、彼女はアルベルトを探した。

 ようやく、彼を見つけることができた。彼は周囲の人々と談笑しながら、堂々とした姿で立っていた。その姿を見た瞬間、エリザベスの心には強い決意が宿った。

「これが私の復讐の始まり……」

 彼女は密かに持っていた小瓶を手に取り、アルベルトの近くへと近づいた。彼女は自然に会話に参加しながら、目を光らせて彼の飲み物を確認する。タイミングを見計らって、薬を少しずつ混ぜ込んだ。

「アルベルト、楽しいパーティーね」

 エリザベスは微笑みながら言った。アルベルトは満面の笑みで返す。

「君もいるのは驚いたが、まぁいいか。楽しんでくれ」

 その言葉を聞いて、エリザベスは心の中で勝利を確信した。しばらくすると、アルベルトの顔に不快感が浮かんだ。彼の手が急に顔に当たったかと思うと、急に表情が変わり、体調を崩したようだ。

「ちょっと……トイレに行ってくる」

 彼はそう言うと、慌ててその場を離れた。エリザベスは心の中でほくそ笑みながら、彼の後を追うようにトイレへ向かった。

 トイレのドアを開けると、アルベルトは鏡の前で顔を押さえ、息を荒げていた。

「どうしたの、アルベルト?」

 彼女が声をかけると、彼は一瞬驚いたように振り返ったが、そのまま鏡に映る自分の姿を見つめ続けた。

「なんだか……おかしい……」

 その言葉を聞いた瞬間、エリザベスは心の中で期待が膨らんだ。アルベルトの体が変わり始めていることを感じた。彼の身体がゆっくりと変化していく様子を見つめながら、彼女は心臓が高鳴るのを感じた。

 そして、ついにアルベルトは変貌を遂げた。鏡に映る彼女の姿は、もはや彼ではなく、女性の形をしていた。彼女の顔は驚きと困惑に包まれ、エリザベスはその光景に息を呑んだ。

「な、何が起こったんだ……!」

 アルベルトは驚愕の表情を浮かべていたが、エリザベスは満足感に満ちた笑みを浮かべていた。彼女はついに復讐を果たす瞬間が訪れたのだと感じた。

 アルベルトは、驚愕の変化を遂げた自分を鏡で見つめながら、深い混乱に包まれていた。かつての彼の姿はもはやなく、柔らかな輪郭の女性の顔がそこに映っている。彼女の心の中には、かつての自分への懐かしさと、今は持て余すほどの戸惑いが入り混じっていた。

 トイレの中で彼女は、手探りで自分の新しい身体を確認した。長い髪、細くしなやかな手、そして柔らかい曲線。まさに彼が望んでいなかったはずの姿に、戸惑いはさらに深まった。

「どうしてこんなことに……」

 アルベルトは自分の思考が混乱するのを感じた。かつての彼が思い描いていた未来は、もはや幻想の中に消え去ってしまったのだ。周囲で彼女の変化についての噂が広まり、新しい求婚者たちが次々と現れては、自分を求めてきた。

「誰がこんな状況を望んでいるんだ……」

 彼女はため息をつき、トイレの出口に向かおうとした。その瞬間、扉が開き、エリザベスが姿を現した。彼女の顔にはどこか楽しげな表情が浮かんでいる。

「アルベルト、ちょっと話があるの」

 その声を聞いたアルベルトは、一瞬驚いたが、心のどこかで彼女の存在に安堵感を覚えた。エリザベスは、元婚約者である彼に対して、今何を言おうとしているのだろうか。

「い、今はそれどころじゃ……」

「あなたを助けたい」

 アルベルトは彼女の真剣な目を見て、少し安心感を覚えた。エリザベスは、過去の婚約者として彼に何かしらの助けを提供したいと思っているようだった。

「エリザベス……助けが必要だと言ってくれるのはありがたい。でも、今の僕に何ができるのか、さっぱりわからない」

 彼は肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。

「私は……あなたがこの先どうするべきか、まだ答えは出ていないわ。でも、あなたを放っておけない」

 エリザベスは彼に一歩近づき、その手をそっと握った。

「一緒に考えましょう。あなたが望む未来を、もう一度取り戻せるように」

 アルベルトはその言葉に救われる思いがした。彼女の優しさが、かつて感じたことのないほどに深く心に響いてきた。

「ありがとう、エリザベス……。僕は本当にどうしたらいいのか……」

 彼の声は震えていたが、彼女の温かい手がその震えを少しずつ和らげていくのを感じた。

「まずは、落ち着いて。この状況をどうにかするために、私たちは共に考え、行動していくわ」

 エリザベスの言葉に、アルベルトは少しずつ気持ちを取り戻していった。

 衝撃的なパーティーから数日が過ぎ、アルベルトの周りは以前とはまったく異なる様相を呈していた。彼は女性となり、すぐにその噂が広まったため、婚約者からは当然のように婚約を破棄された。しかし、彼の美貌と新しい姿は男性貴族たちの興味を引き、次々と求婚が持ちかけられるようになっていた。

