12 / 62
婚約式
麗人の告白
しおりを挟む
「急に止まって、どうしたの?」
不思議に思って見上げると、フロレンスは目を泳がせていた。
「そういえば、ジークヴァルトはどうしたんだ?」
「はい?」
「いや、病気だと聞いたから…」
「ああ、お兄様は少し重い流行り病を患ってしまって…しばらくは社交界に出られないと思うわ」
心配してくれているフロレンスを騙してしまっているのかと思うと、胸が痛む。
罪悪感で顔を上げらずにいると、急に両肩を、がっちりと掴まれた。
「ジークは大丈夫なのか!?命に別状は?」
「お、落ち着いて、フロレンス。お兄様は大丈夫だから!」
驚いて、思わず大きな声が出してしまう。
僕の肩を掴むフロレンスの手は震えていて、怖いぐらい真剣なことを伝えてきた。
「すまない、驚かせてしまって」
「本当に、どうしたの?」
僕の声に正気を取り戻したフロレンスの手が、肩から離れていく。
まるで動揺を隠すように、彼女の顔は僕から反らされた。
「…、…君は知ってるだろう、私がジークヴァルトのことを、好きだって」
───初耳ですが?
心の声が外に漏れないようにごくり、と飲み込むと、僕はゆっくりと頷いてみせた。
「そう、だった、わね?」
「とにかく、無事なら良いんだ。動揺してすまない。行こう」
───僕は今、無事じゃなよ。フロレンス。
目茶苦茶に吹き荒れる嵐の中に一人で取り残されているような気分だ。
フロレンスに手を引かれながら部屋を後にする瞬間、僕は盗み見るように、ドレッサーの鏡に目を向けた。
そこには、頬を林檎みたいに真っ赤にした僕が映っていた。
不思議に思って見上げると、フロレンスは目を泳がせていた。
「そういえば、ジークヴァルトはどうしたんだ?」
「はい?」
「いや、病気だと聞いたから…」
「ああ、お兄様は少し重い流行り病を患ってしまって…しばらくは社交界に出られないと思うわ」
心配してくれているフロレンスを騙してしまっているのかと思うと、胸が痛む。
罪悪感で顔を上げらずにいると、急に両肩を、がっちりと掴まれた。
「ジークは大丈夫なのか!?命に別状は?」
「お、落ち着いて、フロレンス。お兄様は大丈夫だから!」
驚いて、思わず大きな声が出してしまう。
僕の肩を掴むフロレンスの手は震えていて、怖いぐらい真剣なことを伝えてきた。
「すまない、驚かせてしまって」
「本当に、どうしたの?」
僕の声に正気を取り戻したフロレンスの手が、肩から離れていく。
まるで動揺を隠すように、彼女の顔は僕から反らされた。
「…、…君は知ってるだろう、私がジークヴァルトのことを、好きだって」
───初耳ですが?
心の声が外に漏れないようにごくり、と飲み込むと、僕はゆっくりと頷いてみせた。
「そう、だった、わね?」
「とにかく、無事なら良いんだ。動揺してすまない。行こう」
───僕は今、無事じゃなよ。フロレンス。
目茶苦茶に吹き荒れる嵐の中に一人で取り残されているような気分だ。
フロレンスに手を引かれながら部屋を後にする瞬間、僕は盗み見るように、ドレッサーの鏡に目を向けた。
そこには、頬を林檎みたいに真っ赤にした僕が映っていた。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる