神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー

文字の大きさ
上 下
33 / 66
二章・管理人

いざ行かん!! (二章完結)

しおりを挟む
「愛しのマイハウスとも、しばしのお別れだね。」

「そうですね。」

 僕たちは、今リビングにいる。
 まあ、リビングとは言っても、そこにあるのはテーブルと椅子だけなのだが。未だに、調理は焚き火を使っている。
 キッチン用具も揃えたいところだ。
 僕が魔術を一通り習得したことで、魔道具作りもできるようになった。
 家の設備を整える目的で、資金回収が終わり家に帰ってきたら、日本並みの設備を再現するために魔道具作りを極めるのもいいかもしれない。

「それにしても、料理上手くなったね。」

 僕は、ジークハルトが作ってくれた料理人舌鼓を打ちながら言う。

「時間だけはありましたしね。ですが、ラント様に喜んでいただけたなら、練習した甲斐があります。」

 ジークハルトは、森の中から見つけた木の実を加工したり、一見食べられそうでない物をスパイスに使用したりと工夫を凝らし、結構多彩な味が再現できている。

「それにしても、よくこんなに品数が揃えられるね。」

「それはですね、私は騎士団長として、パーティーや晩餐に参加することがあったのです。その時の料理を再現しているから、品数が多いんですよ。」

 なんと、ジークハルトくんはお偉いさんだったらしい。その割には、僕が彼を拾った時の状況は捨て駒扱いだったよね。
 やはり、彼が言っていたようにこの世界の身分の差は大きいんだろうね。
 ジークハルトが捨て駒扱いされた理由も、平民って理由だろうし。

 明日から外の世界に行くし、僕は種族としては高位だろうけど、身分は平民、もしくはそれ以下だからね。
 なるべく、身分が高いやつの目に入らないようにしないと。


***


「持ち物確認!!」

「魔物の売却可能部位と食料は持ちましたよ。あと、私が持っていたわずかながらの金銭も。以上でよろしいでしょうか?」

「よし!完璧だね。」

 テンション爆上げな僕に対して、ジークハルトはいたっていつも通りだ。
 僕だけ楽しみにしているみたいで、恥ずかしいじゃないか。今だって、テンション爆上げな僕をうろんげな目で見てくる。

 いや、実際にジークハルトは楽しそうではないな。昨日の夜から、ずっと僕の心配ばかりをしてくる。
 しかも、その心配内容がお子様なんだよね。

『ラント様、くれぐれも見知らぬものに勝手について行かないように。見知っていても、私が危険と判断したものは無視を決め込んでください。』

 だってさ。
 ガキじゃあるまいし、そんな考えなしな行動は取らないよ。
 あ、でも、お金あげるって言われたら、ついて行くかもね。時は金なりと言うし。

 だが、僕はジークハルトには「分かった」と伝えてある。
 人付き合いが少ない僕でも、要らんことを言うと怒られることを学んだからね。

「ところで、ラント様は何か持ったのですか?」

「いや?手ぶらだけど?あ、なんか持った方がいい?」

「いえ、従者として当然の仕事ですので。」

 いつもはお母さんみたいなことを言うくせに、こんな時は主人と従者を気にするんだね。

「というか、僕異空間に荷物放り込めるから、荷物持つ必要ないや。」

「、、、それ、早く言ってくださいよ。」

 異空間に荷物を放り込むのが当たり前になっていたから、忘れていたよ。
 てか、既に魔法を使いこなせるようになっているジークハルトなら、異空間の創造もできると思っていたのに。
 そう思って聞いてみたら、「異空間の維持には、莫大な魔力が必要なんです。私にそんな魔力はありませんよ。」とのことだった。
 そんなもんか。

「では、改めて、新天地へいざ行かん!!」

「、、、」

「復唱しろよ!!」

 そこは、「いざ行かん!!」コールをするところだろう!!
 テンション低すぎだろ。僕がバカみたいではないか。いや、まあ、多少の、お茶目っけみたいな程度の馬鹿さ加減はあると思うよ。
 でもこれでも神なんだ。真の馬鹿になどなりたくない。
 ってことで、この無駄なハイテンションも必要なことなのだよ。

「いざ行かん!!」

「、、いざ行かん、」

 やる気ゼロがありありと分かるが、まあ、こうゆうことが恥ずかしいお年頃なのだろう。
 僕は理解ある主人にして年上のお兄さんだからね。

 ジークハルトの返事も聞けたので、早速移動する。もちろん、荷物は全て僕の異空間にあるよ。これで、旅の食は守られたね。ちなみに、衣食住の衣と住はどうしたのかと聞かれたら、臨機応変に対応するとしか言えない。なんたって、僕らは屋敷での衣と住すら、満足にできてないからね。

 着る物は、浄化魔法で綺麗にして何回も着回し、住む場所は屋敷に住んでいるものの、寝る場所とか魔物の毛を引いただけの足跡ベッドだからね。
 今更、旅の不自由に嘆いてられない。この不自由も、人類圏の街で解決されるはずだからね!!

 ってことで、転移します!!場所は、森の外縁部分。
 場所を想像しながら、僕は転移のための魔法陣を自分の魔力を使い空中に描く。
 いや~ぁ、長ったらしい詠唱とか、馬鹿でかい魔法陣を描かずに魔術を行使する練習をしておいて、良かったね。
 そうだ、人類圏に行くのだから、僕も魔法は禁止して、魔術のみで生活しようかな。

「いや~ぁ、草原の空気だね。」

 忘れているかもしれないが、屋敷の真後ろは海なのだ。つまり、海風以外を久しぶりに浴びたということだ。

「ラント様!!転移で移動できるなら、準備とか必要でしたか!?」

 おっと、またもやジークハルトお母様がお怒りだ。今回のお怒りポイントは、無駄な準備をさせられたことのようだ。
 だが、これへの反論は既にある。

 魔術における転移は、一度行ったことがある場所、更には具体的な風景が思い出せる場所である必要がある。
  
 そして、腰が激重な僕が鮮明に思い出せる範囲というのが、ここ、つまりは森の外縁部ということだ。

「ってことだよ、分かるかい?」

「つまり、ここからは地道に行くしかない、ということですか?」

「まあね。ジークは飛行の魔法は出来るんだよね?」

 ここが大事。徒歩で行くのと、浮遊を使い空の旅をするのとでは、移動できる総距離が違いすぎる。
 あと、徒歩では景色の変化が乏しく、早々に飽きがくる。

「はい、可能でございます。」

「じゃあ、行こうか。」

 そう言い、僕は自分に飛行の魔術をかける。
 この魔術は、使用者の魔術のコントロールや魔力の出力によりスピードが異なる。より繊細なコントロールと、より力強い出力を持ってすれば、スピードを何倍にも高めることができる。
 確か、魔力を単独で操作できない人類はそのことに気がついていなくて、この魔術は誰が使っても同じ速度が出せる魔術だと認識されていたはずである。

 僕たちが最初に向かうのは、ドラゴンが住んでいた森を越えた先にある。
 僕がこの世界であった最初の人類集団は街であったが、そこは門番から最悪であった。対応から何から何までも。
 新たなる出会いに期待する心もあるが、せめて話の通じる人類と出逢いたいところである。
 
 まあ、今回の人類との接触で手痛い結果になったとしても、僕には慰め枠のジークハルトがいるから、強気である。

 ただ、ほんの少し、久しぶりの人類との出会いに期待しても良いだろう。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

この恋は無双

ぽめた
BL
 タリュスティン・マクヴィス。愛称タリュス。十四歳の少年。とてつもない美貌の持ち主だが本人に自覚がなく、よく女の子に間違われて困るなぁ程度の認識で軽率に他人を魅了してしまう顔面兵器。  サークス・イグニシオン。愛称サーク(ただしタリュスにしか呼ばせない)。万年二十五歳の成人男性。世界に四人しかいない白金と呼ばれる称号を持つ優れた魔術師。身分に関係なく他人には態度が悪い。  とある平和な国に居を構え、相棒として共に暮らしていた二人が辿る、比類なき恋の行方は。 *←少し性的な表現を含みます。 苦手な方、15歳未満の方は閲覧を避けてくださいね。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

隊長さんとボク

ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。 エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。 そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。 王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。 きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。 えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

箱庭

エウラ
BL
とある事故で異世界転生した主人公と、彼を番い認定した異世界人の話。 受けの主人公はポジティブでくよくよしないタイプです。呑気でマイペース。 攻めの異世界人はそこそこクールで強い人。受けを溺愛して囲っちゃうタイプです。 一応主人公視点と異世界人視点、最後に主人公視点で二人のその後の三話で終わる予定です。 ↑スミマセン。三話で終わらなかったです。もうしばらくお付き合い下さいませ。 R15は保険。特に戦闘シーンとかなく、ほのぼのです。

処理中です...