 この一連の出来事は、貴族社会で瞬く間に話題となり、アルベルトの新たな立場は彼をますます困惑させていた。

 一方、エリザベスはその知らせを聞いて、計画が上手くいったことに内心大きな喜びを感じていた。アルベルトへの復讐は完遂されたのだ。

 彼女は喜びを抑えきれず、再びヴィクトールの秘密の研究施設へ足を運んだ。彼の扉を開けるなり、エリザベスは感情のままに彼に抱きついた。

「ヴィクトール、本当にありがとう」

 彼女はそう言って、ヴィクトールの顔を見上げ、思わず唇を重ねた。彼の冷静さとは対照的に、エリザベスの心は喜びと興奮で溢れていた。

 ヴィクトールは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにその表情はいつもの冷静なものに戻った。彼女の抱擁とキスに、彼は軽く微笑んで答えた。

「どういたしまして、エリザベス。君が満足しているのなら、それでいい」

 彼の冷静な声に、エリザベスは少し安堵しつつも、再び自分を取り戻していた。計画は成功したが、それ以上にヴィクトールとのこの一瞬が、彼女にとって特別な意味を持っていることに気づいた。

 エリザベスは彼の胸に顔を埋め、しばらくその温もりに浸っていた。ヴィクトールはそんな彼女を優しく包み込みながら、静かにその時を過ごしていた。

 エリザベスはヴィクトールの胸に顔を埋めたまま、彼の耳元で小さく囁いた。

「お願い……お礼させて……」

 彼女の声は甘く、震えるような響きを帯びていた。彼に対する感謝の気持ちだけでなく、もっと深い感情が混じっているようにも感じられる。

 しかし、ヴィクトールはエリザベスの言葉にほとんど反応を示さなかった。彼の表情は冷静で、まるで彼女の甘い誘いが耳に届いていないかのようだった。

「エリザベス、君の感謝の気持ちはもう十分伝わったよ」

 彼はそう言って、エリザベスの肩に手を置き、彼女を軽く引き離した。彼の声は穏やかだが、どこか淡々としていて、彼女が求めるような情熱は感じられなかった。

「僕は君に興味がないわけじゃない。ただ……」

 彼は少し言葉を探すように目をそらし、続けた。

「女にはあまり魅力を感じないんだ」

 その言葉を聞いた瞬間、エリザベスの胸に鋭い痛みが走った。彼女は一瞬、何を言われたのか理解できず、ただ愕然とした表情を浮かべた。言葉を失い、彼の顔を見つめるしかできなかった。

 ヴィクトールはそんな彼女の反応に気づいたが、特に気にする様子もなく、さらに言葉を重ねた。

「君が悪いわけじゃない。君は美しいし、誰もが憧れる存在だと思う。でも……僕にとって……君は……」

 彼は少し口元を歪めて、ため息をつくように言った。

「ただの友人だ。性欲はあるから身体の関係になるだけなら構わないが、本当に君に恋することは不可能だ」

 その冷酷な告白は、エリザベスの心に深い傷を残した。彼の言葉が現実として響く中、彼女はその場で立ち尽くし、ヴィクトールを見つめ続けた。

 彼女の胸に広がる虚無感と、言葉にならない感情。彼が自分に向けた淡々とした視線が、彼女にとって一層冷たく感じられた。

「どうして……?」

 エリザベスの声は震えていた。彼女の中で何かが崩れ落ちるのを感じながら、彼女はその問いを口にした。

 しかし、ヴィクトールはただ静かに彼女を見つめ返し、何も答えなかった。それが彼の答えだった。

 エリザベスの目に怒りが浮かび、彼女はヴィクトールを鋭く睨みつけた。

「女を馬鹿にしてるの!?」

 彼女の声は震えながらも、その怒りが明確に伝わるものだった。今まで抑えていた感情が一気に噴き出し、彼女は彼に詰め寄った。

 しかし、ヴィクトールはその怒りを受け止めるどころか、疲れたようにため息をついた。そして、彼は肩をすくめて軽く首を振った。

「面倒だな……僕は男が好きなんだよ、分かれよ」

 その言葉はあまりにもあっけなく、冷淡に響いた。エリザベスはその瞬間、何かが壊れる音を感じた。彼女は言葉を失い、その場から逃げ出した。

 ヴィクトールはその姿を追うことなく、ただその場に立ち尽くしていた。彼の顔にはほんの少しの後悔の色が見えたが、それもすぐに消え去った。

 外に出たエリザベスは、胸の中で激しく打ち鳴る怒りと悲しみを感じながら、無意識に足を動かしていた。彼女の頭の中には、もうヴィクトールの顔など浮かんでいなかった。彼に対する感情は消え去り、代わりに強い決意が芽生えていた。

「もういい……」

 彼女は小さくつぶやいた。ヴィクトールのことを振り返るのはやめよう、と。アルベルトとの友情に全力を注ぐことを誓った。

「それだけでいい……」

 エリザベスは再び歩き出した。彼女の心の中には、新たな目標と決意が燃え上がっていた。ヴィクトールの冷たい態度は彼女を打ちのめしたが、それが彼女をさらに強くするきっかけとなった。

 アルベルトが女性に変わってからというもの、彼の生活は一変した。新しい身体に慣れず、日々の生活に戸惑いを感じることが多くなった。そして、そんな困難な状況の中で、彼が頼れる相手はただ一人、かつての婚約者であるエリザベスだった。

 エリザベスは最初こそアルベルトに対する複雑な感情を抱えていたが、次第に彼を助けることに喜びを感じるようになった。彼女にとって、アルベルトが頼りにしてくれることは、自分が彼にとって重要な存在であることを実感させるものであり、それが彼女の心を満たしていった。

「エリザベス、本当にありがとう。君がいなかったら、今頃どうなっていたか……」

 アルベルトはそう言って、彼女に感謝の気持ちを何度も伝えた。彼が困惑し、心細さに打ちひしがれているとき、エリザベスはその肩を支え、彼のそばにいることを決してやめなかった。

 二人の関係は次第に深まっていった。かつての婚約者という関係を超え、彼らはお互いの内面を知り、理解し合うようになった。アルベルトが新しい身体に慣れ、自分らしさを取り戻していく中で、エリザベスとの絆はますます強くなっていった。

「アルベルト、君は今のままで十分素晴らしいよ。何も心配することはないわ」

 エリザベスの言葉はアルベルトにとって大きな支えとなった。彼女の優しさと理解に、アルベルトは心から感謝していた。そして、その感謝の気持ちは、二人をさらに近づけるものとなった。

 やがて、二人はお互いを親友と呼べるような間柄になった。どんな困難にも一緒に立ち向かい、笑い合い、励まし合う日々。彼らはもう、かつての婚約者ではなく、深い絆で結ばれた親友だった。

 エリザベスは、アルベルトとの親密な関係に喜びを感じていた。ヴィクトールとのことを忘れ去り、今はただ、この新たな友情に全力を注ぐことが彼女の幸せとなっていた。

 エリザベスとアルベルトが親友として過ごす日々は、彼女にとって何よりも大切な時間となっていた。二人の友情は深まり、笑顔が絶えない毎日を送っていた。しかし、その幸せは長くは続かなかった。

 数か月が過ぎた頃、エリザベスはアルベルトの身体に異変が起きていることに気づいた。彼の身体が徐々に男性に戻ってきているのだ。最初は小さな変化に過ぎなかったが、日が経つにつれ、その変化は明確になっていった。声が低くなり、筋肉が戻り、姿勢や動作までもが男性らしくなっていく。

「アルベルト……どうして……?」

 エリザベスは不安と混乱に襲われ、何度も彼に尋ねた。しかしアルベルト自身もその変化に戸惑っており、どうすることもできなかった。

 彼女は一度は忘れようと決意したヴィクトールの元に、再び足を向けることにした。心の中では彼と再会することに対する嫌悪感と緊張が渦巻いていたが、それでもアルベルトを救うためには仕方がなかった。

