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第38話 黒い翼の少女

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「王都の近くにこんな森があったなんて」

歩いて三日かかる場所に森はあった。
森は、鬱蒼うっそうと木が茂っていてあまり人の手が入っていないようだ。
僕とウェンディは魔法の訓練をする為、広い場所を求めてやってきたのだ。

「ここは昔、500年前魔王が居たと言われている森で「黒い森」と呼ばれているのよ」

「へえ~」

「近くの洞窟には美しい水晶が採れるから、冒険者がよく訪れるらしいわ。強い魔物が居るらしいけどね」

森は静まり返っていて、魔物も見かけない。
本当に魔王の居た森なのだろうか。

「取り合えず何処どこで練習する?」

僕は風魔法で空に浮かび上がった。
周囲を見回してみる。
あまり周りの木を傷つけたくないな。

「私も空飛んでみたい。トワばっかりずるい」
「ウェンディ風魔法使えたっけ?じゃあ、一緒に飛ぶ練習する?」
「やった!」

「ん?あ、ちょっと待って」

遠くの木に人の姿のような物が見えた。
僕はそのままその場所に近づいてみる。
高い木の枝に引っかかり、黒色で長い髪の少女が見えた。

「「人が木の上で倒れてる。ちょっと待ってて」」

ウェンディに聞こえるように大声で叫んだ。
僕はそっと少女を風に包んで運ぶ。
柔らかそうな地面に降ろしてみた。
下は草だから、多少は痛くないはずだ。

「何であんな高い木の枝に引っかかってたんだろう」
「翼があるから、飛んでたんじゃないの?」

運んでいる時に背中に何か付いてるなとは思っていたのだが。
よく見ると立派な黒い翼が付いていて、左腕には金の腕輪が見えた。

「え?これ本物?」

そっと触ってみると柔らかい、カラスのような漆黒の色をしていた。

「翼を持った種族って珍しいわね」
「黒くて艶々つやつやとした美しい翼だね」

「うう~~ん」
「あ、目を覚ましたのかな」

僕は黒い翼の少女の顔を見ていると、薄っすらと金色の瞳が開かれた。可愛らしい顔をしているが年齢は僕より少し上くらいだろうか。

「わぁ・・」
僕は一瞬、少女の金色の瞳に見惚れてしまった。
しばらく見つめていると・・・。

「ちょっと、トワ」
ウェンディが何故か怒って肘で突いてきた。

「え?何?」
「何って自覚ないでしょ・・貴方って直ぐ惚れっぽいんだから」
「そ、そんな事無いよ」
(多分・・)
だってキレイだったんだもん。
透明で宝石みたいで。

「えっと、助けてくれたのか?とりあえず、すまなかったの。それと恥ずかしいからそんなに見ないでほしい・・」
少女は顔を赤らめた。

「ご、ごめん。木の上で引っかかってたから危ないと思って降ろしてみたんだ」
「木に?下から登ったのか?」
「ううん。魔法で空を飛んでいる時に君を見つけたから・・」

僕は懐かしい黒髪の少女に、すっかり心を許してしまっていた。
翼も艶々していてキレイでずっと見ていられる。

「・・ん。だめじゃ。力が入らん。魔力切れで体が思うように動かないようじゃ」
少女は体を起こそうとしているが難しいようだった。

「ねえ、この人城に連れて帰って良いかな?」
「トワなら言うと思ったわ・・城に入る前に訊いて、大丈夫そうなら連れていけばいいわよ。駄目なら何処かの宿屋に寝かせるとか。とにかく早めに休ませてあげたいわね」
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