 ヴィクトールの研究所に到着すると、彼は相変わらず無邪気な笑みを浮かべて彼女を迎えた。エリザベスの不安そうな顔を見て、ヴィクトールは軽く首をかしげた。

「ヴィクトール……アルベルトが元に戻りつつあるの。どういうこと?」

 エリザベスの声は震えていたが、彼女の目はヴィクトールを真っ直ぐに見据えていた。

 ヴィクトールは少し考え込むようにしてから、軽く肩をすくめて答えた。

「言ってなかったか? これは期間限定というやつだよ。効果が永続するわけじゃないんだ」

 その言葉を聞いた瞬間、エリザベスの身体から力が抜け、彼女はその場に崩れ落ちた。これまで積み上げてきた幸せが、まるで砂の城のように一瞬で崩れ去ってしまったかのように感じた。

「そんな……」

 彼女の声は弱々しく、まるで風に消えてしまいそうだった。しかし、ヴィクトールは彼女の顔を覗き込み、優しく言った。

「しばらくすれば分かるさ、エリザベス。これが正解なんだよ」

 ヴィクトールの言葉には確信があり、それがエリザベスをさらに混乱させた。彼の言葉を信じるべきか、どうすべきか……彼女は何も考えられず、ただその場に座り込んでいた。

 ヴィクトールは彼女の肩に手を置き、そっと微笑んだ。

「時間が経てば、君も納得するさ。アルベルトにとって、そして君にとっても、これが最良の結末なんだ」

 エリザベスはヴィクトールの言葉を理解しようとしたが、心の中は混乱と悲しみでいっぱいだった。彼女の目には涙が浮かび、頬を伝って静かに流れ落ちた。それでも、彼の言葉には何か不思議な安心感があり、彼女はそれを拒むことができなかった。

 数日が経ち、アルベルトは完全に元の男性の姿に戻った。彼の声は低く力強く、体格も以前のままだった。彼が再び男に戻ったことで、彼を振った元婚約者が再び彼の元に戻ってきた。アルベルトは彼女の前で冷静な態度を保ちながらも、心の中には複雑な感情が渦巻いていた。

 エリザベスは、アルベルトが元婚約者と再び一緒になることを恐れていた。彼女は心の奥底で、もう彼と会うことができないのではないかと悲しみ、涙をこぼした。彼との親友として過ごした日々は、彼女にとって何よりも大切な時間だったのだ。

 そんなある日、エリザベスの屋敷に訪問者が現れた。それは予想外の人物、アルベルトだった。エリザベスは驚き、彼が何をしに来たのか訝しんだが、すぐにその答えが彼の口から告げられた。

「エリザベス……僕と結婚してくれないか?」

 その言葉はエリザベスの心を貫いた。彼の真剣な眼差しを見つめながら、彼女は言葉を失った。

「どうして……?」と彼女はかすれた声で尋ねた。

 アルベルトは穏やかな微笑を浮かべながら、エリザベスの手を優しく握りしめた。

「君は、僕がどんな姿であっても変わらず優しく接してくれた。そして、君は僕を裏切らなかった。君の優しさに触れ、僕は気づいたんだ。君は僕の地位や顔が好きなわけではなく、本当の僕を見てくれていたんだと」

 エリザベスの目には再び涙が溢れ、彼女は感動と喜びの中でアルベルトに抱きついた。

「アルベルト……私も、あなたのことがずっと好きだった……」

 アルベルトは彼女の背中を優しく撫でながら、静かに囁いた。

「僕たち、もう一度婚約しよう」

 エリザベスは涙を流しながらも、幸せに満ちた微笑を浮かべた。二人は再び婚約者として結ばれることを誓い、その瞬間、彼らの新しい未来が始まった。

 彼女は復讐心から始めた行動が、最終的に二人の愛を深める結果に繋がるとは思いもよらなかった。しかし、運命は予測不可能であり、時に最も意外な形で人々を結びつけるのだ。

 エリザベスとアルベルトは、再び婚約者となり、新たな人生を共に歩むことを決意した。これから先の道のりがどうなるかは分からないが、二人が共にいる限り、どんな困難も乗り越えられると信じていた。

 ……

 ヴィクトールは研究室の隅に置かれた古びた椅子に腰掛け、煙草の煙をふかしながら静かに思索にふけっていた。彼の周囲には、様々な実験器具や試薬が散乱しており、その中には彼が長年研究してきた成果が詰まっていた。彼は天井を見上げて独り言のように呟いた。

「お幸せに」
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